IS‐のんびり屋な天才‐   作:石っこ

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第36話

午前の訓練が終わり、みんな午後の訓練に向けてエネルギーを得るために向かう場所――つまりは食堂。相も変わらず形成された集団が、これまた当然のごとく注目を集めていた。

 

「おい、一夏」

 

 ラウラが若干不満気になりながら一夏くんへと声をかける。どことなく非難するような声色になっているのはきっと気のせいではないだろう。

 

「なんだ?」

 

 対して一夏くんはいつも通りの返答。ボクもいまいちラウラがなぜ憤っているのかわからないため、今回は一夏くんに同意だ。

 

「お前はいらぬ注目を集める。まるで私たちが見世物のようではないか」

 

 ラウラがわざと周りの人にも聞こえるくらいの声量で言った。んー? ああ、確かにボクたちの方へと向けられている視線を複数感じる。軍人育ちでそういった感覚が敏感なのだろうラウラには、それが耐えられなかったのかもしれない。

 

「そうか? うーん、俺にはよくわからん」

「だからお前は新兵のままなのだ」

 

 一夏くんにはいまいちよくわからなかったらしく、はっきりとしない返答をしてきた。一夏くんがクラスの人に確か朴念仁とかって言われているらしいのも頷ける。

 

それを受けてラウラは憤慨したように、一夏くんに言及した。――まぁ、わからないのも無理はないかもしれない。だってさっきのラウラの発言で、半数以上の人の視線が消えたんだから。

 

「あ、そうだ。シャルロットさんに言いたいことがあるんだけど」

 

 ラウラと一夏くんの会話でちょっと雰囲気が悪くなりかけてたから、それを変える意味でもボクは話を振る。単純に今言わなければならなかったというのも勿論あるけれど。

 

「ん? なにかな、彩花くん」

 

 シャルロットさんの方もその意図を察してくれたようで、明るめな声を出して対応してくれた。シャルロットさんは空気……というか人の意図を察するのがとてもうまいから、こういった時本当に助かると思う。

 

「えっと、午後の実習の話なんだけど一夏くんと鈴音さんに続いて、次はボクとシャルロットさんで実戦訓練を見せるらしいんだ」

「ええっ!?」

 

 思ったよりも大きな反応を返してきたシャルロットさんに、逆にボクが驚いてきょとんとしてしまう。シャルロットさんも自分が大きな声を出したことにきづいたのか、頬を染めてちょっぴりうつむいてしまった。

 

「う、うん、わかったよ。彩花君と午後に実習だね。……はぁ、彩花君と試合かぁ~。」

「うん?」

 

 しっかりと返事はしてくれたし、確認もしてくれたのだけど、最後辺りボソボソと呟くようになった声がよく聞き取れなかったので、反射的に聞き返す。

 

「い、いや! なんでもないよ!?」

 

 するとシャルロットさんは少し慌てた様子になって、必死に釈明をしてきた。別に何かを疑っているというわけでもないのだけれど……。そんな珍しい様子を見てボクは思わずくすりと笑いを洩らしてしまう。

 

「変なシャルロットさんだなぁ」

 

 思わず口をついて出た言葉は、なんら悪い意味で言ったつもりではなかったのだけど、言われたシャルロットさんの方はガーン! みたいな感じで大分ショックを受けていたようだった。

 

「お、おいシャル? 彩花も別に悪い意味で言ったんじゃないと思うぞ?」

「う、うん? そうだよね! えへへ」

 

 一夏くんに励まされて、ひょっとするとさっきよりも元気になったんじゃないかと思うくらい、明るくなるシャルロットさん。ボクはといえば、自分のせいでシャルロットさんを落ち込ませることにならなくてホッとするとともに、救ってくれた一夏くんに感謝しているのだけど――

 

 周りにふと視線をやれば空気が冷たく、セシリアさんに箒さん、そして鈴音さんが厳しい視線を送っているのが見えた。

 

「あ、あはは……」

 

 ボクは居心地が悪くなって、早々に昼食を済ませると早めに男子更衣室へと向かった。

 

 

 

 

 男子更衣室に到着。午後の実習が始まるまで、十分に余裕はあるためのんびりとしながら着替えを済ます。とはいってもたかだか男子の着替え。いくらのんびりとはいえ、そう大した時間がかかるはずもなく、着替え終わるのはすぐだった。

 

「ま、実戦に入る前に確認しておきたいこともあるしね……っと」

 

 十字架(ロザリオ)を正眼に置き、『無形』のデータを表示。瞬時に出てくる複数のディスプレイを眺め、ちょっとした違和感を覚える。

 

「うん? 機体の見た目がちょっと変わってる……?」

 

 ボクが目を止めたのはIS装着時の姿を投影したものだ。ボクの記憶とはわずかに違いが生じているような気がする。

 

「ん……確かここら辺はまるで装甲がなかったような……でも、スペック自体は落ちてないし……おかしいなぁ?」

 

 機体の映像とスペックを見比べて思う。装甲の値が上がっている。残念ながら過去データは保存し忘れていたため、確認はできず確証もないが、ほぼ確信している。ボクのISはどこか変わったと。

 

「落ちるじゃなくて上がってるんだから、今のところは放っておいてもいいかな」

 

 性能が落ちているというのなら問題だが、上がっているというのなら別段問題はないし、おそらく追加されたであろうその装甲に、なんらかの罠がないのも確認した。ならば、特に今急いで気にかける必要はないだろう。

 

 そんなことより、

 

「この武装だよなぁ……」

 

 いつかに見つけた『制限中』と表示されたものだ。あの後、認証キーに対する読み込みや、強引に突破するプログラムも組んでみたのだが、悉く玉砕。それにこのプログラムを解こうとする時はどうにも頭が回らない気がする。

 

「なんでだろ……」

 

 これも一応、害がないということは情報を得ることができた。また、これは武装ではないことも。ボクのISの拡張領域を大きく奪っているため、正しくは武装のセットとかそこら辺だということに予想がついた。

 

「そうはいっても、拡張領域を奪われるのは困るんだけどな」

 

 まだ結構な余裕はあるといえど、使用中の領域は大きい。なにせボクが作った武装全てよりも、このセットは容量が大きいのだ。

 

「一体何が入っているのやら」

 

 ボクがそんな風に呟いた。

 ――刹那、違和感を感じた。ちらりと後ろに視線をやれば扉がかすかに開いている。――おかしい。ボクはこういった扉はきちんと閉めるタイプだし、一夏くんが入ってきたような音もしなかった。それにボクと一夏くん以外にこの部屋に入ってくる生徒はいない。男性教員も更衣室なんかには用がないから来るはずもない。

 

 ただただ警戒心だけがあがっていく。自分でも気付かないうちに神経を研ぎ澄ませているのが解った。どうしてそこまで警戒しているのかはわからない。でもなぜだかボクの奥がそうさせるような感覚がした。

 

 相手がこの部屋に入り込んでいるのはもう確定だ。扉を開ける音は無音だったし、気配も全く感じない。それでも不思議と相手がいるということはわかった。

 自分のISのデータを閉じ、背を伸ばすような素振りをする。ISのデータを閉じたのは、ボクの武装を知られたくないし、男性が使えるISについて知りたがるスパイだったりしたら困るからだ。

 

(……っ!)

 

 ――瞬間、後ろの空間にかすかな揺らぎを感じた。完全に気配は消されており、忍びよる気があったのは隠しようもない。そんな相手にわざわざ手加減する理由もなかった。

 

 瞬時にしゃがみながら、右足を相手の足を刈るように回す。

 

「……ッ!」

 

 誰とも知らぬ相手が息を呑むような雰囲気が伝わってくる。――驚いているであろう今がチャンスだ。

 だが実際には、ボクの足払いは1歩半ほど下がられることで冷静に回避されている。焦って跳ぶような相手ならば、鎮圧することも容易だった。しかしこの様子を見るに、伝わってくる雰囲気ほどには驚いていないのかもしれない。……あるいは実戦慣れしているか。

 

「はっ!」

 

 先手を掴めた流れを逃さないように、右手と左手を移動させながらそれを支柱に、さらにもう一回転足払い。

 

「ふふん。同じ手を続けるのはよくないよ」

 

 ボクの対応を見てか余裕を持ったような声で闖入者は話しかけてきた。振り返ったおかげで、相手がIS学園の制服を着ていることが目に入ったが、潜入している可能性も捨てきれないし、何より相手が戦う空気を見せている。

それと――

 

(この攻撃がワンパターンになってるということには気付いてる)

 

 ボクはすぐさま姿勢をあげると、逆立ちに移行しながら相手の腰の高さから頭の高さまで足をくるくると回転させ、最後に手で身体を跳ね上げて立ち上がった。

 

「隙のない動き……キミやるね」

「それはどうも」

 

 ボクの目の前に立っているのは水色の髪を持った人物。――どことなく簪さんと似ているような気がしたけど、今は気にしている場合じゃない。

 

「はっ!」

「くっ!」

 

 ボクの呼吸のリズムとずれたタイミングで的確に掌を突きだしてくる。タイミングをずらされはしたものの、この程度でやられるようなボクじゃない。

 のばされた掌の線上から離れ、それをすぐさま掴んで投げに移行しようとしかけ……一瞬の浮遊感を感じ、放り投げるようにその手を離した。

 

「きゃん!」

 

 相手もさすがに今のボクの反応は予想外だったのか、尻もちをついた。けれどもこれは釣りの行動かもしれない。内心ではボクも焦りを感じ始めていた。

 

(ほとんど完璧なタイミングで投げに入ったのに、まさかそれを足技で叩き落とそうとしてくるとは……)

 

 さっきの攻防ではそんなことがあった。ボクが掴んだ手の引かれるはずの勢いに合わせて蹴りを入れようとしてきたのだ。もちろん相手の抵抗はなくなるわけで、その些細な違和感でなんとか気付けた。

 

(この人……強い)

 

 身体から冷や汗が流れ始める。少なくともボクと同等……あるいはボクより強いかもしれない。余談ではあるが、ボクはラウラにさえ負けたことはない。ボクが攻める側なら負けるかもしれないが、守る側なら勝てると断言できる。(武器を使われなければだけど)そういう訓練をボクは積んできたし、それをしっかりと運用できるだけの洞察力と判断力はあるつもりだ。

 

「んー、キミ生徒会メンバーに入らない?」

「……え?」

 

 と、完全に頭が戦闘に入り込んでいただけに、あまりにも予想外なこの発言に一瞬頭が固まった。それと共に瞬時に飛びだしてくる彼女。その瞬間意識が切り替わるようになり、視界が赤くなるとともに、彼女を抵抗できないように腕を極めつつ地面にたたきつけた。これで背に痺れが走って一瞬の硬直ができるはずだ。

 

「かはっ……!」

 

 背を叩きつけられ肺から空気が出る。筋肉も硬直していることだろう。かといってこれで戦いが終わったわけではなく、ボクもこの先なにが起きるか身構えていたものの、相手に動く気配はなく――

 

「今のは完全に隙を突いたはずだったのになぁ……私は仮にも生徒会長なんだけど」

「え……え? ええぇぇ!?」

 

 すでに相手の戦意は抜けていて、ボクも安堵していた時にこの爆弾投下。するとボクは生徒で一番偉い? とされる生徒会長に暴行を働いたわけだ。

 

(い、いや、でも最初仕掛けたのは……ボクでした)

 

 思い返せば、この人はボクに危害を加えようとしたわけじゃない。ボクが警戒心を高め、危機感を感じて先に仕掛けたんだった。……でも一応聞いておきたい。

 

「あの……なんで気配を消してボクの後ろに?」

「んー? それは だーれだ ってやろうとしたからだよ。ま、あいにくキミには気付かれちゃったけど」

 

 おかしい。この状況じゃあまるでボクに非があるみたいじゃないか。そんなはずは……

 

「……もしかしてこの子は……」

 

 思考の波に入ってしまっていたボクは、そんな彼女の呟きを聞き落としてしまった。

 




ちょっと意味不明かも?

彩花の秘密が明らかにされるのも近そうです。
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