IS‐のんびり屋な天才‐   作:石っこ

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福音編もこれにて終了。


第28話

月下。暗闇が辺りをつつみ、やわらかな月の光だけが周りを照らしている。

 

「…………」

 

そんな中1人の小柄な少女のような容姿をもった少年はたたずむ。何かを考えるように。あるいは何かを探しているかのように。その様子は幻想的な空気を作り出し、どこか現実味がないような錯覚を感じさせる。

その少年の視線はゆっくりと辺りを見回したが、結局目当てのものはなかったのかどこか落ち込んだような雰囲気を見せた。

 

 

 

 

「はぁ」

 

ボクは定番通りにお風呂からでたあと、外に出て風を浴びる。福音戦で疲れた体にお風呂は心地よかったし、そのあとに浴びるこの風も気分がいい。

 

「悪いことと言えば帰ってきて反省文とかを書かされることになったことだけど」

 

ボクたちは福音を堕として帰ってきたが、重大な命令違反を犯したということでそういう処分がくだることとなった。…………そのあとには千冬先生から労いの言葉をいただいたけれど。

 

「そういえば食事時も凄かったなぁ」

 

思い出して少しの苦笑を洩らす。食事の時は凄かった。なにがってボクたちに何をしていたのか訊いてくる人たちが結構いたから。そりゃあ気になるよね。クラスメイトが何をしていたかっていうのは。一夏くんに至っては重傷も負ったし。とはいっても機密事項なので教えるわけにもいかず、ラウラさんとシャルロットさんが行動が制限されることとかを諭したから、ボクたちが訊かれることはなかったけど。

 

「…………?」

 

まただ。また誰かがいるような感覚。感じた方向を見るとボクと同じくらいに見える人がいて……。軽く目をこすると消えていた。

 

……。いまいちよくわからない。あれはボクが自分に見せた幻影なのだろうか。それにしてもなぜ自分自身に似たものを見せるのだろう。

少し疑問に思って考えつつも、見間違いかと視線をやって実際見当たらないので少し落ち込んだ。

 

「…………さーやちゃん?」

 

本音さんか。ボクをさーやと呼ぶのは今のところ本音さんしかいないしね。

 

「……ん。本音さんですか」

 

「どうしたの~?こんなところで~?」

 

「特にこれといったことをしようとしてるわけじゃぁ……」

 

「そうなの?……なんだかさーやちゃん出かけてから雰囲気変わったね」

 

「そうですか?」

 

自分では良く分からないことを言われたので、少しだけ驚く。……そういえば戦闘中に一夏くんにもそんなこと言われたような。

 

「うん。なんだか……凛々しくなったというか……違うかな。説明しづらいけど、どこかまだ帰ってきてないというか……」

 

帰ってきてない……? 心が日常に戻りきれてない、そういうことかな? 確かに今の思考は日常に戻っているとは言えない気がする。どこかまだ悔やんでるところはあるし、ふっ切れてない……ってことなのかな。

 

「ん~。良くわからないけどさーやちゃん戻ってきなさーい」

 

その言葉のすぐ後には、ボクは体に暖かみを感じていた。人の体温。頭のすぐ近くには本音さんの頭。なんだか切なく思う。そして同時にほっとしたような気持ちにもなったのを感じる。理解する。

 

「も、もう大丈夫です」

 

シャンプーの爽やかな香りと女の子特有の香りが鼻腔をくすぐる。落ちついたら少し気恥ずかしくなってきて、慌てるようにボクはそう喋っていた。

 

「そう?……うん。おかえり~さーやちゃん~」

 

本音さんが近付いていた体を離して、ボクへとのんびりとした笑顔を向けて言った。

なんだかまぶしく感じるような。

 

「改めて……ただいまです」

 

一応本音さんに向けてただいまと言っておく。お帰りと言われたからただいまと返す。こういう理由もあるけれど、ルームメイトであるボクのことを心配してくれただろうし、そう言わなきゃいけないような気がした。

 

「うんうん。それじゃあお部屋にもどろ~」

 

そういえばどうして本音さんはここにいるんだろう?……謎だ。

 

 

「だ、だだだだ、だだだ」

 

……え?えーっと、この声は……

 

「抱きしめられて嬉しいか!なら私も抱きしめてやろう!」

 

「え。ちょ、ちょっとラウラ?」

 

「ええい、問答無用!」

 

なんだろうなぁ……。なんだかよくわからない形で、ボクはいつのまにかそこにいたラウラさんに抱きしめられていた。というかラウラさんさっきの見てたんだ……。お互いに体を熱くしているのを感じながらゆっくりと体を離す。

 

「う、ううぅ……」

 

目の前のラウラさんは顔を真っ赤にし始め、やってしまった……とでもいいたげな表情を見せている。

 

「ら、ラウラ。大丈夫?」

 

一体何が起きたのかさっぱりだけれど、心配する。顔を赤くするというのが何かの症状の兆候だったりするとまずい。

 

「だ、大丈夫だ。そ、それでは私は睡眠をとる。で、ではな!」

 

なんだか詰まりながら返答をしてきたけれど、多分大丈夫だろう。少しの熱ならこの風が冷ましてくれる。かくいうボクの火照った体も冷たい風がするりと過ぎてゆくことで、心地よさと共に熱が程よく冷めていくのを感じられた。

 

「ん~。さーやちゃん……」

 

「な、なに?」

 

前を見ると本音さんがどこか恨めしそうな瞳をボクに向けている……ってなんで?

 

「目の前で他の女の子と抱きつくなんて~。……なかなかさーやちゃんは酷い人なんだよ」

 

「え?え?」

 

なんだか話についていけてない気がする。

 

「ま、やっぱりわかってないよね~」

 

やっぱりって言われた……。けれど、こんな……こんな感じの普通の会話はボクの支えになっている。こういった日常を過ごすのは楽しい。

 

「じゃあボクたちも寝ましょうか~」

 

ボクがまったりしている時に出す、間延びした声を発する。

 

「そうだね~」

 

対して本音さんもいつも通りの声で返してきて、ボクたちはのんびりと部屋へ向かって歩き出した。

 

 

 

 

道中、言葉の意味を考えたけどやっぱりわからなかった。

 

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