「ここが…川神…。」
電車を降り駅の改札を抜け、外に出ると、思わず呟く。
この街が特別な造りになっているわけでも無い。ただ、他の街では味わえない程の"闘気"が漂っているのを肌で感じる。
肩に背負ったバッグを背負い直し、腕時計を見る。予定より早く川神市に着いたようだ。ならば少し遠回りをして行こう。青年は初めての地を、期待に胸を躍らせながら歩いていく。
「ふむ。…ここはどこかな?」
歩き初めて1時間。青年の中では目的地を遠回りしながら歩いていたつもりだったが、どうやら思っていた以上に道が入り組んでいた。
予定通りに着かないかもという思いが、青年の額に冷や汗を浮かばせる。
(あの人、約束とか破ったら本気で殺しに来そう)
如何にか大通りに出ようと歩く。人の会話、商人の客寄せ、子供のはしゃぐ声が聞こえてくる。声のする方へ歩くと大通りに出れた。沢山の商店やら甘味処などがひしめき合う。誰かに道を尋ねるため、声をかけ易そうな人を探す。
「…お!」
目に入って来たのは人では無く飴だった。色とりどり、奇抜な味、動物の形やユニークな形をした物など、飴だけで凄い種類だと感心する。
飴はいい。手が汚れない。口に入れ舐めてるだけだから邪魔にもならないと、1人で飴の評価をつけていると、
「あの…いらっしゃいませ。」
「ん?」
声のした方を向くと、店員なのだろう、私服ではほぼ着ない服を着た女性が此方を見ていた。
「ああ、すまない。飴の種類に圧倒されてしまった。」
青年は微笑を浮かべる。
「…あ、そ、そうですね。ここまで種類を扱っているのは、この近辺では無いですね。」
店員は頬を赤らめながら答える。
(うわぁ、凄い…イケメンだぁ…)
青年は身長が180前後、細く見えるが重心がしっかりとしている。
黒髪に二重の瞼、睫毛も長く瞳がはっきりしている。鼻もスッと通っており、顔のパーツは整っている。所謂イケメンと呼ばれるに相応しい顔立ち。
(ん?頬が赤いが?疲れているのか?)
青年は首を傾げる。自分では、自分の容姿が世間一般の容姿だと思っており、自分が見つめているのが理由だとは考えもつかない。
「では、これと…これを2つ頂けますか?」
「はい!ありがとうございます!」
「あ、これは今食べるつもりなのでそのままでいいですよ。」
「分かりました。お会計、1280円です。」
バッグから財布を取り出し、開ける。
「はい、1280円っと。」
「ちょうど頂きます。ありがとうございました!」
会計も済み、財布をしまい飴の入った袋を持ちいざ目的地へ行こうとした所で本来の目的を思い出す。
「おっと、そうだ。」
「はい?どうしました?」
「実は川神市に来たのは初めてで、道を教えて貰いたいのですが。」
「ええ、大丈夫ですよ。それでどちらに?」
「この近くに九鬼財閥の本社があると思うのですが、道に迷いまして。」
青年は頬を掻く。
「えっと…」
店員は苦笑いを浮かべる。
「九鬼本社は向こう側ですね。」
「え?」
店員が指を指す方を見る。駅が見える…。
(マジか…)
バッグの中から地図を取り出す。九鬼本社は駅から上の方にある。
「あ、見方が違います。こうです。」
店員は180度、地図を回転させる。
(うわぁ…、これは…)
恥ずかしい。醜態を晒した。頭の中にその思いが溢れ出す。
「あ、そうでしたか。ありがとうございます。」
頬を赤く染めながら何とか礼を言う。
「ふふ、いえいえ。九鬼本社は大きい建物ですので行けば一目で分かりますよ。」
店員が微笑む。
(ふふ、可愛いかも)
その微笑みが青年の羞恥心を煽る。
誤魔化そうと何か言おうとした時にふと、腕時計を見る。約束の時間まであと5分しかない。のんびりし過ぎたようだ。
地図をバッグにしまい、胸の前で右手の拳を左の掌で覆い、頭を下げる。拱手礼である。
「ありがとうございました。」
「あ、いえ、どういたしまして。」
綺麗で様になっている礼に驚きながら、礼を受けとる。
(この人も武道をやってるのかな……え!?)
いきなり青年に手を掴まれた。手の温かさが伝わってくる。
驚きで固まっていると、
「これは道を教えて頂いたお礼、どうか受け取ってください。」
店員の掌に先ほど青年が買った飴を置く。
「では、これで。」
青年は背を向け歩き出す。
そこで店員は気づき、青年の背を見つめる。
(温かい手だった…)
青年の温もりが微かに残る手を見つめ、掌にある飴を口に入れる。
「甘い…」
後ろからお客に声を掛けられ、慌てて店に戻った。
店から出て青年は跳んでいた。喜びにテンションが上がっているのでは無く、家々の屋根を跳躍しているのだ。
(これなら間に合うかな)
約束の時間まであと2分。口の中にある飴を転がしながら跳躍していると大きな建物が前方に佇んでいる。あれが九鬼本社だろう。
足に力を込め、一気に建物の前まで跳躍する。着地。着地の衝撃でアスファルトにヒビが入る。やってしまったと思いながら建物を見上げる。
「これは、大きいな。」
その建物はビルが2棟立ち、上階で繋がっている。神社にある鳥居のような形をしている。
見上げているとビルのロビーのドアが開く。2人が歩き近づいてくる。
「どこの誰だ。九鬼の本社前にぶっ飛んで来たファックな野郎は。」
「あの青年ですね。」
金髪と黒髪のメイドが話しながら近づいてくる。
「お前、ここが九鬼本社だと分かって来やがったのか?あん?」
金髪のメイドが殺気を出しながら問いかけてくる。黒髪のメイドは何も言葉を出さないが、静かに殺気を漏らしている。
「ええ、九鬼本社という事は知っております。跳んで来たのも少し時間が無かったからでして、無礼をお許し…はぁ!!」
青年は謝罪のため拱手礼を取ろうと腕を上げたが、背後からの蹴りに対応する為、頭の横に腕を上げる。その後、強烈な蹴りが腕に当たる。無理にその場に留まろうとせず、アスファルトの上を構えたまま滑り、勢いを逃す。
「久しぶりの挨拶が苛烈過ぎはしませんかね。」
メイド2人が驚愕している中、青年は蹴りを入れてきた執事服の男に問いかける。
「ふん。これくらいなら貴様は防げると分かっている。」
眉間に皺を寄せる厳つい執事は詫びることも無く、淡々と言う。
「それはそうですが…」
青年は苦笑いを浮かべ、懐かしいと感じる。
そして執事へ拱手礼をとる。
「お久しぶりです、ヒュームさん。」
青年は息を吸い、
「呂奉先!3年間の修行の旅より、只今帰還致しました!!」
青年、呂布は頭を下げる。
「ふ、久しぶりだな。」
ヒュームが口角を上げ呂布を見る。
「3年前より強くなったようだな。旅に出て正解だった訳だ。」
「はい、この3年間、世界を周りあらゆる強者と闘って参りました。やはり世界は広いのだとこの身で感じることが出来ただけでも、旅に出て良かったと思います。」
呂布は頭を上げ、微笑む。久しぶりの師との再会が嬉しいと感じる。
「ふん。そうか。」
ヒュームもまた弟子との再会に嬉しく思うが、決してそれを表には出さない。鼻で笑い、誤魔化した。呂布は何となくだがヒュームの気持ちに気付いている。だから何も言わない。言葉は不要だと思った。
呂布はまだ固まっているメイド2人の前に立ち、
「先程は失礼致しました。性は呂、名は布、字は奉先と申します。呂布とお呼び下さい。」
拱手礼をとる。そこで漸く2人とも硬直が解け、
「お、おう。九鬼家従者序列15位、ステイシー・コナーだ。」
「…九鬼家従者序列16位、李静初です。」
金髪と黒髪のメイド、ステイシーと李が頭を下げる。
「ふん。では奉先、行くぞ。」
「何処へですか?」
「帝様が1度お前に会いたいそうだ。」
呂布は驚く。天下の九鬼の主が自分と会いたいとは。
「帝様は忙しい。行くぞ。」
ヒュームは呂布の返事も聞かず、ビルへ歩いて行く。呂布とステイシー、李は慌てて後を追い歩き出す。
駄文ですがよろしくお願いします。