ラウラとシャルロットは学園を出る準備のため、いったん部屋へと戻る。
彩花の方も急な予定だったので、制服から着替えるようだ。
そして、もちろん3人とも私服――のはずだったのだが。
「あの、ラウラ? その軍服はなに?」
「うむ、これは正式には公用の服だが、いかんせん私には私服がない」
さすがにその言葉には頭をかかえるシャルロット。そういえば、同じ部屋でも普通の女の子の格好をしているところを見たことがなかった。
「ラウラ、制服でいいよ……。その服って勝手に着たら本国の人に怒られるでしょ?」
「そう言われればそうだな。わかった、制服に着替えよう」
それからは女子とは思えない早さでラウラが着替えを終え、部屋を出たのは15分後のことだった。
「…………遅いな」
ラウラがちらちらと寮の方へと目をやる。今更ながら彩花も一緒ということで緊張してきたのだろうか。着替える時は平常だったのだが。
「彩花君もきっと色々準備があると思うよ? ……もしかしたらラウラと一緒だからそのために準備してるとか……」
ラウラを見ていると少しいじりたくなってしまい、思わずそんな言葉を放っていた。
(彩花君もやってたけど、確かにラウラはいじってみたくなる時があるかも……)
「なななな、なな!」
その言葉を聞いたラウラは慌てふためく。予想もしていなかったのだろうか、その顔はどんどん朱に染まってきている。
そんな状況をひとつの声が切り裂いた。
「お~い、シャルロットさんにラウラ~」
「あ、彩花君遅かったね―――!?」
声に振り向いたふたりは思わず息をのんだ。彩花の後ろから誰かが迫っているとか、同行者が増えたとかそういうことではない。
ただ単純に、
「えっと……彩花君? その服装は……」
「え? 何か変だったかな?」
そう言うと彩花は視線を下に向け、自分の格好を確認。そして、きょとんとした顔をふたりに向ける。
(どどど、どういうことなんだろう!? 彩花君自身は疑問なんてもってないみたいだし……ぼ、僕がおかしいのかな!?)
(ほ、ほう……彩花(私の嫁)はなんとも……私よりも女の子らしく見えるのだが……)
思わずラウラは自分の格好を確認。制服である。いたって普通な制服である。
相変わらず彩花はなんだかわかっていないようで、?マークが見えそうな顔を向け続けている。
「あ、あの、彩花君。それは多分女の子が着るものだと思うんだけど……」
さすがに耐えきれなくなったシャルロットが訊く。その言葉を聞いた彩花は目を丸くし、驚いているような仕草を見せる。
「これ、ボクの孤児院の先生がくれたんだけどなぁ……。女の子用だったのか~。あまりファッションには興味のない生活だったからそんなことわかんなかったよぅ……」
シャルロットはその孤児院の先生とやらに聞いてみたくなった。
これは狙ってやったんですか!?……と。
今の彩花は恥ずかしそうに少しだけ顔を朱に染めている。ただでさえ保護欲をくすぐる彩花がそんな仕草をしたら、もう耐えきれるわけがない。
「だ、大丈夫だよ彩花君! 似合ってるから!」
なんだか間違った方向のような気がするフォローを入れるシャルロット。けれど効果はあったようで。
「そ、そうかな? ならよかったよ~!」
少しだけ顔が赤いけれど、満面の笑みを浮かべる。その笑顔は確かにシャルロットを魅了した。
(う、うぅ……彩花君は男なんだよ! 男なんだけど……服を着せてみたいって思うのは変かなぁ……?)
気がつけばシャルロットも相当焦っていたのだった。
「よ、よし。ならばいこうか」
ラウラが気をとりなおすようにふたりに声をかける。その声音に落ち込むような色がみえたのはきっと気のせいではないだろう。
その言葉の終わりに3人はバス停に着き、ちょうどバスが走ってきたので、3人はそのまま乗り込む。夏休み、それも10時すぎという半端な時間ということもあって、車内はかなり空いていた。
制服のラウラとは違い彩花とシャルロットは私服だ。シャルロットは白を基調としたワンピース。それに淡い水色を加えて、涼しさと軽快さを醸し出している。
対して彩花は淡い黄色を基調として明るい橙色を加えて、これはこれで夏らしいといえる格好となっている。
都市部のバスにしては珍しく、車内は冷房ではなく窓からの風で涼を得ていた。
(そういえば街の方ってあんまりゆっくり見たことなかったなぁ。せっかくだし、今日は色々見に行こっと)
窓から見える景色を眺めるシャルロットを、風がゆっくりと撫でていく。わずかに揺れた髪は夏の陽光を受けて金色に輝いていた。
その対角に位置するラウラは真剣なまなざしで街並みを観察している。
(……あの建物は狙撃地点に使えそうだな。それに向こうのスーパーは長期戦時にライフラインとして機能させられる。それと、いざというときのために下水道や地下鉄測道などの地図を手に入れておくか。独立した発電機のある設備も確認しなくては)
銀色の髪が日光を受けて鮮やかに輝く。その鋭い目線もあって、超俗的な雰囲気を醸し出していた。
そしてふたりに挟まれた彩花。彼は鼻唄でも聞こえてきそうなほどの、上機嫌な笑顔をつくっている。これからすることが楽しみでしかたないというように見えた。
髪が彩花の起こす体の揺れに合わせて左右へと動く。服装ともあいまって活発そうにみせつつも、しかし体格的に儚げな様子を漂わせるという、不思議な魅力を出していた。
「ね、ね、あそこ見て。あの3人」
「うわ、すっごいキレ~」
「3人とも無茶苦茶可愛いわよね。モデルかしら?」
「そうなのかな? 銀髪の子が着てるのって……制服? 見たことない形だけど」
「ばかっ。あれ、IS学園の制服よ。カスタム自由の」
「え!? IS学園って、確か倍率が1万超えてるんでしょ!?」
「そ。入れるのは国家を代表するクラスのエリートだけ」
「うわ~。それであのキレイさって、なんかズルイ……」
「まあ、神様は不公平なのよ。いつでも」
彩花達3人に注目している女子高生のグループが、声のボリュームを抑えることなく騒いでいる。
そんな風に盛り上がっている会話は、当然バスという狭い空間で3人の耳にも届いていた。
「………………」
そんな風に褒められたことがなかったせいか、シャルロットは恥ずかしそうにうつむいている。
彩花は彩花で相変わらずにこにことした笑みを崩さず、上機嫌にしている。この笑みにやられて、実は目的地にたどり着く前にバスを降りた者も多かった。
その一方でラウラは、どうでもいいことだと聞き流して、再度『戦争時化の市街戦シミュレーション』を続けた。
(ISは比類なき世界最強の力だ。しかし、戦争は個人の戦力だけでは決まらない。特に歩兵による市街地展開が行われた場合、防衛側も同じく歩兵による戦線を展開しなくてはならないだろう)
市街地全てを更地にしてもいいのであれば、ISの出番となるわけだが。
そんな益体もない思考を巡らせる。そんな思考が超俗的な雰囲気を醸し出す要因となっていたわけではあるのだが、要因を知ってしまうとなんとも苦笑いをこぼしたくなってしまう。
「ラウラ、ラウラ」
「ん、なんだ?」
「駅前に着いたよ。ほら、考え事は中断して降りないと」
見れば彩花はすでに降りているようで、きょろきょろとあたりを見回しているのが伺える。
「わかった」
ふたりは他数名の乗客と一緒にバスを降り、彩花と合流。そしてそのまま駅前のデパートへと入る。
シャルロットはバッグからなにやら雑誌を取り出して、それを案内図と交互に見ては何かを確認していた。
「うん、わかった。この順番で回れば無駄がないかな」
「ふむ」
「最初は服から見ていって、途中でランチ。そのあと、生活雑貨とか小物とか見に行こうって思うんだけど、ラウラも彩花君もそれでいい?」
「よくわからん。任せる」
「シャルロットさんにお任せだよ~」
相変わらず、一般的な10代女子のことには疎いラウラだった。そして、彩花の方はそもそも女子ではないので疎いとかいうレベルではない。ある意味似た者同士ともいえる。
そうしてラウラは何かの考え事をしながら、彩花はころころと表情を変えながらシャルロットに付いて行く。
「ラウラ、聞いてる?」
「ん? ああ、すまない。聞いてなかった」
「も~。私服はスカートとズボン、どっちがいいのって聞いたの」
「ん、どっちでも――」
「どっちでもいいとか、言わないでね。……というかラウラ、すぐ近くに彩花君もいるのにそういった受け答えでいいのかなぁ?」
「――ッ!」
シャルロットが小悪魔的な笑みを浮かべて、小声でつけたしたその言葉にラウラは過敏に反応し、バッと隣を振り向く。
幸い、彩花には会話の内容は届いてなかったようでホッと肩をなでおろした。
「シャルロット……」
「あはは。ごめんごめん。でもラウラもちゃんと考えてね?」
「……善処する」
とりあえず前向きな姿勢にすることはできただろうか。シャルロットはその話を切り上げて、次の話題を出すことにした。
「とりあえず7階フロアへと向かうよ。その下、6階と5階もレディースだから、順に見てこ。…………彩花君は……まあ、多分大丈夫だね」
ちらりと彩花へと視線をやりつつ小声で囁く。ん? と彩花が不思議そうな視線を向けてきたがそれに答えを返すわけにもいかない、そんな気がした。
「うん? なぜ上から見るんだ? 下から見たらいいではないか」
「上から下りた方がいいの。ほら、お店の系統から見ても、そうでしょ?」
そう言われてシャルロットが開いた本を見るラウラだったが……
ちなみに彩花はうろうろとして、男性に話しかけられていた。
「まったくわからん」
「~~~っ。あのね、下の方の階はもう秋物になってるの。上の方の階もだいぶ入れ替えてると思うけど、今セールで夏物がまだ残ってるから、先にそっちを――」
「待て、秋の服はいらないぞ」
「え? いらないって……なんで?」
「今は夏だからだ」
なんでもないように言い放つラウラだったが、シャルロットは唖然としてしまった。
彩花の方は男性の方にナンパされていたが、彩花本人はそのことに気づかずあえなく玉砕。ある意味深い傷を負わなかっただけマシかもしれない。
「秋の服は秋になってから、買えばいい」
「いや、あの……あのね? 女の子は普通季節をさきどりして用意するんだよ」
「そうなのか。――ふむ、確かに、戦争になってから装備や兵を調達しても間に合わん。つまりそういうことか?」
「えっと……うん、それであってるよ」
「備えあれば憂いなしというやつだな」
「…………多分ラウラは無意識でこういう風になってるんだろうから、彩花君で注意を促してもあまり変わらないのかなぁ……」
単純に女の子としての感性の問題なのだが、ラウラは理屈でそう理解した。
シャルロットの方は少しだけ呆れつつも、間違っているというのも変なので、それでよしとすることにしたのだった。
そしてそこに男性を撃破した彩花がようやく戻ってきた。
「とにかく、順番に見て行こうよ。わからないことがあったら何でも聞いてね」
「そうだな。シャルロットが一緒なら心強い」
自分のことでもないのに胸を張るラウラ。
「あれ? もう行くとことか決まった?」
「うん。えっと、彩花君も行きたいところとかあった?」
「別にそういうわけじゃないよ~。一応聞いておきたかったんだ」
「そっか。とりあえず上からお店を回ることに決めたんだけど……」
「了解!」
びしっとシャルロットへと敬礼をする彩花。その様子がなんだかおかしくてシャルロットは笑いを漏らしそうになる。
そこへラウラが真面目な指摘を入れた。
「違うな、彩花。敬礼というのはもっとこう背筋を伸ばしてだな……」
「そうなの?」
シャルロットはこういった風景を楽しむのもいいと思ったのだが、ラウラの服を買うのも目的と入っているため、この会話を打ち切らせた。
3人はエレベーターに乗って一気に7階まで進む。冷房のよく効いた館内は、夏休みということもあって10代の女子男子であふれかえっていた。
「はぐれるとまずいね。手、繋いでいこっか」
「う、うむ。」
「うん」
さらりと言うシャルロットに対して、少し照れくさそうにラウラがうなずく。彩花の方はいつも通りの調子でうなずき、そっとラウラのもう片方の手へと指を絡める。
「う……?」
ラウラは自分の片方の手の先を二度見。そして自分の手が彩花のそれと絡まっていることを認識し、体が熱くなった。
(こ、これはこれで……ふたりに手をひかれている子供のようで照れくさいぞ……確かに私はこういったことに疎いのはわかっているのだが!!)
「じゃ、まずはここからね」
シャルロットが声をかけてきたので、ラウラは我に返る。
「『サード・サーフィス』……変わった名前だな」
「結構、人気のあるお店みたいだよ。ほら、女の子もいっぱいいるし」
そう言われてラウラが見た店内は、確かに女子高生・女子中学生が多くいた。
セール中ということもあって、店内は騒々しい。そのため、接客がおざなりになるのが当たり前だ。しかし――
「………………」
ぱさり、客に手渡すはずの紙袋が店長の手からすり抜けて落ちる。
「
店長の異変に気付いた店員もその視線を追う。
そしてそのまま、魅了されたようにつぶやいた。
「お人形さんみたい……」
「何かの撮影……?」
「……ユリ、お客さんお願い……」
店長は3人の方へと視線を向けたまま、ふらふらと歩み寄っていく。それはまるで魅了されたように、熱にあてられたように。
「ちょっと、え、あ、私は? ていうか、服……落ちたままだし……」
文句を言おうとした女性客もまた、シャルロットとラウラ……そして彩花の姿に見とれて言葉を失う。
まるで絵本の中から出てきたような美少女が3人、(うち1人は男だが)そのうえ全員が軽く指を絡ませるだけというかすかな、しかし強くも見える繋がり方が一層魅力を跳ね上げていた。
「どっ、どっ、どんな服をお探しで?」
うわずった声を上げる店長は見るからに緊張していて、サマースーツを着こなしている大人の女性とは思えない様子だった。
それがなんだかおかしくて、シャルロットは注目を浴びたことで店を出ようかと考えたことを思いなおす。
「えっと、とりあえずこの子に似合う服を探しているんですが、いいのありますか?」
「こ、こちらの銀髪の型ですね! 今すぐ見立てましょう! はい!」
言うなり、店長は展示品のマネキンからセールス対象外の服を脱がせる。
――ちなみに夏物であってもやがて売れるであろう商品は、こうして店頭に飾って客寄せに使う。もちろん、売るつもりではいるがそれはあくまで『とっておきのお客様』のためのものであって、初めて来店したお客のためにわざわざ脱がすということは普通ならない。
そう、普通なら。
「ど、どうでしょう? お客様の綺麗な銀髪に合わせて、白のサマーシャツは」
「へぇ、薄手でインナーが透けて見えるんですね。ラウラはどう?」
「わから……む――」
ラウラはわからないと言いかけてその言葉を止めた。わからないと言った場合ナシと言おうとしていたシャルロットはなんだか拍子抜けを食らった気分になってしまう。
とはいっても考えてもうまい言葉が出てこず、顔が赤くなってしまう。
ひどく子供っぽいその様子に、初見で銀髪の子の方が落ちついていると思っていた店長は驚いたようにパチパチとまばたきをした。そしてもう片方である、彩花の方を見る。
こちらは逆に最初の第一印象とは違い、酷く落ちついた雰囲気を漂わせている。遠目からは子供っぽい容姿で判断されたが、近くに寄ってみるとその瞳は深い色を宿し、見る者を惹き込む。そんな風に店長が惹き込まれそうになった瞬間、
「白か、悪くないが、今着ている色だぞ」
「あ、はい」
ラウラが喋ったので意識を引き戻され、なんとも女子力の低い回答に、思わず間の抜けた返事をしてしまう店長。
彩花の方は突然自らの瞳を見つめ始めていた店長に怪訝な顔を向けている。
「ラウラ、せっかくだから試着してみたら?」
「む…………」
「彩花君にお披露目してみたら?」
「う……ぁ……」
ラウラはシャルロットにそんなことを言われて思わず意識してしまう。自分が彩花にそんな格好を見せたらどうなのだろうか、それを見たら彩花はどんな反応を示すのだろうか。
期待と不安が半々に織り交ぜられ、ラウラは黙ってしまう。
そうこうしている間に店長とシャルロットはシャツに合うインナーとボトムスを選んでいった。
「ストレッチデニムのハーフパンツに、インナーは……」
「Vネックのコットンシャツなんてどうでしょうか?」
「あ、いいですね、それ。色は同系色か、はたまた対照色か……う~ん」
「ふぇ~」
ちなみに最後のセリフは彩花である。
彩花は初めて見る女性物のお店に目を奪われていた。といっても男性物の服を買いに来たことがあったのかといえば、それにはノーと答えるのだが。
孤児院では買い物についていくことはあったものの、荷物持ち要員で服は桜先生が選んでいた。なんでも彩花ちゃんに合う服は私が選ぶ! とかどうとか。もちろんそれは大体が女性物だった。
「さ、ラウラ。これに着替えてきて」
「わかった」
「試着室はこちらになります」
連れられるまま試着室に入って、そこでラウラは小さくため息を漏らした。
(やれやれ、なにがそんなに楽しいのだろうか)
そんな今の場とは不釣り合いな思考をしつつ、ラウラは制服を脱いでいく。
(……………………)
ふと、自分の体を改めて眺めた。下着だけを身に纏ったその姿は、しなやかでありながらも鍛えられた屈強さがある。
(自分ではわからないのだが、私は異性にとって魅力的に映っているのだろうか?)
特に彩花に自分のことがどう思われているか、その一点が気になって仕方がない。
(うぅむ……)
何かの雑誌で見たグラビアのポーズを待似てみる。
鏡に映ったその姿は非常に扇情的で、下着に包まれた曲線は異性であれば誰だって虜にされるであろう魅力に溢れていた。
「……馬鹿馬鹿しい」
自分の行動に恥ずかしくなったラウラは、そう言って着替えに戻る。
改めて服を見ると、それは『クール系』というタイプのファッションだった。
(どうせなら、可愛いのがよかったな。それならきっと彩花も――)
『ラウラ、その服可愛いね』
『む、そうか……』
『でもやっぱりそれはラウラ自身が可愛いからだろうね~』
『う、うぁ……』
………………。
自分がしている妄想でありながら、ラウラは真っ赤となって沈黙した。
「い、いや、その、なんだ……
可能性はゼロではない。
「どう、ラウラ。着替えた?」
ドアの向こうから声をかけてきたのは、おなじみシャルロットだった。
ラウラはとりあえず急いで制服を着直してから、ドアを開ける。
「あれ? どうして制服のまんま……?」
「シャルロット」
「う、うん。えと、もしかして気に入らなかった?」
「いや、そうではない。そうではないのだが……」
珍しく歯切れの悪いラウラに、シャルロットは?マークを浮かべる。
「も、もうすこし、可愛いのがいいな……」
照れくさそうに言うラウラがあまりにも女の子的で、シャルロットは一瞬ぽかんとしてしまう。
彩花の方を見れば、そちらも店員から声をかけられている。客に取るべき対応とは少し離れているだろう着せ替え人形のような対応を取られていて、時折悲鳴のようなものも聞こえる。彩花の悲鳴ではなくギャラリーの歓喜の悲鳴だが。
(わ、わぁ……なんだかあっちも凄いね……)
彩花もかわいいので、見に行きたい気持ちも出てくるのだが今はラウラである。
「可愛いのがいいんだね!? すぐ見繕うから待ってて!」
さっきまで興味なさげだったラウラの思わぬ発言をもう一度自分の中で反芻し、シャルロットは今まで以上に熱が入った言葉で問う。
「で、で、どんなのがいい? 色とか、形とか希望ある?」
「そ、そうだな。それなりに露出度があるものがいいな……」
「ん、わかった!」
シャルロットはすぐに店長のもとに戻ると、服の物色を始める。
「そっちの肩が出てるワンピースと、そっちのブレスレット。それから、えっと……」
まるで自分のことのように、シャルロットは楽しそうに服を選んでいく。
「露出度が高い服なら色は黒の方が落ち着いてていいよね。ラウラの髪にも合うし」
「あ、あまり派手なのは困るぞ」
シャルロットのあまりのテンションの上がり具合に多少の不安を覚えたラウラはくぎを刺す。しかし、返ってきたのは陽気な声だった。
「大丈夫だいじょーぶ! もう任せちゃってよ!」
「わ、わかった」
普段はおとなしいシャルロットに強引に来られると、ラウラとしては従うほかない。
(しかし、私よりは確実にセンスがいいだろうし、特に問題もないか)
それから20分後、着替え終わったラウラが試着室を出ると、店内の全員が息をのんだ。
「うわ、すっごいキレイ……」
「妖精みたい……」
彩花の方に集まっていた人たちも視線を向け、しばし見とれる。
さすがにラウラも恥ずかしくなり、照れくさそうな顔をする。
着ているのは黒のワンピース。部分部分にフリルのあしらいがあって、可愛いらしさを演出している
ややミニよりの裾がラウラの超俗的な雰囲気と合っていて、言葉通り妖精さながらの格好だった。
「く、靴まで用意したのか。驚いたぞ」
「せっかくだもん、ミュール履かないとね」
初めて履くヒールのある靴に、ラウラが姿勢を崩す。
全員が「あっ!」と思った次の瞬間には、シャルロットがその体を支えていた。
「す、すまないな」
「どういたしまして」
体勢を立て直したラウラの手を取り、お辞儀をするシャルロット。
そんなふたりはさながら貴公子とプリンセスといった様子で、まるで物語のワンシーンのようでさえあった。
「しゃ、写真撮っていいかしら!?」
「わ、私も!」
「握手して!」
「私も私も!」
わぁっと一気に囲まれるふたり。店内だけでなく騒ぎに集まってきた店外の人まで輪に入ってきて、あたりはしばし騒然となった。
「……む? そういえばラウラとシャルロットさんは?」
その後彩花と合流し、ここからさらに彩花のファッションショーが始まりギャラリーを沸かせることとなったのは……余談かもしれない。