「…………どうしてこんなことになった」
「えーい! 本音さん食らえー」
「わぁ~。やったなさーやちゃん! 私のも当たっちゃえ~」
「ふふーん当たらないもんねー」
「むうー」
「あはは、2人とも元気だなぁ」
今現在、部屋の中には彩花と本音、シャルロットとラウラが部屋にいた。ちなみに服装は全員動物にちなんだパジャマで、シャルロットとラウラは白猫と黒猫。彩花はトラ、本音はライオンさんといった形で猫科の動物で統一されている。
――ちなみに本音のライオンもデフォルメされた可愛らしいもので、リアルっぽさなどカケラもない。
「とりゃー」
「む、同時3個投げかぁ。これは……弾く!」
「ふっふっふ~。弾いても当たったのは当たっただもんねー」
「本音さん、あれは避けれませんって……」
そんな会話を交わしている3人の方へちらりと視線をやるラウラ。自身も黒猫パジャマなので威圧感はなく、そろいもそろって何をしているのだろうか、と思っていた。
ラウラの視線を受けた彩花と本音は、瞳に悪戯っ子の光を灯し、きらりと輝かせる。
「ラウラも混ざろうよー」
「そーだよ、ラウラちゃんもー」
そういうやいなや、たちまちラウラの方へと枕が飛んでくる。――そう。さっきからふたりがしていたのは枕投げだった。
投げられた枕を素早く足を左に移動させることでやりすごす。
「わ、私を巻き込むな!」
「いいじゃないかラウラ~」
「おぉ~。さーやちゃんそれは、へへへお代官さまこそ……ってやつだね?」
「さすがは本音さんだー」
そんな会話を交わしつつも、的確にラウラの回避先を先読みして枕を投げる彩花。類稀なる洞察力の無駄遣いも甚だしい。
ラウラも軍隊で鍛えられた能力をいかんなく発揮し、次々と枕という名の爆弾を回避する。
「さすがはラウラといったところだね……。でも!」
「私たちの連携の前にしずんじゃえ~!」
「だ、だから……」
彩花と本音はそういうと、本音がまず枕を投げた。
単純な軌道を描くそれを、何を思うでもなく着弾点から外れるラウラ。
(さて、
――刹那。不意に視界の端に枕が映る。原初的な本能に従い、その場から飛び退るラウラ。枕は空中で蹴られ、軌道が変わり自分のところに来たのだ。そう理解したわけは、続けて彩花が着地して、ラウラに向かいタイミング的に不可避の枕を投げたからだ。
ぼすっ
なんともいえない音を立てて床に落ちる枕。
「やった~」
「わ~い」
それを成し遂げたふたりは、パチンと音が聞こえてきそうなほどのノリでお互いの手を打つ。実際に音がならないのはふたりの手が肉球ハンドという構造的にだろう。
――そして、ふと変な空気を感じそちらをむくと
「ふ、ふふふ……」
「あ、あれ? ラウラ?」
「いいだろう! ならば私も全力をもって相手しようではないか!」
ラウラは、がしっと眼帯を掴むとそれを外す。その下からは金色に輝く瞳が現れた。……決してこんな状況で使うべきものではないはずだが。
「…………はぁ」
シャルロットはため息をついた。気付けばラウラもノリノリで枕投げに興じている。それ自体を見るのは大変好ましい光景であるのだが、いかんせんお互いの能力を発揮するところがおかしい気がする。
「はははは! あたらない! あたらないぞ!」
「なにおー! 本音さん、パス!」
「あいあい~。ていっ」
「何!? そちらからの連携だと!? だが解放した私の前では――」
「…………はぁ」
シャルロットはもう一度深いため息をついた。そしてどこから出したのかもわからない枕の山を見る。人数分だけだったら最高でも4つのはずだが、どう少なく見てもそこには10を超える量の枕があった。
「一体どこから持ってきたんだろ……」
シャルロットのそんな疑問を込めたつぶやきは、けれど誰にも届くこともなくかき消えていった。
ぼすっ
「「「あ」」」
今度はシャルロットに流れ弾ならぬ流れ枕がヒットした。さすがにあれだけの戦いをしていればいつかはなるだろうことではあったが。
するすると枕が床に落ち、ぱさりと音を立てる。
「「…………!!」」
「や~った~な~ぁ~!!」
枕の戦いに白猫も参戦したのだった。
…………気付けば部屋の中は若干荒れて、枕だらけになっていた。
「あー。これはなんとかしないとね」
「ボクが始めたことだし責任とるよ」
「おー。さーやちゃんかっくいー!」
彩花は次々と枕を回収し、積み上げる。てきぱきとその行動を済ませ、ある程度枕を積んだ山をさっさとどこかに運んで行った。
「……速い」
ラウラが放ったその言葉も無理はない。部屋を出てから戻ってくるまでが異様に速いのだ。置き場所はそれほど近いところにあるのだろうか?
「「「……まあ気にすることでもないかな」」」
3人の共通認識として、そうつぶやく。もうすぐ枕の片づけも終わりそうだ。
「……そういえばのほほんさ……おっと、本音さんはどうしてここに?」
「本音でいいよー。えーっと、私はねー」
「ボクが呼んだんだよ!」
「うわっ!?」
いつの間にやら片付けも終わったらしい彩花が、脅かすようにシャルロットの後ろから多少大きな声を上げる。
そのことに関する非難の視線を浴びせたものの、彩花がちろりと舌を出してごめんと謝ったので、すぐ治まった。
「で、呼んだって……どうして?」
「それはもちろん遊ぶためだよ!」
「うんうん」
彩花がびしっと宣言して、続いて本音も頷く。どうやらこのふたりは以心伝心でもしているかのようで仕草が非常に似通っている。
ラウラはラウラで、気付けば軽い嫉妬の色を含んだ視線を向けていたものの、本人自体それに気づいている様子はないので、シャルロットも黙っていた。
「というわけで……みんなお菓子でもどう?」
「あれ? 彩花君の手作り?」
「そそ。いつも通りです」
「ほぇ~。さーやちゃんお菓子作りできるんだ~」
「ああ、それに嫁の作る菓子は絶品だぞ」
本音の疑問にどこか誇らしげにラウラが答える。少し自慢気に胸を張っていて、なんともわかりやすい。
ふと見れば本音のパジャマについている尻尾が、興味深げに振られている。
(こ……これは……!?)
シャルロットは驚き、次いで衝動に駆られる。いや、まてよ、でもでも……と葛藤に駆られたのも数瞬のことで、シャルロットはすぐに本音を抱きしめていた。
「ふぇ?」
「あぁーもう! ラウラも可愛いけど本音さんも可愛いなぁ」
「えへへ。ありがと~」
それを言っているシャルロット自身も相当可愛い部類のはずだが、本人にはそんなことがわかるわけもない。
「むー。シャルロットさんが本音さんを抱くなら、ボクはラウラを抱こうかな」
「だ、抱く!? わ、私を抱く……だと……!?」
彩花が何気なく漏らした言葉にラウラは敏感に反応し、顔を真っ赤に染め上げる。その色は羞恥が主だったが……少しだけ期待も混じっていたように見えたのは気のせいではないだろう。
ぎゅっと抱かれつつ、膝の上に乗せられたラウラはなおも顔を真っ赤に染めたままだ。ときおりぶつぶつと声が漏れ聞こえるが、断片的でその内容を測ることはできない。
「ああ~。抱き心地いいな~」
彩花は幸せそうな顔を作る。シャルロットも同じく幸せそうな笑みを作っていて、ふたりの視線が交錯する。
(……やっちゃう?)
(……やろうか)
ふたりはアイコンタクトで言葉を交わす。その内容は短いものではあったがお互いが理解するのには十分だった。
パシャリ! パシャリ!
と少しの間を空けて2つの音が響き、光が瞬いた。お互いににんまりとした笑みを向けて、お互いが取ったデータを送信する。いつもなら記録はかたくなに拒否するラウラも、まだ妄想に入っているようで、今回は止めなかった。
「ふふふ~。いいものが取れたよー」
「僕もいいものを取らせてもらったよ」
シャルロットと彩花が通じ合ったような顔を向けて、両方とも頷く。本音は話についていけていないようで、きょとんとした顔を向けていたが、
「そのデータ私にもちょうだい~」
「もちろん」
との会話をして、データを共有した。……残念ながらラウラには秘匿情報だ。ばれたら消されるから。
ラウラもやっと現実に戻れたようで、赤さの抜けきらない顔を左右に振ると、気を取り直して言った。
「それで? 今日は共に寝るのか?」
「ぶっ!」
シャルロットは思わずふいてしまう。唐突にそんなことを言われれば、だれでも同じような反応をするとは思うが。
「い、いやさすがにそれは……」
「わたしたちは夫婦だろう?」
「あ~、そういえば私たちも夫婦さんだったねさーやちゃん!」
「む? 本妻は私だぞ?」
「それはさーやちゃんが決めることだよ~」
ふたりの間でパチパチと火花が散っている。本人は全く会話についていけておらず、というか付いていく気も捨てて、シャルロットと談笑している。
「じゃあ、さーやちゃん4人みんなで寝よう!」
「それはいいな。さあ来い」
「あ、あれっ!? 僕も!? じゃ、じゃあ……彩花君どうぞ」
「…………さすがに遠慮させてください」
彩花が情けなくそう言うと、ふたりは不満そうな顔を見せ、シャルロットはドキドキした顔をあさっての方向に向けた。
(わ、わぁ~。もう少しで彩花君と一緒に寝るところだったんだなぁ……。男の人と一緒に……うぁぁ!)
「「「……?」」」
突然じたばたとし始めたシャルロットに、疑いの目を向ける3人だったが、答えは出そうにないので話の続きの戻ることにした。……彩花にとっては戻りたくないのだが。
「さぁ、入ってもいいんだぞ?」
「そうだよさーやちゃん。ほらほら私とラウラちゃんの間に」
「……ボクもさすがに男だからそれは無理だよ!」
「「えー」」
結局彩花が逃げ出し、お開きとなった。