「う~」
ボクは伸ばされてちょっと緩み気味になった自分の頬を軽く引っ張ったりしながら、その所業をおこなった2人にうらみがましい視線を向ける。
「あ、あはは~。ごめんね?さーやちゃん」
「その、なんだ。す、すまなかった」
ふたりはどこか気まずそうにしながら、謝罪の言葉を紡ぐ。よほど今のボクの目に込められている力は強いらしい。
――目が潤み気味になっていて哀愁をさそったのが実状ではあるが――
「別にいいんだけどさ、うん。ボクは全然気にしてないよ? そう、それこそこれっぽっちも」
「「……えぇ……?」」
ふたりともが心底疑問といった感じの反応。むう。
「なにさ」
「「いや、なんでも……」」
とりあえず今はラウラさんも服着てるし。といってもIS学園の制服なのだけど。今日は休日のはずだけど、なんで制服? それと私服の本音さんの方は結構新鮮かも。今まで制服姿しか見たことないからね。
「そういえばもうすぐ臨海学校だよね~」
ちょっとばかり重たくなった空気を変えるかのように、本音さんがそんな事を言ってくる。テンションが若干高めになっているのは多分気のせいじゃない。
「臨海学校かぁ……。主にどんなことするんだろ?」
今まで行ったことがないからよくわからず、そんな発言をする。ましてやここは、普通の学校とは違ったIS学園だ。一体なにをするんだろうね。
「臨海学校……ふむ」
「そうだ~! さーやちゃんラウラちゃん~。水着を買いにいこうよ~」
ラウラさんが反応したのを見て、本音さんが続いて新たな言葉を紡ぐ。もともとそちらが本題だったのか、熱を持った瞳をこちらに向け、嬉しそうな顔をしていた。
「水着?」
「そうだよ~」
水着を用意する必要がはたしてあるのだろうか。IS学園では水中訓練用に水着を買わされるし、それがあるから問題ないと思うのだけど……。ちなみになぜかデザインはスクール水着であり、一部では疑問の声もあがっているのだとか。
「別に学校指定のでもいいんじゃ……」
「駄目だよさーやちゃん!」
言いかけたボクの言葉を本音さんが遮る。思わぬ事態にボクは体をびくっとさせてしまった。そして向けられる熱のこもった瞳に声が出なくなって、
「なぜだ?」
声が出せなかったボクに代わって、ラウラさんが代弁するように本音さんへと声をかける。本音さんは、ラウラさんとボクとどっちを向くか決めかねているようで、きょろきょろしながらも言った。
「せっかくの臨海学校なんだから、自分で選んで用意しないと」
「そ、そういうものなの?」
予想の斜め上だった答えにどもりながら返すボク。
それに返答するように本音さんがうんうんと頷く。そして途中から喋っていないラウラさんはと言えば……疑問に思うところでもあるのかなにやら唸っていた。
「というわけでいこうよ~」
「まあ別に予定があるわけでもないし、いいかな。ラウラさんは?」
本来なら聞く必要はないと思うのだけど、ラウラさんは下を向いていたので一応確認として訊いてみた。
「嫁がいくのなら私もいくぞ」
「じゃあ決まりだね~」
そんなこんなでボクたち3人は買い物に出かける事が決まったんだ。
電車に乗ろうとした時。
「あれは……一夏くんとシャルロットさんだね」
「そうみたいだね~」
「そのようだな」
今ボクたちの視線の先には、シャルロットさんと一夏くんが電車に乗るところが見えた。同じ電車に乗るつもりなのでたまたま鉢合わせしたのだろう。一応一夏くんたちの乗った車両を記憶しつつ、ボクたちも違う車両に乗り込む。
「2人でおでかけかな?」
「私たちのようなものだろう」
「そうだね~、私たちみたいに水着を買いにきたんじゃないかなぁ?」
そんな会話をしながら電車に揺られる。誰からともなく会話を打ち切って窓から外の景色をみる。そんな風にみんなして静けさに浸っていると、周りから話し声が聞こえてきた。
「ほら、見て。あれってIS学園の制服じゃない?」
「あ、ほんとだ!」
「それにしてもあの銀髪の子かわいいね。お人形さんみたい」
聞こえているのか聞こえていないのか、ラウラさんはぴくりとも反応を見せない。ボクとしては聞こえていないに1票。
「横にいる2人もIS学園の人なのかな? 2人とものんびりした感じにみえるけど」
「片方は服装はボーイッシュだけど、完全に少女だよねー」
へっ?
「そうね。凄くかわいらしいよね。抱きしめてしまいたいくらい」
「もう片方は……ど、独特なセンスを持ってるね」
「た、確かに……」
と、そんな会話だったのだけれど。本音さんのセンスは独特かなぁ? ボクとしてはゆったりした感じで着心地良さそうだと思うんだけど。あういう服も着てみたいよね。
ちなみにボクの服装は、黄色を基調としてフードの部分はオレンジ色の全体的に明るめな色のパーカーと、下は紺色のジーンズだ。
というかボク……完全に少女……だって……?
電車に揺られて待つこと数分。目的としていた場所に到着したようで、ボクたちは電車から降りる。どうやら一夏くんたちも同様みたいで、2人とも降りているところが見えた。そして、少しの間会話していたかと思うと……
「―――ッ!」
隣でラウラさんが息をのむ。どうしたのだろう。一夏くんとシャルロットさんは今、手を繋いでいた。はぐれないようにっていう配慮かな? 優しいなぁ一夏くんは。
「さ、彩花」
「うにゅ? 何~ラウラ?」
ラウラさんにしては珍しく歯切れの悪い物言いに、思わず疑念を込めて返事をしてしまう。
「そ、その……だな。私たちも手を繋がないか? 目的地につくまでにはぐれたりしてはまずいと思うのでな」
その内容を吟味するように数秒ほど考える。さっき自分自身でも効率がいいと思ったし、断る理由があるはずもなく
「そうだね。一夏くんたちもそう考えて繋いでるんだろうし、いい考えだよねー」
ボクはラウラさんの下へと手を差し出す。同様に本音さんの方へも差し出している。
「ありがと~。さーやちゃん優しいね~」
「ボクは一夏くんたちの真似しただけだけどね~。それに提案はラウラだし」
「まあな」
どこか胸を張るようにラウラさんがそう言う。実際いい考えだしね。っと、こんなことばかりやっていると無駄に時間が過ぎちゃうね。……ってあれ? あのシルエットは……
「おーい。鈴音さんとセシリアさーん! 何してるの~?」
「「へっ!?」」
2人ともがボクたちをみて驚いたような声を発する。まるで悪いことをしていたのが見つかった! みたいな感じになってるけど……
「あ、あんたたちここで何してんの?」
「いや、ボクたちも買い物にきただけなんだけど……」
何って買い物でしょう買い物。それにしてもなんで鈴音さんは慌ててるんだろう。
「そうだよ~」
「そ、そうでしたの……」
本音さんの肯定も加わり、納得したようだ。
「ところで鈴音さんとセシリアさんは?」
ボクたちの方への疑問を解消させたところで、逆に2人に尋ねる。ふたりこそ買い物をしにきたようには見えないんだけど。
「えっ!? ……え~と、私たちは……」
「わ、わたくしたちも買いものにきたのですわ!」
「そ、そうそう!」
なんか若干怪しい言い方になってるような……
「貴様らはあいつの事が好きなのだろう? ならば早くいったらどうだ」
ん? ラウラさん……? えーっと鈴音さんとセシリアさんが……?
「わーっ! わーっ! な、何言ってるのよ!」
「そ、そうですわよ!」
突然さきほどよりも慌て始めた鈴音さんたちに、ラウラさんは至って冷静に小首をかしげつつ
「ん? 好きじゃないのか?」
と返した。一瞬ふたりともが言葉を失ったものの、すぐに勢いを取り戻して反撃に出た。
「な、ならあなたはどうなんですの!?」
「私か?」
「そ、そうよ! あんたはそこの彩花のことどう思ってんのよ!」
なんだかちょっとうるさくなってきたような、
「私は……」
「あ、鈴音さんにセシリアさん。一夏くんたちいっちゃうけどいいの?」
「「あっ!!」」
どうやら会話に夢中になっていて気がつかなかったらしい。ボクはむしろ一夏くんたちの動向の方を気にしてたから、度々会話が耳に入らなかったけど。どんな内容だったんだろうね? 結構強めの口調の声が聞こえてたんだけど。
ラウラさんは落ちつきを取り戻すように咳払いをひとつして、口を開いた。
「私たちも目的の場所へとゆこう
「「そうだね~」」
ボクたちふたりが異口同音で返すと、ラウラさんは一瞬ぎょっとした表情を見せたものの、すぐに元の表情に戻して呆れたように言った。
「お前たちのテンションは似通っているな……」
「「そうかもね~」」
ボクと本音さんはお互いに顔を見合わせて、同時にそんなことを言う。シンクロ率高いなぁ~。
少しのんびりと、目的である水着以外のところも回りつつ。みんなで軽くデザートをつまんだり、それに対してボクが評価してこれと同じレシピを考えてみたり。結構楽しい時間だった。ラウラさんと本音さんも楽しんでくれてるかな?
ボクたち3人はみんな上機嫌で水着売り場へと入る。ここからはさすがに別行動だ。男と女が一緒っていうのはまずいと思うし、本音さん曰く「臨海学校まで見せるのをとっておくものなんだよ~」だそうだし。そしてボクたちは別れようとしたんだけど――
「なんだろあれ?」
そこでは一夏くんとシャルロットさんが真耶先生に説教されていた。
「ぷっ。あははは」
それを見ていると思わず笑いがこぼれてしまう。なにをやったのかはわからないけど、みていてちょっと面白いものであることは間違いない。
ボクの声が聞こえたのか一夏くんはこっちへとうらみがましい視線を向けて、抗議するような目にする。その、ごめんよ一夏くん。でもこれは無理だって。
~ラウラ・ボーデヴィッヒ~
「だが……水着か……」
私の嫁も言っていたが、正直学校指定の水着だけで充分なのではないだろうか?あれは実用性も高く設計されているそうだしな。
そんな事を考えていた私の耳にとてつもない衝撃が訪れた。
「水着はしっかりとしたものを用意しなきゃねー」
「そうよねー。他がよくても水着が駄目だったら致命的だもんねー」
ズキューン!
と胸を弾丸で撃ち抜かれたような感覚が私にはした。何を馬鹿馬鹿しいと思う気持ちもないではなかったが、それよりも焦りが強かった。急いで我がドイツが誇る最強の部隊へと救援要請を求める。くっ、焦ってうまく操作ができん!
プルルルル。
「クラリッサ。私だ。緊急事態発生!」
『ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長。なにか起きたのですか?』
そう聞かれるとこんなことで救援要請をするのはどうなのかという疑問が私に生じるが、もう後戻りはできない……気がする。
「そ、その……だな。実は今度臨海学校というものに行くことになったのだが……。どのような水着を選べばよいのか、選択基準がわからん。そちらの指示を仰ぎたいのだが…」
『了解しました。この黒兎部隊は常に隊長と共にあります。……ちなみに、現在隊長が所有しておられる装備は?』
私が所有している装備……? 学校指定の水着1着だな。
「学校指定の水着が1着のみだ」
『――ッ!!』
電話の向こうでクラリッサが息をのむのが聞こえた。何か言いたいのかと思いスピーカーの方へと耳を寄せる。
『何を馬鹿なことを!』
「ッ?」
そんなところに突然怒声ともとれる大きな声が響き、私は驚いて少しだけ電話を耳から離した。
『確か、IS学園は旧型スクール水着でしたね』
「う、うむ」
なんだか神妙にならざるを得ない雰囲気のような気がするので私自身の気も引き締める。
『それも悪くはないでしょう。だが……しかしそれでは……っ』
一体なんだというのだろう。
「そっ、それでは?」
『色物の域を出ない!』
……? 色……物? 色物とはなんのことだかわからないが、クラリッサがこうも自信満々に語っているのだから、きっとクラリッサのいうことに間違いはないのだろう。
「ならば……どうする?」
『ふっ。私に秘策があります』
なんとクラリッサは頼もしいのだろう。嫁というのを私に教えてくれたのもこいつだし、なかなか頼れる奴だ。
~緋桜宮 彩花&布仏 本音~
「あれ? 本音さん」
「うにゃ?さーやちゃんじゃない」
本音さんは水着……? あれって水着なのかな……? を持ってじーっと見比べたりしている。なぜかは知らないけどあの水着……らしきものにボクも心惹かれてしまった。
「さーやちゃんもこういうの好き~?」
「そういうわけじゃなかったはずなんだけど……」
ほんとによくわからないんだけど、今ボクは熱心にそれらを見ている。その眼光はキリッと鋭く、まさに獲物を狙う目だ。
「さーやちゃんもこういうのにするの~?」
「な、なんだかそうしなければいけないような気になってきました!」
気付けばその場の雰囲気に流されるように、変わらなければという強い気持ちが出てきて、ボクはさきほどよりも真剣にそれらを選別していた。
――うん。これがいい。これにしよう! そこそこ長い時間もかけてようやく水着も選び終わったし、ここで今日の楽しい買い物は終わった。