IS‐のんびり屋な天才‐   作:石っこ

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第33話

トントントン

 

 千冬先生と一緒に階段を下りる。どうにもボクをひとりで残しておくとまた部屋に入りそうだからと疑われて首を掴まれた状態で。おかげでボクは自分で動く必要がなく凄い楽だ。

 あ~。なんだか脳に血液がいってないような……呼吸が苦しいような……でもなんだか気持ちよくなってきて……

 

べしゃっ!

 

「うあ」

「すまん。あまりにもお前が気持ちよさそうにしていたから投げたくなった」

 

 全然悪びれた風もなくきっぱりと千冬先生は言った。それに抗議したい気持ちは山々なのだけれど、今ちょっと思い返せばボクは首を掴まれていた……ということはボクの首は締まっていたわけで……

 

「ありがとうございます千冬先生! 先生は命の恩人です!」

「な、なんだ?」

 

 うん。そう考えたらお礼を言わなきゃいけない気がして、つい言ってしまった。……ん? でもでも、よく考えてみたらボクの首根っこを掴んだのは千冬先生じゃなかったっけ? あれ? ということは千冬先生はボクを殺す寸前だったってこと!?

 

「何するんですか千冬先生!!」

「さっきからなんなんだ……自分の中で自己完結しているんじゃ私にもわからんぞ」

 

 千冬先生が呆れたような目でボクを見てくる。呆れ8割憐れみ2割……ってなんで憐れみの色が混ざってるんだろう……。

 そういえばボクが二階にいた時に ダンッ! って音が聞こえた時の話なんだけど。あれは千冬先生が壁を蹴って、階段を全段飛ばしで登った時の音だそうです。

 

 階段を見ればその跡がくっきりと残っているのもわかる。三角跳びの要領で跳んだ――ってことかなぁ。でもどれだけの高さ跳躍したらそんなことができるんだろう……。

 

「おい。おーい。何を見ている……って、ああ、あの跡か。あれはお前が責任をもって消しておくように」

「あ、はーい……ってどうしてボクなんでしょうか? 理由を小一時間ほど問い詰めたいです」

 

 自然なノリで千冬先生に話しかけられたから、うっかり返事をしかけたけど絶対おかしい。なんでボク?

 

「異論があるのか? あるなら受け付けてやろう」

「おかしいです。ボクが直すなんて、千冬先生が自分で直すべきじゃないですか~」

 

 異論を受け付けるといった割に、千冬先生からくる威圧感は半端じゃなかったけど、なんとか言いきった。ボクはやった! やったぞ~

 

「ほう……私の部屋には入らないよう一夏から言われていなかったか?」

「………………」

 

だらだらだら

 

 どうしよう。冷や汗が止まらない。ここまでボクが優勢だったはずなのに正論ひとつで簡単に覆った。論点が変わっているような気もするんだけど、今はあまり意味がない。この論争に負ければ=で修理がボクになってしまう。

 

「い、いえ? 言われてませんけど……」

「ふむ……そうか」

 

 ボクの返答を聞くと千冬先生は口角をにやりとつりあげた。ごめんよ一夏くん、きっとこの埋め合わせはするから。

 

「お、千冬姉。やっぱり帰ってたんだな。さっき大きな物音が聞こえたけど……なんだったんだ?」

「ああ。物音については気にするな。ところで一夏。お前はこの彩花(バカ)に私の部屋に入らないよう言ったか?」

 

 ……。はっ! 一瞬思考停止してた。この人ボクのことを完全に信じちゃいなかったよ! 一夏くん本人に確認とったよ! ついでにいえば周りの鈴音さんとかセシリアさんとかも肯定しちゃったらボクに逃げ場はなしだよ!

 あああああ!! 一夏くん一夏くん! 空気読んで空気!

 

「あれ? 彩花。俺言ったはずだよな? ……なぁ、他のみんなも聞いてたよな?」

「ええ、確かに聞きましたわ」

「そうね」

「そうだな」

「僕も確かに聞いた覚えがあるよ」

「教官の部屋には入らないよう言われていたな」

 

 な、なんだいなんだい。みんな酷いんだから。ボクのフォローをしようとしてくれる人がひとりは居てもいいじゃない……。

 

「だそうだが。何か言いたいことはあるか?」

「いえ、滅相もございません」

 

 うん、無理だね。嘘をついて千冬先生の怒りを買うのと、真実をいってボクにちょっと拗ねられるのだったら断然後者の方がいいに決まってる。ボクだって他の人がこういった状況に陥ってたらそうする。

 

「そうだ、千冬姉。昼は食べた? まだなら何か作るけど、リクエストある?」

「バカ、何時だと思っている。さすがに食べたぞ」

「そっか。あ、お茶でもいれようか? 熱いのと冷たいの、どっちがいい?」

「そうだな。外から戻ったばかりだし、冷たいのでも――」

 

 と、突然千冬先生はいいかけていた言葉を止めた。何かに気がついた風だけど、一体何に気がついたというのだろう? 

みんなの出すこの、少しだけ圧迫された雰囲気だろうか? いや、でもこれはいつものことのような気がするし違うかな。ん~。なんだろ。

 

「……いや、いい。すぐにまた出る。仕事だ」

 

 あれ? 千冬先生は仕事が終わったから帰ってきたんじゃないのかな。これからまだ仕事があるなんてIS学園の仕事は随分と大変なんだなぁ。

 

 ボクがそんなことを考えていた間にも一夏くんと千冬先生の会話は進んでいて、千冬先生はすでに着替えにいったようだった。

 

「ほぇ~。おりむーって織斑先生にべったりなんだね~」

「え? そうか? 普通だろ。姉弟なんだし」

 

 どうだろ。ここら辺はやっぱり他の兄弟とも照らし合わせてみないとわかんないな。んーっと、誰かいたかなぁ~。

 

 あ。弾くんと蘭ちゃんがそうだね。えーっと弾くんと蘭ちゃんは……うん! 弾くんは蘭ちゃんにこれくらいに接してると思うし、結論としてはこれは普通だね!

 

「これは普通だよ!」

「だよなぁ」

「彩花も!? ……まぁ、そう思ってるのはあんたたちだけよ……」

 

 鈴音さんが一瞬の驚きを見せたあと、すぐにげんなりした顔に戻ってそう言った。失礼な。ボクはしっかりと他の兄妹の人の関係と比較してみたんだよ? つまりこれは一般的だよ。至って普通なんだよ。

 

「何考えてるか知らないけど彩花の考えは間違ってると思うわ……。はぁ。どうしてこいつはこんななのに私たちの誰よりも頭がいいんだろ」

 

 鈴音さん。何気に酷いこと言ってない?

 

「……ゼリー」

「ん?」

「うん?」

 

 突然鈴音さんがゼリーとか言いだし始めた。えっ? ゼリーがどうかしたのかな。

 

「ゼリー、出しなさいよ! ああもう、3時のおやつも出さなかったくせに、腹立つ!」

 

 う、うわぁ……なんだかよくわからないけど、さっきの一夏くんと千冬先生の会話の中にはゼリーの話があったみたいだね。

 

 そして不思議なのがさっきまであんなにげんなりしてたのに、突然の豹変っぷり。なんだかすごいなぁ。怒っている人が電話に出る時みたいなものだよね。

 

「む……6個しかないぞ。ここには8人……それに千冬姉の分を含めると9個必要か……」

「千冬さん、また今度って言ってたじゃん」

「そりゃまあそうだが……うーん」

 

 とりあえず千冬先生がいいとしても、人数分で考えると2個足りないわけで……って、まだ千冬先生がいらないと決まったわけじゃないんだけどね。

 と、リビングのドアが開いて千冬先生その人が出てきた。

 

「なんだ、揉め事か? この家にいる限りは仲良くしろ」

 

 千冬先生はきっちりとしたスーツ姿で、男性であるボクからみても憧れるほどの格好良さで告げた。

 

「一夏。今日は帰れないから、後は好きにしろ。ただし、泊まるんじゃないぞ」

 

 布団がないからなと付け足してそのまま千冬先生はリビングを出て行った……わけだけど。どうにも違和感を感じる。なんというか、嘘っぽいような感じ。でも千冬先生が嘘をつく理由が思い当たらないし、ただの思いすごしだろうか。

 

「緊急の仕事なのか? うーん。それじゃあ、まあ、仕方ないか。……つってもまだ2個足りないんだけどな」

 

 そういって一夏くんは頭を悩ませる。

 

「ところでどんなゼリー?」

「ん? コーヒーゼリーだけど」

 

 む? コーヒーゼリーだって? 一夏くんが作るものだから、結構本格的そうだ。それに元々千冬先生用でもあるわけだし、味は濃い目になっていそう。ということは

 

「ボクはゼリーはいいや。あとひとりは……」

「あ、私もいいよ~。ちょっと苦いのは苦手だしね~」

 

 本音さんが立候補。苦いのがあまり好きではないらしい。ボクは苦いのが嫌いってわけじゃあないんだけど、コーヒーはあまり飲まないしカフェインはあまり好きじゃない。そういう面で見ると緑茶もあまり好きじゃないかな。

 

「そうか? 悪いな」

 

 一夏くんが少しだけすまなそうに言ってくるけど、元々連絡もなしに押し掛けたボクたちが悪いのだし、そう気にしなくてもいいと思うけどなぁ……。

 と、そんなことを言ったらやぶ蛇になりそうだから勿論言わないけどね。

 そんなこんなで6人それぞれにコーヒーゼリーを配って食べる。最初セシリアさんとラウラはブラックで食べようとして、すぐにシロップとミルクを手に取っていた。それを見たらつい弄りたくなっちゃって……

 

「ラウラってばかわい~んだ~」

「むぅ……」

 

 ちょっとからかいを入れる。予想通りラウラは赤くなっちゃったけど、思ったのとちょっと反応が違った。

 ボクの予想では、『か、からかうな!』とか言ってくると思ってたけど、案外しおらしく終わった。

 ちなみにもう片側では本音さんがセシリアさんをからかっていた。

 

「せっしーってばお砂糖なしで食べようとしてたよね~」

「う、うるさいですわ!」

「それで結局シロップもとっちゃったし~、ちょっと格好悪いかな~」

「う、うぅ……」

 

 本音さんの攻め方はなんだかんだでボクより過激だった……。本人に自覚はあんまりなさそうではあるけど。

 少しの間みんなが黙ってスプーンを動かして、一夏くん作のゼリーを味わい、そこからさらに少しして、最初に鈴音さんが口を開いた。

 

「あんた、男のくせにデザート作りもうまいわけ? 呆れるわねー」

「ん? いや、デザートに関してだったらそこにもっと凄いのがいるだろ」

 

 ん? 一夏くんの指先はボクたちの方を指さしている。

 も、もしかして実は本音さん、お菓子作りうまかったの!?

 

「こらこら。わざととぼけるな」

 

 あ。ボクだった。でも自分からそう言われて認めたら、自画自賛してるみたいでちょっと嫌じゃない?

 

「あー確かにね……。こいつの顔がどう見ても男じゃないから忘れそうになるわ……」

「鈴音さん酷い!」

「そうですわね……確かに以前食べた彩花さんのクッキーは絶品でした」

「そうですわねって鈴音さんの意見に肯定!?」

 

 ぼ、ボクがツッコミに回ることになるなんて……。ボクはボケる専門の役なのに~。

 

「でも本当に彩花君の作ったクッキーは美味しかったよね」

「おう。俺も作り方を教えてもらったにはもらったんだが、いまいち再現できなくてなぁ」

「教え方が悪くてごめんね!」

 

 ボクの返答も半ば八つ当たりが入っているのが自覚できる。でも仕方ないじゃない。人間だもの。

 

「さて、ところでみんな何時までいる? 夜までいるんなら、夕飯の食材を買ってこないと――」

 

 一夏くんが何気なくかけたその言葉に、シャルロットさんたち周辺の雰囲気が少しだけ色めきたった気がした。

 

「夜は私が料理を作ってやろう! なに、昼とゼリーの礼だ」

「そうね! あたしの腕前も披露してあげちゃおうかしらね」

「じゃ、じゃあ僕も作り手側で参加しようかな」

「む……私も作ってもらってばかりでは悪いし参加しよう。なに、軍ではローテーションで食事係があったからな、期待していろ」

「そういえば、前にわたくしのお弁当を食べてからずいぶん経ちますわね。そろそろ恋しくなってきたのではなくて?」

 

 セシリアさんのその言葉にボクと一夏くんは思わず顔を見合わせる。そしてボクたちはきっと同じことを思っただろう。――いや、それはない――と。

 

「ボクは悪いけど帰ろうかな。明日はちょっとIS学園の用事で早くなりそうだから」

「む……。嫁は帰ってしまうのか」

「う~ん。私もちょっと夕飯いただいてみたいけど無理かなぁ。かんちゃんにも会いにいかないとだしー」

 

 かんちゃんって誰? とツッコミを入れたかったが、そんな雰囲気でもないので自重。

 

「まぁ用事があるなら仕方ないよなぁ。じゃ、買いだしは5時くらいに出るか。彩花たちは今からもう帰っちゃうのか?」

「うーん。買いだしに付き合って荷物もちだけはしとくよ」

「悪いな」

「私ももうちょっとだけ一緒にいたいから、いくよ~」

 

 本音さんも同行決定。あ、買いだしでは自分の分も何か買っておこう。IS学園に戻ったら軽く何か作って、ぱぱっと提出する書類も作成しないと。

 

 

※買いだしに行った時に階段の壁のことを思い出して、買うものを買ったらひとりだけ急いで帰って直したのがちょっと悲しいことではあった。

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