蒼空を駆るは誰がためか   作:無勝の最弱

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第二十四話

 

「まったく、しぶといな」

「同感……」

「当てるイメージが湧かねぇよ」

 

福音と3対1で戦うエスデスたちであったが、第二形体移行したことで各性能の向上した福音相手に苦戦を強いられていた。

SE残量にはまだ余裕があるが、消耗戦となればリミッターなしの福音がどれほどのエネルギーを持っているかわからない以上、エスデスたちが圧倒的に不利なのだ。

だが、それよりも大きな問題を簪は感じていた。それは――

 

(エスデス、今日は調子が悪いの?)

 

普段から練習相手をエスデスに頼むことの多い簪はこの福音戦が始まって以降、エスデスの動きにいつものキレがないことを感じていた。

エスデスの機体がエスデスの反応速度についていけていないことを簪は知っている。それでもやはり、何か物足りなさのようなものを感じてしまう。

 

そして当人であるエスデスもまた自分が本調子ではないことを感じていた。

 

(ちっ…。どうにも調子が上がらんな。目の前には強敵(えもの)がいるというのに…)

 

こちらに決定打を与えさせずに戦う『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』はその制御をIS自身がしているとはいえ、まぎれもなく強敵。普段であれば昂ぶる場面なのに、エスデスは心のどこかで「何かが足りない」と感じていた。

 

(だが、そう考えてもいられんな…)

 

考えるのをやめたエスデスは福音が逃げ出さないように足止めをしている一夏と簪に指示を飛ばす。

 

「一夏、簪。私が突っ込む、バックアップは任せた」

「で、でも。大丈夫なの?」

(気づかれていたか……顔に出したつもりはないのだがな)

 

簪の心配が何なのかを理解してもエスデスの意思は変わらない。

 

「何も気にする必要はないぞ?タツミがいれば状況も少しは違ったかもしれないがな」

「エスデス……」

 

苦笑とともに放たれたエスデスの一言は彼女の不調の原因を表している。

「タツミの不在」。元の世界の最後、帝国との最終決戦で命を落としたタツミを「弱いから死んだ」と表では切り捨てておきながら内心、少なからずの喪失感を感じていた。

今のタツミは「行方不明」だが、死んだとはエスデスも思っていない。けれど、IS学園で共に過ごした時間はエスデスに以前より大きな喪失感をもたらしていた。本人はそれに気づいていない。だが、心はそれを解っているということが彼女の不調の原因である。

 

「わかった。信じてますよ、エスデスさん」

「誰にものを言っている、一夏」

 

《雪羅》の荷電粒子砲を受けて体勢を崩し掛けた福音だが、スラスターを吹かせて強引に体制を直す。その瞬間にエスデスが接近する。

意表を突かれたのか、福音の動作がワンテンポ遅れた。その隙を見逃すはずがないエスデスは容赦なく襲い掛かる。

 

「遅い!」

「……!」

「お願い、《山嵐》!」

 

エスデスの攻撃で体勢を崩した福音にすかさず、簪の『打鉄弐式』最大攻撃力の《山嵐》のミサイル群が襲い掛かる。エスデスはぎりぎりまで肉薄して離脱。

 

「《銀の鐘(シルバー・ベル)》。最大稼働を開始」

 

カウンターの一斉射撃を敢行する福音だが、相殺しきれずに数発のミサイルを食らう。

 

「一夏!お願い!」

「任せろ!」

 

簪の合図で一夏が飛び出す。

そして瞬間加速の爆発的加速をもって、福音に一瞬で接近した一夏は『零落白夜』の刃で福音の片翼を斬る。

 

「もう片方――ぐッ」

 

そのままもう片翼を斬ろうとした一夏に福音の回し蹴りが入る。

 

「優先順位を変更。現空域を離脱する」

「させるか」

 

足止め目的に放たれた光弾をかいくぐり、エスデスが肉薄する。

福音に接近戦を仕掛け、優勢に戦っていたが、ずれが生じた。

 

(チッ…私としたことが……!)

 

そして、そのずれは隙となってしまう。

エスデスの動きにずれが生じたのを見逃さず、福音の再生した片翼からエネルギー弾が放たれる。

 

「エスデス!」

「エスデスさん!」

 

簪と一夏が叫ぶ。

避けるのは不可能と判断したエスデスは氷の盾を瞬時に形成する。しかし、展開できたのはわずか二枚―――そして光弾は一斉に爆ぜた。

 

 

 

 

 

光弾の爆発によって発生した閃光と煙が消えたそこにいたのは――

 

「ふう、なんとか間に合った……。無事ですか、エスデスさん」

 

誰かの息をつく音、そして呼ばれる自分の名前。その聞き覚えのある声にエスデスはその名を呼ぶ。

 

「遅い。私を待たせるとはいい度胸だな、タツミ」

「お礼なしですか!?」

 

タツミはエスデスの反応に驚いていたが、エスデスは自分の中にあった何かがなくなるのを感じていた。

 

「フッ、冗談だ。それより第二形態移行したのか?」

「まあ、そんなところです」

 

タツミの纏うIS『インクルシオ』の第二形態『T(タイラント)・インクルシオ』は今までと少し形状が違い、竜を想起させた。非固定だったウィングスラスターは装甲に直接接続され、竜の翼のようになり。加えて、尾のような武装が増設され、その先はブレードのように鋭い。

と、そこに――

 

『無事ですか!?エスデスさん――って、タツミ!?』

『よかった、無事だったんだ2人とも』

「そうみたいだな」

「福音は?」

『交戦中だよ。でも、正直きついから早く来て』

 

一夏と簪からエスデスに通信が入る。

2人はすでに福音との戦闘を再開していたようだ。

 

「わかった。タツミ、先に行け」

「エスデスさんは?」

「エネルギーを回復させてから行く。さほど時間はかからん」

「わかりました」

 

そう言ってエスデスは束から預かったエネルギーパックを取り出した。

タツミはそれが何なのかわからなかったが、気にせず、エスデスに背を向けた。

そして大きく息を吸って、叫んだ。新しい力を呼び覚ますように。

 

「単一仕様能力――『龍威纏身(りゅういてんしん)』発動!」

 

単一仕様能力『龍威纏身(りゅういてんしん)』は簡単に言えば、出力強化の能力。機体性能が飛躍的に上昇する。しかし機体や肉体にかかる負荷が大きいので、その力は3~5分しか持たないという『零落白夜』とはまた違った意味での諸刃の剣である。

 

「行ってきます」

 

黄金の輝きを纏った竜が夜空を駆けていった。

 

 

タツミが簪たちのいる方向へと飛んだのを見送り、エスデスは束から受け取ったエネルギーパックでの回復を始める。

 

(まさか…この私が助けられる側になるとはな…)

 

そのとき―――

 

『よかったわね、彼が帰ってきてくれて』

 

不意に響く声、周囲に人はいない。

と言うよりむしろ脳内で響いた声と表現した方がいいか。

 

「私が惚れた男だぞ?当然の結果だ」

『一途ねぇ。…それより、あまり驚かないのね』

「ISのコアに意思があるという話は聞いていたからな」

 

特に驚いた様子もなく、脳内に響く声をコアの声だと断じるエスデス。

 

「それで、お前は何をしに来た?」

『せっかちね。もう少しのんびりしましょ?』

「行くぞ。それは後回しだ」

 

それに対して『ニブルヘイム』のコアは『ふふふ、では参りましょう。思い人の下へ』

と囁くように言った。次の瞬間、エスデスの機体が光に包まれる。

 

「これが、新しい力か」

 

光が消え、『ニブルヘイム』の第二形態『ニブルヘイム・D(デモンズ)』が姿を現す。機体の腕部装甲がシェイプアップされ、より細かい動きが可能となった。スラスターも強化され、出力が上がっていた。機体には紫のラインが浮かび上がり、禍々しさが増したようにさえ感じられる。

感触を確かめるために少し動く。そして表示されたディスプレイに出た単一仕様能力を見て、口元に笑みを浮かべる。

 

「フ、ようやく全力を出せそうだな」

 

彼女がただ一人のために作りだした技が、解放された――

 

 

 

「そう何度も食らうか!」

 

福音の掃射射撃に対し、タツミは左手に宿した炎を剣の形に変え、右肩のあたりまで持っていき――

 

「火竜…一閃!!」

 

そのまま一気に横に振り抜く。同時に、福音の放ったエネルギー弾が一斉に爆ぜた。

炎は伸縮自在、それで空間を薙ぎ、焼き払う。

炎の刃を飛ばすことはできたが、その範囲は狭かった。理由は炎の出力が足りなかったこと。しかし、第二形態になったことで炎の出力も上昇し、加えて『龍威纏身』の出力強化により可能となった。タツミになかった中・遠距離範囲攻撃である。

 

「タツミもなかなかやるな。さて、私も本気で行くとするか」

 

戦場に到着し、タツミの技を見たエスデスは両手を自分の胸の前で交差させる。

 

「――ッ!?一夏、簪!福音から離れろ!巻き込まれる!!」

 

エスデスの見覚えのある動作を見たタツミは慌てて、簪たちに大声で叫ぶ。

2人はタツミの切羽詰まったような声に反応して、福音との距離を開ける。

次の瞬間―――

 

「私の前では、全てが凍る――『摩訶鉢特摩(マカハドマ)』」

 

 

『摩訶鉢特摩(マカハドマ)』…。その正体は時空を凍結させる。

エスデスが持つ帝具『魔神顕現 デモンズエキス』は数ある帝具の中で唯一、奥の手が存在しないという代物だった。

この技はエスデスがタツミを確実に手に入れるため、敵を確実に殺すために作った、オリジナルの『奥の手』である。

 

単一仕様能力として発現したが、その効果範囲は自分で制御可能。最大で5~10m。つまり、味方を巻き込む心配がないともいえる(この人が『巻き込む』なんて心配するわけないか…by作者)。

 

福音がその動きを止める。

 

「長くは続かん。今のうちに終わらせるぞ」

 

いきなり福音の動きが止まったことに戸惑う一夏と簪だが、エスデスの声にハッとし、福音に迫る。

タツミもすでに動いていた。

 

「グラオホルンル」

「《春雷》!」

「竜破炎刃!」

 

エスデスの生み出した氷柱が、簪の《春雷》から放たれた荷電粒子砲が、タツミが放った炎を纏う衝撃刃が福音を直撃する。

 

「……!?」

 

『摩訶鉢特摩(マカハドマ)』の効果が消え、動けるようになった福音は『銀の鐘』での迎撃の暇さえなく襲った高威力の攻撃によって完全にバランスを崩す。そして正面から《雪片弐型》を鞘に納め、最高速で襲い掛かる一夏の刃を前に手段は残されていなかった

 

「雷閃!」

 

居合一閃。迅く、ただ迅く。雷の閃きのように。

『零落白夜』を発動させたまま放たれたその一撃は福音に残ったSEの全てをかき消した。

『銀の福音』はその動きを完全に止める。

 

「終わったな」

「やっと、終わっ…」

「やれやれ、世話の焼けるやつだ」

「すみません」

 

『龍威纏身』の反動か、ぐらりと体を倒すタツミをエスデスが支える。

そこに『銀の福音』の操縦者を抱えた一夏と簪も戻ってくる。

 

「福音のパイロットも保護したことだし、帰ろうぜ」

「その前にほかのみんなと合流しないと……」

「あいつらの位置は――探す必要もないか」

 

エスデスが自分の後方を指さす。そこにはセシリアや鈴、シャルロット、ラウラといった専用機持ちたちの姿があった(箒の姿はなかった)。

 

「無事だったのか!?」

「当たり前でしょ!腐っても代表候補生よ、あたしたちは!」

 

一夏の驚き混じりの声に怒鳴り返したのは鈴だった。

そのほかの専用機持ちたちも機体に少なからずダメージを負ってはいたが、無事のようだった。

エスデスはそこでふと気づく。

 

「あの馬鹿者はどうした?」

「とりあえず縛り上げて、ISも没収した。加えて、こっちに来る前に気絶させておいた。今頃は学園の教員に保護されているだろう」

 

エスデスの問いに答えたのはラウラだった。

 

(まあ、エスデスがやったら()りかねないし……)

 

と、エスデスを除いたこの場にいる全員が思ったが、顔にも口にも出すことはなかった。

ともかく、今回、箒は多くの違反を犯した。処分は旅館に戻ってからになるだろうけど、かなりの厳罰が待っているのは間違いないだろう。

 

「…とりあえず旅館に戻ろう。一夏もそうだけど、タツミもぐったりしてるし」

「それもそうだな。じゃあ帰ろうぜ」

 

そう言って一夏と簪が先行し、タツミを抱えたエスデスが続く。その後にセシリアたちがついていく。

長い夜は明け、空はすでに明るくなっていた。

 

 

 

 






先週は投稿できずに申し訳なかったです。
忘れていたわけではないんですが、こっちでちょいと厄介なことが起こりまして、パソコンを開ける時間がそんなに取れなかったんです。

今回で福音編のメインは終了です。
エスデスさんからモップへのお仕置きは書く予定なしですが、概要だけは次々話あたりに書こうと思っています。

アイデアがあったら感想等に書いて頂ければ、使うかもしれません。

では、また次話で!
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