「い、一夏さん? 今日は第4アリーナで特訓と聞いていましたけど」
と、第3アリーナに到着したボク達を出迎えたのは、セシリアさんからの疑問の言葉だった。ISの訓練をしていたのだろうか、ISスーツを身にまとっていた。
……といっても、ボクと楯無さん以外はみんなISスーツを着てここに集合したわけだけど。
なんでも、シャルロットさんとラウラにはちょっとした用があるとかないとか。一夏くんは訓練するわけだから言わずもがな。
「……そちらの方はどなたですの?」
まさか初対面というわけでもないだろうが、少々ムッとした様子で尋ねるセシリアさん。一夏くんにぴったり寄り添ってる楯無さんが気に入らないのだろうか。
すると、少々慌てたようにシャルロットさんがフォローをいれた。
「せ、セシリア。生徒会長だよ」
「ああ……。そういえばどこかで見たような顔ですわね」
とまあこのように、シャルロットさんのフォローは砕け散ったわけなんだけどさ。
とはいえ、チラと見れば楯無さんにそのことを気にしている様子はなかった。
――が。
「まあ、そう邪険にしないで。あ、私はこれから一夏くんの専属コーチをするから今後も会う機会があるわね」
などとのたまい始めた。薄々そんな予想がついていたボクはため息。意図まではわからないけどね……。
けれど、当然そんなことは露知らずのセシリアさんはといえば……。
「あ、え、そ、そうなの?」
「一夏さん!」
「ほう……」
ちなみに順にシャルロットさん、セシリアさん、ラウラだ。
シャルロットさんなら予想がついてもよさそうなものだったけれど、狼狽した風だ。
対してラウラは興味深そうに声をあげただけだった。
セシリアさんは凄い剣幕で今にも一夏くんに詰め寄りそう。
セシリアさんの剣幕に押されたのか、慌てて言い訳を始める一夏くんだったが、そこに更なる爆弾を楯無さんが投下。
どうも変な雲行きになってきたなあ、とボクは思わず首を傾げてしまう。そもそもの目的を忘れてやしないだろうか。
そんなボクの思いが通じたのかは定かじゃないけれど、楯無さんが口を開いた。
「じゃあ、はじめましょうか。最初は経験者の真似からね。シャルロットちゃんにセシリアちゃん、『シューター・フロー』で
ラウラちゃんに頼む予定だったけど、セシリアちゃんがいて手間が省けちゃった と、機嫌がよさそうに呟く楯無さん。それを聞いたラウラはビミョーな表情。
「私は射撃型ではないんだが……」
そんな呟きがごもっともすぎて、ボクは思わず苦笑してしまった。とはいえ、ラウラはそれ以上の文句は言うことなく口を閉じた。実際ラウラは射撃型の動きもできるんだろうしね。
そして言われたふたりの方を見やれば、なにやら怪訝な表情。
「え? でもそれって射撃型の戦闘動作ですけど」
「やれと言われればやりますが……一夏さんのお役に立ちますの?」
「えっ?」
2人のそんな返事に思わず声を出してしまうボク。2人の視線がボクに集中し、ややいたたまれない。もしかして2人とも忘れているのだろうか。
「えっと……第2形態になってから一夏くんの白式にも遠距離攻撃が追加されたよね?」
「あっ……」
「それは確かにそうですけれど……」
それでも納得いってない風のセシリアさん。うん。言いたいことはわかる。
だから重ねて言い募っていく。視界の端で楯無さんが何か言おうとしてたみたいだったけど。
「一夏くんの使える大出力荷電粒子砲はどちらかと言えばスナイパーライフルに近い、一撃必殺の火力。でも、一夏くんの射撃能力はお世辞にも高いとはいえない。だからこそシャルロットさんが忘れてたのかもしれないけど……」
ふと見れば一夏くんが胸を抑えて呻いていた。一体何が苦しいというのだろう。
「だから、あえて――」
「近距離で叩き込む」
ボクのあとを継いでラウラが言った。ふっと笑みを浮かべながらこっちを見てくる様子が、なんともいえないドヤ顔っぽさに溢れていて笑った。
「ぷっ、あはは」
「な、なんだ! なぜ笑う!」
むくれながら言うラウラを見て、更に笑いそうになるけどさすがに自重。
ともかく、これで言いたいことはわかってくれただろう。
一夏くんにこの動きが必要だということも。
「さ~すが彩花くん。言いたいこと全部言われちゃった♪」
そういいながら楯無さんは扇子を開いた。そこには『見事』の二文字。いつかに見たときは違う熟語だった気がしたのだけど……まあいいや。
ふと見ればセシリアさんとシャルロットさんは準備が済んだようだった。
「さてさて、じゃあセシリアちゃんにシャルロットちゃん。お願いしていいかしら?」
『じゃあ、始めます』
『一夏さん、どうぞしっかりとご覧になってくださいな』
楯無さんの問い掛けに2人は肯定を返して、動き始めた。正面からぶつかりあうわけではなく、円の軌道を描いてだ。字面からわかりきっていたことだとは思うけど、一応ね一応。
『行くよ、セシリア』
『構わなくてよ』
シャルロットさんが確認の意を込めて言うと、射撃戦が始まった。とはいえ、お互いに本気で当てる気があるわけでもない。そりゃあ多少は真面目だろうけど、相手を落とす試合ってわけじゃないんだから当然だ。
と、そこまで思ったところで射撃戦が激化してきた。なんでもなさそうにこなしてはいるが、きっと一夏くんにとっては未知の領域に違いない、と思いながら横目に見る。
すると、やはり予想通り一夏くんは目の前の光景に圧倒されている風だ。
そんな一夏くんに優しく諭すかのように、楯無さんは行われている動作の難解さを語った。――ついでに軽くちょっかいもかけていたけど。
そんな一夏くんと楯無さんの様子に気を取られたのか、シャルロットさんとセシリアさんは着弾。動揺のせいか、機体の制御もままならず壁に激突した。思わず心配するも、杞憂だったようで、すぐに起き上がると一夏くんに詰め寄ってきた。
なんでも、私達が真剣にやっているのに遊ぶとは何事か! ということらしい。気持ちはわからなくもないけれど、一夏くんに大きく非があるわけでもないので許してあげて欲しいものだ。
そんなことを考えながらぼんやりと目の前の光景を眺めていると、頬をぷに、とつつかれた。見ればラウラがこちらを見ていた。
「思っているだけでは意味がないぞ」
「思考を読まないで欲しいなっ!?」
ボクは相変わらず考えていることが顔に出ているらしい。
訓練も終わり寮に戻って一息。最初は憮然としていたラウラであったが、楯無さんの熱の入った指導を見て考えを改めたらしく、帰るころには特に文句はないようだった。……とはいえ、時折ふざけたような態度が見て取れるのが不満らしいけど。
しかしそれでも、曰く、篠ノ之やらオルコットやらに任せるよりはよっぽどいい、らしい。その後に慌てたように単純に一夏くんのIS操作技術が向上するという意味であって、シャルロットさんがいうような抜け掛けとかは関係ないとボクにいってきたのが、大変ほほえましい光景だったと言っておこう。
さて、ボクらの今日の本題であったシャルロットさんの用事についてだけど。部屋に集まって話を聞くと、どうも@クルーズにお願いをするとか。なるほど、確かにボクらにある伝手といったらそのくらいだろう。営業の終わる時間を考えて遅い方がいいかもしれないと言ったのも納得だ。
なお、電話番号自体は店長さんから名刺をもらっているので、それでなんとかする予定だとか。交渉は主にシャルロットさん任せで。ラウラだとやや高圧的になってしまうかもしれないし、ボクだとやや落ち着きを欠いた話し方になってしまうかもしれないからだ。ラウラはこの判断にちょっと不満げだったけれど、シャルロットさんが適任だということに異論を唱えるつもりはないようで、押し黙った。
そんなラウラが少しだけ不機嫌そうに見えたので、どうにかならないかと考えてみる。第1案は頬をつついてみる。面食らうかもしれないが、到底機嫌がよくなるとは思えない。第2案。ラウラちゃんと呼んでみる。楯無さんがそう呼んだ時には案外好感触だったのでいけるかもしれない。きっといける。
「ラーウーラーちゃん」
ボクがそんな風に呼びかけると、ラウラは一瞬びくっと肩を震わせて、次に真顔になってこちらを向くと口を開いた。
「ラウラでいい」
「えっ」
「ラウラと呼べ」
「う、うん…」
どうも逆効果だったみたいで、機嫌がよくなるどころかしょんぼりとした雰囲気が感じられた。思わずボクの返事も歯切れが悪くなってしまう。
「……せっかく呼び捨てにさせたのに、遠ざかったようで悲しいではないか……」
なんだかラウラがボソっと呟いたようだけれど、あまりに小さかったのでボクの耳には届かない。読唇することもできないわけではないけど、小声で言ったのには理由があるはずなのでそれを無碍にするわけにもいかなかった。
「えっ? あっ、本当ですか!? ありがとうございます!」
ふと、シャルロットさんの方から大きめな声が聞こえてそちらを向く。ふぅ、と気づかれを吐息に乗せてシャルロットさんは電話をこちらに差し出した。
疑問を浮かべるまでもなく、お相手はあの店長さんだろう。特に迷うこともなく受け取るとそのまま喋りはじめる。
「もしもし?」
「もしもし、彩花ちゃん?」
「お願いを聞き入れてくださったようで、本当にありがとうございます」
そういって深々と頭を下げた。いや、電話先には見えないんだけどね? どうにも性というか……ともかく、そういうことってあると思う。
「いいのよ、いいのよ、気にしなくても! あの時お店の手伝いだけでなく、ピンチも救ってもらっちゃったしね!」
あの店長のウインクする姿が目に浮かぶようだ。
「まあ……それでも気になるっていうなら軽く@クルーズの宣伝をしてもらえると嬉しいわね」
「なるほど……@マークのアップリケをしつらえるくらいなら、デザインを壊すこともないですし条件にあいそうですね」
「そのアイデアもらっていいかしら? 私達の制服に使うのもアリだと思うのよ」
そんな風に話に花を咲かせながら、ひと段落したところで今度はラウラに代わる。別に要求されたわけではないが、なんとなくだ。ラウラも嫌な顔はしていないし。
漏れ聞こえる声は、ああとか感謝している、とかやや情感に欠けていたかもしれないけど、ちょっと楽しそうだった。