『シュバルツェア・レーゲン』の暴走事件(正確に言えばVTシステム)から二日が経ち、一年生のトーナメント中止が正式に発表された。他の学年はトーナメントを続行するらしいが、また別の日に延期とのことだ。
「はぁ~、知ってたけど事情聴取って面倒だ……」
「まったくだ。私たちに聞くよりも小娘を拷問した方が――」
「ちょ、ちょっと待って、エスデス。拷問はまずいよ……」
「向こうとは違うんですから……」
むすっとした顔で平気に『拷問』なんて言葉を出すあたり、やっぱり軍人だなぁ。とは言えず、タツミも簪もエスデスにツッコみを入れる。
「まあいい。詳しいことは報告を待つか」
「や、やっと終わった……」
「お疲れ、一夏」
なんだかんだ言っている間に一夏とシャルロットが戻ってきた。一夏はかなりげんなりした様子で、シャルロットが隣で苦笑している。
一緒にあの場にいた箒だが、彼女はただ立ち尽くしていただけなのでろくな事情聴取はされなかった。くそう、うらやましい。
「まったく、この程度のことでへばるとはな」
「すみません。俺、こういうの初めて受けたんで……」
「安心しろよ、一夏。こんなのいつ受けたって馴れねぇよ。エスデスさんは別として」
「どういう意味だ?」
「あなたは基本的に
簪は理解できたようだが、一夏とシャルロットは?マークを浮かべていた。
さて、この二人――いや、一夏ぐらいには話すべきだろうか?俺とエスデスさんのことを。
タツミたちのことを知っているのはこの場にいる簪以外に、楯無さんをはじめとした生徒会メンバー、織斑千冬、篠ノ野束の限られた人しか知らない。
隠し事をしているというのはやはり、気持ちのいいものではない。しかし、容易に打ち明けられるものでもない。
「まあ、その話は置いといて、楯無さんから連絡があったんだ。今晩当たりにバラすらしい」
「そっか、僕の方は大丈夫かなぁ」
「あの父親だ。お前には大した咎など来んだろう」
「そうだね、会社を乗っ取った本妻にばれずにあれだけ調べられてたんだしね」
「もし何かあったら、俺たちを頼れよ、シャルル」
「みんな、ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」
翌日の朝、デュノア社の大スキャンダルが世界を駆け巡った。
学園内のニュースも朝からこの報を知らせており、新聞部が一夏の部屋に殺到。一夏がタツミやエスデスに救援要請を送る事態となった。
「ねえ、なんでシャルル君いないのかな?」
「多分、職員室に呼ばれてるんだと思うよ」
「ああ!デュノア社の件で!」
「そういうことじゃないかなぁ。シャルル君どうなるんだろう?」
「まあ、こうなるだろうな」
「仕方ないですよ」
朝からクラス内はこの話題で持ちきりだった。
シャルロットと同室だった一夏は女子たちからの追及を逃れるため、時間ぎりぎりに来ると言っていたので今はいないが、来たら来たで結局は大騒ぎになるだろうなぁ。
「タツミ、シャルロットから連絡が来た。自分が女だとバラすらしいぞ」
「耳ふさいだ方がいいですよね、絶対」
宣言通り時間ぎりぎり、山田先生よりちょっと先に教室に入ってきた一夏だったが、早速囲まれている。
「あ、織斑君だ!」
「さあさあ、たっぷり聞こうじゃないの……」
「うぐ……」
「み、みなさ~ん席についてくださ~い」
おろおろしながらもみんなを席につかせようとする山田先生だが、一夏の周囲に固まった女子は聞く耳持たず。もう若干涙目になってきていた。
と、そこに――
「もうホームルームの時間だ!席に着け、小娘ども!」
ザッ!
そんな擬音が当てはまるほどに女子全員は席に着いた。
毎度のことだが、指導能力の高い教師だ……。
「まったく馬鹿どもが。デュノア、入ってこい」
「はい。―――シャルロット・デュノアです。またよろしくお願いします」
「きゃ……」
ま、まずいッ……!
「「「きゃああぁぁぁ!」」」
耳をつんざくような大絶叫、そしてその矛先は一夏へ。
「織斑君、知ってたの!?」
「え、えっと……」
「ふ、ふたりであんなことやこんなことを……」
「してねぇよ!?」
「そういえば、昨日男子が
「一夏さん!」 「死ねぇ!一夏ぁぁ!」
『大浴場』という単語にセシリアが反応。さらに、教室のドアを破壊してISを纏った鈴が突撃、衝撃砲を最大出力で一夏に向ける。
「ちょ、ちょっと待て!鈴!」
「死にさらせぇ!」
衝撃砲が発射されるが―――
「あ、あれ?なんで無事なんだ?」
「フン……」
「ラ、ラウラ?助かったぜ……」
「なに、お前には借りが……あったからな」
間に入ったラウラがAICで止めていた。おかげで被害はなかったが、直後にラウラが何を思ったのか、キスするかのように一夏の顔に自分の顔を近づける。そして、一夏の目を見据え―――
「お、お前を私の嫁にする!異論は認めん!」
「はあ!?――って、おわっ!?」
ラウラがそう宣言した直後、青いレーザーが一夏のこめかみのあたりを突き抜ける。発射したのはもちろん――
「ふ、ふふ。フフフ……外してしまいましたわ」
「セ、セシリア?――ここは…逃げる!!」
セシリアがISを展開しているのを確認した一夏はすぐに脱兎のごとく逃げ出す。それをセシリア、鈴、クラスの女子たち、(なぜか)シャルロットが追う。
残された俺たちはというと……
「お、織斑せんせぇ……」
「泣くな、真耶。―――はぁ、仕方ない。熾場、カティア」
「わかってますよ……」
「力ずくで止めて構わないか?」
「問題ない。ISを起動させることを許可する。ただし、あいつらだけだぞ」
「わかっている」
それからしばらくたって、1年1組はホームルームを再開した。
「それで、楯無。デュノアの方はどうなった?」
今は放課後、ことの推移がどうなっているかをエスデスが楯無に問う。
「予想通り、デュノア社社長夫妻は逮捕、デュノア社は直轄になるそうよ。夫妻は投獄以上は確定ね。だけど、シャルロットちゃんにも多少の罰はつくけど、実質お咎めなし。ここはあのお父さんの頑張りね。それに、お父さんが調べていた内容が事実と認められて、デュノア婦人は国外追放、加えて永久に欧州の土を踏めなくなるかもだって。お父さんの方は国外追放とまではならないけど、最低10~15年は出てこれないかもしれないわ……」
「結構…厳しいっすね」
「まあ、国家レベルのスキャンダルだ。当然だろう」
シャルロットはほとんどお咎めなしで、このままが学園に通うこととなったらしく、本人も同意したようだ。あの親父さんは牢に入るらしいが、面会ぐらいはできるだろう。
だけど――
「あいつのことはあいつ自身が決める。口を出すなよ」
「ナチュラルに思考を読まんでください」
「あら~随分通じ合ってるわね~」
ニヤニヤしながら楯無さんが食いついてくる。どれだけ重い話をしてても結局はこうなるのか。
でも―――こういう形の日々があるのが当たり前なんだと思う、起きていることは重大だけれども、最後にはこうしていられる。
まあ、考えようによっては異常でもあるけどな。
「なんだ?私の顔をじろじろ見て、もしかして――」
「何でもないです!見てただけです!」
「楽しそうね~、おね~さんはまz」
「「ない(ません)」」
「ちょっと!声を揃えないでよ!」
楯無さんの抗議に思わず笑みがこぼれる。
今日はいろいろあって疲れたが、気持ちよく寝られそうだ。
「眠れるって思ったんだけど、俺の幻想だった……」
はい、眠れていません。横にいる方は俺の腕をきつく抱きしめて、何か柔らかいものを押し当てながら、規則正しい寝息を立てております。
「スースー」
(起こしてどかす気にもならなければ、逃げようとも考えず、諦めて眠りに落ちるのをじっと待つなんて、俺も随分変わったもんだ)
今ではすっかり見慣れたある女性の寝顔。前の世界での彼女との関係は『敵』、今は『味方』。前の世界でも彼女を説得し、敵に回さないようにしようとしたが、あの時は諦めてしまった。彼女の持つ自我は強すぎて、手の施しようがなかった。でも、この世界に来てからというもの、丸くなったというか、彼女は変わりつつあると思う。
簪と楯無さんの件が象徴的だが、昨日『シュバルツェア・レーゲン』の暴走時に織斑先生との通信で『足止め』という単語が彼女の口から出たときと、一夏の意思をくみ取った時だ。加えて、一夏のための時間稼ぎの間も間違って倒さないようにしてもいた。
以前までの彼女なら、きっと『どちらかが死ぬ(壊れる)まで楽しむ』とか言っただろうし、他人の意思など無視して、自分の欲だけのために偽物の織斑先生と戦ってただろう。
「エスデスさんに言わせれば『タツミのおかげだ』とか言いそうだな……」
俺以外の誰かのおかげ、みたいなことを言ってくれると、もっと嬉しいんだけど。というのは自分の中に仕舞っておく。
タツミはそこで考えるのをやめて、不意に襲ってきた眠気に身を委ねることにした。
隣で眠るエスデスが、このときタツミの考えていたことなど知る由もなかった。
寮の消灯時間が過ぎて皆が寝静まったころ、篠ノ之箒は一人、部屋のテラスに出ていた。
ルームメイトはすでに眠っている。
「あの時、私は……なにもできなかった」
思い出されるのはトーナメントのこと。
自分がもたもたしているうちに――いや、一夏は自分以外とペアなど組まないと勝手に考えて、油断している間に一夏は自分以外の人とペアになっていた。
そして結局、最後までペアは決まらず、転校初日に一夏に平手打ちをしたラウラという少女と組むことになった。
戦力的には十分だった。一夏との直接対決でも勝てると思っていた。
しかし、結果を見ればどうだろうか?自分は開始早々にあっさりリタイアし、試合にも負けた。ラウラの機体が暴走したとき、私は立ちすくむことしかできなかった。
そして何より―――一夏に剣で負けた。
「一夏はなぜ剣道を捨てたのだ……」
以前一夏は「剣道を捨てる」と言っていた。私は当然怒った。一夏を思いとどまらせ、剣道の道に戻そうと必死に一夏に声をかけた。けれども一夏は私のそれを「俺は決めたんだ。今更、箒にどうこう言われる筋合いはない」と言って拒絶した。
一夏のIS訓練は最初こそ私を頼ってくれた。しかし少し経ったぐらいから私と訓練することよりも、もっぱらあの辰已やエスデスといった面々で訓練するようになった。
一夏は変わってしまった。それもこの数か月で。一夏の隣に立っているのはいつの間にか辰已やエスデス、セシリア、鈴、更識簪という少女に、さらには生徒会長といった人物たちというように増えていった。
「一夏の隣には私が居れさえすればいい……!」
一夏を変えてしまった原因が憎い、一夏は剣術などではなく私と同じ剣道をしていればいい。
あの場所を奪い返すために必要なのは“力”だ。一夏の近くにいるのは全員専用機持ち、ならば私の“力”で専用機持ち達を倒して、私の“力”を一夏に示せばいい。
だから、欲しい。量産機などではない。
正真正銘、自分だけの“力”。『専用機』が。
「そのためには……」
箒は自分の端末に入れてはいたが、「掛けるものか」と思っていた番号に電話をかける。
「もしもし、姉さん」
『やあやあ、わかってる。わかってるよ~!欲しいんだよね、箒ちゃんだけの機体。専用機が!もっちろん用意しているよ~!
その名は―――――――――――――――――――紅椿――――――――――――――――――』
挟むかどうか悩みましたが、駄文を挟むことにしました。
前回報告させていただいたバハムートの方ですが、来週をめどにアップを始めます。
できれば読んでいただけると嬉しいです!
この作品も続けていくつもりですので、よろしくお願いします。
ではまた次話で!!