シロウサギの奮闘記   作:矢鱈

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Ver.1.2

 

 

 

 

迫ってくる蹴りを素早く左腕で受け止め、すぐさま足に力を入れ相手の懐に入り、握り拳を作り顔面へと突き出す。

だが、相手はそれを慌てて後ろに逸れ、バク転をすることによって距離をとった。チッ。

 

「そこまでだ」

 

その言葉を聞き、戦闘態勢を解く。

上がった息を整え、深く息を吐く。

早くなった鼓動が一定の早さに戻るのを確認すると、対戦相手を見る。白いふわふわしたその毛並みはとても触り心地がよさそうだ。

 

「ベポ、距離をとったのはいい判断だ」

「えへへー、ありがとうキャプテン」

「だが、まだ子供のウサギに負けそうになるなんてな」

「弱いシロクマですみません……」

 

ズゥーンと空気を重くし謝るシロクマ、ベポさん。クマのくせに打たれ弱い変な奴である。しかし拳法の使い手で、とても強い。

俺は現在、ベポさんや船長さん、船員の皆さんに戦い方を教わっていた。

 

この船、ハートの海賊団の潜水艦らしく、約二週間ほどこの島に停泊するらしい。理由はログの溜まり具合。

この島のログは約三週間と言われてたはずなので、もう一週間はここにいるという。

俺が拾われたのは五日前であり、傷が完治せずとも治ったのは三日前だ。まだ傷跡が残っているが、無理しなければ傷口が開くことはないと言われた。

 

ハートの海賊団。その船長さんであるトラファルガー・ローは“死の外科医”と呼ばれる2億ベリーの賞金首だった。

通りで見覚えがある顔だった。トレードマークである斑点模様の帽子もそうだ。最初気づいた時、とにかく驚いたが……別に恐怖することでもない。賞金が大きいのは政府にとって凶悪であるだけで、民間人に害があるとは限らない。ルフィが代表的だ。

名前を聞いた時、ビビったか?と聞かれたので首を横に振ったら、逆に驚かれたのはいい思い出だ。だってあんな優しい目を向けてくれる人が怖いだなんて思わない。ペンギンさんやシャチさんが言うには、そんな目をするのはほんの偶にらしい。

じゃぁ俺はレアモノを見たわけだ。そう言ったら結構悔しがられた。愛されてるね、船長さん。

 

「おい、ウサギ」

「?」

 

振り返るといつの間にかベポさんは船内に入る途中で、船長さんがこちらを向いて立っていた。ん?いつの間に?

 

「飯ができたみてェだ、行くぞ」

「ご飯!行く!」

 

船長さんの半分ぐらいしかない身長で、俺はご飯を食べに行くために駆け寄る。

この船ではご飯もご馳走になっていた。俺が毎日盗んだモノや、捨てられたリンゴの芯とかしか食わないと言ったら、何故か船員達に泣かれた。

 

船長さんが俺のことをウサギと呼ぶからには、俺が名前を教えなかったせいだ。聞かれなかったというのもあるが、生憎前世の名前は忘れているし、今世では名前がない。親もいないんだから当然か。

だから、とは言ってはなんだが、“ウサギ”と呼ばれる。船長さんが最初に言いだしたことで、段々と船員達にも伝染していった。

 

ご飯、ご飯と鼻歌交じりに船長さんの後ろをトコトコとついていく。ここのコックさんが作るご飯はとても美味い。今は昼時、つまり昼ご飯だ。

最初に一緒に食べていいと言われた時は本当にいいのか?と思ってしまった。ここまで懇意にしてもらう理由がないからだ。

もしかしたら毛が入るかもしれない、とそれを理由に断ろうとすれば、ベポがいる時点でそんな変わんねぇよ!と皆が笑って許してくれた。他にもいろいろ理由を述べたが、どれも別にいいと言われ、痺れを切らした船員の一人が俺を掴んで食堂に放り込まれたのは驚いたが。

船長さんとは違い、とても陽気な人達で胸が温かくなったのは覚えてる。

 

キィイと鉄の扉を開ける。この潜水艦で一番広い食堂はもう、皆が集まっていて船長さんが来るのを待っていたらしい。

縦四列に並んだ長テーブルの一番の上座に船長さんが座る。俺はシャチさんの前でベポさんの横に座る。

給仕係が俺の目の前にご飯を持ってきてくれる。今日は和食らしい。白いご飯が存在感が有り余るぐらいに艶やかだ。絶対美味いぞ、これは。

 

「待たせですまなかったな」

 

あまり大きい声ではないのに響くその声は苦笑気味で、どこか嬉しそうだった。

その船長さんの言葉に皆は、別にいいですよー!とか、船長を待つぐらい屁でもねぇぜ!とか、キャプテン早く食べよー!とか口々に叫ぶ。そんな彼らをまた笑い、船長さんはコック、いただくぞ。と呟き、米を一口。途端にいただきますの声が重なる。

この船では最初に船長さんが一口食べてから、船員が食べる習慣がある。俺もそれに倣って、そうするようになった。

白いフサフサの手を合わせる。日本式の作った人への感謝の言葉。

 

「いただきます」

 

今日の昼ご飯は、ご飯、味噌汁、鮭の塩焼きなど、和食。

ここのコックは船員さんが米派だからなのか、和食が出ることが多い。しかも、全てが絶品ときた、尊敬します。

 

「やっぱ美味しい!」

「コックに言ってやれ、喜ぶと思うぞー」

「あ、シャチさん、海苔の佃煮取って」

「おまっ……人使い荒いなぁ、はいよ」

 

シャチさんに海苔の佃煮を取ってもらい、食べてる箸とは違う箸で瓶の中から取り出し、米にかける。黒と白のコントラストはとても魅力的で、美味そうだ。

あぁー、ここで日本食を食べれるとは思ってなかったからなぁー……幸せだ。

 

「そうだ、ウサギ」

「ペンギンさん、何?」

「今日、買い出し頼まれてるから、街案内してくれるか?」

 

なん……だ、と?

 

「あ、おれもついていく!」

 

ベポさんもハイハーイ!と元気良く手を上げて、そう言ってきた。

白米をシャケ醤油ご飯にして、ガツガツ食べていたシャチさんも、お椀片手に手を上げた。

 

「おれも「シャチは留守番な」何故にッ!!」

「嘘だって」

「嘘かよッ!!」

 

あぁ……これは断れる雰囲気ではないな。俺は味噌汁を飲みながら、空(天井)を仰いだ。あ、あそこ汚れてるー。味噌汁がうめぇー……幸せだー。

別にいいんだけどね。うん。別に、遠くからなら大丈夫だ。きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あそこが八百屋で、あっちが魚屋!」

 

遠くから見えない程度に指差せば、ペンギンさん達は頷いた。

 

「わかりやすいな」

「随分とオープンなんだなー」

「アザラシ……あるかな?」

「「いや流石にない」」

 

どうやら魚屋の方に向かうらしい。

和気藹々と歩いていく彼らを尻目に、俺は路地裏に入り、屋根の上に飛び乗る。いつものことで慣れてるので、音もなくちゃんと上に降り立った。

魚屋とは向かい側の屋根。平坦なその屋根に寝そべり、所謂スパイみたいな状態で状況を伺う。生憎、ペンギンさん達は俺に気づいていないようだ。

ピクピクと耳を動かし音を拾う。人間より耳はいい方なので、この距離の会話は造作もない。

 

「おっちゃん、鯖はあるか?」

「できれば大量に」

「あいよっ…!?ってシロクマか、驚いた」

「おれがなに?」

「うわっ!喋った!マジであのウサギと似てんな、お客さん」

 

そんな会話が聞こえてくる。やっぱ、把握されてるな。行かなくてよかった。

一ヶ月も盗みを続けていれば、把握されるも当然。喋る白いウサギという珍しいモノなら断然。

魚屋のおっさんが呟いたその言葉にペンギンさん達は首を傾げた。

 

「ウサギ?もしかして、白いウサギのことか?」

「おう!帽子の兄ちゃん会ったことあるのか?」

「いや、会ったと言うか」

「友達だよ!」

「…………え?」

 

ベポさんが元気良く俺のことを友達と言うと、魚屋のおっさんは固まった。目を見開いて、鯖を袋に詰めていた手は止まっている。

そして、再度首を傾げたペンギンさん達に、詰めかけだった鯖を投げつけた。慌ててペンギンさんが受け取る。

 

「にっ、二度と来るんじゃねぇ!」

「「は?」」

「あんな泥棒の友達なんか信用できるか!それはやる、もう来るんじゃねぇぞ!!」

 

ピシャリ、とシャッターを魚屋のおっさんは閉めた。ここの店たちは昭和の商店街のようになっている。だからだろう、オープンな店の話し声は街中に響く。

ペンギンさん達はが、え?と周りを見渡すも、蔑んだ目線を送った店の主人達はおっさんと同じようにシャッターを閉めた。それは、来るなという拒絶。

 

「どういうこと……?」

「……ベポが友達だって言ったのが原因か」

「買いもん、できないなぁ……」

 

どうする?と話し合う三人。良くも悪くもベポさんは純粋過ぎる。

……しょうがねぇか。俺は立ち上がり、走り出す。

少し迂回して、魚屋の裏手から屋根上へと登る。何故迂回したのかというと、ペンギンさん達がそこにいたし、今は顔をあわせるのが気まずいと思ったからだ。

いつも使っている屋根裏の扉を開く。扉というより通気口であり、俺がいつも盗む時に使っている入り口だ。住民たちはこの事に気づいてない。そっと蓋を外し、中に入る。音を立てないよう、着地して、懐に仕舞ってあった袋を取り出し、鯖を詰める。確か結構いるよな……ペンギンさん達が貰っていた数を思い出し必要な分だけ詰め、また通気口を通って屋根上に出る。

屋根の上からペンギンさん達を見るが……あれ?いない。どっか行ったのかな?……潜水艦に帰った可能性が高いな。なら潜水艦に行くか。

袋を担ぎ上げ、走る。目指すは潜水艦だ。

 

 

俺のせいで買い物ができなくなったんだ。ならその原因である俺が盗み出し、差し出せば関係ない。

 

 

そう思っての行動だった。

 

 

 

 

 

 

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「本当にそう思っているのなら、お前はバカということだな……」

 

あれ?……あれ?

可笑しいな?何で、なんで、そんなに怒ってるんだ?なぁ……教えてくれよ、教えてよ、船長さんッ。

 

「盗みを働いていたのは聞いていた……今回の事もベポの失態が原因だ」

 

だがな、と船長さんは続ける。

チャキ、と鬼哭という名前らしい大太刀を抜く。発生する薄い膜が俺と船長さんを包み、そして視界が反転した。首を斬られたのだ。

ポトリと地面に落ちる俺の頭。視界に映ったのは、ガクガクと震える己の足。今更ながらに2億ベリーの賞金首というのを思い出した。船長さんは優しすぎるからどうしてもそうは思えなくて、けれど、ギラリと光る容赦のない眼光がいつもとは違うと語っていた。

怖い、正直にそう思った。

 

「“俺が盗み出せば関係ない”?ベポの言葉のお陰で関係大有りだ。こちらが頼んで盗ませたようなものになるだろう」

 

その言葉にハッとする。

確かにベポさんが俺のことを友達だと言ってくれた。そしてベポさん達が鯖を欲しがりその鯖を俺が盗めば、どう見てもベポさん達が俺に頼んだようなものになる。

つまりは、俺が盗んでも仕方がないのだ。“友達”という関係を持ってしまったのだから。

どうやら身体に引っ張られて精神年齢が退行しているらしい。ブワッと涙が溢れて、ごめんなさいと何度もいつの間にか呟いていた。首が離れた胴体も、崩れ落ちるように膝をつき地面に座った。

 

「……まぁお前はまだ子供だ。自覚できれば、それでいい」

 

涙で頬が濡れる。

そんな俺の頭を持ち上げ、トンと胴体の上に置き繋げてくれた。痛みもない、傷跡もない、普通なら死んでいるような体験をしてしまったが……船長の奇怪な能力より、未熟さを悔やむ心が己を支配していた。

 

「これを魚屋に置いておけ。それでチャラだ」

 

いつの間にか船長さんの手にあったお金の入った袋を手渡される。

ぐずぐずと鼻水を啜りながら、中身を見ると丁度俺が盗んできた分の料金が入っていた。

少し遅いが確かに料金を払えば、盗んだことにはならない。俺はコクリと頷き、立ち上がり、まだ残っている涙を取るために目をこする。

キィと音が聞こえた、扉の開く音だ。どうやら船長さんは船長室に帰るらしい。いつもより眠たそうだ。

その様子を見ていると不意に船長さんが口を開いた。

 

「だが、助かった。礼を言っておく」

 

ん?

船長さんが小さくそう呟くと、廊下へ消えていった。俺も慌てて追いかけ、外に出る。

ど、どういうことだ!船長さん!!

廊下をキョロキョロと見渡すも、誰もいない。気配もしない。もう近くには船長さんがいない事に少し落胆する。

 

「ふふっ……」

 

どうやって移動したのか気になるが、追いかける必要はない。なにせ、こんなニヨニヨとした顔、見せられはしないのだから。

金の入った小袋を手に持ち、船から街へと行くために廊下を歩く。

 

 

 

 

 

後ろから送られる三つの温かい視線に、俺は気づかないまま上機嫌で船から降りた。

 

 

 

 

 




その後の船長達。

L「あいつは行ったか?」
P「えぇ行きましたよ。反省はしているみたいですけど、後悔はしてないようです」
L「そうか……」
S「そういや、ウサギのやつ、首をぶった斬られたのにそんなに取り乱してなかったっすねー」
P「あっ、バカッ!」
S「えっ?」
B「キャプテン……?震えてるけど大丈夫?」
L「あ、あぁ……」

トラウマと化した。
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