さて、いよいよやってきた学園祭当日。
学園祭くらいは外部の人間を呼んでも可ということでもらった招待券があったので、蘭ちゃんにコンタクトをとってみたところ、ボクが知らせるのが遅かったせいか、すでに予定が入っていたとか。軽く聞いてみたところによると、以前祭りであった彼女たち――生徒会メンバーとショッピングでもするらしい。
だからごめんなさい、と酷く申し訳なさそうに謝ってくる彼女に、いいよいいよと軽い調子で答えたのは記憶に新しい。祭りであった時、大分当たりが厳しかったような気がするけど、やはりそこは気が置けない関係だったからか。蘭ちゃんも彼女たちを大切に思ってるんだなあと思わずほっこり。
ともあれ、そんなわけでボクが誘える相手がほぼいなくなったといって相違なかった。孤児院にいる育ての親――もとい桜先生を呼ぼうにも招待券はひとつ。子供たちを呼ぶわけにはいかず、そうなると桜先生を不在にするのは有り得ない。子供の誰か1人を呼ぼうにも1人だけというのがよくない。共同で生活している以上、特別扱いというか、1人だけっていうのは良い影響を及ぼすことは間違いなくないと思うのだ。
ということで、招待券は一夏君にあげた。彼ならば有効活用してくれることだろう。ボクと違って交友関係も随分広そうだし。……なんか言ってて悲しくなるな。ま、一夏君は弾君に渡す予定だって言ってたし、最悪弾君の男友達でも呼ぶはずだ。結局使わないよりはよっぽどいいだろう。
閑話休題。とにかく、今日は学園祭である。待ちに待った、ボクの人生初の学園祭なのである。ボクたち1年1組のコスプレ喫茶は大盛況のようだった。ちなみに、ボクの仕事は呼び込みだ。お客を呼び込む係。結論から言えば、そんな仕事は必要なかったのではないかと思うくらいの光景が眼前に広がっているわけだけれども。
チラと見れば長蛇の列。すでに2時間待ちは超えているとかいないとか。
あ、そうそう。コスプレ喫茶だけあって、ボクの恰好もコスプレである。デフォルメされた猫の着ぐるみのような衣装を着てます。担当に言わせれば、破壊力抜群の組み合わせだとか。破壊力とはいったい……。
「彩ちゃん。ちょっとヘルプお願いしていい?」
「あ、うん」
店内の厨房にて働く子からヘルプの要請。お茶請けの菓子の生産が間に合ってないのか、さっきからちょくちょく来たりもする。ならずっと厨房にいればいいじゃないかと言えば、それも難しいところで。ボクが外にいるのといないのでは、並んでいる人たちからのクレームの量が格段に違うらしい。なんだろう。働いてますよアピールは重要ってことかな。
そうそう、今更だけど手作り菓子なんてものも取り入れることにしていた。改めて聞いてみれば経験者が多かったのもあったし、武器が大いに越したことはない。
なんて愚にもつかない思考をとりやめて、砂糖の重さを計る。今回ボクのオリジナリティなんて欠片ほども求められていないわけなので、同じ味を作ることが肝要だ。ならばしっかりと分量を量り、レシピ通りきっちり作らないといけない。
私生活から結構な頻度でお手製の菓子を作っているボクの動きは、自慢するわけじゃないけど手際いい。他の人に比べれば倍ほどのスピードで動けてるのではないかと思うくらい。
もっとも、冷やしたりするのにかかる時間は手際なんて関係しないわけだから、いくら手際がよかったとしても、かかる時間はあまり変わらないわけだが。
「ありがとう、助かるよ」
「いいってことよ~」
グッと親指を立てて江戸っ子風の返事をする。それに吹き出す人が散見される。なにおう、ボクが男らしい返事をするのがそんなにおかしいっていうのか。
「ぐぬぬ……」
なんて微妙に唸りながら菓子作りに専念していると、接客の方からラウラがやってきた。
「3番。コーヒー追加だ」
「おっけー」
パパッとドリップコーヒーを入れてラウラの方へと差し出す。ボクが厨房にいるのに驚いたのか、一瞬眉をぴくりとさせたものの、さしたる動揺もなく受け取ると呟く。
「ふふ……夫婦の共同作業というやつだな」
「うん。ちょっと違うかな」
前言撤回。これはかつてない動揺具合かもしれなかった。よくよく考えてみれば、ボクと同じでラウラもこういったお祭り騒ぎに慣れているとは思えない。特有の熱気と雰囲気にあてられているのかもしれなかった。
……………………………………
さて、熱心に働くことしばらく。店内ではなんだか、一夏君が脱走したとか、代わりに楯無さんが入ったとかで、もうなんか混沌とした状況だ。楯無さんの行動はイマイチ読めないのでわからないでもない。
「はぁい、彩花君」
「どうも」
元凶来ました。見ればボク達の扱うメイド服と全く同じものをまとっている。@のアップリケが可愛らしく、楯無さんのもつ涼やかな印象と空気が見事にギャップを生み出し、酷く似合っているように思える。以上、現実逃避終了。
「騒がしいですね」
ちらりとテーブルの方へと視線をやってから、楯無さんの方へとジト目を向けて言う。
「やーん、怒っちゃやーよ」
こうして接してみるとさっき思った涼やかな印象が、錯覚だったんじゃないかと思えるくらいの茶目っ気だ。
「失礼ね。顔だけクールだなんて」
「そんなこと言ってないですよ!?」
思わず声をあげると、楯無さんはからからと笑っていた。……楽しそうでなによりですお嬢様。お嬢様じゃなくて今はメイドですけど。
「おい、そこで何をしている」
「あ、ラウラちゃん」
「くっ、だからちゃん付けはやめろと……!」
ここでラウラ登場。なにやら顔を赤くしているが、それは羞恥なのか怒りなのか。ちょっと曖昧すぎるので判断は保留しておこう。
「貴様がアイツを唆したのだろう! 責任をとってさっさと働け!」
「やーん、ラウラちゃんてばこわーい」
なんて、全く動じた風もないのにボクの方へとしなだれかかってくる。
その際口元をにやりと歪ませて、ラウラの方を一瞥するアピールも忘れない。
「なっ……」
呆気にとられるラウラを尻目に、どんどんとボクの方へと近づく楯無さん。ここのところ振り回されてきたというか、一夏君が振り回されたのを見てきたので、なんとなくやりたいことがわかる。
今回の場合ラウラを煽りたいのだろうなあ。ボクを使って。
なんて考えてため息をついてから、ひょいと楯無さんを避ける。
「あんっ」
ちょっとドキリとする声をあげながら地面へと倒れこむ楯無さん。それを見てラウラはなんだか安堵するような表情になった。
「酷いわ彩花君」
よよよとしなを作って楯無さんは言う。口元に開かれた扇子には『いけず』の文字。……熟語じゃないんですね。
なんてどうでもいいことを思っていると、ラウラがふんと鼻を鳴らした。
「自業自得だろう」
「酷いわラウラちゃんまで」
「ところで衣装を汚れさせちゃったみたいですけど、どうするんですか?」
まさか替えがあるわけでもないだろう。なんてちょっと心配になりながら問うと、あっけらかんと楯無さんは言った。
「ああ、お手伝いはこれで終わりにするから大丈夫よ」
「なっ!? 貴様、自分の犯したことの責任位は……!」
なんてラウラがいったところで一夏君が戻ってきた。そして、楯無さんはニッコリと人好きのしそうな笑顔を浮かべる。
「ね? お役御免でしょう?」
「……そうだな」
してやられたといった風にラウラが憮然と答える。滲み出る悔しさを垣間見てボクは思う。
「ホント仲がいいよね」
「そうね」
「どこがだっ!」
楯無さんからは同意を。ラウラからは強い否定をもらったのだった。