人ってどこまでいけば死ぬんでしょうね。そこらへんが大分甘いかもです。
夢を見た。
それはとても現実的で。
白い場所に私は囚われていた。そこは嫌な場所。とても嫌な……私が生まれた場所であり、ボクが変わった場所。
油断をついて私は逃亡を図った。
邪魔する人々を自分が容赦なく殺していく。喉笛を突く。投げて背骨を叩きつけることでそこを折り、それにより血流を止める。勢いのままに押し倒し、後頭部をうちつけて脳内に血腫をつくらせることで脳の活動を停止させる。徹底的に人体の急所をついて行動不能にしていく。
自分の精神はただ一点。逃げるということに集中している。それに邪魔なものをどかす。
私と同じ存在がひとりいると聞いたが、それを助けている暇などない。
今は私がここから逃げ出す。それが精一杯。
……思い出させないようにしよう。こんなことなど。私に全てを押しこめて――
「…………?」
ボクは跳ね起きた。
じっとりと嫌な汗をかいているのが自覚できる。
「……ここは……」
辺りをざっと見回す。別にボクが記憶喪失で自分の部屋も覚えていない、というわけではない。いや、一種の記憶喪失ではあるんだけれど。昨日の祭りで蘭ちゃんの友達の生徒会4人組とも別れて、涼んでいたあたりからの記憶がない。ボクは誰かに会ったような……
「……ぐ?」
それを思い出そうとすると頭が少し痛んだ。側頭部に疼くような痛み。この痛みから推定するに、衝撃はある程度殺された状態でボクはなんらかのダメージを受けたらしい。……もしかしてボクの記憶がないのもそれが原因か?
その可能性に頭を巡らせる。頭への衝撃で意識がもうろうとしていたとすれば、ボクはどうやってここに戻ってきた? ……この可能性は現実的ではない。
ならばボクの記憶がないのはなぜ? 自分の記憶を自己防衛のためにいじくった? いや、あの状況でそんなことが起きうるのか?
ぐるぐると思考が回る。答えは出ぬまま。
「やっほー! さーやちゃん……およ?」
本音さんがボクの部屋に勢いよく入ってきたのだが、ボクは何か思いつめたような顔をしていたらしく、不思議そうな顔を向けてきた。
「大丈夫? さーやちゃん」
「あ、あぁ……うん」
個人的なことで悩んでいるだけなので、心配させるもの悪いと思ってそう返す。……けれど心がボクに囁く。――隠してばっかりじゃないか
「ッ……!」
「……さーやちゃん?」
自分に都合の悪いことを誰にも言わず、それで本当に孤独から抜けたつもりか
そんなはずは……。
今までそんなこと一切思ってなかった。言葉がボクの心に棘をつくる。
「…………ぅ……」
「さーやちゃん……」
気付けばボクは身体を暖かいものに包まれていた。それは本音さんの身体で。知らぬうちに冷えていた身体が暖まっていくのを感じる。身体が冷えていた理由を、寝ていた時にかいた汗とすれば簡単かもしれない。けれど、それだけではないような気がした。
「……落ちついた?」
「ありがとう本音さん」
とはいっても女性に抱かれていたのとは変わりなくて。ボクの顔は赤くなっているだろう。きっとそれは羞恥だけじゃなくて……嬉しさもこもっていると思う。
……日頃抱きつかれているけれど、こういうのとは方向性が違うからか滅法弱いな、ボク。
「んー。落ちついたならいいんだよ~」
本音さんはいつもの調子を取り戻したようになって、そんな言葉を投げかけてくる。
気付けばボクも笑みを作れていて、いつも通りの自分に戻れたかなぁーと思えた。
「あ、そういえば聞きたいことがあってきたんだよ~」
「聞きたいこと?」
本音さんがボクに聞きたいことというのが、さっぱり思い当たらず首をかしげる。……なにかあったかな? んー。最近本音さんがラウラと火花をちらしていること……とか? いやいや、それはラウラと本音さんの話題だよね。たまにボクの方へ話題が急にすっとんできて対処できなくなるけど。
「うんうん。昨日さーやちゃんと会ったんだけど、なんか様子がおかしかったなーって」
「……昨日?」
「うん。昨日だよ?」
ボクが疑問を込めて問い返すと、本音さんも不思議そうな顔を向けてくる。お互いがすれちがっているようで少し気分が悪い。
「えーっと……ボク、昨日のことあんまり覚えてないんですよね」
「そっか~。さーやちゃんが少し変に感じたのもきっと眠たかったからかなぁ~。今も眠そうに見えるし~」
「それはボクのデフォルトですってば~」
「じゃ、じゃあもしかしてさーやちゃんお酒のんだの!? お酒はめっ! だよ~」
「のんでませんよ!」
なんだかんだでこの話題はうやむやになった。お互いに別に気にすることでもないと判断したのかもしれない。というかお酒なんてボクがのめるはずないじゃないですか……自慢じゃないけどボクは下戸です! 多分。
「そういえば、おりむーとかもいないしどこいっちゃったんだろ~」
目の前できょろきょろと辺りを見回すジェスチャーをする本音さん。なんだかその様子が可愛らしい。っと、そうじゃなくて一夏くんの所在ね。
「えーっと、メールにもあったんだけど一夏くんは今日帰省してるみたいだね~」
「ほぇ~おりむーの実家かー。見てみたいようなー……」
ぼんやりとした顔で本音さんは上を見上げる。天井をみても何があるわけでもないけれど、そういうのが癖の人っているよね。
「一夏くんの実家か……ボクも興味あるなぁ……いってみます?」
「面白そうだね~」
バンッ! と音をたてて開いた扉の先にはラウラがいた。
「
と、声をかけてきたラウラを見てボクたちは一瞬のアイコンタクト。意見は満場一致で巻き込むことに決定しました~。
「ラウラちゃんも一緒にいこ~」
「やっほーラウラも参戦―!」
「う、うん? な、何がだ? なぜこちらにそんな顔をして迫る!? せ、せめて
ボクたちはなんの説明もしないまま、勢いでラウラの腕を掴んで引っ張り出した。
「……で?」
「つまりだよラウラ。ボクたちは一夏くんの家へとお邪魔しようということになったんだ」
「そうだよ~ラウラちゃんもいくでしょ~?」
とりあえず一夏くんの家への道を歩きながら、ラウラに説明中。一夏くん家への道筋がわからないはずだろって? 弾くんが喜んで案内してくれてます!
「く……くっそ……! 一夏のやつ羨ましすぎるぜ……! 俺が女性の頼みごとを断れるはずがないというのが辛い!」
弾くんから怨嗟のこもった声が響いたような気がするけど、対象は一夏くんだから気にしない気にしない。……少しは気にした方がいいかな。
「すでに私が、行く行かないの返答をする前に連れ出されているわけだが……」
「それはラウラの思考を読んだボクのナイスな行動だね!」
「おー! さーやちゃんかっこいい~!」
本音さんがボクを褒めている。いやー照れるなー。それに対してラウラは少し落ち込んだ表情を作りながらも、じとーっとした目を向けてきていて……な、なんで?
「わ、私は彩花の育った場所にもいってみたいのだがな……」
「え? よく聞こえなかった」
「私も私も。もう一回言ってラウラちゃん」
「う……。きょ、教官の家にいけることを喜んでいるだけだ!」
少し怒り気味になってそう返すラウラ。そんな怒らないでよー。ほら、チョコレート食べる?
「む……まぁ、もらっておこう」
パキッと板のチョコレートを半分くらい割って渡す。夏だから早く食べないと溶けちゃうね。ラウラの顔が少し赤くなってるし、やっぱり暑いんだろうねー。
「おぉー。さーやちゃんは色々もってるんだねー」
「まあねー」
「…………うぅ……混じりづらいぞ……全部一夏のせいだ」
弾くんが段々落ち込んできているような様子を見せているけど……。はっ! 弾くんが段々……? これってしゃれにならないかな!?
「んー、さーやちゃん、それは微妙かなー」
「むぅ……さすがに笑えないぞ」
「あ、なんかごめん……」
そんなこんなでボクたちは一夏くんの家につくまでにぎやかな雑談をしていたのだった。
ついた時に弾くんが一夏くんへ呪詛を放ったとか放たなかったとか。そんでもって一夏くんは扉をすぐ閉めたとか閉めなかったとか。