作戦本部の置かれた一室でエスデス、簪、千冬を中心としたメンバーは『白式』というカードを失った現状でできる作戦を考えていた。しかし、その喪失分は大きく、これといった作戦を組み立てることができないでいた。
「やはり一撃必殺の存在は大きいな」
エスデスは多少の皮肉を混ぜた声でそう言った。
「…………」
千冬は何も答えない。
「私の『山嵐』もあの連射性能だと厳しい……」
簪は戦闘ビデオを見ながらそう言った。
全員が『
だが、この場にいる全員はそれが愚策だということはわかっていた。
と、そこに――
「お、織斑先生っ!」
「指示があるまで自室にいろといただろう!相川!」
血相変えて作戦室に飛び込んできたのは相川だった。とうぜん千冬は命令違反をとがめる。
「お叱りも罰も受けますけど、大変なんです!」
「どうした、清音」
「さっき砂浜からセシリアさんたちが飛び立つのを見たんです!」
「なんだと!?」
エスデスに促され、相川が告げたのはセシリア、鈴、シャルロット、ラウラの4人が出撃命令を受けていないにもかかわらずに出撃したことを知らせるものだった。
「山田先生!」
「だめです!通信がつながりません!」
「当たり前だ。連中が通信を切っているのは当然だろう。それより、箒の方はどうだ?」
「篠ノ之だと?あいつは今別室に―――まさか!?」
エスデスが突然箒の名を出したことを怪訝に思った千冬はある事実に気づいた。
そう、箒が待機していた別室からは砂浜が見える。
「学園所有の『打鉄』の反応、出ました!ここから10キロメートルの地点です!」
「あの大馬鹿者め!」
「大馬鹿なのはいっくんも同じだよ、ちーちゃん」
真耶の報告に珍しく怒鳴った千冬にタツミの行方の捜索をしていたはずの束が口を挟む。
「束、タツミの捜索は終わったのか?」
「うん。『インクルシオ』の消失地点から南東に400m程離れた海域の可能性が高いよ。今日は波が穏やかだったからね」
「そうか。束、大馬鹿は一夏もだといったな?どういうことだ」
「実はここに来る前にいっくんの部屋に行ったんだけど、いなかったんだよね」
束の報告は4人の専用機持ちが無断出撃したことに混乱していたところに、さらなる衝撃を与えることとなった。しかし、あの傷でどうやって……
「仕方ない。行くぞ、簪」
「エ、エスデス?」
「織斑教諭。タツミの捜索は教員部隊で当たってくれ。私と簪は一夏たちのところに向かう」
「……束、福音の位置情報はわかっているか?」
「お、織斑先生!?」
千冬はエスデスの言ったことに考えるそぶりを見せたが、そうするしかないと判断したようだった。
聞かれた束は不敵な笑みを浮かべて、「もちろん」と言った。
「カティア、更識。頼むぞ」
「タツミのことは頼んだぞ」
「任せろ」
「エーちゃん、ちょっと待って」
「何だ?」
「『ニブルヘイム』と『白式』の追加エネルギーパック。あとこれも」
「……」
エスデスは束から受け取ったものをISの拡張領域に入れて、簪を引き連れて部屋を出ていった。
「束、一夏をどう思う?」
「ちーちゃんと同じ結論だよ」
エスデスと簪が出ていった後、千冬は束に問う。そして返ってきたのは同意だった。
「一夏、無事か?」
「エスデスさん!それに簪も!?」
「一夏、体は?それにその機体……」
エスデスたちが束から受け取った福音の位置情報の地点に着くと、そこにいたのは見たこともない機体を纏った一夏だけだった。
「何か目が覚めたら治ってた。どうやら『白式』が『
「お前たち、そんな悠長に話している暇はないぞ」
エスデスの視線の先では、『
そして放たれるのは全方位への一斉射撃。
3人はバラバラに分かれる。
「《
一夏がそう叫んだ瞬間、『白式』の左手の新武装《雪羅》がその砲身を変形させ、盾を形作る。どうやら、《雪羅》は状況に応じてその形を変えられるようだ。
(なるほど、『零落白夜』のシールドか。残っているわけだ)
《雪羅》が発生させたエネルギーシールドに福音の光弾が触れると、光弾は爆発することなくかき消えた。
エスデスは福音の射撃を氷の盾で防ぎながら一夏の新しい武装について考察していた。
福音には実弾がない。エネルギーを無効化する『零落白夜』のシールドならば射撃は防げる。その分は優位に立てるが、エネルギーの消費は変わらないだろう。
「簪、弾幕を張れ!」
「うん!」
エスデスは簪に目くらませの『山嵐』を放たせ、自分は一夏の下に飛んだ。
「一夏。束から追加のエネルギーパックを預かっている。こいつでしばらくは持つだろう」
「サンキュー、助かったぜ。残りのエネルギーが1割しか残ってなかったんだ」
一夏にエネルギーパックを渡したエスデスは簪の隣に立つ。
「一夏、簪と私で隙を作る。そこを突け」
「「了解!」」
「行くぞ」
一夏は《雪羅》をクローモードに移行させ、接近戦の構えを取る。
エスデス、簪、一夏の3人が福音と対峙し―――戦いの火蓋は切られた。
タツミside
「う……。ここは……」
目覚めた俺の視界に入ってきたのは見たことのない荒野だった。
ここがどこなのかが気になったので、とりあえず周囲を見回す。
しかし、視界に入ってくるのは殺風景なただの荒野。
「ここはどこだ。俺は確か福音と戦っていたはずだ」
『お前さんは撃墜されたのさ。福音にな』
「――!?だれだ!?」
いきなり沸いた声にタツミは警戒する。
『そう身構えるんじゃねえよ。俺はお前さんとずっと一緒にいたんだぜ?いや、この数か月と付け足すべきだな』
「は?」
俺とこの数か月一緒にいただって?そんなはずはない、俺はこの声を知らない。
声の主を探そうと視線を動かすと、不意に影が差した。俺はそのまま視線を上に上げた。
「ド、ドラ…ゴン…!?」
『なんだよ、きれいなおねーさんの方がよかったか?浮気は駄目だぜ、お前さん』
「いや、俺とエスデスさんはそんな関係じゃ――って、おい!」
『ん?違うのか?』
「違うよ!それよりお前は何者なんだよ!?」
つ、疲れる……。
『おいおい、ヒントは出したぜ?いい加減わかれよ、相棒』
「相棒?――まさか、『インクルシオ』か!?」
『やっとわかりやがったか』
タツミがようやく理解したのを見て、ドラゴンは鼻を鳴らす。
「ちょ、ちょっと待て!それじゃあここはどこなんだよ!?」
『そうだな、俺の心象世界。それとも夢の中とでもいえばいいか?』
「心象世界……ISにも意思があるのか?」
『あたりめぇよ。そもそもISのワンオフ・アビリティーってのは、俺たちコアが持つ意思が操縦者を完全に認めないと発現しないもんだ。そんで第二形態もコアが操縦者の強い意志に応えて現れるものだ』
「つまり、操縦者がISに認められないと起こらない。ってことか」
『そういうことだ。ま、必ずしもここに呼ぶ必要なんざないけどな。で、俺はお前さんの意思を聞くために呼んだってわけ』
成程。俺が強くなるための一種の試験ってわけか。
「手短にしてくれ、行かなきゃいけないところがあるんだ」
『そう焦るなって、お前さんの意思はわかってる。お前さんの記憶を拝見させてもらったんでな』
「はあ!?」
俺の記憶を見ただって!?
それに俺の意思がわかってるなら何でここに呼んだんだよ、コイツ!
『呼ぶ必要なんかないけどよ、ちゃんと言葉で聞きたいじゃん?』
恋愛と同じだよって、付け加える『インクルシオ』。余計なお世話だ!
……とはいえ、言葉で表せ、か。そんなもん決まってる。
「俺は生きて帰る。俺の居場所に帰るために」
果たせなかった約束を果たすため、誓ったことを口にする。
『……お前さん以外の仲間は?』
『インクルシオ』はさらに質問を重ねる。
だが、わかっているはずだ。
「俺が守る。全員守るなんて大層なことは言わねぇ。だけど、俺の手の届く範囲の仲間は助ける。だから――力を貸せよ、相棒」
『お前さんの意思、確かに聞き届けた』
そう大声で叫ぶと、俺の前からドラゴンの姿は消えていく。
『行けよ。お前さんの仲間たちは今も闘ってるぞ、守るんだろ?』
「うっせ。あと『行けよ』じゃないだろ?――行くぞ!『インクルシオ』!」
待っててくれ、皆!!
やべぇ、こっちの書きだめがなくなってきた……。
つい先日、ついに大学が始まってしまいました。更新ペースを維持できるように頑張ります。
今話は一夏君のあのシーンをタツミ君でやってみました。正直、駄文ですが……
あと2話ほどで福音編は終了となる予定です。
ではまた次話!