IS‐のんびり屋な天才‐   作:石っこ

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30話とは名ばかりの謎の四部構成が続きます。
タイトルはある意味ネタ化する気がしなくもありません。


第30話(前半)

 ある朝。夏季休暇にも入り、帰省するものも多い。そんな中で帰省をしなかった集団が繰り広げるとある一日。

 

 

 

 

「買い物?」

 

「うん、そう」

 

 寮の食堂、そこで早めの朝食をとりながらラウラとシャルロットは話していた。

 ふたりの他には朝練をしている部活動の面々がちらほらいる程度で、まったく混んではいない。

 ふたりのメニューは、マカロニサラダにトースト、そしてヨーグルトだった。

 

 シャルロットは何か考え事をしているような様子で、フォークの先端にマカロニをするっと通して食べていた。

 

「む。なんだそれは?」

 

「なんだって……マカロニ?」

 

「それはわかっている。どうしてフォークに通したのかを聞きたいのだ。刺すではなく、なぜ通したのかを」

 

 そんなラウラが向ける眼差しは真剣そのもので、ある意味シュールな光景を作り出していた。

 

「なぜって言われても……なんとなく?」

 

「ふむ、なんとなく……」

 

「ラウラもやってみたら? 結構楽しいよ?」

 

 言ってからシャルロットは、ハッと気がつく。

(う、僕ってもしかして子供っぽいかな……? ラウラのことだし、もしかして――)

 

『ほう、確かに面白いな』

 

『そ、そう? よかった』

 

『こんなもので面白いと言える、お前の頭がな』

 

………………。

 

(い、いや! そんなことはないよ、うん! ラウラはきっとそんなこと言わないよ!)

 ある種失礼極まりない考えを抱きながらも、シャルロットは自分に強く言い聞かせるように左右に首を、ぶんぶんと振る。

 

「シャルロット」

 

 ――びくっ!

 

「これは確かに面白いな。ふむ……せっかくだ。全部の先端に通してみよう」

 

 言ってすぐ、他のマカロニもいじりはじめるラウラ。

 どうやら本当に面白がっているらしく、表情がわずかに――だが確かに変化しているのが見てとれる。そんな反応にシャルロットは心のうちで軽く謝るとともにホッとした。

 

「む、く、これは思ったより難しいな……この」

 

 なかなか最後のマカロニが通らず悪戦苦闘するラウラ。

 なんとなくシャルロットは昔飼っていた猫を思い出して、しばし見とれた。

 そんなふたりの間を1つの影が通った。

 

「……?」

 

 それはラウラの背後へと素早く回る。隣にいるシャルロットは気づけたが、マカロニに集中しているラウラはどうやらまだ気付いていないようだ。

 

「ラウラ――」

 

 シャルロットがラウラに注意を促そうとした、瞬間。

 

 

 ぷにぷに

 

 

 誰かがラウラの頬をつついた。

 

「う、うひゃぁ!」

 

 意識外からの思わぬ攻撃に素っ頓狂な声をあげてラウラは跳び上がった。ラウラにしては出す声の質が珍しく、周りの人もだれがその声を出したのかと、きょろきょろあたりを見回している。

 

「あぁ、なんだ――」

 

 シャルロットが安心したような色をにじませた声を出す。というのも、

 

「やっほ~ラウラにシャルロットさ~ん」

 

 その影の正体は彩花だった。彩花は面白半分に静かに音も気配も消して忍びより、ラウラの頬を優しくつついたのだった。接近に使った高等な技術は激しく使い道を間違えている気がしなくもない。

 

「さ、彩花……」

 

 ラウラが顔を赤くしながら犯人の名を呼ぶ。体は羞恥と――怒りに震えている。

 

「おはようラウラ~」

 

 けれどそんな怒りは彩花への効果を示すことなく霧散してしまう。彩花の見せた無邪気な笑顔にラウラは毒気を抜かれ、怒ることができなくなってしまったのだ。

 

(……彩花くんは不思議だなぁ……。ラウラの扱いがうまいというかなんというか……本人はラウラに好かれていることを自覚してるのかな?)

 そんなことをシャルロットは思いながら、ふたりのどこか微笑ましいやりとりを見つめる。

 

「そ、その……なんだ……あまり驚かさないでくれ……」

 

 笑顔を向けられ、逆にラウラは縮こまってしまいながらも小さな声で言う。

 その様子はいつもとは違うギャップを感じさせ、同性でさえも虜にするようなかわいらしい動作だった。

 しかし、そこは彩花。どこ吹く風とでもいうように

 

「う……ごめんね? ラウラがかわいかったものだから、ついいたずらしたくなっちゃって……」

 

 言動に大きな爆弾を織り込ませながら返事をしてきた。それを聞いたシャルロットは、

(か、か、かわいいだって! うわぁ~! 僕も一夏に言って欲しいなぁ~)

 

 などと表情には出さず内面で赤面する。

 そしてシャルロットはその言葉に慌てながらも脳内で自分がそう言われている様子を想像し、にやにやと幸せそうな笑みを作った。

 一方ラウラの方は、

 

「かっ、かっ!? ――うきゅぅ~」

 

「……あれ?」

 

 さきほどの言葉はラウラの防御を軽く貫通し、純情な心に壊滅的なダメージを与えた。ドイツの冷氷という名が型無しである……。

 彩花は何が起きたのかをあまり理解しておらず、ラウラが顔を真っ赤にしたことに慌て始めて、シャルロットの方を見る。するとシャルロットの方も幸せそうな笑みを作っていて、声をかけるのがためらわれ――

 

 そんな様子でシャルロットは妄想に浸り、ラウラは心ここにあらずといった様子になり、彩花はふたりの変貌ぶりに慌てるというなかなかに混沌な状態が、シャルロットが妄想から帰ってくるまで続いたのだった。

 

 ――乙女心は実に繊細なのである――

 そんな言葉を思わされるような時間だった。

 

 

 

 

 

「それで、買い物には何時に行くんだ?」

 

 やっと調子を取り戻してきたラウラがシャルロットに尋ねる。平静を装ってはいるもののその顔はまだ少し朱に染まっている。

 

「あ、うん。十時くらいに出ようかなって思うんだけど、どうかな? 一時間くらい街を見て、どこかよさそうなお店でランチにしようよ」

 

「うにゅ? ふたりともどこか出かけるの?」

 

 その会話に質問を入れる彩花。現在彩花はあごをテーブルにつけ、床に直にすわっている状態だ。

 必然シャルロットを下から眺めることになり、その上目遣いな視線がシャルロットの心を射抜く。

 

(うぁっ……ど、どうして彩花くんはこうも女の子にしか見えないくらいかわいいんだろうねっ!)

 

 シャルロットの心情もおかしな方向に熱くなり始めている。ドキドキしながらも、彩花が男だということを意識しないように心がける。意識してしまうと、今度は違う意味でドキドキしてしまいそうだったからだ。

 

「う、うん。ちょっと買い物にね。……そうだ。彩花くんも一緒にいく?」

 

 彩花の視線から早く逃れるために少し早口になりながらシャルロットは答える。しかし、それが逆効果だったことを知るのはすぐだった。

 

「ぜひ行かせてもらうよ~!」

 

 彩花は文字通り花のような笑顔を咲かせ、シャルロット、そしてラウラ、これにとどまらず彩花の顔をみていた全員を魅了した。奇しくも彩花――花のような笑顔で彩りを――という名前の由来通りのことを実現したわけなのだが、本人はそのことに気づいていない。

 

「ま、す、少しだけ待ってくれ……まだ(心の)準備が……っ」

 

 突然同行することが決まってしまい、ラウラはさっきの彩花の発言を思い出しつつまた赤面しはじめる。これもあまり見ることのない光景だったので、周りの視線はいつもより何割増しもかわいらしいラウラにも集まった。

 

「準備?」

 

 なんの準備なのだろうと彩花は思い、小首をかしげる。その動作がまた堂に入っていて、小動物を連想させる。その様子は顔を赤くしながら、あぅあぅと言葉にならない声を出しているラウラとお似合いとなっていた。

 

「あ、そうだ! 一夏くんも誘ってみない?」

 

「え……っと。一夏も?」

 

「うん。さぁさぁシャルロットさん、電話お願いします」

 

 引くに引けない状況になり、シャルロットは一夏に電話をかける。確かに一夏が一緒だったらもっと楽しいだろうなぁとも思っていたのでこの提案は嬉しいところでもあった。

 けれど、

 

「う~ん。繋がらないや……」

 

「そっか……」

 

 その電話は繋がることはなかった。

 

「ISのプライベートチャネルを使ってみたらどうだ」

 

 ようやく心の整理がついたのだろうか、ラウラが解決方法を提案してみる。

 

「いや、さすがにそれは……」

 

「む。なぜだ?」

 

「……織斑先生に怒られるよ?」

 

「………………」

 

 その言葉を聞いた彩花がだらだらと冷や汗をかき始める。それはちょうど開始する寸前だったようで、流している冷や汗の量が結構多い。

 

「…………彩花」

 

「……そうだね」

 

 彩花とラウラは無言で意思疎通をし、プライベートチャネルを使うことを諦めた。

 




前半のこれを見て、「あれ?短いんじゃね?」と思った方。次回からはやたらと長くなりますのでご安心ください
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