シロウサギの奮闘記 作:矢鱈
Ver.1.1
ところで皆さん、獣人という言葉はご存知だろうか?
現実にはいなく、空想上の生物である。その名の通り、獣と人のハイブリット。
獣人と聞いて思い浮かべる姿は、全身獣の毛で覆われた人の形をした動物か、耳と尻尾が生えた所謂、萌え!な感じの女の子か……どちらを貴方は浮かべるだろう。後者を思い浮かんだ貴方は同志だ、握手。
しかし、今回はその人に違い耳と尻尾を持った獣人じゃなく、全身毛だらけのモフモフの方を浮かべてほしい。
ウサギな、白いウサギが二足歩行をしていて、指は五本ある。ウサギな。それを思い浮かべてほしい。
それが今の俺の姿である。
俺は所謂転生者。
転生だからって必ずしも人間になるとは限らない。まぁ、気づいた瞬間には驚いたけど、生きるのに必死だったからな。
何せ、身内もいない、ここが何処かわからない。家もない、ホームレス。
自慢の脚力と腕力で金もないから盗みも働き、薄い毛布で包まって寝る生活。
こんな生活を一ヶ月ぐらい続けている。ウサギなのに成長が遅いのなんの。多分一年経てば、大人サイズになると思う。今は子供サイズだけど。
そうそう、最近見つけたゴーグルがとっても良くてな、調節すると遠くが見えるんだよ。しなかったら普通の目を防ぐ物だけど。
って、それはどうでも良いんだよ。俺の姿もな?問題は。
この世界のことである。
この街で生活してきたが、自分が獣人なのに他にはいない。人間だけだし、俺の姿を見て驚いているぐらいだ。おかしい。これはおかしい。
獣人だから差別というわけではない。人間達が獣人という存在を知らないようだった。だって俺の姿見た第一声が、「うわっ!ウサギが喋ってる!」だぜ?獣人を知っていたらこうはならない。
この世界の事を俺は知っている。善良な市民達が暮らしていて、それで海軍がいて、海賊がいる世界。様々な建物の壁に貼られる手配書。どう見てもあのONE PIECEの世界だ。
そりゃ獣人の存在知らんわな。
スリラーバーク編までONE PIECEはアニメで見ていたんだが、獣人らしきことは出ていなかった。この世界にいないと見ていいだろう。多分。
………………という現実逃避は置いといてだ。
いつも通り、裏路地で見つからないように寝ていたハズだった。薄っぺらい布に包まり寝ていたハズだった。
「船長!またそんなものを拾って!」
「あァ?いいだろ、別に」
「どうせモフモフだからでしょ!拾ったの!ベポがいるじゃないですか!」
「いや、ベポとは違う系統の毛並みだ」
「そういうことを言ってるんじゃないです!!」
目が覚めたら細身の男と“PENGUIN”と書かれた帽子を被った男が言い合ってました。
どうなってんだよ、と嘆く暇もなく。只々、目玉が飛び出んばかりに目を見開いて、驚いて、慌てて起き上がり戦闘体制を取る。ゴーグルしかつけてないし武器もないが、大人一人は倒せる腕力と脚力はあると信じてる。もしこいつらが戦闘に慣れていたら、ヤバイが。
「あ、起こしちゃいましたかね?」
「ペンギンが大声出すからだろう」
「え、おれのせいです?」
帽子の方はペンギンと言うのか……実に分かりやすい。そう意味がわからない納得をしていると、細身の男の方がこちらへ寄ってきた。え?この人デカくない?俺がまだ子供サイズとは言え、この身長はないでしょ。一体、何センチなんだ……。
俺がこの男性の身長のデカさに驚いていると、男性は少し屈んで俺と目線を合わせてきた。眠たそうなその切れ長の金色の目はしっかりとこちらを見据えている。
「起こしちまったな。傷の具合はどうだ?」
傷?傷なんてした覚えないけど?
そう首を傾げると男性は悲しそうな雰囲気を出したが、それもほんの一瞬で、男性は俺の身体を指差した。俺も警戒しながらも目線を動かし、そこを見ると包帯が巻かれていた。
「切傷があった。確実に刀傷だ、それも無数に」
言外に何があった?と聞いてくるその人は少し怒っているようだ。
刀傷……あぁ、確か山賊と戦った時だ。山賊は海賊より弱いとは言え、一応賊であり戦いに慣れている。倒せたが、その代わり山賊が持っていたサーベルによって何度か斬りつけられた気がする。多分、その傷だろう。
「……詳しくは聞かねェ。だが、傷が完璧に治るまでここにいろ。生憎、医療器具は揃ってるんでね」
どうやら医者らしい。それも完治するまで逃さないタイプの。
スクッと立ち上がると、その男性はペンギンさんに幾つか指示をしてから部屋を出て行った。というかこの部屋、医療室か。周りには何もないけど、消毒液の臭いがキツイ。
すんすんと鼻を動かしながらも、自分の身体をペタペタと触る。毛もあるからなんだか包帯がむず痒くて、掻きそうになるけど我慢をする。傷が悪化すればあの人は怒りそうだ。
「ごめんな。船長、気まぐれだから」
自分の身体から視線を上げ、ペンギンさんを見る。目元は帽子の影で見えないが、その口元は苦笑していた。
ジッとその顔を見ていると何を思ったのか、側にあった椅子を持ってきて俺の目の前に座る。俺は立ち上がった状態から座り、サラサラのシーツを被り直す。所謂病人状態……怪我兎だけど。
「船長の言う通りに絶対安静だから。思ったより深いからな、その傷。何でそんな傷作ったのかは知らないけど、ほっとくわけにもいかなかったと思う。船長、優しいからな」
気まぐれで優しい船長らしい。
どうやらあの男性はペンギンさんの船長で、ここは船の中。しかも潜水艦だと。
潜水艦……うん、潜水艦だぞ?かっこよくない?
この船が潜水艦だと教えてくれたペンギンさんが、俺の食いつき加減を見て鼻高々にこの船について話し出した。
「ここからじゃわからないけど、黄色い船体に大きいジョリーロジャーのマーク。中は空調設備完備だし、普通に海面を遊泳できる。甲板も、マストもあるんだ」
一回外から見てみるといい、かっこいいから!と締めくくったペンギンさんは誇らしげで、この船が好きなんだなと思った。
船の話が終わると船長さんの話になり、気分屋で気まぐれだから何しでかすかわからないとか、敵を倒す船長クール過ぎてヤバイとか、ベポの前だけ少し顔を綻ばせるんだからベポ狡いとか。マジで船長さん好きなんですね。
likeじゃなくてloveだよ、これ。大丈夫?一線越えないか?
「ただ一つな、困ったことがあって」
ん?なんだ?
今までの話だとあまり困った風には思えなかったけど。
ペンギンさんは握り拳を作って、歯を食いしばり、一筋の涙を流した。なんだ!?なんだ!?大丈夫か!?え?何?そんな大事なの!?
「花が無いんだよ!!」
は?
「この船に女がいないッ!!」
ババーンという効果音がつきそうな感じで拳を振り上げたペンギンさん。
涙まで流してあんな表情するから、どんな一大事かと思えば……。
もの凄くどうでもいい事でした。
ジトーッと冷めた目で見てると、ペンギンさんの頭に一振りのデカイ刀の背が振り落とされた。勿論鞘に入ってるから安心だ。できないけど。
ゴフッ!という声を出して血を吐くペンギンさん。舌でも噛んだか?少し痙攣してる。大丈夫?
倒れたペンギンさんの側から現れたのは、船長さん。相変わらず細身で、ジョリーロジャー入りの七分袖のパーカーは目立つ。ここまで海賊だと主張してる人初めて見たよ。
にしてもこの顔、何処かで?
「うちのコックにお粥を作らせた」
食べろ、と差し出されたお盆の上には小さな鍋があり、白いご飯で作られたお粥はいい匂いを漂わせていた。
すんすんと鼻を動かす。一応毒が無いか匂いで確認するが、まぁここまで良くしてくれてるんだ。大丈夫だろう。
海賊と言えど、さっきのペンギンさんの会話からはよくある賊共とは違う質を感じた。多分彼らはいい海賊だ。
レンゲを持ちお粥を掬う。猫舌なのでふぅーっと息を吹きかけ、十分に冷ましてから口に入れた。ほんのりと甘さが口一杯に広がる。
「美味しい……」
自然とそう呟いていた。
一口、二口と口に運んでいると、気が緩んだ気配がした。無意識に船長さんの方を見ると、ペンギンさんと話し合っていた時のニヤリとした表情じゃなく、ほんわかした作られてない本来の笑顔がそこにあった。ふわふわと胸の内が暖かくなる。
「そうか、よかったな」
そう言って船長さんは頭を撫でてきた。自然に目を閉じてそれを受け入れる。見た目から来る印象とは真反対の優しい手つきがとても気持ち良くて、すりっと頭を無意識に押し付けた。
船長さんは少し驚いたみたいだが、俺の甘えに答えてくれて、また撫でてくれる。少し撫で方が変わったりしたりして、とても良い。しかしこの人撫でるのうますぎかよ。
「あ!船長、狡いです!俺も撫でたい」
ガバリと起き上がったペンギンさんは俺の頭に手を近づけてきた。
ん?撫でてくれるの歓迎だぜ?
ペンギンさんの撫で方は船長さんとは違い、少しだけ荒っぽい。だけど優しい。
撫でられる事がこんなにも気持ちいいのは、多分ウサギだからだろうと言い訳する。
「船長、ウサギ起きましたぁー?」
「キャプテ〜ン?」
ペンギンさんと船長さんのナデナデに目を細めていると、新たにキャスケット帽子を被った茶髪のグラサン男とシロクマにも揉みくちゃにされたのは余談だ。
しっかしシロクマも喋る時代なんだな。
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街を気まぐれに歩き、そいつを見つけたのは本当に偶然だった。
路地裏に隠れるようにいた小さな命。
薄っぺらい毛布に包まれたそいつは、刀傷が大量にあり、少し膿んできてしまっている。小さな口で必死に息するのを見てしまっては、ほっとくわけにはいかない。
白い毛並み、茶色い薄い毛布、酸素が足りないと必死に呼吸している姿を見ると、幼い頃の自分を思い出す。おれの場合、白い毛並みじゃなく肌だったが。
急いで自身の能力で船に帰還すると、すぐ側にいたペンギンをとっ捕まえ、急患だと知らせる。医療室へ駆け込み、手術まではいかないが処置を施す。膿はほっといても得はないからな。
処置が終わると、ペンギンが持ってきた消毒液をぶっかけ、包帯を巻く。
余程疲れているのか、こいつは何をしても起きようとはしない。
寝ているこいつを見る。
ウサギの顔をしたそいつは、どう見てもベポと同類だ。どうやってあの国から出てきたのかは不明だが、知り合いもおらず、自身と同じ種族もいない、身内は当然いないので心細かっただろう。
長く先が黒い耳が、ぴょこぴょこと動く。無意識に音を拾っているのだろう。
「またそんなものを拾って!」
それはとんだ言い種だな。こいつは物じゃねェのに。
まぁペンギンもそんなつもりで言っているわけじゃねェだろうけど。
ぎゃぁぎゃぁと喚くペンギンを適当にあしらっていると、今の今まで寝ていたウサギが起きた。
ガバリと起き上がり、目を見開かせるとすぐさま戦闘態勢に入った。ヘぇ……?
「あ、起こしちゃいましたかね?」
「ペンギンが大声出すからだろう」
「え、おれのせいです?」
驚くペンギンを無視し、そのウサギの下に行く。コツコツと靴の音が鳴る。
おれの姿を見たそいつは身体を強張らせ、ジッとこちらを見ている。くくっ、笑いそうになるが、それを抑えて目線を合わせるように屈む。
「起こしちまったな。傷の具合はどうだ?」
そう尋ねると首を傾げるその生き物。
…………。
「切傷があった。確実に刀傷だ、それも無数に」
そう告げると思い当たる節があったのか、首を傾げながらも頷いていた。
眉間に皺が寄りそうだ。
「……詳しくは聞かねェ。だが、傷が完璧に治るまでここにいろ。生憎、医療器具は揃ってるんでね」
そう言って立ち上がる。ペンギンにここに大人しくさせているように言いつけ、立て掛けてあった鬼哭を持ち部屋から出る。
起きたんなら精が出る物が必要だな。よし。踵を翻し、ある場所に向かう。
何、治療は外からだけではなく、内からも重要だろう?
免疫力はあげた方はいい。
鉄でできた扉を三回ノックし、入る。この船で一応船長をしているんだ、ノックぐらいでいいだろう。
「お、船長。あのウサギはどうしたんだ?」
「今起きたところだ。お粥を頼む」
「あいよ、了解」
ウチのコックにそう頼むと、コックは奥に消えた。途端に聞こえる規則的な包丁の音。全く、手際がいい。
近くにあった椅子に座り、足を組む。
思い浮かべるのは先ほどのウサギだ。
白い体に耳の先だけが黒い毛並み。
ベポと同じ種族だと考えて、今は子供サイズだが大きくなるだろう。あの反射神経、瞬時に戦闘態勢に移るその判断力と瞬発力。
…………欲しいな。
ニヤリと笑う。
決してモフモフだから、というわけではない。確かにあの艶やかな毛並みは、ベポのふわふわな毛並みとは違っていいが、ずっと触っていたいが。決してそういうわけではない。
あいつは使える。
さぁ、どう引き込もうか?
思わず上がる口角。
お粥が入った鍋を持ってきたコックはおれを見て、ヒクリと頬を引きつらせる。
「船長、その顔は怖いぞ」
仕方がないじゃねェか。楽しいのだから。
ハートの海賊団のモブ感が結構好きです。というかモブ。
主人公に頭をスリスリされた船長さんの反応。
L「ッ……!(何だ!この可愛い生き物!スリスリしてくる!気持ちよさそうに目を細めて。ヤベェ///ベポも小さいときは同じぐらい可愛かったのに、今やあんなデカくなって。いやまだ可愛いが。それより、やっぱこいつ可愛いすぎるだろ///よし、何が何でも引き入れよう」
P「船長、後半ダダ漏れです」