「つまり……この人は第2のIS起動者というわけね」
「ほえ~。確かにどこかで見たことあるような気がするわけだよ」
「そうね。……でもどうしてこんな容姿を持っているのに注目しなかったのかしら」
最後のひとりがまるで、不覚! とでも言うかのようにぐっと拳を握りしめているのが見える。いや、そこまでじゃないと思うけど……。
「そういえば彩花さん、その服装は……?」
「そうそう! そんな格好してるから私たちも男の人……男の娘だってわからなかったんだよ!」
うん? なんだか男の子の発言に違和感が……なんだろ。同じことを言われているはずなのにどこか違うような……。例えるなら以前の漢みたいな文字の違いのような……。
そしてボクの格好について。ボクが着ているのはどうやら……
「どうして女物の浴衣を着ているんですか……」
ということらしい。いや、ちょっと反論させてもらいたい。
「いや、そのだよ蘭ちゃん? 2日前くらいに蘭ちゃんが祭りのこと教えてくれたでしょ?」
「は、はい……それがどうかしましたか?」
「ボクは祭りに合った服を持っていないなーって思ったから、桜先生……まぁボクの育ての親みたいなものかな。とにかく、その人に頼んだらこれが来たんだけど……」
そう言ってひらりとボクは回転する。それに合わせて花柄が入った浴衣も回り、目の前の5人がほぅ……と息を漏らす。その色を形容するなら……感嘆。
「下駄も送ってくるなんて本格的だね……」
「そう?」
疑問の声を返しつつ、自らの履物を見る。それは下駄で、それにも花柄がプリントされているのが伺える。浴衣にプリントされている花をお淑やかとするなら、こちらは活発……ってところだろうか。それがカラコロと音をたてる。
「私たちは草履だもんねー」
そういうと蘭ちゃん以外の4人は足を軽く上げて、見せつけるようにしてくる。確かに履いてるのは下駄じゃなくて草履だけど、別に下駄を履かなきゃいけないってわけでもないんだしいいんじゃないかな? むしろ女の子としては草履の方がそれっぽい気もするし。
「ちょっとあんたたち! 裾が上がってる、上がってるってば!」
「お? ほんとだ」
そういって慌てて足を下げる。言われてようやくボクも気付いたけど、結構さっきの格好はきわどい状況になっていたっぽい。んー。表現するとしたら、どこかで聞いた絶対領域がもう少しで見えそうな状態……って感じ? 見えちゃいけない気がするけどね。というかそれを指摘できなかった自分が恥ずかしい。
「す、すいません彩花さん! 迷惑をおかけして!」
「会長は低姿勢だなぁ。私たちと同年代なんだからもっとフランクにいこーぜー」
「そうだよ蘭ちゃん。ついでに敬語もやめてくれるとうれしい」
「それは無理です! それにあなたたち、早速忘れてそうだけど彩花さんは男の人なんですからね!」
「あ」
どうやら蘭ちゃんの指摘通り、早くも忘れていたらしい。
「仕方ないじゃん……ねぇ?」
「「「だよねー」」」
「……そうなの?」
やっぱり自分ではわからないから、蘭ちゃんに顔を向ける。
「へっ!? あ、あの……その……た、確かに彩花さんの顔を見ていると忘れてしまいそうですけど……」
「やっぱり会長もそうなんじゃんー」
「う、うるさい!」
やいのやいのとみんなで会話を交わす。それは楽しそうで、ボクもその輪に違和感なく混ざれているのか、もしくは混ざっていいのか不安になって。
「……どうしてボクはこんなこと考えているんだろ」
「? どうかしましたか?」
少しの間黙って俯いてたボクを心配したのか蘭ちゃんが声をかけてくる。それにボクは大丈夫と返答すると、またみんなで歩きだした。
「それにしても彩花……ん? さすがに呼びつけはなんかしっくりこないなー」
「それはあるわね。でもどんな呼び方をしたらいいのかしら」
「花ちゃんとかどう!?」
「そ、それはちょっと……」
「さすがにそれはセンスを疑う……」
ボクもさすがにそれは遠慮したいような……。それだとどちらかといえば、花子さんとかそういった名前の人に似合うと思う。
「うーんうーん」
「む……そうだ!
「あー、クラスのみんなにもそう呼ばれてるねー」
「おっけー!」
とりあえずみんなからの呼び方も彩に決定。なんだろ。本当に彩っていう名前が浮かびやすいのかな。彩花……彩……あや……うん、浮かびやすい気がする。
「ところで彩ちゃん、髪の毛は……留めてるんだよね」
「え、あ、うん。そうだね」
さすがにボクの髪の毛も伸びてきたので、括って留めてある。下ろすのはさすがに邪魔だし。
「そろそろ切ろうかなーって」
「「「「それはダメだよ」」」」
「え?」
「髪切るなんてダメだね! ダメ!」
「そうそう。そんなにキレイで長い髪持ってるのに切るなんて勿体ない!」
「いや、だって邪魔だし……」
「うわー! 恵まれてる人はこれだから!」
「まったくだね!」
「えぇ……?」
恵まれてるって言われてもなぁ……ボクが欲しくてこの髪を手に入れたわけでもな
「そんな思考を持つこと自体がずるいよ!」
「ボクの心を読んだ!?」
なんだかボクが心で思ってたことを読まれたらしい。
「いや、心読んだんじゃなくて顔に出てた」
「あ、そうなの」
これも随分言われた気がするセリフだ。そんなにボクの思ったことは顔に出てたかなぁ……
「ところでその髪下ろしてみてくれない?」
「い、嫌だよ!」
「似合うと思うんだけどなー」
「に、似合わないってば!」
ボクに髪を下ろすように4人で強要してくる。助けを求めて蘭ちゃんを見るけれど、蘭ちゃんは何か考え事をしているようで、ボクを見つめたまま動かない。
(彩花さんが髪を下ろしたら……もしかして私よりかわいくて自信失っちゃうかも……でも見てみたいし……)
「ふふふ、よいではないかよいではないか」
「あーれーっとはいかないってば!」
「ちぇー」
あ、あぶないあぶない。あやうくこのノリに乗っかってしまうところだった。ボクがドラマを好きなところを突いてくるとは! あ、でも初対面だしそんなこと知らないはずだよね。
そんな考え事をしつつも迫る4人を避けていく。なんだかお互い無駄に必死になってる気がする。だけどボクだってさすがにIS専用機持ちだから、色々訓練を施されているし、一般人にはそうそう捕まらない。
「あれ? 蘭じゃん」
「いっ、一夏さん!?」
「「「「「ん?」」」」」
突然の蘭ちゃんの対応にボクたちがぴたりと止まる。といっても迫ろうとしていた4人は止まりきれなかったみたいで、ボクの方へと突っ込んできたので慌てて全員を支えようとして、ボクも転びかける。
「あ、ありがとー」
「ど、どういたしまして……は、いいから早めに自分で体勢を整えてくれると嬉しい」
さすがに4人はきついです。
「あっと、ごめん」
「いえいえ」
さてさて、ボクたちは一夏くんと蘭ちゃんの方を観察。なんだか蘭ちゃんは舞いあがってるように見える。気のせいかな?
そんな思いで同意を求めるように周りを見れば、どうやら周りも驚いているような雰囲気を見せている。
「会長が照れてるー。めずらしー」
「そっかぁ。他校の男子はもちろん同校の女子になびかない理由はこれかぁ」
「会長、ふぁいとっ」
「彩ちゃんの時は照れてるというより慌ててるって感じだったからねぇ……」
あぁ、あれって照れてるのかぁ~。うーん、良く分からないなぁ。それより同校の女子ってどういうことだろ。
「あ、あっ、あなたたちねぇっ!」
「きゃー、会長が怒った~」
「逆鱗触れた~」
「こわ~い」
「ん……こ、こわーい?」
なんだかみんながノっているので、ついでにボクも乗っかってみる。多少疑問形になってしまったのは許して欲しい。
「学校の友達?」
「え、えっと、その、生徒会のメンバーで……」
蘭ちゃんは顔を朱に染めて、言葉を詰まらせている。そんな様子が可愛らしいけど、今ここで言う必要はないし、無粋ってものだろう。
4人+ボクでそんな光景をにやにやとした笑みを浮かべて、眺めつつ言葉を続ける。
「今日は、秋の学園祭のアイディア探しに来たんでーす」
「祭りを学ぶには祭りにいかないと! ってことで」
「でも、もうそろそろ帰ろうかなーって思ってましたー」
「え? 何を勝手に決め――」
「そうなの?」
ボクが二種類の意味で疑問をぶつける。ひとつはアイディア探しのために祭りにきたのかということと、もうひとつは帰る予定だったということだ。一切そんな話は出てなかったはずだけど。
(ごめん、彩ちゃんちょっと付き合って!)
(……? うん、よくわかんないけどわかった)
目線に込められた力強さで言いたいことを察する。もともと観察するのは得意だし、そう難しいことでもない。
「じゃー、会長」
「私たちは帰りますんでー」
「また学校でお会いしましょう」
「アデュー!」
「じゃ、じゃあねー」
「えっ、あっ、こら、待ちなさっ――」
そんな蘭ちゃんの声を残してボクたちは走りさっていく。浴衣とは思えないような速さだ。ちなみにボクは半ば引っ張られるようになってるけど。にこにことした笑みを浮かべて軽く手を振りながら。
「……あれ? あそこに彩花もいたか?」
「あっ、は、はい! 彩花さんとも一緒に回ってました!」
「へー、なら彩花も俺たちに混ざれば良かったのにな」
「そ、そうですよねっ!」
(ああーー!彩花さんに申し訳ないことしちゃったなぁ……学校であったら怒っておかなきゃ! ……でも一夏さんと一緒にしてくれたのは嬉しいような、複雑な気分……)
「ここまでくれば大丈夫だね」
「ごめんね彩ちゃん、付き合わせちゃってさ」
「いいよいいよ~」
謝罪をしてきたのを、軽い感じで流す。そんなに引きずることでもないと思ってるし、こういうのは速く話題を流してしまうに限る。
「……さて、私たちはこの後会長をこっそり
「い、いや、それはちょっと……」
さすがに黙って後を追うのは、まずいような気が……かといってこの人たちを止めるのはすでに不可能に見えるほどに、場の空気が出来上がってるんだけど……
「ボ、ボクはのんびりしてるからさ、いってきていいよ」
「そう? じゃあいつか埋め合わせをするよ!」
ごめんね蘭ちゃん、ボクはこの人たちを止められないよ。
「はぁ……涼しいなぁ」
ボクは喧騒から少しだけ遠ざかって、涼んでいた。
夜とはいえ少しばかり暑いし、人ごみの中といえばなおさらなので、そこから遠ざかって風を浴びるのはとても気持ちが良かった。
辺りに虫の鳴き声だけが木霊して、幻想的な気持ちになる。それとともにひとつの孤独感。自分以外に何も存在していないかのような……
「緋桜宮彩花……か。良く考えたものだよね」
静かな場所に混じる
「……誰?」
一応問うが、胸騒ぎがする。ボクはこの人を知っている? けどどこで。
「……表……か。私の相手をするには不足かな」
「何を言って……?」
――瞬間。殺気を感じて、ボクの頭に痛みが走った。
次話が心配です。展開意味不明に入りそうで。