結局あの日からなにがあったのか知らないけど、クラス対抗戦まで鈴音さんが訪れることはなく、のんびりと日常は過ぎていった。その際には一夏くんが日に日に少しやつれてくところとかが気になった。よほど訓練が辛いんだろうな。みてて悲惨な気がしたよ……。
そういえばボクの専用機なんだけど、同時期に作られているISがあるらしくて製作は遅れているらしい。その機体の名前は『
別にIS作らなくてもいいからボクにコアをくれればいいんだけど……そんな我が儘をいってもしかたないし。
とりあえず、ボクのISが届くのはタッグマッチ戦終了後くらいになるらしいね。ああ、遅いなぁ。まだ結構待つことになりそうだ。
そしてクラス対抗戦当日。
ちょこーん。
ボクはそんな擬音が聞こえるかのような状態で見学席へと座っていた。
少しうずうずする。これからクラス対抗戦が始まると思うとやっぱりね。それに鈴音さんも専用機持ちだし、面白い。鈴音さんの専用機は『甲龍《シェンロン》』という名前の赤いISだ。
名前からわかる通り、というか鈴音さんも中国出身だし中国製のISだ。肩に衝撃砲を装備している。衝撃砲はビットのように宙に浮いていて、撃つ角度は360度全方位いけそうな感じだ。
対する一夏くんはやっぱりブレード一本。どうやら追加武装を白式が嫌っているらしく、装備できないと聞いた。ん~。そんなことってあるんだね。千冬先生がモンド・グロッソを制したのだって雪片一本だし、そういったことは腕で補えるのかもしれないけど。
そして、戦闘が始まった。
「はい、どうも~。再び実況の緋桜宮彩花と!」
「布仏本音だよ~」
ボクたちがこんな感じで実況? していきたいと思います。わー。どんどんぱふぱふ~。
「それでですよ本音さん、今は鈴音さんは一本の長刀みたいなものを使っていますが、あれは本当は2本なのですよ~」
「ほえ? そうなの? さーやちゃん?」
そう。今のところ鈴音さんは一夏くんと甲龍の武装の1つ、双天牙月で渡り合っている。あれはそもそも対となるもうひと振りがあってふたつでひとつの武装なのだが、鈴音さんはまだ出していない。一応1本だけでも運用できるようにはなっているらしいけどね。
そしてさーやというのは本音さんがつけたボクのニックネームだ。彩(さい)のさと違う読みをした時の彩(あや)というのを繋げて作ったらしいです。ボクにちゃんづけなのは随分昔からだからもう気にもならない。
「そうなんですよ~。あれは2本で1つのような武装でして~。あ、もう1本出しましたね」
「ほんとだね~」
鈴音さんがもう1本の双天牙月を出し二刀流となり、一夏くんと斬りあっていく。ボク視点としては一夏くんが押され気味かな? と思う。なんせ鈴音さんも国家代表なんだ。その地位に昇り詰めるためにしたであろう努力は計り知れない。それは一朝一夕に追いつけるようなものではないはずだ。
「でもでもおりむーもよく戦ってるよ~」
「そうですね~。あ、鈴音さんの衝撃砲が直撃しました…」
「おりむー!」
のほほんさんが叫んでいる。いや、さすがにネタだってわかってるけど。……? 顔が結構真剣に見えるのは気のせいだろうか? 気のせいだよね。うんきっと。
「一夏くんは多分結構SE削られたと思います~」
「やっぱりそうなのかな?」
それにしても一夏くん凄いなぁ。衝撃砲の砲台が向いてる角度を気にして避けてるようには思えないけど…随分避けている。これも一種の才能だろうか、直感といった類の。
「あ、一夏くんが何かを狙ってるみたいです。ちょっと動きが変わりました」
「んむ? 確かにさっきとは少し変わったような気がするね~」
「一夏くんの顔を拡大してみますんで見てみてください。……口角が少しつりあがってますね。きっと何かこの状況をひっくりかえせるようなものがあるんでしょう」
「へ~。おりむーやっちゃえ~!」
ボクと本音さんでぱふぱふと一夏くんを応援しつつ実況する。鈴音さんには悪いけど一夏くんはボクたちのクラスの代表だから仕方ないんだ。それで、周りの人たちがそんなボクたちを温かい目で見守る。
――なにやってるんですか! みなさんもやるんですよ? さあ!
みんながそれぞれ応援道具をもちましたとさ。
女子生徒一同「「「あのかわいさは反則だよ!!」」」
一夏くんが攻撃を避けたり弾いたりしつつ隙を窺い、それができたと思ったところで…
ズドーン!!
何かが上空から飛んできて地面を穿った。
「……ッ! アリーナの遮断シールドが破られたみたいですね」
「え? さーやちゃんはどこいこうとしてるの?」
ボクに不穏な空気をかんじとったのか本音さんがボクに問うてくる。
「ボクはちょっと下に降ります。時間がないのでこれ以上は!」
そういうとボクはフィルターが閉まる前にアリーナから飛び降りる。アリーナの遮断シールドは飛来物が破ったので問題ない。すぐ張り直されるだろうけどね。飛び降りるボクにクラスのみんなが手を伸ばしてくるけど…。
みんな、あとできっと謝ります。
さすがに手は届かない。落下するボクは宙でコンソールを操作。量子化してある武装…とはいえないけれど盾のようなものを空中で展開して、足場とし着地する。今の科学力では量子化というのは何もISに限った話じゃない。それの応用でボクみたいなことも一応可能だけど、多分やれる人はいないと思う。
そしてボクは落下した飛来物を視認する。
「あれは……IS……?」
それはどうみてもISだった。ボクたちが使うISとは随分違った雰囲気を纏っているが、間違いなくISだと直感がささやいている。
そんな時、閉まったフィルターからボクは異変を感じた。多分避難できないのだろう。こんな緊急事態なのだから扉が閉まることもあるのかもしれない。
「……1ヵ所だけ開ける」
ボクはIS学園にかかったロックを1ヵ所解除するためとりかかる。全体の解除ともなると相当時間がかかってしまうし、それだとボクがあの時予感を感じて降りてきた意味がない。
「っ…出来た…」
~モニタールーム~
「LEVEL4でロックされた扉が1ヵ所開きました!」
「何!? 3年の精鋭がシステムクラックをしても解除できないんだぞ!?」
山田真耶の報告をうけ、珍しく織斑千冬が狼狽した声をあげる。それはそうだろう。3年が数人がかりでやっている作業が突然1ヵ所限定ではあるが解除されたのだ。むしろ相手側の罠かと思ってしまうほどの。
「近くにいた生徒が避難してきます!」
「くっ! 私はまず避難する生徒の誘導にいってくる!」
そう言い残すと千冬は1ヵ所だけ開いた扉の方へ急ぐ。
(なんだ……!! なぜ開いた…!? 誰が…どうやって? 私の頭の中で思いだされる顔は…)
「……誰がこの扉を開けたのでしょう…?」
真耶は戸惑う。この厳重なロックを、かけられてから大して時間も経っていないのに解除するとは信じられない。それこそ、ここにいる誰1人として無理だろう。
「本当に一体誰が……」
~緋桜宮 彩花~
ボクはISを視認すると急いでデータへの侵入を試みる。
――まず基礎データ……入手完了。無人ISか……。
そしてボクへの認識能力……削除完了。ボクへ攻撃されたら守る手段がないからこの処置をとる。さすがに盾を張るのは無理だ。相手の力も未知数なのにそんなことをして盾が破られたら死ぬ。自殺行為だ。
「無人だとわかれば……」
ボクはどこかまだ目覚めきっていない頭をつかいながらISの制御権を奪おうとする…
~篠ノ之 束~
「さって、いっくんの白式はどうかな~?」
そういうと私はモニターを見る。すると何かがおかしい。私のゴーレムⅠが……? そして私が送った無人機『ゴーレムⅠ』に異常が起きているのを確認する。誰かがゴーレムに干渉しているのだ。
その何者かは凄い速さで無人ISであるゴーレムの制御権を奪っていく。それはもう50%を超えており、このままいけばすぐにでもゴーレムの機能は停止するだろう。
「この束さんへ逆らうとはね…」
そういうと私はこの無粋な
~緋桜宮 彩花~
「今80%…! もうすぐ終わらせられる…一夏くん、鈴音さん!」
ボクの視線の先では激しい戦闘が起きている。それはさっきまで戦っていた一夏くんと鈴音さんが共闘して、無人ISを抑え込んでいるのだ。
「あと少し……えっ!?」
あと少しのところで誰かから邪魔が入る。それはボクのコントロールを奪い返し妨害してくる。その手際は見事と言わざるを得ない。おかげでボクの制御権奪取もまったく進まず、むしろ少しずつ奪い返されていた…
~篠ノ之 束~
「なんなんだよこいつはっ! この束さんと張り合うなんて…!」
私は予想外の展開に戸惑っていた。私が介入したことですぐ制御を奪い返せると思っていたのだが、現実は違った。
私が出した妨害に悉く対応し、さらには制御を奪いあいつつ妨害をこちらに送ってくる手際…。そしてIS自身のハックを防ぐ能力でやっと少しずつ制御を奪い返せるこの高い能力。
侵入者の腕はともすれば自分と互角に至れるレベル……いや、もしかすると上かもしれない。私は今までそんな人と会ったことなどなかった。それが私の実験に乱入してきて、邪魔をする。
モニターを見ている暇などない。侵入者への対応で手一杯だ。幸いモニターしているものは、同時に保存もしているから大丈夫ではあるが。
「私と同じ位置に立っている人……」
私はこの侵入者に興味を抱くのを感じた。
そしていっくんが戦いを収束させていくのがわかる。
「…次は……」
~緋桜宮 彩花~
「なんなの!? この人は…!」
制御は70%まで奪い返されていた。この作業は100%までいかないとボクからの指令は出せない。だから速度重視のこの作業の中で、拮抗されること自体もう負けのようなものだ。
相手はたまにボクへの射撃命令を送る。この指令がとどけばそれは死を意味する。ボクは必死になってその伝達が届く前に遮断する。
――このハイレベルな戦いについていけるものなど、この2人以外には存在しないだろう――
ボクは必至に頭を巡らし、回転させる。頭が疼き、目に違和感を感じ始める。すると、さきほどまで負けていた制御権奪取の戦いが徐々にこちらが押せるようになった。理屈はわからない。だが、今更そうなっても奪いきるのは難しい。せいぜいが1分やって0,5%くらいであるためだ。
そんなボクたちの戦いは唐突に終わりを迎えた。
目の前で起きている戦闘に変化が起きたのだ。一夏くんがおそらく単一仕様能力を使い、形勢が動いたのだろう。
――だが、視線の先に一夏くんを狙う無人ISの姿が見えた。ここから声をかけても届かない。
そう頭では理解しても口を開きかけたとき、一筋の光が貫いた。止めをさしきれていなかったところにセシリアさんが追い討ちをかけたのだ。崩れ落ちるIS。ボクはそれを確認するとほっと息をついた。
…行っていた大部分への侵入が、破壊され弾かれたところをみて、ボクは油断していたのだろう。――だからまだ完全には止まっていない無人ISに気づかなかった――
唐突にボクの視界を大きな光が埋め尽くした。
この高出力の砲撃がさっきの無人ISだということは、明らかでボクは半ば無意識的に体を動かした。
この出力にはどう考えても太刀打ちできないことはわかっているけれど、量子化されている盾を復元する。ボクがこれを使わなかった理由は出力以外にもある。これが攻撃で押されてボク側に倒れてきた場合、ボクには止める手段がない。だからこれはない手段として考えていたのだけれど……。
「あ……あぁぁぁ!!」
ボクはここからさらに入力を開始する。その指令をうけボクの神経回路が焼き切れんばかりに活動。バチバチと脳内で火花が散るような錯覚と、それにあわせて赤く明滅する視界。
盾を指定。読み取り、全く同じデータを入力、複製、展開。それを繰り返しガード可能な水準まで達する。
無人ISから放たれたビームは、盾の最後の一枚を残して完全にその威力を失った。そしてその最後の一枚も崩れ落ちる。
ほとんどの盾は完全に消滅したとはいえ、最後の盾から散らばる破片は止められそうもない。目の前に迫る硬質の塊。そしてボクは最後に思う。
束・彩「「次は……負けない」」
そう呟くとボクは意識を失った。