IS‐のんびり屋な天才‐   作:石っこ

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第41話

その後、教室に帰ってみると、どうやらボク達の組で出す出し物はコスプレ喫茶になったらしい。発案者が誰なのか気になるところだったけれど、どうも早速ヒートアップしすぎているようで、とてもじゃないけどその質問をできそうにない雰囲気だ。

 

「彩花くん……ちょっと……彩花くんっ」

「うん?」

 

どこからか声がかけられたのでその方向に振り返ると、そこにはちょっとばかり苦笑気味のシャルロットさんがいた。その傍らにはラウラが控えており、あまりに熱狂しすぎているこの教室内を冷めた目で見ていた。

 

「どうしたの~?」

 

とりあえず疑問の言葉をぶつける。声をかけてきたからには何かしらの用事があるはずなのだろうと思って。しかし、意外にもシャルロットさんは照れたように笑いながら、

 

「いや、別に用ってほどのものでもないんだけどね……」

 

といいながら軽く頬を朱に染めた。続けて話を聞いたところ、さすがにこのテンションにはついていけず、よくいる身内(つまり専用機もちのこと)で固まって眺めているらしい。

それなら一夏君もこの輪に入っていそうなものだけど。――と思いながら首を振って辺りを見ると、いつの間にか混ざってきていた箒さんが言った。

 

「一夏なら決定案を織斑先生に提出しにいったぞ」

「ああ、なるほど~」

 

納得がいき、ポンと手をうつ。ところで箒さんがやりきったような顔をしているのは、この輪の中に入るのを伺っていたから……ってことでいいのだろうか?

そう考えたらとても可愛らしいなあ、と思ってくすりと笑みがこぼれた。それに気づいた箒さんがちょっぴり頬を赤くしていたのに、ますます笑みが深くなる。

 

ふと、思い出したようにラウラが声を発した。

 

「ところで(おまえ)はどこにいっていたのだ? 何やら一夏には行き先を話していたようだが……」

 

後半になるにつれて恨みがましい口調になっていたのは気のせいではあるまい。それについては皆に軽く謝りつつ、説明をすることにする。

 

「あのままだとなんだかボクも賞品になりそうだったものだから、ちょっと生徒会長に直談判しにいってたんだよ」

「なるほどね」

 

シャルロットさんが了解の意を込めてつぶやく。箒さんも頷きながら納得の意を示していた。しかし、ラウラについては少しばかり対照的ともいえる反応を示した。

 

「む? 私の嫁が……か?」

 

やや不快そうに顔を(しか)めながらボクを見つめる。ラウラが何について不愉快に思っているのかが定かではなかったので、直接聞いてみると、

 

「いや……お前が他の者に自由にされると想像すると少し……な」

 

顔を赤らめながら困ったように口にした。ボクとしては少々意外な答えに面食らいつつ、考えた。どうもラウラはちょっとした独占欲を発揮しているらしい。

日頃から自分の嫁だと言っているボクが、他人にどうこうされるっていうのが気に食わないというのだから、多分そういうことなのだろう。

 

そう思いながらうんうん頷いていると、シャルロットさんが微妙な顔になりながら言った。

 

「実は彩花くんは一夏並の唐変木なのかもしれないね」

「かもしれんな」

「なんでっ!?」

 

それに箒さんが同意を示すけど、ボクとしては甚だ不本意だ。

一夏くんがどれほどモテモテなのかは知ったことではないけれど、ボクまで唐変木のカテゴリにいれてほしくはない。

 

「戻ったぞー」

 

噂をすれば影、とでも言うのか一夏くんの話に入ったあたりで丁度ご本人が帰ってきた。

時間を見れば一限は終了し、間の休み時間もなくなろうかと言う頃。雑談をしている時間はないと悟ったのか、一夏くんはやや名残惜しそうにしつつ、まっすぐに自分の席へと向かった。

それを見届けると、ボク、ラウラ、箒さんも自分の席へと戻った。

 

「彩花くんとラウラ、あとでまたちょっと話そう」

 

戻りがけにシャルロットさんからかけられた声に、了解と描かれたホロディスプレイを展開し返事とする。もうこの作業も手慣れたものだ。

席につき、改めてよく見れば教室の熱狂っぷりもすでに落ち着いており、授業を受ける体制になっている。

 

(これも教育の賜物(たまもの)……かなぁ?)

 

日頃の千冬先生の教育のおかげだろうか、と思いながら二限目の開始を迎えたのだった。

 

 

 

 

 

放課後。一夏くんは何やら用があるらしく早々に退室していった。苦い顔をしていたけれど、嫌な用事ならいかなくてもいいんじゃないだろうか。いや、そうはいかない事象もそりゃあるけどさ……

 

「ラウラ、彩花くん。一緒に帰らない? さっき言った話しがてら……さ」

 

ちょっとした考え事をしていたボクにシャルロットさんからお呼びの声がかかる。見れば彼女はすでに支度済みのようで、にこにことした笑みを浮かべていた。

奥の方にいるラウラもテキパキと支度を進めており、どうやら最後はボクになりそうだ。

 

「うん。ちょっと待っててね」

 

返事をしながらボクも支度をする。幸い、面倒な荷物はなかったので準備はすぐ終わりそうだ。

 

「ふむ。手伝ってやろう」

 

にゅっと横合いから手が伸びてきて、カバンに入れようとしていた本をつかんだ。

 

「ありがとう、ラウラ」

 

笑みを浮かべてラウラを見る。

それが最後の荷物だったため、手伝うことはないのだけれど、ラウラのこのちょっと不器用な優しさが素直に嬉しい。

ラウラはそのまま本をボクのカバンに丁寧にいれると、こちらを見た。特に動いていないボクをみて、どうもこれが最後の荷物だったことに気づいたようで、微妙な顔をしていた。

 

「……余計な手出しだっただろうか」

 

それどころかちょっと不安そうにしてくる始末で、ボクとしては別に悪いことしたわけでもないのに、謝りたくなってくるくらいだ。

 

「いやいやいや、素直に嬉しかったよ!」

 

口調を強めて否定するものの、現実として大した意味がなかったことは事実なので、ラウラの微妙な気分は拭えないようだ。それを払拭しようとラウラを抱きしめながら、更なる説得を試みる。

 

「嬉しかったから……ね?」

「う、うむ……」

 

見れば、茹でダコのように顔を真っ赤にしたラウラがコクコクと頷いていた。それに一安心しながら腕を離すと、一部始終を見守っていたシャルロットさんが気分よく笑いながら言った。

 

「あははっ。それじゃ、帰ろうか」

「うんっ!」

「うむ」

 

 

そもそもボク達の帰途は、寮に向かうだけなので必然的に一緒……かつ、そう長いものでもない。IS学園自体の敷地が広いため、目と鼻の先ってほどには近くないけれど。

 

「あ、そうだ。質問があるんだけど……いいかな?」

「ん。そういえば彩花くんは話し合いの間いなかったもんね。どうぞどうぞ、なんでも聞いてね」

「うん? しかしそれではシャルロットの用事が達成できないのではないのか?」

 

3人で会話をしながらの帰り道。ボクがお願いをし、シャルロットさんが了承し、ラウラが疑問の声をあげる。完璧な会話の流れだね。そうでもない?

ラウラから上がった疑問の声に、特に迷った様子もなく、シャルロットさんが口を開いた。

 

「あ、うん。話すつもりだったんだけど、思ったんだよ。どうせなら彩花くんの聞きたい事を済ませて、部屋でゆっくりお茶でも飲みながら、話そうかな……ってね。いいかな?」

「ふむ。なるほど。私は構わんが。しかし、それだと嫁の質問も数個に限定されそうだが……?」

「心配しなくても大丈夫だよラウラ~。ボクからも聞きたいことは数点しかないしね。あ、ボクも部屋で話すことについて反対はないよー」

「そう? よかった」

 

まあ、元々大して聞きたいことがあったわけでもないから問題ない。どうでもいいことをばっさり切って、質問の内容を軽く吟味。とりあえず外せないものを数個取り出せばそれでOKだろう。

とりあえずは最初から知りたかったことを訊いてみよう。

 

「このコスプレ喫茶……って案を出したのは誰?」

「えっと……」

 

シャルロットさんは少し言いにくそうに視線をさまよわせた。……何かワケありなのだろうか? 悩んでる風のシャルロットさんをよそに、ラウラが代わりにとでも言うように口を開いた。

 

「わたしだ」

「えっ? ラウラが?」

 

シャルロットさんが言ってもよかったんだね、という感じに安心したような顔を見せる。

ラウラの返事を受けたボクとしてはちょっと意外だった。なんていうか、ボク達のクラスにはお祭り好きな人種が多く、きっとその人たちが出した案なのだろうとある程度アタリをつけていたためだ。……決めつけともいう。

 

「そうだ。先日、臨時で働いたこともあり、おそらく客受けもよさそうだろうと当たりをつけた。飲食店は経費の回収も行えるし、確か規則によれば学園祭の時は、招待券で外部からも人を呼べるのだろう? 休憩場としての需要も少なからずあるはずだ」

「…………」

 

理路整然とした物言いに思わず呆ける。シャルロットさんはそんなボクを見て苦笑。

――確かに、ラウラの言う事は筋が通っていて、展望もきちんとあり集客も望めそうだ。なんてったってボク達の組には一夏くんもいることだし、他の飲食店より強く女性客も狙えるというアドバンテージがあるのだ。

 

何も言わないボクに思うところがあるのか、ラウラがまた微妙な顔になった。ちょっとさびしそうな感じの声色でこぼす。

 

「その……なんだ。私には似合わなかった……か?」

「いやっ……」

「大丈夫ラウラは可愛いよ似合うよ僕が保証するし、なんなら通りがけの人に訊いたっていいくらいだし、彩花くんもそう思うよね?」

 

ボクが慌ててフォローしようとしたところに、シャルロットさんの早口での否定が入る。熱がこもっていてラウラも面食らった様子で、さっきまでの寂しそうな面影はどこにもない。それに気分がよくなったボクはシャルロットさんに感謝しつつ、満面の笑みを浮かべて頷いたのだった。

 

 

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