ボクはトーナメントのエントリー用紙を出すべく先生の方へ向かおうとするのだけれど――
「駄目だよ彩ちゃん! 私たちが彩ちゃんをそんな危ない目にあわせたりはさせない!」
クラスのみんなになぜか遮るようにして止められる。
いや危ない目って……。一応学園公認のイベントのようなものなんだけど……それと基本全員参加が義務付けられているはずだよね?
「それでも!私たちは彩ちゃんにいってほしくないのよぉぉ!」
あぁ……。なんでみんなはボクを止めるのに必死なんだ……。なんでもボクを守るとかどうとかいってるんだけど、ボクは自分の身くらい多分自分で守れるよ? 男だしそれくらいは格好いいところ見せたいし。結局それを撒いて提出はできたのだけれど、どう考えてもペアを作るのはできそうにないよ……。
そして学年トーナメント当日。
「どうして当日にボクのISが届くのかな? つまりはボクも実戦のさなかで最適化しろってことだよね」
ボクの目の前にはISが鎮座していた。能力、武装、その性能などどうなるかは一切不明。正直ぶっつけ本番でこの機体ででるのはきついかもしれない。――けれど
「ま、長い付き合いになりそうだね~」
ボクはISを準備して、アリーナ控室に向かうことにした。
「あ。一夏くーん!」
「ぐぁっ!?」
ちょうど一夏くんが立っていたのでボクは一夏くんの元へと近づく。一夏くんは呆然となっていたようでボクの突撃をうけて倒れてしまった。
「えっと、大丈夫? 一夏くん」
「さ、彩花か…。お前対戦表みたか?」
一夏くんが立ち上がりながらそんなことをいう。対戦表になにか不備でもあった?
「え? ううん、まだだけど……」
「そうか。なら見てみろ」
一夏くんにそう言われたのでボクは対戦表をみる。そこにあった名前は――
第1試合
ラウラ・ボーデヴィッヒ&緋桜宮彩花
VS
織斑一夏&シャルル・デュノア
「お、おぉ………」
正直ボクとしても驚きを隠せない。
意外かもしれないけどボクは別にラウラさんを恨んでいるわけじゃない。でもラウラさん本人としてはどうなんだろう。ボクが仲間でやりにくかったりするかなぁ……
「最悪の組み合わせだろ……」
一夏くんがそう呟きを残し、ボク達は試合の準備をするためにアリーナへと入っていった。
「貴様は手を出すな。見ているだけでいい」
ラウラさんと顔を合わせた時の第一声がそれだった。さすがにこれにはボクも少しの間口を開いて呆然となった。
「これはタッグマッチなんだけどなぁ……」
「うるさい。貴様は黙っていろ」
「そうまで言うならボクは見てるけど……」
のんびりとこれはタッグだという旨を伝えてみるけど、ラウラさんにはとりつくしまもない。
そして一夏くんの突撃から試合が始まった。
試合が始まったが彩花は動く様子を見せない。
「………?」
シャルルは不審に思う。どうして彩花は動かないのだろうと。自分に飛んでくる流れ弾は弾いて一切ダメージをうけようとはしない。けれど、ラウラへの補助を見せるようすもない。
「まさか……。ラウラさんが手を出すなとでも言ったとか?」
そう思えば納得がいく。彩花の性格ならそういった約束は断るとは考えづらいし、きっと破らないだろう。事実周りからの疑問の声も涼しげ……いや、眠たげな顔で流している。
「それなら僕たちにとっては好都合っ!」
シャルルは一夏と共に連携を見せ、ラウラを追い詰める。
そのところで一夏のエネルギーが切れ、エネルギー刃は消えてなくなり蹴り落とされる。
そして余裕が出来たラウラはシャルルをAICで止めようとするが…
その背後を銃弾が襲った。
一夏がシャルルの落としたライフルで撃ったのだ。それを受けて集中力を乱したラウラはAICの発動が出来なくなる。シャルルはその隙を見逃さず、
「盾殺し!?」
「この距離なら外さないっ!」
ガスッ!!
ラウラは盾殺しが直撃し、アリーナの端へと吹っ飛ぶ。そこへシャルルが追撃をかけ、さらにSEを削っていく。そして異変が起きた――
~緋桜宮 彩花~
「ラウラさん……」
どうやらラウラさんは負けそうだ。2対1だということを、わかりきっていなかった結果なのかもしれない。
「ボクも動くかな……」
そうボクが動こうとした時。
空気が変わった
「――ッ!」
今までとは違うどこか異質な空気。そちらを見るとラウラさんのISが変形していて、ラウラさんは取り込まれるようにして中へと埋もれていった。
「VTシステム!? あれは禁止されているはず……!」
ボクの頭にVTシステムという言葉がよぎる。VTシステム(ヴァルキリートレースシステム)はモンド・グロッソ優勝者であるブリュンヒルデを
それは徐々に形をかたどっていき…
「……? 千冬先生に……似ている?」
目の前に現れたモノはどこか千冬先生に似た雰囲気を漂わせていた。
そしてそれを見た一夏くんが突然激昂しはじめた。
我を忘れたように突撃した一夏くんはすでにSEがほとんど残っていないこともあり、それに吹き飛ばされ地を転がる。
そして起き上った一夏くんが生身でも飛びかかろうとするのをボクが押しとどめる。
「一夏くん! 冷静になってよ! いったいどうしたっていうの?」
「離せ彩花! あいつは……あいつは千冬姉の技を使ったんだ! 許せねぇ!」
「技……?」
「あれは千冬姉だけのものなんだ! 他の奴が使うなんて……!」
なるほど。
「でも一夏くん。生身は危険だよ」
少しばかりではあるけど、時間をおいたことで一夏くんも冷静になりはじめ考察する。
「だけど白式にはエネルギーがないぞ?」
エネルギーがないか……それなら……
「エネルギーがないなら持ってくればいいんだよ」
ボクが今言おうとしたことをシャルルさんが引き継ぐように言う。
「リヴァイヴのコア
シャルルさんはリヴァイヴから伸ばしたコードをブレスレットに繋いだ。
そしてシャルルさんの方から、エネルギーが一夏くんのブレスレットに向かって流れていく。それにしても……。これはかなり高い技術だと思うのだけど、シャルルさんは器用だなぁ。
「ありがとな。シャルル」
「約束して。絶対に勝つって」
「おう。ここで負けたら男じゃねぇよ」
その返事を受けたシャルルさんはにっこりと悪戯を考え付いたような笑みを見せて――
「じゃあもし負けたら女子の制服で通ってね?」
「「――ッ!!」」
ボクと一夏くんが思わず息をのむ。じょ、女子の制服って……案外シャルルさんもとんでもないこというなぁ……
「い、いいぜ?」
いいんだ!? 一夏くんは引きつった笑みで返しながらいった。そんな風に内心驚いているボクを放っておいて話は進んでいく。
「白式を一極限定モードで解放!」
そう言うと一夏くんは白式を右腕ぶん展開する。
「ボクのエネルギーも出そうか?」
「いや。これで充分だ」
ボクとシャルルさんが見守る中【零落白夜】を発動させた一夏くんとそれは対峙する。
「いくぜ偽物野郎!」
ビュッ!
唸りをあげて一夏くんへそれが近寄ってくる。それに対し一夏くんは1撃目で武器らしきところを弾き、2撃目で胴らしきところを斬った。
「ごめんね一夏くん。少しだけ斬らせてもらうよ」
ボクは自分のISで前へと飛び出す。一夏くんの攻撃は致命的な決定打になったけれど、おそらくラウラさんを出すには半歩ぶんたりない。ボクはみた。こいつが反応して半歩分だけ下がることが出来たのを。
「……ふっ」
初期のブレードでその半歩分を切り裂く。中からはラウラさんが出てきたので、斬ったままISに乗ったボクがそれを受け止める。
「――ッ!?」
ボクに何かが流れ込んでくる……。
「ラウラさんの……記憶……?」
実験体C003号。それが、私。
この声はラウラさん……? 実験体? ラウラさんが…? いや!
違う! ラウラさんは実験体なんかじゃない!
!?
ボクの声が届いたのか、ラウラさんらしき思念体が驚いたような雰囲気を出す。
ラウラさんはラウラさんだ! 実験体なんかじゃない。自分自身として育ってきたんだろう!?
私は……
ラウラさんは1人の女の子だ。実験体なんかじゃ決してない。ボクだって、一夏くんだって千冬先生だって、みんなそう思ってる。ラウラさんはラウラさん。そんな君をボクたちは認めてるんだ。
私を……?
そう。だからさ。戻ろうよ。心配ならボクが君を守ってあげる。ボクだけじゃない。きっと一夏くんやシャルルさん。千冬先生やオルコットさんに鈴音さんだって協力してくれる。
…………
いくよ!
ボクはその意識を引っ張りあげるようにしながらここにある意識を現実へと戻していった。
~ラウラ・ボーデヴィッヒ~
目覚めた私を迎えたのは、暮れた日と病室の天井そして教官の姿だった。
「教官……?」
「ここでは織斑先生だ」
「私は……。何が……起きたのですか……?」
そう私は尋ねる。自分の内側から聞こえてくるような声に応答をしたあとの記憶が曖昧だ。
「一応重要案件なうえに、機密事項なのだがな……。……VTシステムはしっているな?」
「ヴァルキリートレースシステム……」
「そう。IS条約でその研究はおろか、開発、使用全てが禁止されている。それがお前のISに積まれていた。精神状態、蓄積ダメージ、そしてなにより……操縦者の意思。いや、願望か。それらの条件がそろうと発動するようになっていたらしい」
「私が……望んだから……」
沈黙がこの場を支配した。口を開こうにも思い雰囲気がそれを許さない。
「……。ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前は誰だ?」
「私は…」
「誰でもないのか?」
私の頭にあの夢のような光景が去来する。
「私、私は……ラウラ、ラウラ・ボーデヴィッヒです」
「……そうか。ならそれでいい」
数瞬だけ教官にしてはめずらしく驚いた顔をみせて、次の瞬間にはそれを笑みに変えていた。
そう言い残すと教官は言うことはいったかのようにして、去っていく。
「は、はは……」
思わず私の口からはかすれた笑い声が漏れていた。
――そんな時にあいつが襲来した。
バターン!
「やっほー! ラウラさーん! 起きてる~?」
この声は……。
「あ、起きてた起きてた。覚えてるかな? お見舞いにきたんだけど……」
お、覚えているとも!
そういおうとしているのに今はなぜか声がでない。私は一体どうしたというのだろう。
「緋桜宮彩花だよ~。結局あの後の学年トーナメントは中止になったよ。一応それを伝えにきたんだけど……。林檎でも食べる?」
私はこくりと頷き返答する。
彼(彼女?)はそれに満足したかのように笑みをこぼし、もってきていたらしいバスケットから林檎を取り出し、どこから出したのかわからないナイフで皮をむき始める。
どうして……。どうしてこいつは私のことを気にかけるのだろう……。
「どうしてお前は……そんなにも優しい?」
私は彼にそう問う。すると彼はきょとんとした顔を私に向けてくる。
「ボクが? 優しい?……考えたこともなかったよそんなこと。ボクはボクがしたいように、ボクらしくしてるつもりだからね。優しいとかどうとかなんて関係ないよ。ボクはラウラさんが気になったから、ここにきた。ただそれだけなんだ」
それだけ言うとまた皮をむき始める。
「なんでそうも自分をブラさずにいられる? どうしてそこまで自分が揺らがない」
「はい、林檎どうぞっ! ……ボクが揺らがずにいれる理由……かぁ」
彼はむき終わり、うさぎの形にきった林檎を私の方へ差し出してくる。その林檎を見て私はふと自分が所属している部隊のことを思い出し、笑ってしまった。以前の私だったらしない行動に違いない。そう思うと一層笑みを止められなかった。
「あ、ラウラさん笑ったね~」
「?」
どういうことだろう?
「いや~。ボク初めてラウラさんが笑ったところ見たよ。とても綺麗な笑顔だったよ」
にっこりとした綺麗な笑顔を自身も浮かべて彩花は言ってくる。
? ……! な、何を言っているのだこいつは! その言葉を認識した途端、私の顔が理由もわからず熱くなっているのを感じる。
気がつけば私は焦るように彼を追い返していた。
「この感情…。これはなんなんだ…」
私は自分の中に浮かぶ、よくわからない感情をもてあましていた。