今日は臨海学校の日。
ということでボクたちは今バスに乗っている。夏なので当然外は暑そうで、アスファルトには陽炎さえ見える。バスの中は冷房が効いているため、外で働く人などには少しだけ申し訳なくもなったり。
「ふっふっふ……この水着で織斑君を悩殺よ!」
「彩ちゃんをこの水着が醸し出す魅力で釣って見せる!」
な、なんだか怖い事を言っている人たちがいるんだけど……。釣るって……。バスの中はこれからの臨海学校が楽しみで仕方がないのか、熱気に包まれていた。
周りの人がこんな発言をしたのもきっとそのせいだろう。そう思いたい。
「なぁ彩花。臨海学校は楽しみか?」
隣に座る一夏くんがボクにそう尋ねてくる。聞いた一夏くんも声にウキウキとした感じがこもっているのが隠し切れていず、ボクはほんの少しの苦笑をもらした。
「まあまあかな~。臨海学校なんて初めての経験だし、気分があがるってものだよ!」
「そうか。俺もそうだ」
「おりむー。さーやちゃん。もうすぐつくみたいだね~」
ボクのもう片方の隣の本音さんが話しかけてくる。本音さんは窓の外へと目を向けながらそんなことを言っていた。つられてボクや一夏くんも窓の外を見れば、すでに浜辺が見えていた。
「おりむーもさーやちゃんも、海についたらビーチバレーやろうよぉ」
「そうだな……」
「ボクは構わないけれど。むしろ大歓迎?」
一夏くんは少し考えるような素振りを見せたけれど、ボクは即答した。なんといっても友達と遊べるのだ。断る理由なんてない。
一夏くんは即答したボクの方をちらりと見て、顔を上げると言い放つ。
「なら俺も参加させてもらうか!」
「「わーい!」」
「って、そこで彩花も喜ぶのか」
何を言っているんだい一夏くん。一緒に遊べるとなったら喜ぶのは当然じゃないか。
バスが止まり、ボクたちは先に降りた人にバスの窓から荷物を渡したりする。ちなみにボクは眺めてるだけ。
ボクも男だから渡す係をやろうとしたんだけど、周りからの強烈な反発をうけたからこうなった。というか受け取るのも駄目ってどういうことなんだろ? 楽だからいいといってはいいんだけど、釈然としないよ。
とりあえずボクたちは部屋へと荷物を運びこむ。そのあとは自由時間となっている。
「さーやちゃん、よろしくね~」
「うん、ボクもよろしくだよ~」
ボクと同室なのは本音さんだった。その通知を聞いた時ラウラさんが「ならば私もその部屋に住もう」と言い始めたのを千冬先生が両断して、ラウラさんがちょっぴり落ち込んでいたのは余談。
そのあと千冬先生に「普通に部屋にいって過ごせばいいだろう。別に寝ずとも……」という言葉で元気を取り戻してたけど。ラウラさんは案外さびしがり屋さん? かわいいなぁ。
「それにしても……」
「うん、そうだね……」
悪戯っ子のような顔を見合わせて、互いに頷き合う。どうやらボクと本音さんの考えていることは一緒と見える。
「「和室を見ると一回ごろりとなりたくなるよねぇ~」」
ボクと本音さんの意見がぴたりと一致! というわけなので(どういう訳だ)ボクたちは外にもう一度出る前に、ひとしきりゴロゴロ転がってからいくことにした。
「あ~う~」
「はう~」
ちなみに今の声は先がボクで後が本音さんだ。似たような声を発してるから判別し辛いかもしれないね。
ひとしきりごろごろとして、畳独特の香りと雰囲気を味わってふたりとも幸せそうな顔をする。顔の端がにやけて頬の筋肉に力が入らないけど、それがなんだか心地いい。
「よしっ。じゃあ行こう本音さん!」
「あいあいさ~。じゃなくてだよ、さーやちゃん」
本音さんがボクに待ったをかける。
「え?」
「女子は部屋内で着替えるんだよ~。それともさーやちゃんは私の着替えがみたい?」
ピシリ と音をたて時が止まったような錯覚をうけた。内容を吟味して記憶を掘り返してみるけど――
「…………そうだったっけ?」
「そうだよ~。ちなみに男子は違うところで着替えるの~。というよりさっきのは無視?」
若干本音さんが落ち込んだような様子を見せるけど、
「えっと、着替えがどうのこうのはボクは男だからねぇ……興味はあるようなないような……。まぁ見ないけどね」
とりあえずそれだけ言い残してボクは部屋を出る。向かう先はとりあえず一夏くんと千冬先生のところだ。着替え先は一緒に向かいたいしね~
「やぁやぁやぁ! 一夏くんに千冬先生!」
「……緋桜宮か。お前は無駄にテンションが高いな」
「今上げたんですよ」
心外ですね千冬先生。ボクが年がら年中テンションが高いとでも?
「よう、彩花。何しに来たんだ?」
「一夏くんと一緒に着替える場所に向かおうと思って」
「そうだな。……いくか!」
実際はボク自身がどこで着替えるのかをはっきりとわかっていない、という理由もあったり。そんなこんなでボクと一夏くんは連れだって部屋を出ていく――前にっ
「あ、そういえば千冬先生も海にくるんですか?」
聞いておきたかったので聞いておく。教師陣はこれないとか言ったら嫌だからボクが実力行使でつれて――ってあれ? 千冬先生には無理な気が……
「お前が何を心配してるのかしらんが、私たちも当然海に出るぞ。お前らの監督もしなきゃならんからな」
「そうですか~。でもそんな堅苦しいことばかり言ってないで、ボクとしては多少羽を伸ばしてほしいです」
「お前に言われなくてもわかっている。馬鹿者が」
千冬先生は少しだけ頬を緩ませながらそう言った。口調は強めだが、顔がそうなので説得力がなく、それをみると思わず笑顔になった。
「そうですか~ではっ」
「千冬姉先いってるからなー」
「だから織斑先生と……」
と、そんな感じでボクたちは今度こそ出ていく。その直前に千冬先生がなにか言いかけたみたいだけど、後ろからは諦めたような空気が漂いその先が紡がれることはなかった。まあ、それはともかく着替えなんてぱぱっと済ませて海にでないとね!
「あ、本音さん」
「さーやちゃんだ~」
海に出た先でまたも本音さんとばったり会った。本音さんの水着? はキツネの着ぐるみみたいなものだ。それに対しボクの水着は……
猫だよっっ!!
猫の着ぐるみみたいなものだった。売り場でボクは捕まったんです。この着ぐるみが放つ魔性の魅力に! 気がついたらボクはこの水着? を買っていたんだ……。
いや、別に着るのが嫌なわけじゃないしいいんだけどね。
「さーやちゃんかわいいね~猫かぁ~」
「そういう本音さんはキツネさんですね~」
「「あはは~」」
ボクと本音さんはのんびり談笑する。ボクと本音さんの間にはいつかにでてきた不思議な空気が出来ていた。いうなれば――不思議空間?
「くっ! なんなのあの2人は!? 2人が放つのほほんオーラのせいで私には近寄れないっ!」
「私もよっ! なんというか……あれを壊すのは相当勇気が要る行動よね……」
「あうぅ……彩ちゃんを抱きしめてもふもふしたいよぉ……」
「「「「それは同感なのにっ!! 寄れないなんてっ!!」」」」
なんだか周りが騒がしい。ボクと本音さんはのんびり話しているからお互いの声が聞き取りづらくなっちゃうし、困ったものだよ。
「そういえば本音さん。ビーチバレーは?」
「そうだね~。おりむーが一息ついたら話しかけてみようよ~」
一夏くんが一息ついたら……? 本音さんの言葉に疑問を感じ、一夏くんを探してみると――あ、ああ。なんだか忙しそうだ。一夏くん。
セシリアさんにオイル塗ってるし……。男の子が女の子にオイル塗るっていろいろと大丈夫かな? セシリアさんは嫌じゃ――なさそうだね。
「じゃあ、その間なにしよう?」
「う~ん。砂のお城でもつくろうか~」
「そうですね~」
方針が決定! とりあえずボクたちは砂のお城を作るっ!
「す、砂のお城だって……私たちも手伝いましょう!」
「この子供っぽさがまたイイ!」
「やっぱり彩ちゃんかわいいわぁ……」
砂でお城を組む。でも結構これって難しいよね。さらさらとした砂だけじゃお城は作れないから、波で湿った泥を使って原型をくんで砂をまぶすって感じかな?
クラスのみんなも手伝ってくれてるから完成は意外とはやそうだねっ!
「「「「できた~!」」」」
ついに砂のお城が完成! ボクは手を挙げて喜ぶ。勿論顔も笑顔になるってものだよね!
「「「あぁぁ……無邪気な猫彩ちゃん……たまらない!」」」
「うん?」
不穏な空気を感じ取った一瞬の後にボクはみんなに攻め寄られて、まるで潰されるようになっていた。
「うあ? あれ?」
なんだか胸が顔とかにあたって気恥ずかしい。みんなみんな! ボクは男なんだよ!
それでもこの攻撃(?)は止むことがなく、最終的にボクは目線で本音さんに助けを求めた。それを受けた本音さんは――ぐっと親指を立てて返してきた。
やったぁ、これで助かる――と思ったらそんなことはなく本音さんものんびりボクを見ているだけだった――
なんとか自力で抜け出し「や、やめてよぉ……」と言ったら、しんと静まり返って逆に猛烈に謝られたので驚いた。そんな謝らなくてもいいと言ったらみんなにまた1回ずつ抱きしめられて終わりになった。
「は……はぁ……。疲れたよぉ……」
「お疲れ様だね~さーやちゃん」
「うん……あれ? そのタオルに包まれた人は?」
ボクの目の前にはタオルに包まれた眼帯をした人が……。って眼帯? そういえば見覚えが……これはラウラさんの眼帯だよね? ってことはこの人はラウラさん?
「おーいラウラ? 何やってるの~?」
「い、いや……どうにも恥ずかしくてな……」
「恥ずかしい?」
恥ずかしいって……どういうこと? 露出度が高いとか? いやいやまさかね……
「あ、一夏くんが一息ついたみたいだね」
「じゃあおりむーのところいこ~」
もちろんラウラさんを置いていくつもりは毛頭ないのだけど、本音さんの言葉を聞くと途端に狼狽しはじめて、
「ま、待て! ……うぅぅ! どうとでもなってしまえっ!」
バッ とラウラさんは身にまとっているタオルを全てはがした。――ってあれは誰が拾うんだろう? ボクがそういう視線を向けていたら、クラスのみんなが拾ってくれた。みんなやっぱり優しいなぁ
「わ……笑いたければ、笑うがいい」
そんな感じに視線を前に戻すとラウラさんが恥ずかしそうにしていて――? 笑うって何を? ラウラさんの格好を?
「笑うって……なにが?」
「だ、だからっ。私のこの格好のことだ!」
別に変なところなんてないと思うけど……
「格好がどうかしたの?」
「わ、私には似合っていないだろう……?」
……ん? な~んだそんなこと心配してたのかぁ。どうみても――
「どうみても似合っててかわいいのに何言ってるのさ」
「かっ!? …………かわいい? ……そうか……私はかわいいのか……」
なんかラウラさんが小声でぼそぼそ言い始めた。引きずったりするのもなんなのでこっちから一夏くんに呼び掛ける。
「おーい! 一夏くーん! ビーチバレーしようよ~」
「おっ! そういえばそんな約束もしたな。えーっとそっちはラウラと彩花とのほほんさんの3人か?」
「うん。そうだよ~」
ってのほほんさん?のほほんさんって――本音さんのことかな?
……うん。なんかすごく分かる気がするよ。
「じゃあ俺たちは……俺とシャルと……えっと、誰か入ってくれないか?」
「はーい! 私入りまーす」
「え~ずる~い! じゃんけんしようよ~!」
途端に多くの人が挙手しはじめて収集がつかなくなりそうで、言い始めた一夏くんは顔をひきつらせていた。
「で、できるだけ早くな……」
集まった数がとてつもなくて勝負を決めるまでかなりかかりそうだった――ので!
「みんなボクに注目! ボクに勝った人だけ残ってて~!」
という方式にして時間短縮っと。
3人メンバーが決まったのでビーチバレーを開始。
「よっと!」
まずは一夏くんのサーブから。
「本音さん!」
「お、おょょ?」
本音さんは触ったのだけど結構微妙な方向に飛ばしてしまった。けど構えた腕の角度からそれを予測していたボクは急いで落下点に突っ込み、返す。
「やるね彩花君!」
「それはどうも、シャルロットさん!」
かくいうシャルロットさんもかなりうまい。本当に器用だなぁ。
「任せろ!」
上げられたトスに合わせて、一夏くんが飛びあがってスパイクを打つ。その先には――
「ラウラ!」
「ぅ?」
べしっ! と音が聞こえてきそうなくらいしっかりと、ラウラさんの顔にボールがあたった。
「だ、大丈夫~?」
ボクはネット近くにいるので先に本音さんがいったようだ。
「か、かわいいといわれると……私は……ぅぅ」
「大丈夫? ラウラ」
遅れながらもボクはラウラさんの顔を覗き込む。ちょっと赤いかな……?
「ふ、ふえぇぇ!?」
顔がさきほどよりも赤みを増し突然叫んだかと思うと、ラウラさんは海の方へとかなりの速さで走って行った。
「ら、ラウラ?」
ボクは追おうとするけど、その寸前でシャルロットさんに止められる。
「いや、そっとしておいてあげた方がいいと思うよ?」
――そういうものなの?
「あー。1人かけちまったな」
一夏くんがそう言う。確かに……。というか当てた一夏くんは反省の色を見せようよ……。と、突然浜辺がざわめきはじめた。顔を騒ぎの中心に向ければそこには黒髪の女性。――と山田先生。
「ビーチバレーですか~。いいですね。織斑先生もどうです?」
「そうだな……」
うわっ。千冬先生きれいだなぁ~。なんというか――美しい? 大和撫子?ま、まあそんな感じ。一夏くんはなんか唖然としてるけど……そしてそれを見ているシャルロットさんの顔がなんかうらめしそうな顔だ。
「千冬先生も混ざりますか~?」
「あぁ。そうさせてもらうか」
「千冬先生がいれば勝てそうな気がするっ!」
千冬先生の返答を聞いてか、さきほどまで放心状態になっていた一夏くんも途端に焦り始めた。
「ちょっ、卑怯だぞ彩花!」
「ふふふ。一夏くん、勝てばいいのさ」
「きたねぇぇぇ!!」
何を言っているのやら。ボクは普通に千冬先生を誘っただけだよ?
千冬先生や真耶先生を加えてビーチバレーをやって、時間は過ぎていった。ボクたちがやり続けるのも悪いので途中から抜けた。みんな楽しそうだしね。
本音さんとのんびり歩く。ラウラさんも落ちついたのか戻ってきたし。まだちょっと顔が赤いけれど、大丈夫?
みんながボクを少し憐れむような目で見てくるんだけど……? ボクは何か見当違いでもしたっていうの?
本音さんと着ぐるみ水着? 同士のんびりしたり、みんなでかき氷を食べたり、そしてまたボクが捕まったりしながら楽しい時は過ぎていった。