そういった関連性であえて30話としてひとつながりにしてるんですね。
……はい、嘘です。
「ふう、疲れたな」
「まさか最初のお店であんなに時間を使うとは思わなかったね」
「ううぅ~」
今の言葉は順に、ラウラ、シャルロット、彩花である。
ちょうど時間は12時を過ぎたところで、3人はオープンテラスのカフェでランチをしていた。
そしてなぜ彩花がうめき声のようなものをあげたかというと……
「シャルロットさんってば酷いよぅ……ボクを着せ替え人形のように……」
「ご、ごめん。いや、でも彩花君だってね? もう少し自分の容姿を自覚してくれると……」
(彩花君を見てたらあれもこれもと着せたくなってきたんだもん……)
「?」
「いっ、いやなんでもないよ!」
彩花が顔を向けてきたので慌てて目を逸らすシャルロット。羞恥でほんのりと頬が染まっていたのに、誰も気づく様子はなかった。
「ゴホン! まぁその……なんだ。私の嫁は中々可愛かったぞ」
「それは男としては褒められているんだかそうでないのか、微妙な線だよね」
「む? 確かにそうかもしれんな」
顔を少し赤くしながら言ったラウラに、彩花が的確なツッコミを入れる。ちなみになんだかんだで彩花はラウラの着飾った姿をまだ見ていない。
「しかしまあ、いい買い物はできたな」
「そうだね~」
「……せっかくだからそのまま着てればよかったのに」
ぼそりと小声でラウラにだけ聞こえるようシャルロットが囁く。
「い、いや、その、なんだ。汚れては困る」
「へえ? ……あ、もしかして、彩花君と二人きりの時に着てお披露目したいとか?」
「なっ!? ち、違う! だ、だだ、断じて違うぞ!」
ラウラは顔を赤らめて取り乱す。そんな様子を見て彩花は少し不審げな顔を向けたが、結局は気にせずまた、ちう~とストローからジュースを飲むことに戻った。そしてシャルロットは的を射たことを確信しながらもあえて知らないフリをする。
「そっか。変なこと言ってごめんね」
「ま、ま、まったくだ」
どう見ても焦りが感じられる口調になるラウラだったが、敢えてそこを指摘するような輩はこの場にはいなかった。とはいえ――
「ラウラ」
「な、なんだ?」
「フォークとスプーンが逆」
「あ、ほんとだ」
「っ~~~~!!」
これぐらいのことは言うのだが。
シャルロットの指摘によって気がついたラウラは、それこそ耳まで真っ赤になって口に運んでいたスプーンを離した。
「ご、午後はどうする?」
「生活雑貨を見て回ろうよ。僕は腕時計見に行きたいなぁ。日本製の時計って、ちょっと憧れだったし」
「腕時計が欲しいのか?」
「うん、せっかくだからね。ラウラはそういうのってないの? 日本製の欲しいもの。彩花君は日本人だけどなにかある?」
ラウラは少し考え込むような素振りを見せ、彩花の方はそれよりも真剣に深く考え込んでいる様子を見せる。
「日本刀だな」
「……女の子的なものは?」
「ないな」
「はぁ……。彩花君は?」
「ん……えっと……。そうだね……。ないかも」
「……えっと、なにも?」
「うん。特にないかも」
これまたある意味ラウラよりも酷い答えにシャルロットは頭を悩ませる。何も欲しいものがないとなると、はたしてどこに行くのが正しいのか。
ふと、シャルロットが隣のテーブルの女性に気がつく。
「……どうすればいいのよ、まったく……」
年の頃は20代後半で、かっちりとしたスーツを着ている。
何か悩み事があるらしく、注文したであろうペペロンチーノは冷めきってしまっている。
「はぁ……」
深々と漏らすため息には、深淵の色が見て取れた。
「「ねえ、ラウラ」」
「お節介はほどほどにな」
ぴったりと声をあわせて言ったふたりにラウラが先回りする。
そんな反応にシャルロットはびっくりとし、すぐに嬉しそうな顔を見せ、彩花は返事の直後から穏やかな笑みを向けていた。
「僕のこと、ちゃんとわかってくれてるんだね」
「た、たまたまだ。……で、どうしたいんだ?」
「とりあえず話を聞いてみる……だよね? シャルロットさん」
「うん。とりあえずはそんなところかな」
そう言ってシャルロットは席を立つなり女性に声をかけた。
「あの、どうかされましたか?」
「え? ――!?」
3人を見るなり、ガタンッ! とイスを倒す勢いで女性が立ち上がる。そしてそのままシャルロットの手を握った。
「あ、あなたたち!」
「は、はい?」
「バイトしない!?」
「「え?」」
「うん?」
ラウラとシャルロットが息の合った疑問を返したのに対して、彩花が若干遅れ気味な疑問の声を返したのだった。
◆◆◆
「というわけでね、いきなりふたり辞めちゃったのよ。辞めたっていうか、駆け落ちしたんだけどね。はは……」
「はぁ」
「ふむ」
「うんうん」
「でも、今日は超重要な日なのよ! 本社から視察の人間も来るし、だからお願い! あなたたち3人に今日だけアルバイトをしてほしいの! 必要なのはふたりなんだけれど、みんなレベル高いし全員分の給料も出すから! ねっ!?」
女性のお店というのが、これまた特異な喫茶店だった。
女は使用人の格好、男は執事の格好で接客をするという――いわゆるメイド(&執事)喫茶である。
「それはいいんですが……」
着替え終わったシャルロットはやや控えめに訊く。
「なぜ僕は執事の格好なんでしょうか……?」
「だって、ほら! 似合うもの! そこいらの男なんかより、ずっとキレイで格好いいもの!」
「そうですか……」
褒められたというのに、あまり嬉しくなさそうにシャルロットはため息を漏らす。――そして、バタン と扉を開けてまた1人のメイドが出てきた。
「う~んと、これでいいのかな?」
「大丈夫! とても似合ってるわ!」
そう、彩花である。
自分のスカートをひらひらと舞わせつつ、自分の着方が合っているのか不安で思わずつぶやいた言葉に、店長が少し強めの語調で返す。
少し鼻息が荒くなっているのは多分気のせいではない。
(僕もメイド服がよかったなぁ……。そっちを着ているラウラ、すっごく可愛いし……おまけに男の子のはずの彩花君まで……)
少し、いや大いに残念な気持ちになりながら、シャルロットは自分の着ている執事服を見下ろす。
(う~、僕ってやっぱりこういう方向性なのかなぁ……)
やや落ち込み気味のシャルロットに気づいてか、自分もメイド服に着替えた女店長はがしっとその手を掴んだ。
「大丈夫、すっごく似合ってるから!」
「そ、そうですか。あはは……」
「む。そういえば
ラウラが今更ながらの指摘をする。確かに店長が彩花を男と見抜けている可能性は……
「え!? この子、男の子なの!?」
やはりわかっていなかったようだ。店長はそれをうけてじろじろと舐めまわすように、彩花の体へと視線をやった。そしてちょっと渋めの顔を作る。
「…………。あなた本当に男の子?」
「一応は」
「大丈夫! すっごく可愛いもの! 声も女の子っぽいもの!」
結局特に変わることはなかった。
(はぁ……。羨ましいなぁ。ラウラも彩花君もなんでこんなに可愛いんだろ……)
純情な乙女心を持て余しながら、シャルロットは改めてメイド服姿のラウラを眺めた。
細身でありながら強靭さを秘めた体躯に、飾りっ気の多いメイド服。それらを統一するようにしゅっと伸びた銀髪。そしてミステリアスな雰囲気を加速させる眼帯。
「じ~」
「……あ、あまりじろじろ見るな……」
「うにゅ? いやぁ、やっぱりラウラは凄いなぁって思って」
さらにそこに彩花が加わって、頬に朱が差した状態のラウラの可愛さといったらもう客が釘付けである。といってもまだ出ていないから客はいないが。
そして彩花の方はと言えば。
小柄な体に纏わせたメイド服。それを見事に着こなすことで出てくる健康的な魅力。そして彩花の常である、どこか眠そうな瞳が保護欲をくすぐる。さらに首元にかけられた
(う~! 彩花君め!)
なんとなくお門違いな怒りをほんの少しだけ抱いてしまったシャルロットだったが、ふと疑問に思ったことがあり、尋ねる。
「その十字架って……どこから?」
「ん? これ? これはね~……ボクのISの待機状態なんだ」
「あれ? そうなの?」
初耳だった。確かに今まで彩花のISの待機状態を確認したことはなかったが。
「うん。学園では紐を短くして袖の中に隠してるからね~」
「そうなんだ」
そんな会話をして、じっと眺めてしまったことによりふたりの魅力を再認識。
きっとラウラは男装をしても『カッコイイ女の子』として、彩花君は男だけど、男の服装をしたら『ちょっと男の子っぽくしてみた可愛い女の子』として人の目に映るんだろうなぁ、とシャルロットは思う。
対して自分は、男装をすれば『可愛い顔立ちの男の子』なのだから。そう考えるとまた自然とため息が漏れた。
「店長、早くお店手伝って~」
フロアリーダーがヘルプを求めて声をかける。すぐに店長は最後の身だしなみをしてバックヤードの出口へと向かった。
「あ、あのっ、もうひとつだけ」
「ん?」
「このお店、なんていう名前なんですか?」
店長は笑みを浮かべてスカートをつまみ上げ、大人びた容姿に似合わない可愛らしいお辞儀をした。
「お客様、
「デュノア君、4番テーブルに紅茶とコーヒーお願い」
「わかりました」
カウンターから飲み物を受け取って、@マークの刻まれたトレーへと乗せる。
そんな単純な動作にさえシャルロットの気品がにじみ出ていて、臨時の同僚にあたるスタッフたちは、ほうっとため息を漏らした。
初めてのアルバイトだというのに、その立ち居振る舞いには物おじした様子はなく堂々としていて、けれど嫌みではない。
そんなシャルロットの姿に、女性客のほとんどが見入っていた。
……………………
(ふう。接客業ってやってみると結構大変だよね。ラウラと彩花君は大丈夫かな?)
仕事をこなしつつ、シャルロットはラウラと彩花の姿を探す。
そして、ちょうどラウラが男性客3名のテーブルで注文を取っているところを見つけた。
「ねえ、君可愛いね。名前教えてよ」
「……………………」
「あのさ、お店何時に終わるの? 一緒に遊びに――」
ダンッ! とテーブルに垂直に置かれた(というか叩きつけられた)コップが大きな音と一緒に滴を散らかす。
「水だ。飲め」
「こ、個性的だね。もっと君のことよく知りたくなっ――」
セリフの途中で、しかもオーダーを取ることなくラウラはテーブルを離れる。
そしてカウンターに着くなり何かを告げ、少しして出されたドリンクを持っていった。
「飲め」
さっきよりは多少優しめにカップをテーブルに置くラウラ。それでも弾んだカップからは中のコーヒーが遠慮なくこぼれた。
「え、えっと、コーヒーを頼んだ覚えは……」
「なんだ。客でないのなら出ていけ」
「そ、そうじゃなくて他のメニューも見たいわけでさ……」
ラウラに好印象をもたれたいためか、それとも有無をいわせぬ態度に萎縮しているのか、男は言葉を探りながら会話を続ける。
「た、例えば、コーヒーにしてもモカとかキリマンジャロとか――」
「はっ。貴様ら凡夫に違いがわかるとでも?」
「いや、その……すみません……」
結局、ラウラの絶対零度の視線と許しのない嘲笑に折れて、男たちは小さくなりながらコーヒーをすすった。
「飲んだら出ていけ。邪魔だ」
「はい……」
ドイツの冷氷と呼ばれたラウラの一面は、今でも健在のようだった。
……ふと。本当に何気なく見れば彩花君がラウラを手招きしていた。その表情はにこやかでありつつも……笑っていない。表情ではわかりづらくても雰囲気ではっきりとわかる。
ラウラもそれがわかったようでシャルロットの方へとアイコンタクトをする。
(シャ、シャルロット! わ、私はどうすればいい!? なぜだか彩花(よめ)の後ろに鬼の幻が見えるのだが! 何か私は悪い事でもしたのか!?)
(…………ラウラ。僕も今の彩花君には逆らえない思いだよ。きっと鬼の幻は僕が見ているものと一緒だろうね。……ごめん。僕には手助けできないみたいだ)
(シャ、シャルロット――!!)
そんな意思疎通を数瞬の後に済ませ、ラウラはしぶしぶと彩花の方へよっていく。その足取りは重く、まるで上官へ怒られるために向かっているかのようだった。
「あのね、ラウラ? 接客っていうのは……」
彩花がラウラへと接客態度に対して叱責する。傍から見れば中々にシュールな光景なのだが、彩花が醸し出している雰囲気が有無を言わせない。
「う、うむ、いやしかしだな……」
「…………あの接客でいいとでも?」
「あ、いや、その……」
さきほどの客が逆にラウラになったかのようにしどろもどろになる。彩花に一言一言告げられるたびに少しずつ縮こまるラウラ。そんなラウラの様子を見ていると……
(うわっ!?)
「あ、あの子超いい……」
「可愛い……!」
という声が端々からあがる。その声の中にはさっきの客との一部始終で、罵られたいとか、差別されたいとか異様な興奮を見せているところもあり、そこは他の客はもちろんスタッフまでもが見て見ぬふりをしていた。
「緋桜宮さん、ヘルプ!」
「あ、はい! ……というわけでラウラ、あんな接客は駄目だよ?」
「う、うむ……肝に銘じておこう」
彩花がスタッフに呼ばれ、ようやく解放されるラウラ。そしてその視線に込められた思いをシャルロットは読み取る。
(な、な、なんなのだ……。あの威圧感は教官を思い出させたぞ……)
(うん……。ラウラ、彩花君は怒らせないようにしようね?)
(そうだな……)
そしてふたりはちらりと彩花が向かった先を見つめる。
どうやら彩花は人気のようで、あちらこちらへと動きまわっている。スカートをひらりとはためかせ、小柄な体躯でかいがいしく奉仕する。そんなところにやられた客も多かった。
「いらっしゃいませ! @クルーズへようこそ! ご注文は何に致しますか?」
彩花の接客はシャルロットのように気品にあふれているわけではないが、その動き回る様子が明るい印象を与え、胸元の十字架が感じさせるギャップがこれまた男性客の心を掴む。そして、彩花に接客されている男性はその笑顔にやられ、顔を赤くし口ごもりながら答える。
「え、えと……あっと……紅茶で」
「紅茶ですね。かしこまりました」
彩花は、さっと一礼をするとまた次のテーブルへと動いていく。どうやら注文を受けることを主にしているようで、品を持っていくのは指定されない限り他の人がやっているらしい。……と思ったのも束の間ですぐ指定されるようになったが。
そんなこんなで。
「あ、あのっ、追加の注文いいですか!? できればさっきの金髪の執事さんで!」
「コーヒー下さい! 銀髪のメイドさんで!」
「こっちにはあのちっちゃくて可愛い子を!」
そんな騒動は一気に店内全体に感染し、爆発的に喧騒を大きくしていく。
どう反応していいか困るシャルロットとラウラだったが、(彩花は相変わらず普通に働いている)店長が間に入ってうまくふたりを滞りなくテーブルに向かうように声をかけての調整をしていった。そこはさすが本業、店長の指示は的確で、いつの間にか通常時の7割増しくらいの客数を見事にさばいていく。
そんな混雑が二時間ほど続いてシャルロットとラウラにも精神的な疲れが見えたころ。ちなみに彩花は最初と変わらず元気に働いている。
(……彩花君はなんであんなに元気なんだろ)
(私の嫁は何か特別な訓練でも積んでいるのか?)
若干の呆れを含ませつつ、ふたりがそんな感情を抱いた時に事件は起きた。
「全員、動くんじゃねぇ!」
ドアを破らんばかりの勢いでなだれ込んできた男が3人、怒号を発する。
一瞬、何が起こったのか理解できなかった店内の全員だったが、次の瞬間に発せられた銃声で絹を裂くような悲鳴が上がった。
「きゃあああっ!?」
「騒ぐんじゃねぇ! 静かにしろ!」
男たちの格好といえばジャンパーにジーパン、そして顔には覆面、手には銃。背中のバッグからは何枚か紙幣が飛びだしていた。
見るからに強盗である。それもおそらくは銀行を襲撃した後の逃走犯。
「あー、犯人一味に告ぐ。君たちはすでに包囲されている。大人しく投降しなさい。繰り返す――」
「……なんか」
「……警察の対応も」
「……古……」
人質という立場にもかかわらず数名の客がそう呟いた。
「ど、どうしましょう兄貴! このままじゃ、俺たち全員――」
「うろたえるんじゃねえっ! 焦ることはねえ。こっちには人質がいるんだ。強引な真似はできねえさ」
リーダー格とおぼしき3人の中でもひときわ体格のいい男がそう告げると、逃げ腰だった他の二人も自信を取り戻す。
「へ、へへ、そうですよね。俺たちには高い金払って手に入れたコイツがあるし」
ジャキッ! と硬い金属音を響かせてショットガンのポンプアクションを行う。そして次の瞬間、威嚇射撃を天井に向けて行った。
「きゃああああっ!!」
蛍光灯が破裂し、パニックになった女性客が耳をつんざくような悲鳴を上げる。それを今度はリーダー格の男がハンドガンを撃って黙らせた。
「大人しくしてな! 俺たちの言うことを聞けば殺しはしねえよ。わかったか?」
女性は顔面蒼白になって何度もうなずくと、声が漏れないようにきつく口をつぐむ。
――その隣へと彩花が、すっと入りこんだ。小声で女性に何かを話しているような様子を見せると、女性は安心したような顔をした。
瞬間。沸き上がる怒りの念。きっと初心者であろうこの集団は気付かないだろうが、ラウラとシャルロットは敏感に彼らへと向けられたその念の源を察知した。
その視線の先には彩花が立っていて。
「おい、聞こえるか警官ども! 人質を安全に解放したかったら車を用意しと! もちろん、追跡車や発信器なんかつけるんじゃねえぞ!」
威勢よくそう言って、駄賃だとばかりに警官隊に向かって発砲する。
幸い、弾丸はパトカーのフロントガラスを割っただけだったが、周囲の野次馬ふぁパニックを起こすには十分だった。
「へへ、やつら大騒ぎしてますよ」
「平和な国ほど犯罪はしやすいって話、本当っスね!」
「まったくだ……って、おいおい、なんだか立ちあがっている奴がいるじゃねえか」
やっと彩花を目に捉えたリーダー格の男がおどけたようにつぶやく。実際はそんな風にしている余裕など一切ないはずなのだが、彩花の見た目で完全に油断していた。
ラウラも立っているのだが、彩花が結構近くまできているのでそちらには気付かなかった。
「あなたたちは、何を考えてるんでしょうか?」
「はぁ?」
「意味もない発砲でボクたちのお客を怖がらせて、へらへらと」
「何言ってんだこいつ……?」
「ちょっと退場願います」
言うなり彩花は姿勢を深くすると、びゅっと音が立ちそうなスピードを以て接近する。そして、そのままのスピードで腕を掴み、ねじり上げる。ゴキッと肩のあたりで嫌な音が聞こえてきて、男の腕がだらりと下がった。
(彩花君ってばどうしちゃったんだろうね)
シャルロットも続いてサポートに動き出す。ラウラの方はといえばすでに動き始めていて、サブマシンガンを持った男へと近づいている。
「が、があああ!!」
数瞬遅れて男の叫びが店内へと響く。その絶叫を聞き、呆然としていた残りの2人も我に返ったように動きだす。――が、それぞれにはラウラとシャルロットが近付いている。
シャルロットは思いきり男の手を蹴りあげ、そのままかかと落としを叩き込み、無力化する。
ラウラの方は掌底を喉へと食らわし、体をくの字に曲げたところへ膝蹴りを入れる。
「ぐはぁっ……」
あまりに痛みに悶絶する強盗犯たち。彩花の方はといえば男を投げ飛ばしていており、事態は収束に向かっているかに見えた。
「捕まってムショ暮らしになるくらいなら、いっそ全部を吹き飛ばしてやらあっ!」
投げ飛ばされたリーダーは、入りが甘かったのか立ち上がり、革ジャンを左右に広げる。
そこにあったのは、軽く40平方メートルは吹き飛ばせそうな、プラスチック爆弾の腹巻きだった。起爆装置は、もちろん手の中にある。
「…………」
彩花が絶対零度の視線を男に向ける。
「お、俺は本気だぜ!」
「あきらめが悪いな」
ラウラが右足を上げて振り下ろしテーブルを勢いよく傾け、宙へと浮かんだ拳銃を パシッと掴む。同じくシャルロットも仲間の一人が予備として持っていたのであろう拳銃が、トレイに乗っかっているのを見て、足のつま先で跳ね上げて掴む。そして――
ダダダダダンッ!
「「チェックメイト」」
高速5連射の弾丸は、的確に起爆装置と爆薬の信管、そして導線『だけ』を撃ち抜いていた。
「まだやる?」
「次はその腕を吹き飛ばす」
ジャキッ! と2丁の拳銃を突きつけられ、さっきまでの高圧もなく男は震える声で謝った。
「す、すみっ、すみませんっ! も、もうしまっ、しませんっ。い、、命ばかりはお助けを……」
そんな男に彩花が近付き、微笑を向ける。その顔は決して喜びといったような正の感情の笑顔ではなかったが。そしてその顔は雄弁に物を語っていた。
「みんなに謝ってくださいね?」
「は、はいっ!すっ、すいませんでした!」
「う? あれ~ぇ~~~」
男の謝罪を最後まで聞くことなく、彩花はラウラとシャルロットに手を引っ張られその場から去っていった。