IS‐のんびり屋な天才‐   作:石っこ

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書くまでに時間をあけすぎたんでもう何がなんだか。


第40話

ガチャリ

 

 いたって平凡な音をたててその扉は開かれた。これから始まる出来事とは無関係を主張するかのように――

 

「とか言っても、ただ彩花君が私に直談判に来た……ってだけの話なんだけどね」

「誰に話しかけてるんですか?」

「彩花君は気にしないでいいの」

 

 そんな会話を挟みつつ楯無は再度口を開く。

 

「ただいま」

「おかえりなさい、会長」

 

 眼鏡をかけた落ちついた雰囲気の女性がボクたちを出迎えた。どこかで見かけたような違和感を覚えるが、リボンの色を見れば三年生のものだったので、つまりボクとはおそらくではあるが面識がない。そう判断すると頭を下げる。

 

「初めまして、緋桜宮彩花です」

「あら、キミが彩花君? 妹から話は聞いてるわ。どうぞ座って」

「虚ちゃん、それは私が言うつもりだったんだけど」

「あら、すみません」

 

 勧められるまま椅子へと腰を下ろす。個人的にはたったまま話をするのは好きではないので、早々に勧めてもらえたのはよかった。それにしても妹とは……? 頭の中で少しばかり知り合いの顔を浮かべて、目の前の女性と似ている部分がないか照らし合わせてみる。

 

 

「あ。本音さんのお姉さんでしたか。初めまして」

 

 ようやく得心がいったボクがした挨拶に、虚さんはにっこりとした笑みを返しながら口を開いた。

 

「私のこと本音から聞いたりはしてない?」

「そうですね。特に本音さんから家庭の話を聞いたりするようなことは。むしろボクの相談ばかりで……」

 

 ちょっと照れる。本音さんには臨海学校でもお世話になったし、そういったことをついつい思いだしてしまったのだ。

 

「そう? なら改めて。私は布仏(うつほ)。昔から更識家のお手伝いをしています。もし本音から私への悪口とかを黙っているよう言われたのだったら遠慮なく言ってね?」

 

 にこやかな笑みを浮かべるけど、それとは裏腹にこちらに与えられる印象はちょっと怖い。それに微苦笑で返すと、ボクとは対面の椅子に座ってさきほどまで黙っていた楯無さんが口を開いた。

 

「さって、私を除け者にするのはそれくらいにしてくれないかしらね」

「そうでした。お茶の準備をいたしますね」

 

 驚くことに虚さんは楯無さんを除け者にしていたことに肯定。一切の否定をしないけど、だからといって空気が悪くなることがないのはお互いの信頼感ゆえ……なのだろうか。

 

「彩花君にはケーキも出してあげてね。この子それを目的に生徒会室まできたようなものだから」

 

 顔が熱くなる。鎮めようと強く意識してようやく顔の熱さが引いたころに尋ねた。

 

「ボクには……ってことは、楯無さんは食べないんですか?」

「ええ。私にはまだあとで来客の予定があるから。その時に食べさせていただくわ」

 

 楯無さんはお茶を運んできた虚さんから優雅にそれを受け取った。ボクはケーキを優先的に受け取ると、虚さんはクスリと笑みを浮かべてお茶を置いてくれた。

 

「さて、私に言いたいことがあるならどうぞ?」

 

 

 

 ………………沈黙。

 

 

 

「…………」

 

 無視される形となった楯無は少しだけ口元をゆがめて、はぁと溜息をついた。

 それもいたし方ないことだろう。目の前にいる女生徒のような男子生徒はケーキに夢中だったのだから。

 

「誰よ、この子の特徴が甘味が好きだって書いたのは……。大好きに訂正しときなさいよね」

 

 そんなことを小声で呟く。何事も、思い通りにいかないのは少しイラッとするものだ。

 お茶を飲みながら彼が食べ終わるのを待つ。お茶を飲みながら会話をする予定だったのだが、なくなってしまいそうだ。まあ、足せばすむことではあるが。

 

「虚ちゃん、これお願い」

 

 傍らに控えていた虚に空になったカップを差し出す。すぐに追加が注がれて手元に戻ってくる。どうやら彩花の方を見れば、あちらもケーキがなくなりそうだ。

 

「仕切り直して……私に言いたいことがあればどうぞ?」

 

 ケーキを食べ終わった彩花はその言葉を聞いて、一瞬考え込むような素振りを見せたが、すぐにそれは消えた。

 

「この『男子生徒争奪戦』ってちょっと変えられませんか?」

「?」

 

 この提案は予想外だったので楯無は少し疑問の色を浮かべた。てっきり取り消して欲しいとかくると思ったのだ。

 

「ちょっと変えられないか……とはどういうこと?」

 

 会話の主導権を握られる形にはなるが、仕方ないと考え相手に続きをうながす。彩花はそのままの表情で続きを言うために再び口を開いた。

 

「この争奪戦の対象を一夏くんだけにできないかと」

「つまり自分だけは外して欲しいと?」

「そうです」

 

 このあくまで自分本位にいくところに楯無は好感を覚えた。実際人なんてそんなものだ……無論私も。それはおいておくとして楯無は反論する。

 

「ダメね」

「どうしてですか?」

 

 どうしてかと聞いてはいるものの、彩花の顔には疑問など映っていない。自分の要求をこれからどうやって通すか、ただそれ一点のみに集約されている。

 

「それは彩花君達が部活動に入らないから色々と苦情が……」

「ボクたちが部活に入らないことで苦情?」

「そうよ」

 

 彩花がそのことを知らないような顔をしてきたので、楯無は心の中で安堵した。てっきりここら辺までは把握して対策を立てたうえで自分との交渉にきたと思ったのだ。逆に拍子抜けですらある。

 

「ついでにいえば一夏君よりもキミの方への苦情の方が多いのよ。一夏君だけ……も認める気はないけどキミを認めるのはもっとダメね」

「…………」

 

 自分への苦情の方が多く集まっていると聞いて、彩花は表情を曇らせた。ちなみに自分から言うつもりは無いがこれはブラフ(・・・)だ。事実ではあるものの彩花へ寄せられる苦情の方にはちょっとした欠点がある。

 

「ボクへの苦情が多い理由を聞いても?」

 

 勿論理由を聞かれることも想定済みだ。

 

「ええ、もちろん構わないわ。キミへの苦情が多い理由だけど、キミの容姿は女の子っぽいでしょう? 一夏くんとは違ってそれなら問題も発生しにくいだろう……ってね」

 

 ここら辺が一夏との違いが及ぼすデメリットでもあり……同様にメリットでもある。そういった理由で苦情のようなものは集まりやすいものの、一夏と違って熱意に欠けるのだ。要するに、説得して押しきれないほどではない……ということ。

 

「ちょっと待ってください。ボクの容姿が女の子のようだとすると逆に問題ないのでは?」

 

 やっぱりここに食いつかれてしまうかと顔には出さないが、若干焦りつつ返す。

 

「そうね、問題ないからキミを部活動にいれなきゃとなってるわけだけど」

「そうじゃなくてボクがこのイベントの対象にならなくていいようになる問題です」

「……どうしてかな?」

 

 ここでその理由を聞き返すことは愚策ではあるが、もし正答でなければ一気にこちらの意見を押しとおすチャンスでもある。正念場だ。

 

「ここに通ってる女生徒の中には部活に所属していない人……あるいは幽霊部員のような人もいるはずです。ボクの容姿が女の子と仮定するならボクも同様にそうしていいのでは? また、会長ならその意見を押しきれるんじゃないですか?」

「見た目じゃなくて本当の性別が重要なのよ。それは問題のすり替えよ」

「これはボクの予想ですが、おそらくボクをひとつの箇所にずっと置いておくべきではない……自由にさせるべきという意見もあると思います。逆にそういった意見を尊重してもいいのではないでしょうか」

「そちらに関してはこの争奪戦が終わったあとになんとかする手段を考えてあるわ。それに現状に文句を言う人に比べてそちらの方が少数であることは言うまでもないのだし」

 

 ここで一息区切ってお互いに茶で喉を潤す。喋り続けたうえにほどよく緊張感もあったので、乾燥してしまったのだ。

 

「なら、奥の手です」

 

 奥の手という言葉に疑問を覚えつつ黙って先を促す。

 

「楯無さんはボクとの更衣室での一件をもちろん覚えてますよね?」

 

 瞬間。苦い顔をするのがどうしても抑えられなかった。有名な規則ではあるが、逆にあまり調べられることのない規則をすでにリサーチ済みとは。

 

「ええ」

「なら生徒会長さんにボクからのお願い(・・・)です。そのことを無かったことにする代わりに、ボクのお願いを聞いてください」

「…………」

 

 重い空気がたちこめる。生み出しているのは当然楯無と彩花だ。虚は更衣室での一件というワードが少し気になって、顔を赤らめはじめていた。

 実際には短いが、かなり長く感じた沈黙を切り裂き先に楯無が声を上げた。

 

「わかったわ。今回は私の負け。でもこれでチャラにしてよね?」

 

 続けて悪戯っ子のような笑みを彩花に向ける。同時に彩花も緊張感の糸が切れたように安堵の吐息を洩らした。

 

かくして2人の戦いは幕を下ろした。

 

後に一夏の方は、物理的に戦うことで決着をつけたのだが、それに楯無の若干の憂さ晴らしが入っていたのは言うまでもない。

 

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