謎の無人機の襲撃により、クラス対抗戦は中止となった――のが二、三週間前。
時は過ぎて、今日は五月の最終日。
襲撃の件については俺やエスデス、そして楯無さん、織斑先生、束さん(モニターに映って参加)で話し合った。
束さんがいの一番に疑われたが、束さんは否定。ならばと、織斑先生が言うには『亡国企業』と呼ばれる組織の可能性が高いという。この組織はほとんどが謎らしいが、その組織自体の実力は高く、今までに数国がISを盗まれているというのだ。
楯無さんの実家の更識家や束さんもいろいろ調べてみてはいるものの、成果は上がっていないらしく、現状では警戒するぐらいしかできない。
話し合いはそこで終わったが、束さんは最後に
「そうだね~、新しい武装を作ろっかな~」
なんて言っていた。シリアスブレイカーとはああいう人のことだろうか?
閑話休題。
今俺たちは、六月の半ばにある学年別トーナメントに向けて一夏や簪、楯無さんというメンバーを含めて模擬戦やアレ(地獄)とかをやっている。
「ああーもう悔し~い!てか、機体相性悪過ぎよっ!」
「エスデスって、ほんとに人?」
「あ、あはは……」
「まあ、勝てる気がしないよな……」
今は休憩中。さっきまで
タツミ対一夏、エスデス対楯無、一夏対簪、タツミ対楯無、最後にエスデス対楯無、簪ペアの組み合わせで模擬戦をやっていたのだが、全勝はエスデスだけという結果に終わった。
「タツミ!ほんとにエスデスって人なの!?」
「まあ、そう思いたくなりますよね……」
結果として二回エスデスさんと戦った楯無さんは悔しさのあまり癇癪気味だ。
まあ、理解できないわけではない。俺とて、こんなにも相性の差が出るとは思っていなかった。
さすがに楯無さんも防御用の水を凍らせてしまわれては困る。ナノマシンとしての性能差ゆえだろう。最初はややエスデスさんが優勢だったのだが、後半は完全にエスデスさんのワンサイドだった。
「失礼だな。私とて立派な人だぞ」
「エスデスさん…機体の反応が追いついていないって時点で、すでにおかしいんですけど……」
全員が頷くように顔を縦に動かす。
「――ッ!?タツミまで…」
そこかよっ!?――って楯無さんはここぞとばかりにニヤけないでください!
「でも、あの反応速度は異常……」
「まあ、そうだよな。簪さんの『山嵐』だっけ?あれもほとんど氷壁で防いでいたしな」
「簪でいいよ、一夏。正直、あれは想定してたけど、追撃もさせてくれないなんて……」
打鉄弍式の武装の中で最大の火力を誇る8連装ミサイルポッド×8門の『山嵐』、ミサイルは簪が苦労に苦労を重ね、組み上げたマルチロックオンシステムで標的を追尾する。
さしものエスデスもノーダメージとはいかなかったが、わずかな時間差で突っ込んで来るミサイルを絶え間なく展開した氷の壁で防ぎながら簪と楯無の二人をヴァイスシュナーベルで牽制、追撃を爆風と煙が収まるまで許さなかった。
「まさか、あの弾幕の中から牽制でしてくるなんて思わなかったわ」
「だが、足を止められたのは癪だったな」
「……タツミ。勝てるイメージが湧かない…」
「がんばるしかねぇよ、簪。こればっかりは」
「いや、タツミ。この中じゃお前が一番経験してるんだぞ……」
どこか遠い目をする俺。それに対して一夏がつっこむ。
「エスデスさんに勝てる人いるのかなぁ……」
アカメは倒したみたいだけど、この世界にはいねぇし。
「タツミ。諦めたらそこで試合終了だよ…」
「……簪。言わないでくれ……」
簪の励ましには語気が全くなかった。
「ああそうだ、一夏」
「何ですか?」
「お前、この数週間誰と練習していた?」
「そういえば、前とは太刀筋が変わっていたわね」
「そういや、この数週間は一夏が俺たちと一緒に訓練したことなかったな」
「ああ、実はいつまでもタツミたちに付き合ってもらってたら悪いと思って、剣を教わりに行ってたんだ」
「誰にだ?」
確か一夏に剣道を教えていたのは箒の親父さんだったな。でも、休日以外に行くのは厳しいだろうから箒に習ってたのかな。
「千冬姉に頼んで稽古付けてもらったんだよ」
「千冬姉って……織斑先生に?」
「ああ、そうだぜ」
「確かに、現役時代の織斑先生が使ってたISの武装は一夏君の《雪片弐型》と同じものだったわね」
「そういうことか。だが、あの幼馴染みを選ばなかったのはなぜだ?」
エスデスさんも一夏の元ルームメイトだった箒を予想していたみたいだ。
ちなみにクラス対抗戦の後、箒は部屋替えで一夏とは別室になった。新しいルームメイトは同じ一組の鷹月さんだったな。結果として一夏は一人部屋となったわけだ。
俺も期待したが、そんな話はなかった……。
「最初は箒に頼んだんだけどさ、『お前に剣術など向かんだろう!』って言われて、2,3日剣道しかやらせてもらえなかったんだよ。それに――」
「それに?」
「はっきり言うとだな…、擬音ばっかりなんだ」
「「「「?」」」」
え?つまり、どうゆうことだ?前に向いてないって話は聞いたが……
話を聞いていた他の人(エスデスさん含む)も「?」を浮かべていた
「なんていうかな…。『そこは、こうズバァァッってやるのだ!』とか『ガキンッ、シュッパッと動けと言っているのだ!』とか……」
「酷いな」
「同じ世界にいる人にしかわからないわね……」
「私もそんな教え方されたくない」
「セシリアよりタチが悪いかもしれねぇな、それ」
エスデスさんはバッサリと、楯無さんは額に手をあて、簪は首を横に振り、俺は苦笑い。
判決――箒は指導に向いていない!
「それで、織斑教諭に指導を受けていたというのだな」
「まあ、そんなところです。あ、一応、鈴にも練習相手ってことで数回手伝ってもらったけど」
「さてと、今日は終わりにしようか。さぁタツミ、帰るぞ!」
「ちょ、引っ張らないでくださいよ~」
深く問うつもりはないのだろう。エスデスさんは話を切り上げ、俺を引っ張ってアリーナを出ていく。
残った三人は揃って苦笑を浮かべ、手を振る。無情だ……。
「すみません、2人の仕事を増やしてしまって」
「いや、最近俺たちがやってなかったのも事実ですし……」
「呼び出されてきたら案の定、この有様か…」
翌日。場所は生徒会室。タツミとエスデスは虚とともに大量の書類に追われていた!
原因は言うまでもなく――
「まったく、虚にばかり押し付けるとは酷いやつらだ」
「ご心配には及びません。と、言いたいですけれど、この量はさすがに無理でして…」
「あはは……」
あのサボり魔×2のせいである。
「まったく、これで生徒会長などよく務まるものだ」
「仕方ないですよ。IS学園の生徒会長というのは学園最強の人物が就くというのが伝統みたいなものですから」
「学園最強ですか……」
タツミがちらっとエスデスの方を見る。
「私にその気はないぞ」
「私個人としては、エスデスさんに会長になってもらいたいですね」
「なぜだ?」
「もう、いろんな意味でうんざりしてるんです……」
「ふっ、それもそうだな」
言葉なき訴えはタツミにも理解できた。
まあ、この
「やっと、終わった……」
2時間後、ようやく割り振られていた書類が終わった。
ちなみにエスデスさんと虚さんはすでに終えており、紅茶を嗜んでいた。
「お疲れ様です。タツミ君」
「あ、どうもです」
俺も虚さんから紅茶の入ったカップを受け取る。虚さんの淹れる紅茶は絶品で、楯無さんいわく「世界で一番おいしい」とのこと。うん、納得だ。
エスデスさんも読書中に飲んではいるが、インスタントなんだよなぁ。
「ふ~、平和ですね」
「そうですね、二人(お嬢様+本音)がいると平和とは言えないですしね」
「そうか?私としては(タツミがかわいくて)楽しいのだが?」
「(楯無さん+エスデスさんは逃げられないからなぁ……)非日常すぎますよ……」
「タツミ、私たちがいた場所は常に非日常だっただろう?」
そう言いながらも後ろから抱きついてくるエスデスさん。この前の「あ~ん事件(?)」以来からより積極的になっている。
例えばタツミの抱き枕化(毎晩)、タツミがいる前で生着替え、食堂での「あ~ん」etc.
シャワールームへの突撃は秒読み状態である。
「でも、これでもおとなしいものですよ。以前のお嬢様でしたら『織斑君かタツミ君と同室になる権利をかけて○○』とか平気でやりますでしょうから」
「そんなことさせるか」
「エスデスさんの愛が重い……」
「ふふ、もし何かあったら呼んでください」
抱きしめる力を強くしたエスデスを見て、虚は苦笑しながらデスクに戻って、再び作業を始めた。
「虚さん?」
「これは個人的なものですので気にしなくてもいいですよ」
「そうか――ああ、あの二人に伝言を頼めるか?」
「構いませんよ。どのように?」
「『氷は何キロがいいか?』とな」
「わかりました」
虚さんに伝言を頼んで生徒会室を出ていくエスデスさんを見送る。
うわぁ…絶対に
この日を境に二人のサボりは(短期間であっても)すっぱり無くなったとか……
期間が空いたことを謝罪します!申し訳ありません!
大学生活も忙しく時間がなくて……
とりあえずGW中に数話上げる予定でしたが、4月29日から体調不良でぇ……
今話は日常的なものを書かせてもらいました。
楯無さんたちへのお仕置きの氷塊の重量は皆様の想像にお任せします(笑)
今日の夜あたりにもう一本アップする予定なのでそちらもどうぞ!