「ぁ……ぐ……」
視界に迫った物体を視認して、咄嗟にその逆方向へと跳ぶことで衝撃を軽減したものの、その大きさは計り知れない。事実ボクの体は吹き飛ばされ宙に舞っている。ぼんやりとした意識の中、この状況を打開するために急速な演算を開始。着地点を予測、後に到達時間、着地方法の考案。
普通に手をついたんじゃ、骨が折れてしまい使い物にならなくなる。地面への到達時間は2.2秒ほど。
それを判断すると、ボクは片手を地面へと突き出す。さっきも言ったけれど、このままでは手が折れる。だから瞬時に腕の関節をまげつつ、手を下げることによって生じた重心の移動で、浮いている足を下方向へともっていく。もちろん手がこすれて擦り傷はできあがるが、最大限の軽減はできたはずだ。
「ふうん……私の予想ではもっとひどい状態になるはずだったのに……」
「……く……ぅ……」
ISを纏い、こちらへと攻撃を仕掛けてきた少女は言う。
着地時の衝撃はもはや無といっていいぐらいまで軽減できたけど、殴られたダメージの軽減はできていても軽減できるレベルが違いすぎる。痛む頭を抑えてボクは呻きながらも、
「へぇ……私が壊したいと思う君は……随分と強いんだね」
「……?」
思わず疑問符を頭の中で浮かべるけど、その時にすら頭に鋭い痛みが走る。痛みの原因は殴られたことだけではないような気もしている。
その時、ボクはようやく相手の姿をしっかりと認識できた。小柄な姿にボクとよく似た――酷似しすぎている雰囲気。
「ボク……?」
「……気付いたかな。私は君自身ともいえるけど、まぁ君じゃないともいえる」
ボクとその相手には違いがあった。ひとつは瞳の色。相手の瞳の色は朱色に対してボクの瞳の色は黄色だ。そして、ボクは女の子に似た容姿を持つ男だけど、相手は完全に女の子。多少判別はしづらいものの、あれが男だという印象はどうしてか、全く思わない。
そんなことを考えているうちに目の前に剣が迫っている。
「くっ!」
ボクはそれを盾で防御したものの、その斬撃はたやすくそれを壊してそのままの勢いでボクのISのアーマーを少し削った。
さらには剣舞のように斬線が吹き荒れる。薄い場所を探して目を凝らして見つけるものの……
(防御もまともにできない攻撃への対処なんてどうすれば……)
――刹那。頭に走る痛みが強さを増す。それは日頃ボクにかかっている頭のもやからきているようで。
「ぐ…………」
「……ちぇ……君を壊そうと思ってたのに交代か」
そんな意味のわからない言葉を皮切りにボクの意識は途絶えた。
ブォン!と唸りを上げて振られる斬線の全てを回避して彼は問う。
「
「どうって……そのままの意味だけど?」
今、彩花は己と良く似た乱入者を見つめている。だが、纏う雰囲気は先ほどとは完全に別物だ。さっきの彩花が纏っている空気をゆるりとしたものだとすれば、今の彩花が纏う雰囲気は暗さ。負の感情をつめこんだような……
「にしても、緋桜宮彩花は性別が反転するんだねー。ま、私たちの出生を考えればそうおかしなことでもないけどね」
「? ……悪いけど、今は
少しだけ苛立つような様子を見せながら彩花は言う。
「まさか君はあのことを覚えていない? 私たちがどうして生まれたのかも? それに……
「あそこのことなら私は覚えている。ただ、私がどうして生まれたかは知らないけどね。……キミの相手をするぐらいは私なら別に問題はないと思うけど」
そういうと彩花の瞳は深紅に輝く。さきほどまで黄色だった瞳は打って変わって、血の色よりなお暗い緋色へと変わっていた。髪留めを今ははずして、膝元まで届きそうな長い髪を風に弄ばさせている。
「自惚れ屋が……!」
途端乱入者は激昂し、彩花へと打ちかかる。いくら人気がないといっても、あまりに音がうるさければ、騒々しい祭りの音さえも貫き、周囲に届くだろう。それは彼女にとっては好ましくないものであったが、今はそれを気にしている様子はなかった。
「怒れば攻撃が単調になることぐらいキミもわかっているだろうに」
対して彩花はすずしい顔でその攻撃を避けていく。大袈裟な動きなど何一つない動き。一切の無駄を省き、余計な距離を離れようとはしない。
斬撃全てを紙一重で避けつつ、自らの刃を相手へと突き立てんとする。反撃のことごとくはISの速度によってカバーされていたが。
「はっ……はっ……」
乱入者は荒い息をつきながら距離をとった。その顔には先ほどの自信に満ち、悪戯っぽい笑みなどカケラもなく、焦燥と怒りが浮かんでいる。
その瞳にはありありと怒りの色が浮かんでいるのが見てとれるし、朱の瞳が輝いていっているような気さえする。――いや。気のせいではなく燃えるようにその瞳は輝き始めていた。それとともに底冷えするような空気があたりを満たし、顔に浮かぶ焦燥と怒りの色は消えていく。
「どうも君は忘れているみたいだね。ならばいずれ私が語ろう。私たちの出生とそれで生じた影響を……。事実を知った時君がどんな風になるのか楽しみだ」
「――ッ!」
最後の挨拶とばかりに冷静さをとりもどした乱入者は、彩花へと攻撃を加える。段違いの速さで彩花へと近付くと、その装甲を貫き壊す。彩花の回避先を完全に予測した一撃。
剣の軌道を読んで回避しようとした彩花だったが、直前までその変化の軌道は一切確認できず、あてずっぽうで避けるしかなかった。変化が直前であることもあり、シールドを使う必要もないところしか削られなかったわけではあるが、これが続けられればジリ貧であっただろう。
「はぁ……ボクの精神を守るために私が存在していたわけだけど……このままじゃいつかボクが殺されちゃうかな」
そんなことをつぶやきながら、ISを解除して彼は寮へと歩き出した。
「あれ? さーやちゃん?」
寮に入って自分の部屋に戻ろうとした時に彩花は本音と出会った。今現在の彩花は裏の方であるため人には会いたくなかったのだが……
「……本音さんか。こんばんは」
相手が相手であったためまさか無視するわけにもいかなかった。
「う、うん……こんばんは? なんかさーやちゃん雰囲気違うような……」
その言葉を聞いて彩花は警戒心を高める。私のことをボク自身は知らない。なぜなら私はあの場所を逃げる時、その記憶を押しこめるために作られた存在なのだから。他人においそれと私の存在をばらされてしまうわけにはいかない。
「そんなことないと思いますけど?」
「いや、絶対なんか違う~。でも、何が……? うー。服装……は確かにいつもと違うけどそれじゃないような気もするし~」
まずい。心の中で彩花はそう思い始めた。どういうわけかこの人はそういった変化への洞察力が高い。今は少し顔を逸らしているからわからないかもしれないが、私の瞳を見られれば違いは浮き彫りになってしまう。
「あ、そっか! 髪の毛か~」
とか考えていた中出てきた答えに思わず彩花はこけそうになった。
「さーやちゃん髪下ろしたんだね~。うーんかわいい!」
「その……ボクは寝ますので」
彩花は急いで話題を切りあげる。今回は髪の毛という隠れ蓑があったから助かったが、このままいたら確実にばれる。そんな予感がしていた。
「あ、うん~じゃあね~」
ひらひらと手を振って本音は彩花を見送った。その胸に疑問を浮かべながらも。
「んー。やっぱりなんか違う気がする……」
「うぅ……私にこういったものは辛い……」
彩花は知識として知っている自らの部屋でぼそりとつぶやく。そのつぶやきは誰に向けたものでもないが、それはどことなくもうひとりの自分を非難しているように見えた。
「大体私は負を任されている身なのにね。日常会話は無理だってば。戦闘の時の挑発ならともかく」
彩花はさらに非難するような言葉を連ねると、腕を組んで考え込み始めた。
「きっと……私が眠りについたら次に起きるのはボクなんだろうな。その前にやれることをやっておきたい……」
そう言うと彩花は自分のISのステータス画面を開き、いじり始めた……
意味不明に向かって全力疾走。
前書きでも触れましたが重要なことなので2度(略