蒼空を駆るは誰がためか   作:無勝の最弱

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第十九話

 

波乱を含んだ学年別トーナメントも終わり、6月も終わりに近づいていた。

いつもの日常を取り戻した学園だが、イベントが近づけば騒ぎ始めるのが女子というもの。今日も朝から来月に控えたあるイベントで女子の話題は沸騰していた。

そう、7月の初めには臨海学校という1年生全体で行う合宿がある。

それに今年は男子がいる。ということもあり、海に関する単語がいやがおうにでも聞こえてくる。

 

「ねえねえ、今年用の水着は買った?」

「かわいいの見つけたけど、サイズが足りなくて……」

「私は買ったわよ、昨日だけど」

「どんな水着~?」

「ふふん、秘密よ、秘密」

 

とか、

 

「いいなあ~。選べないって選択肢のある人は……」

「大丈夫よ。安心して」

「持ってる、持ってないは関係ないよ」

「せめて目を見ていってよ~(泣)」

 

という声も聞こえてくる。

正直こういう話題は俺と一夏(男子)がいないところでしてくれ……

聞いていて恥ずかしいし、怖いんだ。

 

「タツミ、私がいるのに鼻の下を伸ばすとは……」

「滅相もございません!というかそもそも――」

「素直に認めようよ……」

「か、簪。何か言ったか…?」

「別に」

 

理由は上記のようである。

なんにせよ、今日もまた1日が始まる。

 

 

 

そこから数日経った休日の朝。タツミとエスデス、そして簪を含めた3人は寮の入口にいた。

 

「なんで、俺がこんな目に……」

 

そうつぶやくタツミの横には嬉しそうなエスデスと、どこか恥ずかしそうにしている簪の姿があった。その理由は上記の日の放課後にさかのぼる。

 

 

この日は珍しく生徒会のフルメンバーが揃っていた。加えて簪もエスデスに戦闘面のアドバイスを聞きに来たらしく、聞くついでに生徒会の仕事を手伝っていた。

 

「そういえば、もうすぐ1年は臨海学校ね」

「そうですけど、いろいろ辟易してるんですよ…」

「あら?むしろ男子にとってはご褒美じゃないかしら?」

「絶対わかって言ってるよこの人……」

「妹として謝罪します……」

「ちょ、ちょっと簪ちゃん!?」

 

簪が姉の迷惑行為について謝る。非常に優秀な妹だ、なのになぜこの子の姉は……

 

「そ、それより!タツミたちは用意してるの?」

「なにをですか?」

「やぁねぇ~。水着よ、み・ず・ぎ」

 

この姉は学習しないのだろうか?白い目で見られていますよ……

実を言うと、臨海学校初日は完全に自由時間なのだ。

臨海学校で宿泊する宿の前には広大なビーチが広がり、多くの生徒は海で遊んで初日を過ごす。

俺もせっかくなので今度の休日あたり、一夏を誘って2人で(ここ重要!やましいことなど何もない!)水着を買いに行こうとでも考えていた。

 

「まあ持ってないですから。今度の休日にでも、って考えて――」

「聞いたわね」

「ああ。感謝するぞ」

「どういたしまして」

 

しまったー!エスデスさんに知られたら絶対ついてくると思って秘密にしていたのに!!

憔悴しきった俺を見て、楯無さんは笑顔で口撃を繰り出す。

 

「よかったわね。エスデスがあなたの水着選んでくれるらしいわよ」

「だから言わなかったのに!」

「タツミ、ドンマイ……」

 

簪、慰めてるつもりだろうけど、抉ってるよ。その気持ちはありがたいけど。

そして楯無さんはさらなる追い打ちをかける。

 

「何なら簪ちゃんも一緒に行ったら?せっかくだからタツミに選んでもらいましょうよ」

「はぁ!?」 「お、お姉ちゃん!?」

「なら、私もタツミに選んでもらうとしよう」

「決まりね!」

「……(チーン)」

 

これが今回の経緯である。

というか、本音は終始面白がってたのはいいとして、虚さん!なんで助けてくれなかったんですか!?

 

 

とまあそんなこんなで。

俺が今いるのは、IS学園から一番近い大型商業施設だ。

 

「ええっと、水着売り場は3階か……」

「行くぞ」

「それはいいんですけど……」

「どうした?今更逃げられると思っているのか?」

「逃げたいんですよ!――と、とにかく。ここに来るまでに言った通り、自分でいくつか選んで、複数あったら俺が決めるってことにしてくださいよ……」

「わかっている。何度も言わせるな」

「じゃあ、行ってくるね…」

 

2人を見送り、俺も自分の水着を探しに行く。

 

「にしても、露骨だなぁ……」

 

水着売り場を見て、思わずごちってしまう。

このフロアの8割方は水着売り場なのだが、ISの登場による『女尊男卑』の風潮の影響か、男性用水着の売り場がかなり小さい。比率で言ったら7:1ぐらいに。

 

「まあ、こんなもんでいいかな」

「お、タツミじゃん」

「ん?――一夏か」

「お前も水着か?」

「まあそんなところだ」

 

声をかけられ振り返ると、男性用の水着を手に持った一夏がいた。どうやら俺と同じく、買いに来ていたらしい。

と。そこに――

 

「アンタ達、そこの男2人」

「ん?なんですか?」 

「どうしました?」

水着(コレ)、片しといて」

 

見ず知らずの女性が、自分の持っている複数の水着を俺と一夏に突き出していた。

『女尊男卑』の世だと、ここまでのことが起こるのか。なるほど。

俺は一夏と視線を合わせて

 

「お断りします」

「やだ。自分で手に取ったものぐらい自分で片付けろよ」

 

きっぱり断った。

しかし女性は「男のくせに逆らうの!」と逆ギレして、警備員を呼ぼうとする。

ああ、せめてあなたに命があらんことを……

 

「警備員s―――」

「ほう、私のタツミをパシらせようとはいい度胸だ」

「ごめん、一夏。待った――って、あれ?」

 

警備員を呼ぼうとした女性は左の手首をつかまれ、声を出すのを中断し、振り返った。

そこには二着の水着を左腕に抱え、殺気を滲ませながら手首を握っているエスデスの姿があった。

そして俺たちの後ろからはシャルロットの声、どうやら一夏はシャルロットと来ていたようだ。

 

「ヒィッ!?な、何でもないですよ……」

「本当か?」

「はい!ほんとです!私が悪かった!」

「ならいい」

 

そう言って、女性を放すエスデスさん。俺たちに絡んできた女性は脱兎のごとく逃げ出した。

つーか、さっきの殺気は怖かった……

 

「シャルロット、これが今の普通なのか?」

「え?あ、う~ん。そうかもね。僕のお父さんもそうだったし」

「悪いことを聞いたな、すまない」

「ありがとう。でも、気にしなくてもいいよ」

 

頭を下げる、とまではいかないものの、エスデスさんが珍しく謝罪する。

にしても、水着売り場といい、さっきの女性といい、ISが世に出てから数年でここまで変わるものなのだろうか?

 

「助かったぜ、エスデスさん。あのまま警備員呼ばれてたら、かなり困ってた」

「そうなのか?まさか、証拠もなしに捕まるってのか?」

「女性に『暴力を振るわれた』って言われれば、男は弁明、釈明もできず、証拠なしでも捕まる世の中だからなぁ」

 

マジか…、エスデスさんが来なければ、俺たち牢屋行かよ。

 

「それにしちゃあ、きっぱり断ってたな。一夏は」

「ああいうやつが気にくわないってだけだよ」

「ところでシャルロット。一夏を少し借りるぞ」

「わかった。一夏、あとで連絡頂戴ね」

「わかった」

 

その後、シャルロットは店の奥に消えていき、俺と一夏はエスデスさんに『簪を待たせている』ということで連れていかれた。

エスデスさんに引っ張られながら、なんで一夏を借りていくんだと俺は思っていた。

簪と聞いた瞬間、一夏の目が若干泳いだ気がしたけど、俺の気のせいだろう。

 

 

……予想通り、俺と一夏は非常に困っていた。

今までにないくらいに困っていた。

予想はしていたよ、予想してはいたよ!だけれども、困るものは困るんだよ!

なぜ……なぜ……

 

「「何で着たのを見て判断させるってことになるんだよ……」」

 

連れていかれた先では簪がエスデスさんと同じように二着の水着を持って待っていた。

 

「――って、どうして一夏がいるの!?」

「すまん。エスデスさんに連行された……」

 

簪のこの反応は当然であった。

もちろん、どっちの方がいいか。と聞かれるが、2人同時に聞かれて困った俺と一夏を見たエスデスさんは――

 

「実際に着ればわかりやすいな」

 

と言って、最初に簪を更衣室に入れさせて、その隣に自分が入っていった。

それが1分ほど前のこと。今は衣擦れの音もなくなっていた。

そして、後から入ったエスデスさんが先に出てきた。

 

「フム。どうだ、タツミ?」

 

エスデスさんがつけていたのはオーソドックスな黒のビキニタイプ。黒という色が彼女の女性らしさを強調していた。

 

「あ、え、ええっと…に、似合ってますよ。エスデスさん」

「……」

 

無言で更衣室に帰っていった。な、なんかまずいことしたか、俺?

 

「え、えっと。ど、どうか、な?」

「っと、今度は簪か」

 

簪が着ていたのは薄い水色のワンピースタイプだった。

 

「こ、これは……」

「け、結構、似合ってるぞ、簪。なんかこう、言い表せないけど……」

「そ、そう!?じゃ、じゃあこれにするねっ!」

 

俺と一夏はしどろもどろになりながら感想を口にする。

簪は顔を真っ赤にして、音もかくやといった速さで更衣室に戻っていった。

 

さて、残るはエスデスさんなのだが、あの時持っていたのは確か、黒と白だったな。てことは、次は白か。

 

(イメージ中)

 

「ブハッ!!」

 

やべぇ、コレを生で見たら―――

 

「タ、タツミさ……俺、シャルのところに戻っていいか……?」

「やめろ!俺を一人にするな!」

 

一夏が裏切ろうとする(?)のを必死に俺は止める。そんなとき――

 

ガシャッ!

 

「これだな。どうだ?」

「……(鼻血)」

「決まりだな」

 

シャッ!

―――ハッ!?俺は一体何を?

エスデスさんの白の水着姿を想像してたら、仕切りのカーテンが開いて――ってこれ鼻血じゃん!え、ウソ?てことは俺……エスデスさんの水着姿で鼻血を出したってこと!?

 

 

 

「ありがとうございました~」

 

タツミと一夏に選んでもらった水着を購入し(簪はもう一つの水着を試着することなく、俺と一夏に見せた水着を買った)、店を出たところで簪はさっきから疑問に思っていたことを口にした。

 

「エスデス、聞いてもいい?」

「構わない」

「何でタツミは顔を隠しながらどっかに行ったのかな?」

「フ……かわいいやつだ」

 

水着姿に興奮して鼻血を出したなんて、死んでも知られたくなんてないタツミは逃げるようにその場をはなれていた。

同様に一夏もダッシュでその場を去っていた。

 

待つこと15分―――

 

「あ、やっときた。どこにいってたの?」

「ちょ、ちょっとな。あはは……」

「変なタツミ」

 

2人の下へ戻ってきた俺はまず、簪にどこに行ってたのかを聞かれていた。

俺の回答を聞いた簪はきょとんとしているが、隣のエスデスは隠しきれていない笑みを浮かべていた。やめてください、ほんとにマジやめてください。

 

「タツミも戻ったことだ。少し遅いが昼食にしよう」

「そうだね」 「了解…です」

 

3人は手近な店に入り、昼食を(タツミだけが苦労して)済ませ、IS学園への帰途についた。

 

「じゃあ、今日はありがとう」

「ああ、またな」

「じゃあな~」

 

門の前で別れ、タツミたちは自分の部屋へと戻っていく。

簪が見えなくなったタイミングで、タツミは歩を止めた。

 

「どうした。疲れたのか?」

「いや、何でもないっす」

 

(俺の気のせいか?俺が気づいて、エスデスさんが気づかないわけないか)

 

一瞬、視線を感じたタツミだったが、エスデスが気にした様子もなかったので、考えるのをやめることにした。

一方、エスデスはというと――

 

(箒か……教室では一夏の傍によることが少なくなったな。私には関係ないが)

 

関係ないと断じておきながらも何か妙な胸騒ぎを感じるエスデスであったが、顔に出すことなく無視し、タツミと並んで部屋へと戻っていった。

 

 

 





投稿が遅れてすみません。
最近はちょっとバハムートの方を見直したりなんだりしていたので、忘れてました(土下座)

次回は忘れないように頑張ります。
何か水着のチョイスがベタ過ぎた気がしてならない……


ではまた、次回!
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