蒼空を駆るは誰がためか   作:無勝の最弱

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第二十話

 

「海、見えたぁ!」

 

トンネルを抜け、バスの窓から見えるようになった海を見てクラスの女子が盛り上がる。

 

「元気だなぁ……」

「そういうタツミも楽しみなのだろう?」

「まあ、こういう機会なんてめったになかったですし」

 

いつもの通りというべきか、俺やエスデスさんは今の女子のようにはしゃいだりしない。一夏はというと、またシャルロットやセシリア、ラウラに絡まれて困っている様子だ。箒は一人、ただぼんやりと外を眺め続けている。

 

今日は臨海学校初日、1年生全員が学園を離れ、海で思いっきりはしゃぐ日だ。

二日目の明日はISの装備等の試験運用とデータ取り。特に専用機持ちは大量の装備がそれぞれの本国から送られるから大変だ。まあ、俺とエスデスさんのISは束さんが作ったので、束さんが来ない限りは何もない。だけど――

 

あの人(束さん)が来ないわけがないですよねぇ……」

「あの兎にとって規則など存在しないも同義だ」

「ですよねぇ……」

 

ちなみに今のバスの席順は俺の横にエスデスさん。俺たちの後ろは本音と相川さんで、一夏は俺たちより前に座り、その隣はシャルロットだ。

そんなことより、俺には今回の宿泊に関して非常に悩ましい事態が発生していた。

宿泊部屋は1部屋に6~8人が入ることになっているのだが、男子である俺と一夏はまだその部屋を知らされていない。そこまではいい、絶対に女子たちが押し掛けてくる。

問題は部屋割りの中にエスデスさんの名前がなかったことだ!正直、悪寒しかしない……。

 

「そろそろ目的地に着く、全員席に座れ」

 

織斑先生の言葉に従い、さっきまで騒いでいた女子がさっと席に座る。学園の外でも指導能力抜群であった。

 

 

 

「ここが3日間世話になる『花月荘』だ。くれぐれも従業員の仕事を増やさないように」

「「「「はい!」」」」

「あらら、今年の1年生も元気ですね。私はこの『花月荘』で女将をしている清州景子です。では、みなさんはお部屋にどうぞ。海に行かれる方は別館の方へ、場所がわからなければ従業員に聞いてくださいまし」

 

挨拶をすました部屋割りが決まっている女子はぞろぞろ旅館に入っていく、さて、俺と一夏はどこの部屋なのだろうか?

 

「ねえねえ、おりむ~とたっつーの部屋どこ~?」

「知らない」

「俺も」

 

なぜか残っていた本音が聞いてくる。一覧に書いてなかったから気になっていたのだろう。だけど、ほんとに知らないんだよなぁ。

 

「熾場、織斑、カティア。お前たちはこっちだ。ついてこい」

「じゃあ、のほほんさん。またあとで」

「いってらっしゃいなのだ~」

 

織斑先生に呼ばれ、俺たち部屋が決まってない組も旅館に入っていった。

 

 

 

――のはいいが……

 

「「あの~織斑先生?」」

「お前たちの部屋を知らせると女子が消灯時間を無視して、突撃するだろうからという理由でここになった」

 

そしてやれやれと頭を押さえながら織斑先生が指さしたのは『教員室』と書かれた部屋とその隣の部屋(こっちには『教員室』の文字がなかった)。

え?つまり……どういうこと?

 

「なるほど。さしずめ、私と織斑教諭は番犬というわけか」

「理解が早いな。その通りだ。私がいるとわかればおいそれと近づく者もいまい」

「「あの~、もしかして俺はエスデスさん(織斑先生)と同じ部屋になるということでしょうか?」」

「「そういうことになる」」

 

シンクロで聞いたら、シンクロで返ってきた。

―――やっぱり、そうなるのか……。薄々感じてはいましたよ。エスデスさんの名前がないことに気づいたときに……

 

 

 

「なあ、タツミ……」

「なあ、一夏……」

「これって絶対、あの人だよな?」

「それ以外に考えられるか?」

「「はぁ~」」

 

部屋に荷物を置き、海に行くために俺と一夏の2人は着替えを持って、別館の方へと歩いていた。

そんな俺たちのため息の原因は目の前の人参だ。

しかも近くに立っている立て看板にはでかでかと「抜いてね♥」と書いてある。

 

「抜かない方が正解だよな……?」

「ああ、無視した方がよさそうだ」

 

故にスルーする。そいて歩き出そうとしたタイミングで――

 

「やあやあ久しぶりだね!いっくんにたっくん!!」

「た、束さん!?」

「どこから登場してんですか!?」

「う~ん?床から?」

 

突然目の前の床に線が入り、束さんがそこから飛び出してきた。

普通に登場するってことができないのか、この『天災』は……

そんな『天災』さんは俺たちの驚いた様子に大満足のご様子ですがね。

 

「うんうん。束さん大満足!ではまた、さらば~」

 

そう言って駆け出す束さん。めちゃくちゃ速い……。

 

「何しに来たんだ、あの人」

「でも、またって言ってたから……」

「用心だけはしておこうぜ、一夏」

「そうだな。じゃあ、気を取り直して海に行くか」

 

二人は再び別館の方へと足を向ける。その足取りはひどく重かったが……。

 

 

 

水着に着替え、砂浜に出てきたはいいものの……

 

「お~さっすが男子!鍛えてるね~」

「織斑君、織斑君。ビーチバレーしようよ~!」

「おう!少し経ったら行く」

「熾場君は~?」

「あ、じゃあ参加するか。一夏の後でいいか?」

「かまわないよ~」

 

すぐに女子に捕まる。俺も一夏もある程度女子に馴れてきたといってもな……。

予想はできていたが、目の前に広がる花も恥じらう十代女子たちの水着姿というのはかなり……

 

さて、海に来たからには泳ぐか。前に来た海と言ってもあれは……

 

(回想)

「エスデスさん。俺に痛みをくれ」

「タツミ?そういう趣味だとは。やはり、相性抜群だな私達は。」

「さっきの奴に幻覚を見せられてるのかも知れねえ。だったら、身体にダメージを与えれば目が覚めるかも。」

「分かった。行くぞ」

 

……………やめよう。封印しようと思ってたのに思い出してしまった。

 

「おほ~!たっつーにおりむーもかっこいい~」

「ほ、本音…引っ張らないで……」

「ほう、なかなか似合っているじゃないか」

「この声は――うっ!」

「――っ!」

 

聞こえてきた声に振り向いたタツミと一夏はすぐさま視線を戻した。

エスデスと簪は例の水着を、本音はいつも寮内で着ているダボダボの――って水着なのか?普段着じゃないの?

 

「「「おお~」」」

「お前たちはむこうで好きに遊んでいろ。私とタツミも後で参加してやろう」

「「「「はい!!!」」」

 

俺と一夏を囲んでいた女子一同はエスデスさん、簪と本音の姿を見て感嘆を漏らす(エスデスに向けたものがほとんどだったが)。

そして、エスデスさんの一言に勢いよく返事して集まっていた女子たちは去っていった。すげぇ……。

 

「う……」

「やれやれ……

 ほれ、感想の一言でも言ったらどうなんだ。一夏」

 

いまだにもじもじしている簪を一夏の前に引っ張り出して、これ見よがしに一夏ににじり寄るエスデスさん。顔が、とても、楽しそうだ。

 

「ぁ……ぇ……」

「や、やっぱり…変…かな?」

「いやいや!そ、そんなことはないぜ!に、にに、似合ってる!」

「あ、ありがとう……」

「…………///」

「相変わらずかわいいやつらだ」

「からかわないでくださいよ……」

 

エスデスさんと簪の水着は先日俺と一夏が選んだ(選ばされた?)水着だった。妙に恥ずかしかったが、こうして自分が選んだものを着てくれているというのは、ちょっとうれしい。

その後、一夏は簪、本音と一緒に女子たちがビーチバレーしている場所に行った。すぐに騒ぐ声が聞こえたが、俺はエスデスさんに引きずられてなし崩し気味に競泳をさせられた(意外にも負けた時の罰ゲームは無しだった)。

往復2kmの遠泳を終えた俺とエスデスさんは木陰で休んでいたが、少し経つとそこに鷹月さんがやってきた。

 

「姉御発見!おお…想像以上にナイスボディだぜぇ――じゃなくて!織斑君とデュノアちゃんのペアが強くて勝てないんです~」

「ん?鷹月か、どうした?」

「今ビーチバレーをあっちでやってるんですけど、織斑君のペアが強すぎて無双状態なんですよ~」

「面白い。軽くひねってやるとしようか…タツミ」

「俺っすか!?」

「お前以外に誰がいる?」

 

即答だった。どうやら俺に選択肢はない様だ、ちくしょう……。

そして沈む俺に追い打ちをかけるように、鷹月さんについて来た簪と本音が2人そろって肩に手を置く。

 

「タツミ。エスデスに何を言っても無駄だよ」

「諦めるのだ~」

 

俺の味方はここにはいないようだった。

 

 

 

「……まさか、あそこまで一方的な展開となるとはなぁ」

 

日も暮れて今は夕食の時間、タツミは夕食を食べながらそう呟いた。

ちなみにこの旅館では『お食事中は浴衣着用』と言う決まりがあるらしく、全員が浴衣を着ている。

 

「そうだね。もう少し拮抗するかと思ったけど、最終スコアが15-3だもんね」

「しかも3点は俺のミスだしな……」

「容赦なしだったね~」

 

隣に座る簪とその隣の本音とビーチバレーの感想を話す。

こちらの得点はほとんど(13/15)エスデスさんが取ったものだ。しかもアウトだろうが何だろうが、自陣側に帰ってきたボールを拾ってまで引き延ばしに引き伸ばした結果だ。

まあ、それも仕方ないかもしれない。本気で楽しもうとしてたから。

そしてその楽しんでいた人はというと……

 

「どうした?私の顔にご飯粒でもついてるのか?」

「何もついてないです」

 

さも当然のように俺の隣に座り、礼儀正しく夕食を食べていました。

一夏の席の方から何かもめているような声が聞こえたが、織斑先生が登場→場が静まる→一夏だけが注意を受ける、の流れであっさり解決していた。

 

 

 

その後、俺は一夏と共に大浴場で温泉の時間を楽しみ、お互いの部屋の前で別れた(と言っても隣同士だが)。そして自分の部屋に入るが、そこには誰もいない。

 

「あれ?って、ああそうだ、簪たちと風呂に行くって言ってたな」

 

その頃、大浴場でエスデスの容姿を見た女生徒達が黄色い声を上げ、少し離れたところで簪が「まだ成長期……」と呟き、続いて幼馴染みの本音を見て――これ以上は本人のために言わないでおこう――ことをタツミが知るよしはなかった。

 

「ま、いっか。本でも読んでいよう」

 

自分のバッグから適当に本を取り出し、エスデスが戻って来るのを待つことにした

 

 

 

「…お前たちは何をやっているのだ?」

「…なにしてるの?」

 

温泉からの帰り、エスデスと簪は一夏と織斑先生の部屋の扉の前で聞く耳を立てている3人―

鈴、シャルロット、ラウラ―がいた。無視の選択肢もあったが、少しばかり気になったので2人は声をかけた。が、反応はない。

いや、むしろ3人のどんよりとした空気こそが答えだろうか。

 

「おい、聞く耳を立てている3人。そろそろ入って来い」

 

中にいる織斑先生にはバレバレだった3人はそう言われても、扉を開けようとする人はいなかった。なので――

 

「邪魔するぞ、織斑教諭」

「カティアか。まあいい、ついでに入れ。そこの更識もだ」

 

エスデスが扉を開ける。

織斑先生は一瞬驚いた顔をするが、それも一瞬のことだった。

そして織斑先生の言う通りに全員が一夏の部屋に入る。

 

「何をしていたんだ?」

「ああ、千冬姉とセシリアにマッサージをしていたんだ。ふう、さすがに連続はきついな」

「手を抜かんからだ。少しは要領よくすればいい」

「いや、それはせっかく時間を割いてくれている相手に失礼だって」

「愚直だな」

「良くも悪くも真面目なところはお前の長所だな」

「千冬姉、たまにはエスデスさんみたいに誉めても罰は当たらないって」

「どうだかな…。さて、お前は風呂にでも入って来い、部屋を汗臭くされては困る」

「ん、そうするよ」

 

一夏が部屋を出た(追い出された?)後、千冬はおもむろに冷蔵庫を開け、人数分の飲み物を出して配り始める。そして自分はビールを開けて、勢いよく飲み干す。

それに唖然となる全員。いや、一人エスデスだけは普通に自分が渡された缶コーヒーを飲みきっていた。

 

「やはり、コーヒーは口に合わんな」

「ならビールでも飲むか、カティア?」

「教員が生徒に酒を勧めるのはいかがと思うが?」

「お前の歳なら問題ないだろう?」

「あまり酒は好かんのでな、遠慮させてもらおう」

「つれないな」

 

女子ズはいつも厳格なイメージの織斑先生が学園の行事の間に飲んでいるということに加え、軽口を叩いて会話をしている光景が信じられないようだ。

 

「どうしたお前たち、全く飲んでいないようだが」

「ええっと、織斑先生がビールを飲んでいるからかと……」

「私だって人間だ。酒ぐらい飲むさ」

「そうかもしれないですけど…」

「気にすることはないぞ、お前達。誰にだってこういう面はある」

 

エスデスは立場上、多くの人物とかかわる機会があったので、こういう人間には慣れていた。なので、気にすることなど何もない。

 

「さて、いつもなら一夏に酒の肴を一品作らせるところだが、今日はお前たちの話を肴にしようか?」

 

非常に楽しそうな織斑先生。それもそうだろう。人の恋話ほど面白い物はそうそうない。

一部の人は「闘いほど面白い物はない」と言いそうだが、そこはこの場ではほっとく。

 

 

 

「フ……」

 

ここにはいない一夏について楽しそうに話しを振る千冬や振られては顔を赤くしたりしながら答えるセシリアたち。それを見ていたエスデスも千冬と同じように楽しげに、しかして少しうらやましげに鼻を鳴らした。

 

「エスデス?」

「なに、私はこういった経験などしてこなかったからな」

「そうだね……」

 

聞いて、表情に影を差した簪の頭にエスデスは手をのせる。

 

「私の過去だ。お前には関係ない」

「うん…」

「さて、次はカティアと更識だな」

 

いつの間にか順番が回ってきていたようだ。他のメンツの話が余りに面白かったのか、それとも酔いが回ってきたのか(おそらく両者)織斑先生の機嫌はかなり良かった。

 

「私にも聞くのか?」

「この場にいるのだから当然だろう?」

「そうだな、一言でいうならば――なかなか見所のあるやつだ」

「ええっと…かっこいいな、って……」

 

エスデスの言には反応が返ってこなかったが簪が言った瞬間、ほかの女子ズの目が簪に突き刺さる。

簪はすぐに顔を赤くして視線を逸らす。

 

「なるほどな。ククッ…。まあ、一夏は役に立つぞ。家事も料理もできるし、マッサージもうまい。というわけで、付き合える女は得だな。どうだ、欲しいか?」

「「「「くれるんですか!」」」」

 

意地の悪い笑みを浮かべてそう言った織斑先生に食いつく4人。エスデスは気にしない。簪は顔を赤くして俯いたままだった。

 

「やるか、馬鹿どもが。女なら奪うくらいの気持ちで来い。せいぜい自分を磨けよ、ガキども」

「「「「ええ~」」」」

 

エスデスは「結局、弟自慢か」とは思ったが口にはしなかった。代わりに「私は私の男のところに行くか」と言って立ち上がり、部屋を出ていく。

 

 

 

一方、隣の部屋にいたタツミは―――

 

「zzz……」

 

本を片手に熟睡してました(笑)。

 

 

 

 

 

 

 





アニメでエスデスとタツミ君が無人島で飛ばされたシーンで思ったんですけど、エスデスさんのあの姿は軍服の上を脱いだだけのはずだったのに反則ぽかった気がしますぅ……。

今回、ビーチバレーの様子を書こうかと思いましたが、いろいろ想像したらまずい気がしたのでやめました(点を取った喜びで抱きついてタツミ君呼吸困難とか、タツミ君がこけてエスデスさんの水着をずらしてしまうとかetc.)。


次回からは福音編の本番に入っていく予定です。ではまた次話で!
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