IS‐のんびり屋な天才‐   作:石っこ

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第34話

「『ヒオウ』だから……そうね。あなたの上の名は緋桜宮。うーん……下はなんにしましょうか。私の名前からでも取りましょうか。綾……をもじって彩……これだけだとなんだかまだ足りない気がするわね。あら? 綺麗な笑顔ね。……最後の文字は花にしましょう! 花のような笑顔で彩りを……うんうん。咄嗟に考えたにしてはいいわね。彩花。あなたの名前は緋桜宮彩花でいい?」

 

 ……誰だろう。私の名前? コードで呼ばれていた私に名前がつくのだろうか?

 

 疲弊しきった今の心と体では考えがまとまらない。相手が何を言っているのか悟るのも難しい。本当に名前の話題を出されていたのかも定かじゃないように感じてきた。

 

「うん。それがいいわね。我ながら中々いいセンスだと思うわ! 意味をかけて二重言葉にしてあるし!」

 

 なんだかわからないが……センス? どこに才能を発揮する場面があったのか。

 

「さってと、この子はどうしましょうかね……どうやら眠っちゃいそうだし」

 

 目の前の人は口調とは裏腹に今までと同じ無表情で、それを見たことを皮切りにしたように意識が薄れていった。

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 朝。いつも通りの寮の天井を見て目が覚めた。

 今日でいよいよ夏休みも終わりだ。今日一日は明日からまた始まるIS訓練に向けて、機体と武器の調整と感覚を再び慣らせるために訓練をするつもりだった。

 

「……祭りの日のあとからなんだかおかしい気がする……」

 

 違和感をどこかにおぼえてそんな言葉を口にする。言った通り、今日に限った話じゃない。祭りの日のあとから少ししてずっとだ。

 

 どことは明確にはいえないのだけれど、何かがおかしい。ひとつ疑問に思っている点はあるのだけど、それがなくなっただけでここまでボクが違和感を感じるものだろうか。

 

「頭のもやをほとんど感じなくなったんだよね……」

 

 それ自体はいいことであるはずなのだ。もやのようなものを感じることがなくなったおかげで、以前より多少よくなったことも多い。

 でもなんだか……

 

「それと反比例するようになんだか体が疲れてる……」

 

 最近ちょっぴり体の調子が悪いように感じる。これはただ単に疲れという類のものなので違和感とは関係ないはずだ。

 

 祭りの日が終わってからもそれまでの日と似たような時間に寝ているはずなのに。

 体の疲れがとれていないのはそういう体質になったとかじゃなく、体が実際は休息をとれていないような……?

 

「おかしいな。なんでこんな風に思うんだろ。夢遊病になったわけでもないと思うし……」

 

 夢遊病になったのならボクを見かけた人がいてもおかしくないし、なによりIS学園には監視カメラが幾箇所もあるため、ふらふらとどこかに行こうとすれば止められるはずだ。

 

 そんな益体もない思考におちいり、その迷いを振り切るようにぶんぶんと頭を振って、ボクは急ぎ目に支度を済ませた。

 

 

 

 

 

第3アリーナに向かうとボクの視界に見慣れない女性がコンソールをいじっているのが目に入った。

見慣れないって言ってもボクは同じクラス以外の人はあまり知らないから、見慣れないの範囲は広いけど。

 

「ここはエネルギーの効率が……? でも……」

 

 その人は水色の髪の毛をもっていて眼鏡をかけており、一見とてもおとなしそうな印象をボクはうけた。

 

 水色って色はおとなしいや静かって印象を受けるしね。これには個人差があるかもしれないけど。

 ぶつぶつとせわしなく呟いてはディスプレイを見直すその人に、ボクはなんとなく……本当になんとなく、そっと近付いた。

 

 後ろからその映像を覗けば、その内容はボクでも助言できそうなところがあって、思わず少しの声を漏らした。

 

「……?」

 

 そんなボクの声を聞き取ったのか、水色の髪をなびかせてその人はこちらに振り向いた。ここで思い出して欲しい。ボクの方は彼女の操るディスプレイが見えるほどに接近していたわけで……

 つまり今現在、顔と顔とが急接近していた。

 

「…ひゃ…!!」

 

 やっぱりというかなんというか驚いたようで、彼女はちょっと上がり調子の声をあげると、後ずさった。

 

 ボク? ボクはぽかーんとしてます。驚きも入りそうになったけどそれよりも早く相手が反応したので、ある意味驚かした形になったこっちが遅れて驚くのも悪いかなって気持ちになったしね。

 

「えーっと……大丈夫? 驚かすつもりは……なかったとはいいきれないけど」

 

 我ながら微妙なことを言った感じが凄くする。驚かすつもりはなかったんだ。うん。……と思ったけれどよく考えればボクがこっそり近寄ったのはなんとなくだったし、無意識のうちに驚かそうと思ってたのかもしれないのでこんな微妙な表現をしてしまった。

 

「…………大丈夫」

 

 少しだけ顔が赤くなりながらもそれを隠すように俯き加減で言う。

 それをみてこっちが言葉をつづけようとしたところで指を差されて制された。

 

「あなた……緋桜宮くん……だよね。二人目の男性起動者の……」

「ふぇ……?」

 

 突然そんなことを言われたので意識がついていかず、間の抜けた返事をしてしまった。恥ずかしい……。

 というかボクの報道はされたといってもそこまで大々的じゃなかったし、案外知ってる人は少ないはずなんだけど良く知ってるなぁ。

 

「あなたは……いい。私の『打鉄弐式』の製作が滞った原因じゃないから……」

 

 ぼそりと彼女がつぶやいた言葉。打鉄弐式がどうとかこうとかって……? あ。さっきの画面を見てもそうだったけど、もしかしてこの人も専用機持ちなのかな?

 

「もしかして君も専用機持ち?」

「………………」

 

 こちらから話しかけたのはいいものの、彼女はぷいっとボクのことを無視するかのように自分の作業に戻り始めていた。

 

「む……」

 

 そんな態度に怒ったわけじゃない。むしろ反応させてみたくなった悪戯心がむくむくとボクの内側から湧き上がっていた。

 

「……そうと決まれば……どうしよ」

 

 威勢づいて言ったのはいいものの、何の案もないボクだった。

 うーんうーんと唸るようにしてたら、

 

「……静かにして」

 

 と振り向きもせず声をかけてきた。

 もしかしてうるさくしてれば反応してもらえるのかな? と思ったけど酷い結末が見える気がするので自重。

 

「……なんにしよう……って、そうだった」

 

 確かにこの人に構っていたい(構ってほしい)のは山々だけど、ボクはボクでやらなきゃいけないことがあったのを思い出す。

 今日の内に調子をある程度戻しておかないと、休み明けに訓練をやった時に千冬先生に怒られてしまう。千冬先生に怒られるのはまずい。大変まずい。

 

なにせあの人はボクを勉強の方では叱ってくることはあまりないのだけど、実技の方でなにかやらかせば嬉々として罰を言いわたしてくるから。

 というわけで今は保留することにしてボクはその場でISを展開した。

 

「…………?」

 

 後ろで起こった異変に気付いたのか振りむいてくる。

 その顔に少なからず驚きが混じっていたのをボクは見逃さなかった。――けど、最後にその人がつぶやいた言葉までは聞き取れなかった。

 

「……資料で見た機体と変わってる……?」

 

 

 

 

 

 宙に浮いてISのステータス画面からなにやら色々とチェック。

 こういうことをおこたると、スラスターがバーストして外壁に突っ込む……ということにもなりかねない。そんなことをすれば千冬先生が……

 

 とか考えて身体を震わせたところでボクはその恐れを振りはらうように機体を動かしはじめた。

 

「えーっと、大分感覚が……」

 

 急旋回から多種多様なターンをこなしていく。その際に前よりも理想とのずれが大きいことを実感。思ったように機体が動かせない……とでもいうのかな。

 

「ちょっと空けただけでこれかぁ……」

 

 なんだか少しばかりへこむ。今まで訓練をやってきたわけだし、身についていると思ったのだ。

 

 でも、1日運動しない日があればそれを取り戻すのに3日かかるという格言もあるくらいだし、当たり前なのかもしれない。それがISに適用されるのかはわからないけど。

 

「よっ! とぅ!」

 

 次は回避行動をまじえつつの武装の高速展開。遠距離武装である機関銃を呼びだし、それを素早く近距離のブレードにチェンジ。

 仮想敵を脳内にイメージしつつ、距離に応じた武装を展開し、それで攻撃する。

 

「……あれ?」

 

 そんな風に武装を色々試していたのだけど、その中に見慣れない文字を発見した。

 

「『制限中』……? 制限がかかった武装ってどういうことだろう? 今までボクが武装を考えた中ではこんなのなかったはずなんだけど……」

 

 よくわからない状態に頭を悩ませる。空中でとまったままボクは思考を巡らせ一応辿り着いた結論。

 

「ISの自己進化機能……かなぁ?」

 

 可能性があるとすればまず第一にそれが考えられる。

 でも自己進化機能に武装をつくる……というのは聞いたことがない。一夏くんの『白式』が第二形態『雪羅』になったときは武装がつくられたようだけど、それも第二次移行という大きな行動をはさんでいる。

 

 となれば自己進化機能で武装が作られたのは初……というわけかもしれないのだが……

 

「それにしても制限ってどういうことなのさ、制限って」

 

 それが腑に落ちない。武装を作られたとして、それを使用者に制限するようなことがあるのだろうか? 考えるなら規格外の威力を持っている場合……でもそれは一夏くんの雪片弐型でさえもひっかからないから、その可能性は無いに等しい。

 

「考えたって仕方ないかな」

 

とりあえず制限中を選択してみる。すると画面に表示されたのは……

 

『認証キーを入力してください』

 

 ……うん? 認証キー? ということはこの武装は威力とかでISが制限しているわけじゃなく、誰かが外部から設定したってこと? いや、でもISは待機状態で常にボクが身につけてるわけだし、いじれる人がいるはずもないし……うーん?

 

 とりあえず手の出しようがないかと思ったのでウィンドウを目線の操作で閉じる。あとでハックして認証キーを調べてみようかな……なんて思いつつ。

 

「っと! それよりもう少し慣らさないとね」

 

 ぐんっとスピードを上げてボクは再び空に身を躍らせた。

 

 

 

 

 

~ 更識 簪 ~

 

「すごい……」

 

 目の前で繰り広げられる舞踊のような、洗練されたように見える動き。それでいてその動きは実戦的な動きばかりだった。

 

円を描くようなターンをして切りつける。それが終わるやいなや急速に一瞬下がって身体を回転させ、いつの間にか呼び出していた銃で射撃。その銃を即座にしまうと飛びまわるシールドビットのようなもので自分の周囲を防御。

 

動きのどれもが慣れているような、あるいは何かの型をなぞるような完璧さで為されていた。

 

「……私も『打鉄弐式』を完成させてあんな風に飛びまわってみたい……」

 

 自分だって専用機持ちなのだ。練習すればあれぐらいとは言わないまでも近い領域で動けるかもしれない。

そう考えると胸が少しだけ高鳴って、集中力がほんの少し損なわれたような気がしたけど悪い気はしない。

 

 あれみたいに動き回るのはスペック的にも難しいかもしれない。『打鉄弐式』は速度に優れているわけでもないからだ。それでも本当に憧れと……そして自分の中で燃える炎を感じた。

 それはあるゲームで会った人と一緒にプレイした時にも感じたような……

 

「……? そういえばさっきの口調……Ayaさんに似てた?」

 

 と心に思い浮かんだ人の名前を口にする。

 とはいっても口調だけで判断するのは危険だろうし、何を言っているんだと思われるのも怖い。一転、もやもやとした思いを抱えつつ、私は空に舞うひとつのISを眺めていた。

 

 

 

 

~ 緋桜宮 彩花 ~

 

「ふぃ~」

 

 やっと終わった~。ある程度は感覚を取り戻せたはずだ。狙った動きも大体できたし。といってもなんだか扱いづらい印象もうけた。確かに自分の思うように動けるようになってきたけど、自分に合わないような気も……?

 

「ん~。適性化されてるはずだからそんなことないはずだけど……」

 

 疑問に思って首をかしげる。

 考えても答えは出ないし、やっぱり長らく扱っていなかったことによる気のせいかもしれないから、一応少しだけ気にはとめておくぐらいにしておいた。

 

「ん?」

 

 ふと目に入ったのはさっきと同じ水色の髪。えーっと……視線がボクを見てる? いやいや気のせいかもしれないし。

 

チラッ

 

 本当にそうか確かめるためにチラ見してみたけどやっぱり気のせいじゃない。うーん。なにか悪いことしたかなぁ……。さっきのことをもしかして今になって怒ってる? そうだとしたらもう一回謝らないと。悪いのはボクだし。

 

「あの……」

「……すごかった」

「へ?」

 

 怒っているのかと思いきや返事が予想外で変な声を上げてしまった。

 怒っていると予想していたのに褒められれば誰だって驚くよね。……驚くよね?

 

「あなたの動き……とても綺麗だった」

「あ……ありがとう」

「私もいつか……」

 

 そこで言葉は切られた。

 その先に続く言葉はなんだったのだろう。推測はある程度できるけど、そうやって勝手に決め付けるのは悪いような気がしなくもないしやめておく。……そういえば

 

「ところで君の名前は?」

 

 ボクは相手の名前を知らなかった。名前を知らないというのは人と会話するうえで大変失礼なことだと思うんだ。ましてや同じ学園内にいる同学年なんだしね。さらにいえば数少ない専用機持ち。

 

「……わたし?」

 

 その質問はその人の想定から外れていたのか、どこか意外そうな顔をして自分を指さす。それにボクはうんうんと首を縦に振って肯定する。

 

「わたしは……更識簪……」

「更識簪さんっていうんだね~。よろしくね!」

 

 相手の名前も知った事だし手を差し伸べる。

 別に変な意味なんてない。友好の証として……うん、嘘です。これから仲良くしていきたかったから、そういう意味をこめて握手をお願いした。

 

 簪さんは少しためらいがちに手を数回ひっこめつつも差し出してくれた。これを肯定と受け取ったボクは自分から腕を伸ばして握手した。

 先手をとったぞー! あれ? 先手取る意味って別にないよね?

 

「よろしく~」

「……よろしく」

 

 それはおいといて、もう一回挨拶をした。

 

 

 

……そのあとなんだかんだでボクが半ば強引に携帯のメールアドレスとかの交換をすませて、簪さんとは別れた。そろそろ時間的にも危なかったしね。昼食の良い席が混んじゃう! というわけでお互い昼食に向かったのだった。

 

昼食をとる場所は同じなわけで道中一緒になってお互い笑いを洩らしたのは余談。

 




次話からようやく以前の続きになります。
はてさて、どうなることやらですよ
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