鋼鉄の迷宮(アンダーエリア)   作:魔人ボルボックス

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第二章 未知の迷宮(アンダーエリア) —4—

「――何よ! 何よ! 何よ! 何よっ!!」

 

 苛立ちを発散させるように何度も毒づきながら、シスカ・クロップフェールは迷宮の通路を単独で駆け抜ける。

 

 片手には刃の納まった『アンチマテリアル』。光剣を伸ばしている最中は、内蔵されたアルネタイトのエネルギーを常に消費し続けるため、ゴーレムが現れるまでは抜き身にしない。

 その柄にはエネルギー残量を示す縦バーがついている。先ほどのゴーレムとの戦いで使ったせいか、バーの目盛りはほんの少しだけ下がっていた。

 

 相手はラージゴーレム。用心はし過ぎるに越したことはない。できればアルネタイトの交換をしておきたかったが、それをするとなると少し時間がかかる。その間にもラージゴーレムはこちらへ接近するだろう。

 

 ――いや。そんな理屈は自分を守るための建前だ。

 

 今の自分は、自分でもはっきり分かるほど頭が熱くなっていた。

 

「何が「あなたの方が「特別」に相応しい」よ!!」

 

 ムカつく。ムカつく。ムカつく。ムカつく。ムカつく。

 

 どうして、あんな施すような言い方をされなければならないのだ。

 

 そんなに、自分は哀れに映るのか。

 

 自分が長い年月をかけて勝ち取ったものを、詮無いことのように一蹴されたような気がして、シスカは腹が立っていた。

 

 しかもそれを、ポッと出の分際であの人に特別扱いされた輩に言われたのだから、ますます癇に障る。

 

 確かに、他の者から見れば滑稽に取れるかもしれない。

 

 だけど、自分はそれに命を懸けたんだ!!

 

「バカにしないでよっ!! あんたにそんなこと言われなくたって、あたいはあたいの手で掴み取ってやるわよ!! 今までみたいにっ!!」

 

 ならば――もっと「特別」になってやる。あのひよこのような男の事なんか塗り替えられるほどの「特別」に。

 

 ラージゴーレムを見るのは初めてではない。マキーナに付き従っている間に何度か見たことがある。

 

 そして、その内に数回を――マキーナは単独で撃破して見せたことがある。

 

 自分もやってみせる。自分も単独でラージゴーレムを倒してみせれば、あの人ももっと認めてくれるはず。褒めてくれるはず。

 

 幸い、自分の『アンチマテリアル』は、ラージゴーレムの強固な装甲にも効果があった。普通のゴーレムのようにサクサクとはいかないが、それでも傷を付ける事はできる。

 

 それに、自分にはクラムデリア兵器術で鍛え上げた『軌道予測能力』がある。

 

 圧勝とまではいかなくとも、苦戦の末に勝利を掴むことはできるかもしれない。

 

 やってやる。

 

 やってのけて、あの人に頭を撫でられながら、優越感に満ちた目であいつを見てやる。それで溜飲を下げてやる。

 

 駆けるシスカの足取りがさらに速さを増し、風圧が蜜柑色の前髪を撫でる。

 

 一定リズムを刻む地響きは次第に大きくなり、やがて大きく広がった空間に出た事で――それを足音として発していた存在の全体像が明らかになった。

 

 それは、全長十メートルを優に超える鋼鉄の巨人。

 大木のような太さを持った両足は、車輪のような膝関節でつなぎ合わせられている。

 胸の中央に緑色の円い結晶のはまった、巨大な卵状の胴体。その両端から伸びる腕は、上腕部から下が翼のように平べったく肥大していた。

 そして、その(いただき)に乗っかった球状の頭部は、中央の大きな緑の単眼と、その上から突き出た一本角以外何もないシンプルなデザインだった。

 

 間違いない――――ラージゴーレムだ。

 

 人間型がベースだろうが、人間にはない特徴がちらほら見られる。従来のゴーレムはオリジナルの動物や昆虫に似せた姿形をしているが、ラージゴーレムはそれらとは一線を画した完全なる異形である。

 

 そんな怪物はシスカを見つけると、まるで敵意を表すかのように、単眼と、胸の結晶を赤く発光させた。

 

 シスカは全身をゾクリ、と震わせる。

 

 ラージゴーレムとの戦闘経験はあるが、それは常に他の三人と一緒の時に限られていた。

 

 今はたった一人。

 

 はっきり言って、心細かった。

 

 やはり、自分は無茶なことをしようとしているのだろうか。

 

 ならば、誰かの手を借りるのか?

 

 だが今このあたりには――自分以外の冒険者はあの男しかいない。

 

 シスカはブンブンとかぶりを振った。

 

 ――あいつの手を借りるのだけはごめんだ。

 

 その憎たらしい顔を思い浮かべたことで、ムカムカとした衝動が胸を駆け上ってくる。その思いが、翳りを見せていたシスカの闘争心を再燃させた。

 

 ラージゴーレムに向けていた畏怖の眼差しを、敵意のソレに変える。

 

 それに示し合わせたかのように、遠く離れた場所に立つラージゴーレムが翼のような両腕で身を掻き抱くと――羽ばたくように一気に左右へ振り抜いた。

 

 そして襲い来る「ズアッ!!」という強風。

 

「うっ……くっ……!」 

 

 大型台風のごとき風圧にさらされ、シスカは飛ばされぬよう懸命に下半身を踏ん張らせた。蜜柑色の前髪が額を露わにするほど後ろへ流れる。

 

 それだけでもいっぱいいっぱいだったのに、さらに真横から――何かの「前兆」を感じた。

 

 感知したのは、クラムデリア兵器術の修行で培った『軌道予測能力』――周囲の事象の「前兆」を読み、その事象がこれから通るルートを明確に予測する第六感。

 

 それを裏付けるように、その「前兆」がこれから通るであろうルートが頭の中に投影された。

 

 そのルートの到達点は――自分の右脇腹!

 

 自分の右側に直径三十センチほどの光球が現れたのと、『アンチマテリアル』の刀身を伸ばしたのは、同時だった。

 

 普段なら難なく避けてやるところだが、今は強風に煽られている最中だ。下手に動けば吹っ飛ばされて隙ができる。

 

 ならば、手だけを動かそう。

 

 予測ルートの先端と重ねる形で、シスカは迅速に光剣を構えた。

 

 飛んできた光球と剣が重なり、「ジュアッ!!」という激しい焼け音。光球は空間に溶けるように消滅。

 

 初撃をなんとか防いだところで、ようやく風は収まった。

 

 だが、本番はこれからだ。

 

 シスカは光剣を伸ばしたまま、猛然とラージゴーレムへ向かって行った。

 

 ただでさえ巨大な姿が、近づくたびにさらに大きく視界に映る。

 

 そして、満天の星空のごとく、空中に幾つも現れる「前兆」。

 

 そのおびただしい数にギョッとしながらも、シスカは飛んでくる無数の光球をダンスのように躱し、時に剣で弾く。

 

「ぐっ……!」

 

 たまにいなしきれずに直撃し、シールド装置のエネルギーを少量消費する。

 

 だが、怯まず進撃を続ける。

 

 やがて、光球が止む。

 

 今度は頂点に乗った単眼から「前兆」を感知する。

 

 それに追随して現れた「予測ルート」の幅は、光球のソレよりも広かった――光球よりも広範囲な攻撃を、あの単眼から放つつもりだ。

 

 シスカは電撃的な速度で全身に指令を与え、「予測ルート」の範囲内から飛び退く。

 

 そして、そのルートに沿う形で――太い閃光が走る。

 

 閃光はあさっての方向へ伸び、それが到達した遥か後ろの壁から、凄まじい轟音とともに積乱雲のような巨大な爆炎が膨れ上がった――レーザー砲だ。

 

 その光景に一瞬、圧倒されるが、それでも足だけは動かし続ける。

 

 ラージゴーレムは自分に余裕を与えてはくれず、容赦なく次々と攻撃を仕掛けてくる。

 

 自分の周囲のあらゆる位置、そして単眼から、アクロバティックに次々と生み出される「前兆」、「予測ルート」。

 

 シスカは決死の思いでそれらをあしらいながら駆ける。

 

 あまりの激しさに時々被弾し、シールドエネルギーが小刻みに減っていく。だが決定打は避けているため、まだ半分以上は残量があった。

 

 しかしそれでも、自分の命を守る鎧が着々と剥がれつつあるのは確かだ。楽観はできない。

 

 自分とラージゴーレムの距離が、いつまでたっても遥か彼方のように思える。

 

 だが、走り続ける。

 

 自分には剣しかない。そして、それを当てるには接近するしかない。

 

 余計なことは思考しない。考えるのは「決定打を躱しながら、ラージゴーレムの懐へ突き進む」という、たった一つの事だけ。

 

 あと少しだ。

 

 ――届け! 

 

 ―――届け!! 

 

 ――――届け!!!

 

 そして――剣士にとっての天国へ片足を踏み入れた。

 

 ゴーレムの腕の射程圏内。

 

 単眼がキラリと光る。

 

 次の瞬間、ラージゴーレムの翼のような左腕から「前兆」と「予測ルート」を感じ取った。

 

 自分の首を狙っていた。

 

 あの薄く広がった腕でなぎ払えば、人間の首くらい簡単に斬り落とせそうだ。

 

 シールド装置のエネルギーはまだ残っているためそうはならないだろうが、それでも消費は惜しい。

 

 やがてラージゴーレムは、左腕を内側になぎ払ってきた。

 

 シスカは軽く身をかがませ、それを回避する。真上にものすごい風圧と存在感が素通りした。

 

 振り抜かれた巨大な左腕の存在を確認してから、シスカは体勢を整える。

 

 しかし、それで終わりではなかった――ラージゴーレムの左腕から再び「前兆」が生まれる。

 

 そこから導き出される「予測ルート」は、今度は自分のヘソのラインを指していた――往復する形で斬りかかり、胴を割るつもりだ。

 

 それならば――シスカは速攻で策を練った。

 

 元来た方へ戻す形で、ラージゴーレムは再度左腕を振り出した。

 

 シスカはタイミングを見計らって、胴体が地面と向かい合って並行になるように跳び上がり――真下へ光剣を突き出す。

 

 そして、その光剣の伸びた場所へ――刃と化した巨大な左腕が吸い込まれるように入っていった。

 

 光剣は左腕の表面を端からジジジジジ!! と駆ける。

 

 そして、自分の真下を通過した時には――左腕の半分以上が綺麗になくなっていた。

 

 その斬り取られた部分が、床へ「ガパンッ!」と並行に落下。その断面は未だ赤く熱を持っていた。

 

 シスカはその上へ着地し、口の端を歪める。

 

 斬れた。斬ることができた。

 

 一番装甲の薄い腕の部分だが、それでもこの刃が届き、手傷を負わせられたのだ。

 

 ――斬れた。自分にも。ラージゴーレムを。あの女(ひと)のように。

 

 そう感じた途端、シスカは胸が踊った。

 

 やっぱり自分は強い。あれだけ修行を積んだのだ。強くない訳が無かったのだ。

 

 やはり自分の方が、あの人の隣に相応しい。あんな愚鈍な男よりも、よっぽど。

 

 気が大きくなったシスカは接近し、さらなる追撃を試みようとした。

 

 ラージゴーレムの単眼と、胸の円い結晶が強く光を発し始める。

 

 そして、その二つの中間の位置に「前兆」が新たに生じた。

 

 どんな攻撃を仕掛けても無駄だ、あしらってみせる――そんな威勢の良さは次の瞬間、一気になりをひそめることとなった。

 

「――へっ?」

 

 シスカの表情が凍りつく。

 

 いつもなら、その「前兆」から「予測ルート」が導き出され、そのルート上から離れることで簡単に回避が可能だった。

 

 だが、今回の攻撃はそれができない。

 

 なぜならば――、

 

 

 

 「予測ルート」の範囲が――――ありえないほど広かったからだ。

 

 

 

 「予測ルート」は、ラージゴーレムの前方に広がる大きな空間の八割がたを埋め尽くしていた。

 

 そして自分は、そのほぼど真ん中に立っていた。

 

 我に返ったシスカは、急いで右へ飛び退こうと試みる。右の方がルート外に比較的近かったからだ。

 

 だが、少し遅かった。

 

 「予測ルート」の右端まで来た瞬間――強烈なフラッシュ。

 

 巨大なエネルギーの激流が、シスカごと部屋の大半を埋没させた。

 

「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 想像を絶する力を全身に浴び、シスカの五体がとんでもない勢いで押し流された。

 

 滅茶苦茶な転がり方をしながら激しく後方へ煽られる。

 

 やがて最初に予定していた右側からエネルギー波の範囲外へと弾き飛び、壁に背中から激突してようやくストップした。

 

 強烈なエネルギー波はしばらく流動を続けると、やがて火を消したように収まりを見せた。

 

「う……いった……っ」

 

 床に尻餅を付いたシスカは、全身を襲う鈍痛によろめきを見せる。

 

 だがそれはラージゴーレムの攻撃によるものではない。それについてはシールド装置が守ってくれたみたいだ。全身が痛いのは、変な転がり方であちこちを打撲してしまったからだろう。

 

 シスカはバックルのシールド装置にあるエネルギーメーターに目を通した。

 

「…………うそ」

 

 そして、全身がこわばった。

 

 多少減りはしていたものの、まだ半分以上残量があったはずのシールドエネルギーが――0になっていたのだ。

 

 そんな馬鹿な。何かの間違いではないのか――そう思い、再び慌ててメーターを見るが、その針は一番下の目盛りをはっきり指し示していた。

 

 エネルギー波を浴び続けていた斜め左の壁に目を向けた。

 

 なんと、壁面が――微かに溶けていた。

 

 迷宮の外壁、内壁は、非常に硬く、そして高い融点を持った金属だ。これに関しては『アンチマテリアル』でも傷一つ付けられない。

 

 それがこんな有様になる時点で、先ほどの攻撃の威力がうかがい知れる気がした。

 

 これほどの威力なら、半分以上残ったシールドエネルギーを一気に枯渇させることなど容易いのかもしれない。

 

 などと考えている時間はなかった。どういう理由であれ、エネルギーがなくなってしまった。

 

 それはつまり――自分を守ってくれる鎧はもうない。次の攻撃をまともに受ければ、確実に死に至るということ。

 

 予備のアルネタイトを持ってきているためエネルギーの補給はできるが、装填までに時間がかかるため、今からやるのでは間に合わない。

 

 ゴーレムの地響きのような足音が、ゴウン、ゴウンと近づいてくる。

 

 シスカは焦りと危機感を抱きつつ、一度撤退してエネルギーの補給に取り掛かろうと立ち上がったが――

 

「――うぐっ!?」

 

 右足首に激痛が走った。

 

 まさか――さっき捻ったっ?

 

 もう一度右足に重心を乗せるが、やはり痛い。

 

 これでは走るどころか、歩行すらおぼつかない。

 

 地響きがすぐそこまで近づき、自分の体内にまでその振動が伝わる。

 

 すぐ目の前に――ラージゴーレムの巨体がそびえていた。

 

 その巨体は、間近で見ると余計に大きく映る。

 

 雲まで届きそうに思えたが、それはきっと自分が感じている威圧感で補正されているからだろう。

 

 そして、その頂点にある紅い単眼は――自分をはっきりと見下ろしていた。

 

 

 

 ――手詰まり。

 

 

 

 そんな言葉が頭に浮かぶ。

 

 手詰まり。潮時。負け戦。それらの言葉は、自分が一番出したくない類の言葉であるはずだった。

 

 だが、出さずにはいられなかった。今の自分はまさに、そうとしか思えない状況に立たされてしまっているのだ。

 

 そして、それを招いたのは、他でもない――自分の馬鹿さ加減だ。

 

 恐怖は感じない。それどころか諦観すら抱いた。

 

 あの少年の事を未熟者だのなんだのと罵ってきたが、自分だってれっきとした未熟者だった。

 

 なのにそんな身の程もわきまえず、ただ意地と衝動で蜂の巣を突っつきにいった結果がこれなのだ。

 

 冒険者バッチ取得試験のことを思い出す。

 

 危険な迷宮探索において、冒険者は常に冷静であれ――それを基本として教わったはずだ。

 

 そんな基本的なことすらできない自分が、あの少年に向かって偉そうに威張り散らしていたのだ。なんと滑稽か。

 

 省みるべきは、自分自身だったのだ。

 

 そんな愚か者に相応しい末路といえるだろう。

 

 ラージゴーレムの単眼が光を発し始める。

 

 今こいつの攻撃を受ければ、自分は確実に消し炭になるだろう。いや、下手をすれば跡形もなく消滅するかもしれない。

 

 せめてもの抵抗として、最期の瞬間まで決して目を閉じない。

 

 でも――ある人物の顔が脳裏をよぎる。

 

 ずっとずっと憧れで、そして今も敬愛してやまない、一人の女性。

 

 あの人のようになりたい。あの人と並んでいろんな景色が見たい。そう思って今まで頑張ってきた。

 

 今死んでしまえば、そのいずれも叶わなくなってしまうだろう。

 

 

 

 最期の最期で――――生きたいと思ってしまった。

 

 

 

 だが、目の前の現実は実に無慈悲だった。

 

 ラージゴーレムの単眼が、やがて灰に帰さんとばかりに燐光を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『衝拳(マキシマムストライク)八倍(ライジング:エイト)』ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岩盤を粘土のように打ち砕くほどの威力を秘めたオルカの右拳が、ラージゴーレムの右足へ勁烈に叩き込まれた。

 

 足を破壊することは出来なかったが、真横から突然強い衝撃を受けたためか、ラージゴーレムはバランスを崩してその巨体を大きく横へ傾けた。

 

 それから素早くシスカの元へ駆け寄り、

 

「――クロップフェールさん、失礼します」

「へ……? きゃっ!? ちょ、ちょっと!?」

 

 返事も聞かずに半ば無理矢理その体を担ぎ上げ、全速力で走り出した。

 

 後ろでゴシャアァァァァ!! と横転したラージゴーレムを一旦無視し、出せるだけの速度で急いでその場から走り去る。

 

 元来た道を戻り、曲がり角を曲がってすぐの所の壁際にシスカを下ろした。

 

「あ、あんた何しに来たのよっ!? 待ってなさいって言ったでしょ!?」

 

 予想通りの反応というべきか、早速彼女は食ってかかってきた。

 

「……ごめんなさい。でも、やっぱりほっとけなくて」

 

 オルカは申し訳なさそうにそう告げてから、今度はキッと表情を引き締めて口を開いた。

 

 

 

「クロップフェールさんはここで休んでて下さい――あのラージゴーレムはボクがなんとかします」

 

 

 

「は……!?」

 

 シスカは一度信じられないとばかりに口をあんぐりさせてから、

 

「あ、あんたバカ!? 正気なの!?」

「正気です」

「一瞬で殺されるわよ!? ここはおとなしくあたいに任せなさい!」

「足、くじいてるんでしょう?」

「…………う」

 

 殺し文句を言われて、シスカは押し黙った。

 

 そんな彼女に、オルカはダメ押しに優しく微笑みかけ、言った。

 

 

 

「ボクなら大丈夫です。クロップフェールさんはここで休んで、シールド装置のエネルギーを補給しててください」

 

 

 

 答えを言われる前に、オルカはさっきの場所に駆け戻った。

 

 後ろから「ばかー! 待ちなさい! 殴るわよー!」と罵声が聞こえてくるが、無視。

 

 オルカは走りながら、両手を包む『ライジングストライカー』についたエネルギーバーを見た。

 

 左手はともかく、右手は先ほど「八倍(ライジング:エイト)」を放ったことで、フルに等しかったエネルギー残量がガツンと減っていた。

 

 だが、それでもまだ十分ある。

 

 シールド装置のエネルギーも満タンだ。

 

 今はこれでいい。

 

 そして細い通路から、ラージゴーレムのいる広い空間へと飛び出した。

 

 すでに起き上がっていたラージゴーレムは、転ばせた本人である自分を見ながら、まるで怒っているように単眼を一層激しく赤熱させていた。

 

 生まれて初めて見る鋼鉄の巨人は異様な威圧感を放っており、長大な身長以上の何かを感じさせた。

 

『ボクなら大丈夫です。クロップフェールさんはここで休んで、シールド装置のエネルギーを補給しててください』

 

 先ほどのセリフが脳内で再生される。

 

 ――大丈夫な訳が無い。

 

 正直、怖くて怖くて怖くて怖くてたまらない。

 

 今だって、四肢がブルブルと笑っている。

 

 逃げ出せるものなら、速攻で逃げ出したかった。

 

 でも――それはできない。

 

 今、この場で戦えるのは自分だけ。マキーナ達が駆けつけるのを待っていたら、その前に手遅れになる可能性は否定できない。

 

 逃げようにも、負傷したシスカを担げばどうしても遅くなるだろう。そこを狙われたら終わりだ。

 

 どのみち自分がやらねば、二人ともこいつに虐殺される。

 

 倒す事はできなくとも、マキーナ達が来るまで時間くらいは稼がねばならない。

 

 やらねばならない、いや――やってやる。

 

 恐怖心を内に留めるように大きく息を吸い込み、そして、震えた声で喧嘩を売った。

 

 目の前の――鋼鉄の鬼人に。

 

 

 

「来い――――お前の相手はボクだ! 鳥人間っ!!」

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