IS‐のんびり屋な天才‐   作:石っこ

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第42話

 

数点の確認をして、寮が目の前といったところになると、ふとラウラが声をあげた。

 

「ふむ、そういえば今日の一夏当番は私だったか?」

「えっ? あー、確かに」

 

ラウラのつぶやきにシャルロットさんが肯定。ちなみに一夏当番とは一夏くんにISの操作を教える指南役のことだ。どうも当番制でテーブルが回っているらしく、指南役は鈴音さん、セシリアさん、箒さん、シャルロットさん、そしてラウラの5人だ。

たまーに皆の予定が重なることもあるらしく、そんな時は自主練するかボクに教えを乞いにくる。もっとも、ボクのISはあまりに特殊なので基本的な動作を教えることしかできなかったけれど。

 

ちなみにラウラ曰く、一夏くんに頼まれたから&織斑教官の弟が不甲斐ないのは見ていられないということで請け負ったそうだ。なんでも、シャルロットさんとラウラの教え方が5人の中では抜きんでてうまいとか。

 

確かに以前の様子からするとあの3人に教えてもらうのは恐ろしく難しそうだ。比較してシャルロットさんは懇切丁寧だし、ラウラは軍で部下に教授することもあったのだろうから、口はあまりよくないものの要点を抑えた助言をする。

けれど……教えてもらうのが難しそうとはこれ如何に。それも理解するのが難しいって意味で。

 

「どうしたものか……凰、オルコット、篠ノ之のうちの誰かに連絡をとれば引き受けてくれるだろうか」

「あはは……確かに彼女たちなら喜んで引き受けてくれそうだけど……」

 

教える様子を思い浮かべたのか微苦笑するシャルロットさん。それに抜け駆けされるのもなあ、と小さくつぶやいた。

それを耳聡く拾ったラウラはどうにも弱った顔をしはじめた。

 

「しかし、そうすると我々の話はどうなってしまうのだ?」

「うーん……」

 

シャルロットさんも弱った顔をしながら少し考え込む様子を見せる。

けれどそれも数秒のことで、すぐに口を開いた。

 

「まあ、僕が話したかったのは衣装についてのアレコレだし、夜でも大丈夫だとは思う。むしろ電話先の相手の都合上、ちょっと遅い方が嬉しいかもしれないし」

「確かに一理あるな」

 

ラウラは頷いているが、正直いってボクにはなにがなんだかだ。流れからするとコスプレ喫茶で使用する衣装に関しての話のようだけど……。

まあ察するに夜の方が今より都合がいいだろうとの事だから、ラウラが悩む必要はなくなった。強いて言うなら、ボクという男子生徒が夜遅くにお邪魔することが問題といえば問題だが、すでにパジャマパーティを行ったこともあるし今更だろう。

 

という訳で話を夜に回すことに賛成しておく。ラウラがすまなさそうな表情を浮かべた。

 

「すまないな」

「いやいや、よく考えたら今電話かけても困るだろうしよかったよ」

 

謝るラウラにシャルロットさんがすかさずフォロー。この心配り、もはや職人技の域にあるのではないだろうか。ボクも見習いたいものだ。

ふと、思いついたのでシャルロットさんの方を見つつ、口にしてみた。

 

「ついでにボク達も同行しちゃおうか?」

「えっ? うーん、まあ……確かに3人で話したいわけだし、この後僕ら2人で集まるわけでもないけど……」

「私は構わんぞ」

 

うーんと唸りながらシャルロットさんが考え始める。そして、これも抜け駆けかな……? と口にした。どうやらその辺が葛藤の理由のようだ。ラウラは構わないと言ってるわけだし、実際構う事はないと思うけどなあ。

思わずボクも考え込むけど、この件はすぐにあっさりと解決することになった。

 

「こちらの不手際で奴を待たせると、教官としての面目が立たん。いくぞ」

「あっ、ちょっと!」

 

ラウラがシャルロットさんの手を引いて戻り始めたのだ。

こういう時、押しが強いラウラはとても頼りになるのだった。

……まあ、シャルロットさんも満更でもなさそうな顔をしているわけだし、わざわざボクが止めることもないよね。

 

 

 

 

道中あった千冬先生に一夏くんの場所を教えてもらい、すぐさま保健室へ。

なぜに保健室なのだろうか。一夏くんが苦い顔をしながら足早に教室を出て行ったのと関係があるのかもしれない。

 

見上げればシャルロットさんは嫌な想像が掻き立てられたのか、少しだけ顔を青くしていた。ついでラウラに視線をうつしてみても当然のように無表情だった。

 

「一夏っ!」

 

いつの間にかラウラより前に出ていたシャルロットさんが扉をあける。結構勢いよく開けたはずだけど、大きな音が立たなかったのは何故だろうか。

 

シャルロットさんより小柄なボク達は、背中からひょいと覗き見るように中を窺うと――

 

一夏くんがひざまくらをされていた……って、え?

見ればラウラも怪訝な表情、さながら全く理解できないといった風だ。

対してシャルロットさんは感情が抜け落ちたような顔をしていた。そしてなにやら凄みのある笑みを形作りそうになったところで、ラウラが前にでた。

 

「一夏、訓練の時間だぞ」

 

目の前の光景はどうでもよさそうな、平坦な声でラウラが告げる。

と、ここでようやくボクから一夏くんをひざまくらしていた人の顔が見えたのだが――

 

「なにやってるんですか……」

 

思わず呆れたような声が漏れる。と言うのもそれは更識楯無その人だったからだ。

お茶目好きにもほどがあるのではないだろうか。

 

「あら? 彩花くん?」

 

ややバツが悪そうな顔をこちらに向けてくる楯無さんにため息をひとつ。とはいえ、楯無さんは別に悪いとは感じていないようで、割と堂々としていた。

そして、一夏くんの頭を起こし立ち上がらせると、言った。

 

「さて、行きましょうか」

 

そしてバッと扇子を開く。書いてあったのは『膝枕』。……うん。なんか楯無さんとはいい関係が結べそうな気がする。気づけば、シャルロットさんもすでに気持ちを落ち着かせることに成功していて、ボク達の気持ちを代弁してくれた。

 

「どこにですか?」

「第3アリーナよ」

「……? しかし私達が借りたのは第4アリーナだが……」

 

楯無さんの返答にラウラが口をはさむ。それに楯無さんは鈍い子ね、と言いながらパンッと扇子を閉じた。ラウラの方からムッとした雰囲気が伝わってきて、ボクとしては若干居づらい空気だ。

 

「私が第3アリーナで教えるのよ。あ、シャルロットちゃんもできれば来て頂戴ね?」

「え、あ、はい」

 

急に話題を振られたシャルロットさんは思わず同意の声を上げてしまった。といっても、だ。特段断る理由があったわけでもないし構わないのだろうけど。

 

「ふん。なぜ貴様に教わらなければならん」

 

そして態度が悪くなったラウラがつっかかる。あう……ラウラ、穏便に穏便に。ボクが宥めるも、自分が指南するのでは不足と言われたようなものであるラウラの立場としては、やっぱり納得いかないものがあるのだろう。

怒りは治まる気配が見えなかった。

 

ふと、名案だとでも言いたげに顔を輝かせながら楯無さんがいった。

 

「じゃあ、ここで軽く立ち合ってみましょうか。幸いちょっと怪我しても、すぐに治療もできるわけだし……ね?」

 

そして不敵にほほ笑む。保健室で戦闘ってすごくいけないことのような気がするけれど、いいのだろうか。いや、いいはずがないんだけどさ。

 

「いいだろう」

 

ふんと鼻を鳴らしてラウラは了承。頭に血が上っているのか、やや短慮な受け答えだと思う。それが悪い方向に目立たなければいいのだが……

そんなボクの心配をよそに、フッと呼気をいれて一足でラウラが楯無さんの懐へ潜り込む。ついで即座に顎へ向けて掌底を放った。

 

「甘いね」

 

ボクから見ても、かなり速度が乗っていて対応しにくい動きに見えたのだが、予測していたのか、楯無さんはなんなく対応した。そこから動くでもなくラウラの腕を横合いからはたいて逸らし、そのまま腕を絡めるようにして極める。

 

「―――ッ!」

 

極め技を思考の外においていたのか、ラウラにしては珍しくあっさりと決まってしまう。どうもさっきの応酬で短気になっていたせいで、殴打に思考が偏っていたようだ。

痛みに顔を顰めながら、外そうとするも、完璧に決まってしまっているのだ。なにかしら搦め手でもない限り外れるわけがない。

 

無理をすれば腕が脱臼しかねないのを悟ったのかラウラは暴れるのをやめた。

まあ、確かにそれこそ腕を脱臼でもさせてしまえば極められた状態から抜けることはできたのだろうが……主旨からは大きく外れる。

結果としてはラウラの大敗といってよかった。

 

「どう? 認めてくれた?」

「…………」

 

腕をぷらぷらとしながら憮然とした顔で楯無さんを見るラウラだが、剣呑な雰囲気は消え去っており、認めているのは明白だった。

それを察したのか楯無さんは悪戯っぽい笑みを浮かべ、

 

「ありがと、ラウラちゃん」

 

と、口にした。

 

「ら、ラウラちゃん……」

 

唖然とした面持ちのラウラが数度繰り返すようにつぶやく。やや顔が赤くなっていることからすると、照れているのかもしれない。どうもラウラはちゃん付けで呼ばれるような機会は乏しかったみたいだから。

それを知ってか知らずか笑みを深くしながら、楯無さんはパンパンと服を叩きながら言った。

 

「さてっ、改めてになるけど。行きましょうか?」

「はーい!」

 

楯無さんの問い掛けに、元気よく返事をしたのはボクだけだったのが非常に恥ずかしかったです。

 

 

ところで、さっきから一言も発してない一夏くんの方を見てみると……。

ポケーッとしていた。どうも、さっきみた光景が信じられないようだ。ラウラが簡単にあしらわれたことが。

 

その点についてはボクも同意だ。ラウラは現役の軍人だから、腕っぷしについてはお墨付きともいえる。まあ、煽られて平静を失っていたのが、あっさり勝てた理由として大きいんだろうけど……ね。

 

「いくよ? 一夏くん」

 

放っておくと置いて行かれそうだった一夏くんに声をかけた。すでに他の3人は保健室から出て行っていた。まあ、一夏くんがお目当ての楯無さんが置いていくわけもないんだろうけど。

 

「あ、お、おう」

 

上ずったような声で返事をする一夏くんをちょっぴり笑うと、不貞腐れたような顔を向けてくる。外からは、はやくしろとラウラの催促がきたので、気持ち急いで彼女たちを追いかけるのだった。

 

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