蒼空を駆るは誰がためか   作:無勝の最弱

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第十二話

 

「ふむ。あの小娘が動いたか」

「未遂でしたけど、あれはまた何か起こしますよ」

 

部屋に戻ったタツミはさっそくことの顛末をエスデスに伝えた。

エスデスの表情に全く変化はない。

 

「だが、そんなことを言っても私たちが必ずそこにいるとは限らん」

「確かにそうっすね」

 

それだけ言って紅茶を淹れたティーカップを口に運ぶエスデスさん(虚さんに教わったおかげでインスタントは卒業済み)。そして手に持っていた紙束を俺に投げる。

 

「おっと。エスデスさんこれは?」

「目を通しておけ、今日私が――どうした楯無?……そうか、わかった。今から向かう」

「どうしたんですか?」

「泥棒娘のちょう――捕獲だ」

 

はて、泥棒娘とはいったい誰のことだろうか?

ていうか、今。調教って言おうとしたよねこの人。誰かわからないけどご愁傷様です。

 

「――って、エスデスさん待ってくださいよ!」

 

 

 

「ごめんね、一夏。でも、僕は……」

 

シャルルは一人、ある作業をしていた。

そう、エスデスや楯無が予想したようにシャルルの目的は一夏の機体『白式』の稼働データの強奪。

タツミの機体『インクルシオ』もターゲットに含まれてはいたが、保存パスコードを入手することはできなかったし、優先度は『白式』の方が上なので諦めた。

負い目は感じている。

口から洩れた「ごめんね」は騙していたことに対する謝罪だった。

 

「あった、白式の稼働データ……。これを―――」

ガチャ……

「誰!?」

「やはりそれが目的か。シャルル・デュノア――いや、シャルロット・デュノア」

「シャルル……」

「エスデス…タツミ…。それより、どうして僕の名前を……」

 

シャルルの顔は驚きに染まったが、すぐに顔を真剣なものに変え、窓からの脱出を試みるが――

 

「残念!楯無おね~さんよ!」

「わあっ!?」

 

窓の前に降り立った楯無さんが逃げ道をふさぐ。

部屋の入り口はエスデスとタツミが、窓は楯無。逃げ場を失ったシャルル――シャルロットは両手を上げ、降参のポーズをとる。

 

「まさか、ばれちゃってるなんてね」

「心にもないことを言う必要はないわよ」

「まあ、そうだね。スパイとしての専門的訓練なんてなかったし、エスデスには最初から疑われていたみたいだしね」

「そうなんですか?」

「まあな」

 

この人ほんとに人間なのだろうか?

その後、(楯無の根回しで)職員室に呼び出されていた一夏が戻り、シャルルの尋問が始まった。

 

「まずは誰の命令かを聞こうかしら」

「直接僕に命令したのは父だけど、裏は間違いなく義母――父の正妻だよ」

「根拠は?」

「世の中の風潮を受けて、今は義母が実質のトップになってる。表面上は父が社長だけどね」

 

そう語るシャルルの様子はあっさりしていた。聞かれたことにはすべて答える気なのだろうか。

 

「次に目的……は、はっきりしてるわね」

「白式のデータの強奪が第一位で、可能ならタツミのインクルシオとエスデスのニブルヘイムもって言われたよ」

「ちょっと待てよ。エスデスさんも?」

「あのね、篠ノ之博士お手製ってことだけでも、相当の箔がつくに決まってるじゃない」

「あ、そっか」

 

束さんはISの開発者で現在は行方不明、各国が探し回っているというのをすっかり忘れてた。

 

「なあ、俺からも聞いていいか?シャルル」

「いいよ、一夏」

「前にシャルルが言ってたけど、デュノア社ってISシェアが世界第三位なんだろ?なんで強奪なんて流れになったんだ?」

「そっか、一夏は知らないんだ。今欧州では『第三次イグニッションプラン』の次期主力機を選定中なんだよ。今はイギリスとドイツ、イタリアが競ってるんだ。セシリアさんやラウラさんが転入してきたのもそれが関係していると思う。話を戻すけど、フランスは『第三次イグニッションプラン』から除名されてるからね。第三世代型の開発は急務。でも、うちで出している『ラファール』は第二世代型最後発。だから第三世代型を作ろうにもデータや時間が圧倒的に足りないんだ」

「そっか、それだからシャルルが使う専用機が第二世代型のカスタム機だったのか」

「うん、その通り。で、そこに一夏やタツミたちの話が発表されて――」

「スパイとして盗んで来いって命令されたのね」

「はい」

 

シャルルは話すべきことは全て話したのだろう、大きく息をついた。

だが、一夏は何かを押さえているように見えた。

 

「命令って……親だろうが!?」

「落ち着けって!」

「仕方ないよ、一夏。僕は父の本妻の子じゃないんだ」

「……ッ!?」

「二年前に母が亡くなって、それから父のもとに引き取られたんだ。扱いは最悪だったけどね」

「一夏落ち着けって。どうしたんだよ?」

 

シャルルに掴み掛ろうとする一夏を抑えたはいいが、いったいどうしたのだろうか?

 

「すまねぇ。――千冬姉には言いふらすなって言われてるけど……俺は、俺たち姉弟は両親に捨てられた」

「「なっ!?」」

 

楯無さんは眉を伏せ、エスデスさんは眉を小さく動かしただけだったが、俺とシャルロットは思わず声を漏らした。

だが、すぐに一夏はシャルルに話し掛ける。

 

「俺のことはいい。シャルル、お前はこれからどうするんだよ」

「どうするって……女子だってことがばれたから本国に戻されて、投獄もあり得るかな」

「ここに残る気はないのか?」

「残りたいよ……。でも、僕には――」

「残る意思さえあるならいい」

「えっ?」

 

いままで聞き役に徹していたエスデスさんが口を開く。

そして俺がさっき投げ渡された紙束を今度はシャルルに投げる。

 

「これは……」

 

紙束にはここ数年でデュノア社が行ってきた汚職の数々が記されていた。

 

「一体これをどこで……」

「束に調べさせた」

「いつの間にやっていたのよ……」

「生徒会室で話した後だ」

「よく束さん(あの人)が動きましたね」

 

束さんは基本的にこういうことで動くはずがない。だって、興味を持った人以外を相手する気がないという人だからなぁ。どうやって動かしたんだろうか?

アイコンタクトを試みるが視線はシャルルに向いたままでできなかった。

 

「そいつがあれば脅しの一つや二つ掛けられるだろう?」

「でも、僕じゃ……」

「残る気がないなら返せ、私が捨てる」

 

エスデスさんは言外に告げる、「残る、残らないもお前次第だ」と。

 

「……ううん。これは使わせてもらうよ」

 

シャルルの選択は「残る」だった。

 

「そうか。まあ、こんな回りくどい方法を使わずとも学園の特記事項で会社も国も手を出せんから安心しろ」

「あ、忘れてたわ……」

「生徒会長が特記事項を忘れるようでは失格だな」

「あら。じゃあ会長職変わってくれる?」

「断る」

 

……すみません、エスデスさん。正直俺も忘れてました。

 

「あ、そっか。特記事項第二一、本学における生徒はその在学中において――」

 

一夏はというと特記事項を暗記していたのか、思い出したようにすらすらと言っていた。

よく覚えていたなぁ、特記事項って五十五個もあるんだぜ?暇だったのか?――悔しかったんです。はい。

 

「とにかく三年間は心配ない。なんなら今すぐにでも脅そうか?」

「時差的にも大丈夫そうね」

 

あの、二人とも笑顔が怖いです……。

 

「それじゃあ、父との回線を開くね」

「あんたもかい!」

 

そこにシャルルが悪乗り気味に言い放ったので、思わず普段の俺ではまず言わないことを叫んでしまった。

そしてシャルルのパソコンのディスプレイに男性の顔が映る。これがシャルルの父なのだろう。

 

「ひさしぶり、お父さん」

『シャルロットか、進展があったのか?』

「うん。今日はその報告」

『なるほど、ばれたか』

「うん、その通りだよ。よくわかったね」

『最初から期待などしておらん。近くに人がいるのだろう?』

 

言葉だけを聞けば吐き捨てたように聞こえるが、なぜかその声にはわずかな喜びが混ざっていた。

 

「嬉しそうだね」

『当たり前だ。せっかく妻の知らない秘密部屋で実の娘と話せているのだからな』

「えっ?」

 

先程まで笑顔だったシャルルの仮面がはがれる。

 

「どういうこと?」

『妻を追放して――いや、私ごと罰を受けさせるためだ』

「失礼します。わたしは更識楯無と申します。ご息女が通うIS学園で生徒会長をしております」

『そんなにかしこまる必要はありませんよ。それに更識ということは日本の誇るあの更識家ですかな?』

「そういうことになります。話を戻しますが、罰とは?」

『簡単な話ですよ。政府を騙していたこと、我が社での汚職の責任という名の罰ですよ』

 

なぜこんなにもこの人は冷静なのだろうか?

普通、こういうことは隠そうとするはずなのに汚職等を事実だとあっさり認めている。

 

「どういうつもりでしょう?まさか自分は白だというのですか?」

『先程申しましたでしょう?()()()罰を受けさせると。もうこちらで妻の行ってきたことの事実確認はあらかた取っていますし、証拠も十分。いつでも起訴できるでしょう』

「……スパイがばれるのは予想できていたと?」

『スパイを命じるよう私に迫ったのは妻ですが、その通りですし、彼女も大して期待していませんでしたよ』

 

それからシャルルの父はこちらで調べていたことを大方認めた。

 

『いやはや驚いた。まさか私が調べた以上のことが出てくるとはね。――フランス政府内には妻の息がかかった官僚もいますから、それは委員会の方に』

「では、このことは今月末にでも国際IS委員会にリークさせていただきます」

『覚悟はできている』

 

楯無の横で一連の話を聞いていたシャルロットの頬には涙がつたっていた。

 

「お父さんは……」

『すまんな、シャルロット。お前をスパイとしてでも外に出さなければ逃がせないような、情けない父親で』

「ううん。そんなことない……」

『ありがとう。みなさん、娘を頼みます』

 

親子の会話はそこで終わった。

きっとこれからいろいろな手続きを経て、この大スキャンダルは表沙汰になるのだろう。

 

 

 

 

 





シャルロットのお父さんってどんな人なのかわからなかったんで、完全に適当です(笑)

最初はもっと高圧的な人にしようとしたけど、そんな人がそうやすやすと会社取られるわけないかってことでこういう性格にしました。

さぁ~今日はもう一話アップするぜ~
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