4つのコンソールを開く。……そういえば束さんはどこにいったんだろう。きっと束さんの協力とかがあれば、すぐにすむと思うんだけどな……。
自分のISに侵入。そこからネットワークをたどって福音まで辿り着く。視認した情報もあるし、多分これで間違いないはずだ。
「……以前の実行犯と同じかどうかはわからないけれど……」
ボクは激しく手を動かし、コントロールの奪取を開始した。
~篠ノ之 束~
「また、あいつがこの束さんの邪魔をしにくるかなぁ?」
私は少しわくわくとしながら待っている。きっとあいつが、私の計画を邪魔しにくる……。そんな感覚がするのだ。理由はわからないが、そう言っている。
「…………来た」
銀の福音へと侵入をかけるプログラムがあった。それは瞬く間に私がかけた障壁を突破し、暴走を止めにかかってくる。
「そうは……いかないよっと!」
対して私も侵入。奪わせまいとちょっかいをかけ続ける。
相手も私の参入に気づいたらしく、侵入を中断し私への対応をしてきた。
「……やっぱり一筋縄じゃいかないなぁこいつは……」
私の頭で情報が高速で処理されていく。ともすればそれは自分の限界に達するかという速度で。自分がここまで限界の近くにいるのを実感できるなんてことは、今まで無かった。
「私に手をださせまいと出してくる、56個程度の厳重なプロテクト……。けれどそんな作ったオモチャなんかで私は止められないし、きっとあいつもその程度では止まらない」
相手から出されてくるプロテクトをものの数秒で解除。相手自身もそう時間をかけて作ったものではないだろうから、この間に出来た差はほとんどない。
「……今は完全な拮抗状態…」
今の福音の状態は最初に奪われた10%以降、全く奪われずに時間だけが過ぎている。もちろん私も奪い返すなどということはできない。
「作ったプログラムなんてすぐ解除できるけど、対人はやっぱり難しい」
お互いにその場で急遽作成される様々なパターンのプロテクト。それを互いに数秒程度で解除し、逆に送り返す。大がかりなプロテクトを作っていれば、完全にコントロールを奪われそうで、そんなことはできない。
「はぁ。やっぱりこいつも天才……だなぁ……」
自分以外の天才を認めるなんて中々なかった。ちーちゃんはそれに該当するけれど、やっぱり私とは分野が違うしね。ということはある意味こいつは私が認めた初めての相手……ってことになるのかな。
「こいつは確かに凄いけど、天才である束さんもそうやすやすとは譲らないよっと」
戦いは徐々に白熱していく。
一夏たちの戦いも、彩花たちの戦いも。
~緋桜宮 彩花~
「くっ……一夏くんたちは初撃を外した……か……」
やっぱり予想通りというべきか、実行犯は同じだったらしい。これが違う人だとは到底思えないし。
「あぁ~。本当に束さんがいれば片方解除で片方対応でいけるんだけどなぁ……」
そうぼやいても仕方ないし、そんなことを言っている隙をつくれば即座に追い出されてしまう。さすがに二度目の侵入をするチャンスはこないだろう。
「むぅ~。相変わらず進まない」
この時のボクは若干楽観的だった。千冬先生にも言ったけれど、あくまでこの行動は保険なのだ。だからといって手を抜いているわけじゃないけど、鬼気迫るほどでもない。
「89%になればすぐ90%に戻され、91%にされれば逆にボクが戻す……」
結局最初の90というボーダー以降全く動いていない。
そんなボクに心境の変化が訪れたのは、戦況の変化と同時にだった。
一夏くんが密漁船をまもって、福音の攻撃を打ち消す。そして一夏くんからはエネルギーがなくなり【零落白夜】のエネルギー刃が消失。そして箒さんの方も一夏くんを叱責しつつも、逆に一夏くんに諭され注意が散漫になっている。
「…………やばい!」
こっちの事情なんか福音が構うわけがない。ならせっかく止まった的に攻撃するのは自明の理。そして箒さんの方へとエネルギー弾が迫ったところで……
一夏くんが間に割って入った
すでにエネルギーもあまりなかった一夏くんは、その限界を超え体にもダメージを受ける。
「篠ノ之!作戦は中止だ!織斑をつれて急いで戻ってこい!」
『わ、私は……』
箒さんは若干錯乱しているような状態になっているけれど、その指令に従い戻ってくる。福音の方にはボクが侵入なんて度外視で認識阻害の信号を送り込んだ。だから箒さんたちに気づくことはない。といってボクはその間にはじき出されたけど。
「…………。箒さんは自分のせいだって思ってるみたいだけど…。ボクだってそうだ。なんでもっと真剣にやらなかった?あんなことは止められたかもしれないのに」
もっと真剣にやっていればあれは止められた?…………返ってくる答えは否。こんな時でもボクの頭は冷静に判断する。そんな自分の頭が少し恨めしい。
「今すべきことは……」
今ボクがすべきこと。それは責任をとること?そう、責任をとってあいつをボクが……落とす。データでは進まない。ならば武力であいつを落とす。
可能か?可能性は低い。現行のISを上回るスペックをもった紅椿に、一夏くんの白式の2人がかりでも落とせなかった。ボク1人で落とせるのか……。
そんな思考をしつつ廊下を歩いていたボクは誰かにぶつかった。
「…………」
ボクは黙ったまま後ろに軽く尻もちをつく。
「およ?さーやちゃん?」
ボクがぶつかった人は……本音さんだった。
「お、おりむーが大変ってほんと!?」
「……うん」
「おりむー大丈夫かなぁ……」
「……ボクが…」
「え?」
「箒さんは自分のことを悔やんでたけど……ボクが責任を負うべきだ。あの攻撃はボクが侵入を止めて、阻害すればきっと止められた。だからボクは自分にできたことを自らしなかったんだ……」
なんだか後ろ向きな言葉が出てくる。
「ん~。それは違うんじゃないかなぁ」
「……え?」
「さーやちゃん。それはきっと違うと思うよ? 多分おりむーだったらそんなことは言ったりしない。事情はわからないけどさーやちゃんが落ち込んでいたら、さらにおりむーを落ち込ませちゃうんじゃないかなぁ……? さーやちゃんはおりむーを慰めてあげなきゃ! それに話からすると箒ちゃんもなんでしょ? なら箒ちゃんを助けてあげてよ、さーやちゃん!」
……。それは……確かに。ボクが落ち込んでいるのはボクが知っているからだ。あの攻撃を止められたことを。でも今それは必要じゃない。悔やむのは後でいい。今きっと、ボクよりも落ち込んでいるのは箒さんだ。ならそれを助けにいかなくてどうするんだ。
「本音さん!ありがとう!」
「どういたしまして~ってどこいくの~?」
「箒さんのところまで行ってきます!」
「頑張ってね~」
えっと……ボクに本音さんが諭してくれたはずじゃあ……?ん?あれ?おかしいなぁ。
とりあえず一夏くんが運び込まれた部屋にいったんだけど……そこには箒さんと鈴音さんがいた。ボクが入った途端に箒さんの頬を鈴音さんの平手が打った。
「甘ったれてんじゃないわよ!専用機持ちっつーのはね、そんなワガママが通じるような立場じゃないのよ。それともアンタは――」
「戦うべきときに戦えない、臆病者か」
その鈴音さんの一言が箒さんに火をつけた。
「――ど……どうしろと言うんだ!もう敵の居所もわからない!戦えるなら私だって戦う!」
「やっとやる気になったわね……場所ならわかるわ。今ラウラが――」
といって鈴音さんがこちらに振り向く。ついでボクも振り向いたら扉が急に開いて。
「うひゃぁっ!」
ボクは驚いて跳びあがってしまった。
「あ、あんた……なにしてんのよ……」
「え?いや、別に……」
鈴音さんのボクを見る目がちょっと厳しい。なんというか……説明できません。それにしても箒さんも立ち直ったようでよかったよ。鈴音さん凄いなぁ。
「出たぞ。ここから30キロ離れた沖合上空に目標を確認した。ステルスモードに入っていたが、どうやら光学迷彩は持っていないようだ。衛星による目視で発見したぞ」
ボクが振りむいた先には専用機持ちのみんなが立っていて……。
「甲龍の攻撃特化パッケージはインストール済みよ。セシリアとシャルロットはどうなのよ」
「準備オッケーだよ。いつでもいける」
こんな会話がなされていて……
「えっと……ボクも行っていいのかな?」
「ハァ!?あんたこないつもりでいたの?ま、来ないって言っても来させるけどね。こいつみたいに」
そう言うと鈴音さんは箒さんを指さす。箒さんは少しばかり怒りを含んだ視線でみるが、実際さっきまでそうだったので反論できないみたいだ。
「作戦会議よ。今度こそ確実に落とすわ」
ここから2回目の戦いが始まろうとしていた。