IS‐のんびり屋な天才‐   作:石っこ

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閑話 彩花の帰省

「ここに来るのも久しぶりかも」

 

 ボクはそう呟き、しみじみとその建物を眺める。今ボクが来ているのはボクがいた孤児院だ。

 

「……あ! 彩花おねーちゃんだ!」

 

 1人の子どもがボクをみつけたかと思うとみんなへと声をかける。すると中からぞろぞろと子どもたちがでてきた。そういえば、孤児院だからといって貧乏というわけじゃない。

 色々と進んでいる今では、そういった問題が起きることは少ない。とはいっても子どもを捨てる人がいなくなったわけじゃないんだけど。

 

「あはは。みんなただいま~」

 

 ひさしぶりに帰ってきたので思わず笑みがこぼれてしまう。夏季休暇にも入ったので、一度来てみようと思ってきてみたんだけど……みんなの対応が想像以上だ。

 

「彩花おねーちゃん彩花おねーちゃん!」

 

 数人の子供がボクへと抱きついてくる。まだボクよりも小さいけれど、ボクを越してしまうのも遠くないんだろうなぁ……。

 

「うん。ここにいるよ~。――それとボクはお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんなんだけどな」

 

「? 何言ってるの彩花おねーちゃん?」

 

 数人の子どもが無邪気にきょとんとした目でボクの方を見つめてくる。……うぁ。

 

「んーん。なんでもないよ」

 

 わざわざ強く指摘して、雰囲気を悪くする必要もない。ボクは笑みを深くしながら子どもたちと遊んでいた。

 

そんな中、孤児院の中から1人の大人が出てきた。

 

「もう! みんなどうしたの! ――あれ? 彩花ちゃん?」

 

「ただいま~桜先生」

 

 今孤児院から出てきた人は桜《さくら》璃梨《りり》先生。もっぱら孤児院のみんなには桜と名字の方で呼ばれている。ボクみたいに成長してきた孤児院出身者は桜先生と呼ぶけれど、まだ小学生にもなっていない子どもはさくら~と呼び捨てで呼んでいる。とても面倒見が良くて気のいい人で、ボクも尊敬している。

 

「あらあら。彩花ちゃんが帰ってきたならみんながはしゃぐのも頷けますね」

 

 桜先生はやれやれという風に少し溜息をついたものの、暖かな目で子どもたちを見ていた。

 

「先生まで……ボクは男ですって」

 

「仕方ないじゃない。彩花ちゃんはかわいいんだもの」

 

 桜先生は人格者だけれど、ここはなぜか譲ってくれない。ボクを君付けで呼ぶことは全くないんだ。……なんでだろ。

 ちなみに桜先生が先生と呼ばれているのは、色々と教えてくれるからだ。生活のこととかだけでなく簡単な計算も子どもたちに教えている。先生は子どもに話しかける時はですます口調だ。なんでも子どもの教育は重要なんだとか。でもその努力はあまり報われていなかったり。

 

「さって。みんな! 今日は彩花ちゃんが遊んでくれるみたいよ! ぱーっと遊び倒しちゃいなさい!」

 

「え? ……ど、どういうことですか?」

 

「ん?」

 

 桜先生が綺麗な微笑みをボクに向けてくる。確かに子どもたちと遊ぶのは構わないけれど、元気いっぱいな全員を相手にするとボクがもつ気がしない。けれど、桜先生の微笑みはまさに死刑宣告のようで。

 

「う……ああぁぁぁぁ……」

 

 少しの間、桜先生の言葉を頭で反芻していた子どもたちも、理解したのか動きだしてボクに飛びかかってきた。ボクの声が徐々に小さくなっているのはそのせいだ。

 

 そして飛びかかってくる子どもたちを、撥ね退けるわけにもいかないのでその全てを抱きとめる。

 

「あ。これは無理だ」

 

 結局その重量を支え切ることはできず、ボクはばったりと倒れた。

 

 

 

 

そして仕切り直した今。

 

 向こう側で桜先生が少しの人数を相手にしつつ、ボクが大多数を請け負っている。

 

「どう? 綺麗でしょ~」

 

 ボクは入学時にも使った桜の花びらを投影していた。子どもたちは不思議そうな瞳をそれらに向け、しきりに手を伸ばす。しかし、その手が花びらに触れることはなく再度首をかしげる。

 

「ねーねー。彩花おねーちゃん、このお花触れないよ~!」

 

「うーん。これは見るだけなんだよ」

 

「そうなの?」

 

「うん」

 

 ボクの言葉に納得したのか、その会話を聞いていたみんなも手を伸ばすのをやめて観察するようにそれらをじっと見ている。

 

「ふむ」

 

 その間ボクはISの武装を考え中。今回何か使えそうなものはないか……あ!

 

「こんなのなんてどうだろう!」

 

 急いでデータを作り、ISにインストール。そしてISの部分展開により武装を呼びだす。

 

「うにゃ!? 彩花おねーちゃんそれなあに?」

 

「危ないからあんまり近付かないようにね~」

 

 好奇心をむき出しにして興味津々といったように近付いてこようとする子どもたちにストップをかけつつ、ボクは上を向く。

 そして空に向かって展開した武装の弾を発射する。――すると空中でその弾は爆ぜて。

 

 

 

綺麗な花を咲かせた

 

 

 

「お昼だからちょっと見づらいかな」

 

 おお~と子どもたちが歓声を上げている。ボクも嬉しくなってついつい連発。そんな光景が少しの間つづいた頃……

 

ぺしっ

 

「やめなさい。迷惑でしょう」

 

 桜先生がボクの頭を軽く叩いた。確かにしっかり考えると音も抑え気味にしてあるとはいえ、結構うるさいし周りの人の迷惑になっていたかも……。

 

「はぁ。彩花ちゃんがみんなに優しくしてくれるのは嬉しいんだけどね」

 

 その方向が突飛なのよねぇ……と桜先生は遠い方に視線をやり、嘆くように呟いている。

 

「あぁ~うぅ~ごめんなさい~」

 

 こうして叱られるのもなんだか久しぶりだ。今までもボクは突然の思いつきで色々やっては、そのたびに……というほどでもないけれど、たまに叱られることがあった。ある程度周りにかかる迷惑のことも考えているのだけど、それがたまに孤児院のみんなを優先しすぎて目に入らなくなってしまうことがあった。そんな時、桜先生によく叱られていたなぁ。

 

「ま、いいんだけどね。……そういえば彩花ちゃんはそれをどこから出したの?」

 

「あ、これですか?」

 

ガシャリと武装を持ち上げる。

 

「そうそう」

 

「これはですね~。ISの武装の一つです」

 

「……武装?」

 

「はい、武装です」

 

 桜先生が軽く疑うような目をしてボクが展開している武装をじっくりと観察。

 

「これ……武器なの?」

 

「一応」

 

「……ぷっ。あははははは!」

 

 堪え切れないとでもいうように突然桜先生が笑い始めた。

 

「む~」

 

 ボクは軽く頬をふくらませる。もともと武器のつもりで作ったわけじゃないけどさ、そんなに笑わなくても……

 

「あははは……はぁはぁ……ごめんごめん。やっぱり彩花ちゃんは変わらないねぇ」

 

 まだ少し笑いを漏らしつつも、桜先生はボクへと謝ってきた。反省の色はみじんも見えられない目だったけど。まあ反省する必要性もどこにもないからいいんだけどね。

 

「そうですか? 最近、変わったと数回言われたんですけど」

 

「いやいや、彩花ちゃんはやっぱり彩花ちゃんだよ」

 

 うん? 確かにボクはボクだけど。

 

 

 

 

 

「ん~。久しぶりに笑わせてもらったなぁ~」

 

「それはなによりです~」

 

「私はこれからご飯の材料とか買いにでかけたいんだけど、その間子どもたちをみててくれるかな?」

 

「わかりました~」

 

 ボクが桜先生の頼みを断るはずもない。もともと何か用があるわけでもないし、それを快く引き受けた。

 

「いってらっしゃーい」

 

「「「さくらいってらっしゃーい!」」」

 

 ボクに続いて子どもたちが手を振る。桜先生は笑顔を見せて手を振り返し、小学校高学年くらいの子どもをお手伝いに連れて出ていった。

 

「むぅ~。彩花おねーちゃん。私も大きくなったらさくらと一緒にお出かけしてもいいの?」

 

「そうだね~。お手伝いならきっと桜先生も喜んでくれるんじゃないかな~」

 

「……うん!」

 

 本当に子どもは無邪気でかわいいなぁ。

 

 

 

 

 

 と思ったのも束の間。

 

「ひゃ《や》、ひゃへなひゃい《やめなさい》」

 

 ボクは頬をちいさな子どもたちに引っ張られうまく発声できないでいた。ある程度の人数はもうお兄さんお姉さんの風格を出してきた、小学校くらいの子どもたちがひきうけてくれたけど、それでもボクのところに来る人数は多い。

 

 頬を引っ張られるって最近もあったような……。そんなことを思いながらボクは流されるままになっていた。

 

 

 

 

 

「う~」

 

少しだけ痛む頬をさすりながら桜先生の帰りを待つ。もうそろそろ寮に戻ろうかなと考えているので、しっかり挨拶をしておきたい。

 

「ただいま~」

 

「「ただいま~」」

 

「「「「お帰りーー!!」」」」

 

 ふぅ。やっぱり桜先生には敵わないなぁ。みんながみんな桜先生の帰りをまっていて帰ってきた瞬間、一斉に飛びかかっているのをボクは見つめながらそんなことを思う。

 

「わっぷ。こらこら。ご飯が作れないでしょう」

 

 桜先生が少し苦しそうに、そして嬉しそうにしながらみんなをたしなめる。

 

「それじゃ、桜先生。ボクはこの辺で帰りますね~」

 

「あれ? 彩花ちゃんはご飯食べていかないの?」

 

「ん~。どうしよう……」

 

 いてもいいような気もするけど、いちゃ悪いような気もするし――

 

「「「「彩花おねーちゃん一緒に食べようよ!」」」」

 

 そう子どもたち全員から声をかけられ引きずられ。半ば強制的にボクはご飯に相席することになったのだった。

 




桜先生に今後の出番があるかは怪しい。
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