「え?次からはエスデスさんが模擬戦の相手、ですか?」
「今まではタツミと近接戦の練習しかしていなかったからな。射撃に対する練習もせねばなるまい?」
「わかりました」
「うっ…!」
クラス対抗戦を数日後に控えた土曜の休日。
いつも通り俺との模擬戦を終えた一夏だったが、エスデスさんの総評はお世辞にも良いものとは言えなかった。エスデスさんに言わせてみれば「素人に毛が生えた程度」らしい。
いくつか反省点を挙げた後、エスデスさんは自ら模擬戦の相手を買って出る。
その瞬間、俺の脳裏でとある記憶がフラッシュバックする。
「辰已?どうしたんだ?」
「い、いや、何でもないぞ…」
「そうは見えないぜ……」
「ほんとに何でもないんだ、気にしないでくれ」
息を詰まらせた音に気付いた一夏が聞いてくるが、俺はただただ苦笑を浮かべながら「なんでもない」と答えるしかなかった。
ぎこちない笑みを浮かべる俺にエスデスさんと一夏の視線が集まるが、何も答えない。
フラッシュバックしたのはIS学園に入る少し前、束のところにいた頃に受けたエスデスの、エスデスによる、タツミのための特訓。
内容はいたってシンプルかつ簡単。三分間絶え間なく放たれるつらら(と言うより氷でできたナイフ)を被弾数二十以下でしのぐというものである。ノルマ不達成の罰は反省会の時に膝に乗せられる氷ブロック(1つあたり1.5kg)追加である。
ただ――相手はエスデスである。
時間差や
そんな3分間が1時間に10回――地獄を味わった。
「一夏、死ぬなよ」
「ちょっと待てよ!?」
「大丈夫、骨は拾ってやるから」
俺は一夏の肩に手を置き、そう告げて堂々とアリーナを出ていく――
「なぜ出ていくんだ?」
「えっ……?」
が、エスデスさんに捕まった。そしてエスデスさんはあふれんばかりの満面の笑みで告げた――
「一夏には見本を見せないといけないからな。最初はお前だぞ、タ・ツ・ミ」
「いやだぁぁー!!!」
休日返上でタツミとエスデスが織斑一夏の教官をしていると聞いて、アリーナに来た更識姉妹は後にこう語った。
更識楯無
「ほんとの地獄絵図を見たわ……。終わった後の二人の顔は死人そのものだったわね」
更識簪
「あんなに独創的な訓練…見たことない…(ブルブル)」
―――と。
訓練開始から三時間後………
「なあ、辰已……」
「……なんだよ、一夏」
「俺たち、生きてるよな」
「ああ、どうやら生き延びたらしい」
場所はアリーナの更衣室。
目を覚ました俺と一夏は自分たちが生きていることを確認し合っていた。
二人とも訓練終了直後に卒倒していたため、おそらくエスデスさんが運んでくれたんだろう。
「お疲れ様~二人とも~」
「とりあえず飲み物飲んで…」
「あ、ありがとうございます。楯無さん、簪」
スポドリを片手に声をかけてきたのは楯無さんと簪だった。
「すみません。ところで二人ともどうしてここに?」
「あなたたちが訓練しているって聞いたから、様子を見にね♪」
「私はお姉ちゃんに…」
ごくりと、もらった飲料を飲む。生き返るぅ~。
「え、えっと……」
「ああ、一夏は面識なかったっけ。こっちの背の高い方が更識楯無さん。この学園の生徒会長」
「よろしくね~♪」
「で、こちらが更識簪さん。一年四組のクラス代表で、日本の国家代表候補生」
「よ、よろしく…」
一夏が戸惑っているようなので、俺が簡単に説明する。
「あ、はいどうも。織斑一夏です、よろしくお願いします。更識会長、更識さん」
「そんなに硬くならなくていいわよ、あと会長はつけなくてもいいわよ。楯無または、たっちゃんでも可」
「私も簪でいい…」
「わ、わかりました。俺のことも一夏でいいです」
「OKよ。それより今日の訓練のことだけど――」
「「(ブルッ)」」
軽い自己紹介がすんだので、楯無さんがさっきのことについて話しだそうとした瞬間、俺と一夏は情けないことに(?)無意識に肩を震わせる。
「そこまで思い出したくないのね…。まあ…私もあんなのは受けたくないから気持ちはわからなくもないけど……」
「同感……」
その様子に楯無さんと簪は同情した。無理もない、あんな特訓は地獄以外の何物でもない。
と、そこに――
「何だ、楯無たちもいたのか」
「あ、来たわね。訓練見せてもらったわよ、エスデス」
「そうか。それにしても一夏、初めてにしては上出来だ。タツミなんて最初の時は…ククッ」
「ちょ、ちょっと思い出さないでくださいよ!?」
黒歴史としてしまっているんです!思い出させないで!
後で束さんにビデオを見せられた時の絶望は……
「へぇ~、気になるわね。聞かせてくれない?」
「ああ、あれは――「やめてください!」――まあ、いずれ話してやるさ」
「やった!」
「お姉ちゃん…」
ため息をこぼす簪、しかし楯無さんは気にしない。
そして、しばらくして一夏に今後の話を終えたエスデスさんがこっちにやってくる。
「さて、タツミ。部屋に戻るとするか」
「あ、はい。それじゃ、またな一夏」
「ああ、今日は助かったぜ。ありがとよ、辰已」
「じゃあ、私たちも帰ろっか簪ちゃん」
「うん、三人ともお疲れさま」
そうして、全員が更衣室を出ていく。
近くでその様子を見ている見知った気配をエスデスは感じたが、無視することにした。
「はぁ~、やっと着いた」
「どうした、タツミ。部屋に入るなりベッドに頭を突っ込んで?」
部屋についてすぐに俺はベッドにダイブした。疲れた、もう体を動かしたくない。
「まったく情けないな、タツミは。まあいい、夕食がまだだったな。お前はそこで待っていろ」
「あ、はい、どうも……」
「では、少し待っていろ…フフフ」
そう言って、エスデスさんは部屋を出ていく。
珍しく気の利いたことをするエスデスさんに疑問を持つべきだったのだが、地獄のせいで体を動かすのも億劫になっている俺は生返事を返してしまった――再び、地獄を味わうことになるとも知らずに……
「戻ったぞ」
「あ、ありがとうございます――あれ?」
何で――トレーが1つだけなんだ?
エスデスさんの持ってきたトレーは1つ、つまり一人分だ。
理由はすぐにわかった。
「さて、私が食べさせてあげよう」
「……はい?」
チョットナニイッテルノカワカラナイ。
「ちょ、ちょっともう一回言ってもらっていいッスか」
「食べさせてやる、と言ったんだ」
「……誰が?」
「私が」
「エスデスさんが?」
「何を言っているのだ?ここには私とお前しかいないだろう?」
じっくりとエスデスの回答を咀嚼する。
――結論。俺は自分の飯を自分で食えず、エスデスが食事を俺の口に運ぶ
「……ええぇぇぇ!?」
ちょ、ちょっと待て!!まさかこれって俗にいう―――
「ほらタツミ、うれしがってないで口を開けろ」
(むしろ困ってます!!)
エスデスさんは箸でご飯を口に運んでくる。
「タツミ?どうした、食べないのか?」
「う……」
(ど、どうしよう…これじゃあまるで恋人みたいじゃねえか……)
渋る俺の気持ちを察しようともせずに不思議そうに見つめるエスデスさん。
とりあえず、らちがあかないので一口もらってあとは自分で食べるということにした俺は意を決して差し出されたご飯を口にする。
(ええいっ、もうどうにでもなれ!)
「ふふふ、こうしていると恋人みたいだな。タツミ」
「ブーッ!」
エスデスさんのこの一言に思わず吹き出してしまう(口に含んだご飯を飛ばすということはしなかったが)。
エスデスはその様子を見て、こう思った。
(ふふ、タツミも私と同じことを考えていたんだな)
「さあ、タツミ。まだまだいっぱいあるからな、あ~ん」
「えっ!まだやるんですか!?」
なおも「はい、あ~ん」を続けようとしたエスデスさん。さすがにこれ以上は――と思って立ち上がる俺だったが
「どうしたんだ、タツミ?食べないのか?」
「恥ずかしいんですよ!」
「――私に食べさせてもらうのは、いや……なのか?」
「うっ……」
上目遣いは反則ですよ!エスデスさん!!
しかも胸元が見えるようにやってくるので、余計言葉に詰まる。
だが、こうまでされて断れるのはタツミではない。また、以前は敵同士だったが、今では同居人であり、頼もしすぎる仲間である。
――まあ、元の世界で同じ場面になってても断れる自信は皆無だが。
「い、いや…では…ないです」
「そうか!ならば――」
絞り出すように告げたタツミにエスデスは顔を輝かせる。
そうして再びエスデスによる「はい、あ~ん」が再開された。
タツミは先の訓練の肉体的疲労と今回の精神的疲労により、食事が終わるころにはすでにグロッキーになっていた。
食べさせ終えたエスデスさんの様子?聞くまでもないだろう?
翌日、タツミは一日中顔を赤くし、廊下ですれ違った生徒や一夏に不思議そうな目を向けられたのは言うまでもないことである。
いかがでしたでしょうか?
エスデスさんって長身ですから上目遣いなんて……と思っていた時期が自分にもありました。
いやね、想像してみたらこれもいいかも…なんて(#^^#)
次回は一夏vs鈴になります。ではまた次回!