蒼空を駆るは誰がためか   作:無勝の最弱

17 / 28
第十四話

 

俺とエスデスさんがペアを組んでもう数日が経ち、連携訓練もほぼ順調と言っていい。

一夏はシャルルとペアを組み、簪は本音とペアを組んだらしい。

セシリアと鈴は先日のラウラ戦でダメージレベルがCを超えてしまったため、出場を辞退。そのラウラはというと、抽選でパートナーが決まるというのが確信レベルで濃厚だ。

 

そしてもう一つ、トーナメントの優勝報酬である「俺か一夏と交際できる」というのはエスデスさんの予想通り、楯無さんが発案したらしい(余計なことを……)。だが、この話には続きがある。楯無さんが言うには――

 

「実はこの前ね、一夏君に『私がトーナメントで優勝したら付き合ってもらう!』って宣言してた女の子がいたのよ。で、それを偶然聞いたしまった私は『使える』と思ってコレを決めたの」

 

あの声は多分箒ちゃんね~とも言っていたが、そこはどうでもいい。

横暴すぎることなのだが、エスデスさんが乗り気の時点で俺はすでに詰んでいる……はぁ~。

その箒はというと一夏がシャルルとペアを組んだその日の夜に一夏の部屋を訪れ、一夏にペアを組むよう迫ったが、一夏はすでにシャルルと組んでいたことを理由に断ったらしい。その後、ペアが決まったかどうかはわからないが。

 

 

「よし、今日はここまでだ。よく頑張ったな、タツミ」

「ど、どうも……」

 

今日の訓練が終わった。つ、疲れた……。

トーナメントが近いこともあってか、今日は一段と厳しく、疲れた。

――で、今は部屋に戻って休んでいるのだが……

 

「あの~。なんで膝枕されてるんすかね、俺」

「がんばったご褒美だ。うれしいだろう?」

 

膝枕されながら頭を撫でられています。はい。

逃げる、断るといった選択肢はなかったんだ。

 

「はい(これしか言えねぇ…)」

「そうか、よしよし」

 

……やっぱり恥ずかしい。

話題…話題を探せ。そしてこの恥ずかしさをごまかすんだ!

 

「そ、そういえば、ラウラの件はわかりましたか?」

「ああ、そうだった。まだタツミには伝えていなかったな」

「どういう能力なんですか?」

「楯無から絞り出した情報だと、一夏の動きを止めたのはあの小娘のISに積まれている『AIC』、慣性停止能力というものらしい。効果はその名が示す通りだそうだ」

「……それって、近接型にとっては天敵じゃないですか?」

「ああ」

 

即答だった。少しぐらい間を持ってくださいよ……。

とはいえ、天敵だという点は間違いない。

近接戦で動きを止められる。それは致命的な隙となる。

なぜなら近接戦は彼我の距離が狭い、故に「敵の前で動きが止まる」ということは死を意味するからだ。

 

「安心しろ。強力な能力ではあるが――」

「弱点は存在する。ですよね」

「つまらないな、タツミは」

 

エスデスさんが目に見えて、いやそうにした反応にタツミは内心ガッツポーズした。

(スーさんの教え、役に立ったぜ!)

――役立たせるべきなのはここじゃないとは思うけどな…。

 

「……話を戻そう。AICの弱点は『停止対象物に意識を集中させなければ効果は持続しない』ことだ」

「それも楯無さんからの情報ですか?よくそんなことをしゃべらせられましたね」

「ん?私の推測だぞ」

「そうですかエスデスさんの――ってはいぃぃ!?」

 

まさかのノリツッコミ、いいですね~。

そしてエスデスさんさすがです。ある意味雲の上の人すぎます。by作者

 

「なんだ、タツミ。そんなに驚いて?」

「初見一発で見破るってどうかしてますよ……」

「推測とは言ったが、事実に間違いないと私は思うぞ。ビデオを確認させてもらったが、小娘はシャルロットの射撃に不意を突かれたように見えた。そしてシャルロットを認識すると同時に白式の停止は解けていた。この二つからこの推測に至るのは自然ではないか?」

「まったくもって気にしてませんでした……」

 

俺もあの能力のことが気になってビデオを見返してはみたものの、まったくわからなかった。悔しい……。

 

「安心しろ、あの小娘は比較的戦えそうだから、私がもらう」

「ああ……やっぱりそうなりますか」

 

エスデスさんの実力は織斑先生曰く「国家代表レベル以上、ヴァルキリーを確実に狙え、優勝も可能」とのこと。つまり、『世界最強』の称号を持つ自分と同じくらいかもしれないと言っているのだ。

今までの模擬戦では模擬戦の範疇を超えないため、お互いの機体の力をセーブしている。それでもロシアの国家代表である楯無さんとの勝負は勝率100%である。

俺の実力もついてきてはいるものの、エスデスはおろか、楯無さんに追いついているなどとは到底思えない。

エスデスさんはバトルジャンキーではない。ただ、『強い奴と戦いたい』というだけなのだ(それをバトルジャンキーと呼ぶんだよ!)。だから今回の流れも納得できたというものだ。

 

「さてと、タツミ。他に私にしてほしいことはあるか?」

「はい?―――ッ!」

 

エスデスさんの一言で現実に帰ったタツミは、自分がいま膝枕をされていることを思い出し、転げるように脱出。そして再び捕まる前に――

 

「い、いえいえ!もう十分、十分ですから!あ、ほら時間も時間ですし食堂行きましょう!」

「む、何か釈然としないがそうするか」

 

エスデスが立ち上がる。そして部屋から出たところで腕をホールドされた。え?なんで!?

それに当たってます!何がとは言わないけども!

 

「エ、エスデスさん!?」

「なんだ?私はあげたのに、タツミから私には何もないのか?」

「ええっと、何をですか?」

 

一応、念のため聞いてみる。

 

「ごほうび、というやつだ」

 

満面の笑みで言われてしまった。これは無理だ……諦めるしかない。

はぁ~とため息をこぼしながらタツミは歩く、しかし身長差のせいでエスデスがタツミを逆エスコートしているようにしか見えなかったというのは無論のことである。

そして食堂で終始、もてはやされたのは語るまでもないだろうね。

 

 

 

 

「まったく、楯無のやつ、面倒を押し付けおって」

「何キロです?」

「虚の意見に従おう」

「では、20キロで(ニッコリ)」

「うん、それくらいしないとね。そうしないとお姉ちゃん、反省しない(黒笑)」

(簪ってば、笑顔でえげつねぇ)

 

今日は学年別ペアトーナメントの前日。本来であれば、作戦の最終確認やら、最後の追い込み練習やらに費やされる日なのであるが……

何故会話に虚さんが出てくるかというと、トーナメントの形式を変えたことで以前まで使っていたトーナメントの抽選システムがエラーを起こして使えなくなってしまったため、新たにトーナメントのシステムを組み上げることになり、虚さんから援軍として呼ばれた。というのが事の顛末である。

そして担当は一年を虚さんと楯無さん、二年生を俺とエスデスさんと簪が、三年は昨日のうちに虚さんと楯無さんが終えていた。

ちなみに楯無さんは絶賛逃走中、「キロ」というのは正座した楯無さんの足に乗せる氷のことである。

そしてこの場には本音もいるのだが、最初は作業を手伝ったが今は爆睡中。その代わりとして簪が呼ばれている。

まあ、簪の協力によってシステムはあらかた組み終わっている。姉より、妹の方が優秀なのではないのだろうか?

 

「まあ、なんにせよ無事に組みあがりました。三人ともお疲れ様です」

「やれやれ」

「楯無さんを本気で恨みたい…」

「お姉ちゃんは痛い目を見るべき……」

 

虚さんが淹れた紅茶の入ったカップを受け取り、それぞれの考えていることを口にする一同(爆睡中の本音を除く)。

こんな時にサボるって、何を考えてるんだろうか。

置手紙にはただ一言、『任せた』の三文字。怒りより先にため息をついたものだ。

 

「それより、優勝した時のアレって、ほんと?」

「断じて違う」

「やっぱり……」

「アレでしたら、お嬢様が一人で決めてしまいました。思いついたら即行動に移して、既成事実化するのがやり口なだけに手に負えません」

「虚さん、すみません。姉が迷惑かけて」

「気にしないでください。簪さんが謝る必要はありませんよ。それに罰は決まってますから」

 

謝る簪にそう言いながらエスデスさんに目配せをする虚さん。エスデスさんも「任せろ」と返す。うん、この二人を怒らせるような真似は絶対にしてはいけない。どうなるかわからない。

 

「結局、箒とラウラはペアなしのままか。抽選で決めるとは言ってたけど、意味なかったですね」

「箒は自分で言ったことが広がってしまったことで混乱してたかもしれない」

「そこに一夏がシャルロットと組んだことか……」

「たぶん、そう」

 

簪やここにいる虚も本音もシャルルの正体を知っているので、「シャルロット」といっても問題はない。聞かせたときはすごくびっくりしてたけど。

 

「なんというか、一夏以外が見えていない感じがするんだよなぁ、箒って」

「理由はわかりやすいけど……」

「え?わかるの?」

「……タツミは鈍感すぎ、エスデスに同情する…」

「???」

 

本気でわからない様子のタツミを見て、簪はため息をこぼし、虚は苦笑い、エスデスは口元にわずかな弧を浮かべて紅茶をすすっている。(本音?いまだ爆睡中)

女性一同(本音除く)は共通して「ニブチン」という言葉が浮かんでいたが、言葉にはしなかった。

 

「タツミ、エスデスがタツミのことが好きってことは気づいてる?」

「な、何だよ、いきなり。……そりゃあ、いやでも気づくよ。あれだけどストレートだとさ」

「ならいい」

 

どこか安心したように息をつく簪。

やべぇ、マジでわかんねぇ……。この辺りが男女の差なのだろうか?

――君ほどの男子も少ないと思いますよ~ by作者

 

そのあとはタツミを見る目線がいつもと違っていたこと以外には何もなく、適当に談笑しながら時間をつぶして、解散となった。

 

そして開幕の明日を迎える。

 

 

 

一方、そのころの楯無はというと……

 

「グフフ、やっぱり簪ちゃんかわいいわぁ……」

 

一人、簪の模擬戦のビデオを見ていた。

つまり、誰の目にも明らかにサボっていたのであった。

生徒会室で制裁の話と面白い話の両方がなされているとは知らずに……。

 

 

 

 




一か月半以上も投稿できずにすみませんでした!!

レポートなり、発表用の資料作ったりと大忙しでして……

とりあえず今回はペアマッチの直前までです。
前話のラストに思わず書いてしまいましたが、実際思いませんか?

パワーバランスが絶対おかしいですよ。
エスデスさん+タツミ対1年生専用機組でもいいんじゃないかとも思いますよ!
むしろエスデスさん一人でも………

次話は今週の土曜日にあげようと思っています。遅れたらすみません。ではまた!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。