「待てジジイ。」
鉄心の、百代の勝利宣言と共に決闘も終わり、呂布はF組の面々のもとへ向かおうとしていたら百代の言葉で立ち止まる。
「何じゃ、モモ。」
「私は納得出来ないぞ!」
百代は鉄心に詰め寄る。
「じゃがのう、呂布の言う事は最もじゃ。」
「だが、得物が無くなれば拳で闘えるだろう!」
「確かにルールの無い決闘なら得物が無ければ素手で闘うじゃろうが、これはルールが存在する決闘じゃ。武器破壊は立派な勝利条件じゃよ。」
「私が破壊した訳じゃないだろ?彼奴の扱いに耐えきれずに壊れたじゃないか。」
「それは呂布が武器の耐久力を見誤ったからじゃろ。得物を失えば死。得物が耐えられる様に扱うのも、得物を持つ者にとっては大事な事じゃ。」
「くっ…だが……はぁ。」
百代は納得仕切れない様子だが、諦めた様に溜息を吐く。しかし、百代は頭を切り替えて呂布の方へ行く。
「呂布!いや、奉先と呼ばせて貰う。」
「ええ。良いですよ川神先輩。それでどうしました?」
「私の事はモモ先輩で良い。明日、また勝負だ!今度は拳で!」
百代は拳を前へと突き出し言う。
「えっと…モモ先輩。それは恐らく無理かと。」
呂布は突き出された拳を見て苦笑する。
「む?何故だ?」
「それは……」
「呂布の言う通りじゃ。モモ。」
呂布が理由を言おうとした所に鉄心が被せてきた。
「向こうを見てみるのじゃ。」
「ん?」
百代は鉄心の指差した方を見る。砂が四方へ吹き飛んだ様な窪みが幾つかあり、地面に亀裂が無数に入っている。窪みは呂布と百代のぶつかり合いにより作られ、亀裂は呂布の方天戟を振り回す際に掠った事により作られた。
「モモと呂布が少し闘うだけでこの有様じゃ。殴り合いの決闘など認める訳なかろう。」
「確かに呂布が方天戟を使えばこうなるが、拳同士ならここまでならない内に私が勝つ!」
「馬鹿者。呂布の足捌きを見ておらんのか?呂布よ、お主の鍛錬は基本的に素手同士なのではないのか?」
鉄心が呂布に問う。
「流石学園長、御見逸れ致します。その通りです。常に得物を持っているからと慢心していると、いざ持っていない時、何も出来ないからと教えられました。」
呂布は鉄心の洞察力に感嘆の意を込め頭を下げる。
「やはりのう。それにお主も先程の決闘、本気を出しておらなかった様に見えたが?」
「……ええ。」
呂布は本気を出す気にはなれなかった。百代が始め、此方の力量を探る様に闘っていた。それから百代の技を見た時、最初はわざと大振りをし、隙を見せカウンターを狙っているのかと思ったが、大振りの回数が明らかに多いと感じ、方天戟を振るう速さを上げ、大振りの隙を突き百代の脇に方天戟を振るうと見事に入った。呂布自身驚いた。それを見て慢心によって鍛錬を怠った結果、技の雑さに繋がったのだと思い闘いの熱が冷めていった。
(これが同格の者が近くにいない為の慢心か。)
「じゃからモモと呂布の決闘は、許可は儂が出さない限り原則禁止じゃ。」
「くそっ!」
鉄心からの厳命に百代は苛立った様に了承した。
「モモ先輩。」
「なんだ?」
「今後必ず、モモ先輩と闘う事があります。その時は全力を持ってお相手させて貰います。」
「本当か!」
「はい。」
「なら良しとしよう!」
呂布からの言葉に百代は気分を良くし、手を前に出してくる。呂布は意図を理解し、手を前に出し握る。するとF組の面々、そして校舎の窓から此方を見ている生徒たちが歓声を上げる。
「…はあ。授業中じゃというのに。」
鉄心は溜息を吐くが表情は穏やかだった。呂布は鉄心とルーに頭を下げ、百代と一子の後を追いF組の面々の所へ向かう。すると、
「よう!奉先!!」
F組の中にこの間会った者がいた。
「翔一!久しぶりってほどじゃあ無いのかな?」
「だな!でもお前、何でモモ先輩と決闘してたんだ?」
「えっと、決闘しないかと申し込まれたからだけど…」
呂布はチラッと百代を盗み見る。百代は男子生徒と一子を含む女子生徒と話している。
「翔一こそここで何を?あ、そういえば翔一は何組なんだ?」
「ふふん!俺は今、帰って来て学園に直接来たんだ!それと俺はF組だ!」
翔一は腰に手を当て、何故か威張る様に言う。
呂布は苦笑しながら、翔一は何処でも変わらないのかなと思った。
「翔一もF組なのか。僕もF組だ、よろしくな。」
「おお!奉先もF組か!よろしくな!」
翔一は右手を差し出してきたので此方も右手を出し、握手を交わす。
瞬間、黄色い歓声が学園やF組の女子生徒から上がる。
呂布は何故か分からず戸惑って翔一を見るが、翔一もよく分かっていない様子で首を傾げ、呂布も傾げる。男子生徒からは嫉妬の視線を放っている。これには呂布は気付いているが理由が分からず、首を傾げる要因の1つとなった。
「おーい、キャップ!」
百代と話していた男子生徒から、翔一のあだ名を呼ぶ声がする。翔一はその男子生徒に近づいて行った。呂布はどうしようかなと思ってF組の面々を見たら、知っている顔を見て、微笑みながら近づく。
「久しぶり、小笠原さん。」
「え!あ、うん。久しぶり。」
千花は呂布が話し掛けて来た事に驚いた。
「小笠原さんもF組だったんだね。これからよろしく。」
呂布が右手を前に出す。
「え、と。よろしくね。呂布君。」
千花は戸惑いながら、呂布の手を握る。すると、嫉妬の視線が先程よりも増加した。男子生徒からは勿論だが女子生徒からも。女子生徒からの視線は千花にだが。
(うわー。私これから女子達から尋問を受けるだろうなー)
千花は額に冷や汗を浮かべる。呂布はそれを見るや否や、
「少し失礼を。」
「ひゃあ!?」
呂布がハンカチで千花の額の汗を拭く。千花は突然のことで変な声を出す。
(うわ!?顔が近いよ!)
千花は目の前にいる呂布の顔に釘付けとなる。
「おーい!奉先!!ちょっと来てくれ!」
翔一がこっちを向き、大声で呼んでいる。
「ごめんね。もうちょっと話したかったけど、呼ばれてしまった。」
「う、うん。大丈夫。行って来て。」
(これ以上近くにいたら、私殺される。)
「それじゃ。」
「うん。」
呂布は軽く頭を下げ、翔一の方へ向かう。後ろでは千花が女子から尋問を受けようとしていたが、呂布は気づかなかった。
「如何した、翔一。」
「これから風間ファミリーの仲間を紹介しようと思ってな!」
そう言い翔一は、近くにいる男子生徒を見る。男子生徒は一歩前に出る。
「俺様は島津岳人だ。イケメンか嫌いだが、同じクラスだ。よろしくな。」
呂布は岳人のハッキリ言う様に苦笑いする。自分はそのイケメンの部類には入っていないとも、思っている。
「ガクト!失礼だよ。僕は師岡卓也。よろしくね。」
卓也の緊張を悟られない様に挨拶をしているが、呂布は何となく分かった。卓也の隣にいた女子生徒、いや一子が前に出る。
「私は川神一子!って前に会った時自己紹介はしたね。これから同じクラス!よろしく、りょー!」
一子の元気一杯の姿に呂布は微笑む。
「私は川神百代だ!」
腕を組み、簡潔な挨拶に呂布は苦笑する。そして先程、百代に弄られていた男子生徒が前に出る。
「俺は直江大和。ファミリーで軍師をやっている。よろしく。」
「……軍師、か。」
呂布は軍師という言葉に何か思うものがあった。
('呂布'の何かがその言葉を気にかけているのか。……陳宮、か。)
呂布は'呂布'を知る為に三国志を読み漁った事があった。その時に、かの覇道を貫いた曹孟徳に仕えていたが、後に裏切り、自分の野心を捨てきれずに呂布に仕えた軍師がいた。それが陳宮、字を公台。
呂布の武人としての心を陳宮は理解をしてはいなかったが、それを上手く使っていたりもした。しかし、最後は呂布を御しきる事が出来ずに呂布と共に曹操に捕まり、斬首となった。
呂布は陳宮を好きでは無かった。何かと我慢を強いてきたからだ。だが、そのおかげで物事を冷静に見て、自分で判断する事が出来る様になった。陳宮の政、軍師、兵糧のやりくりなどの腕は有能であり、その点においては自分では出来ない事を出来る陳宮を信頼していた。
「…私は直江京。」
呂布が思考に耽っていると、大和の隣にいた女子生徒が、小さな声で挨拶をして来た。そして、翔一が一歩前に出る。
「そして俺は、風間ファミリーのリーダー!風間翔一だ!」
呂布は翔一の自己紹介を聞くと、1度ファミリーの皆の顔を見て、拱手礼をとる。
「改めて名乗らせて貰います。性は呂、名は布、字を奉先と申します。これから同じ学び舎、同じクラスの仲間として、どうかよろしくお願い致します。」
「お、おう。」
「よ、よろしくね。」
岳人と卓也は、先程見たが、呂布の様になっている拱手礼に戸惑いながら、何とか返答する。
「よろしくー!」
「おうよ!」
一子と翔一は、もう見慣れたように気にもしていない。
「ふふ、よろしく。」
「ああ、よろしくな。」
「……ん。」
百代は面白そうに見る。大和は何となくやるだろうと思っていたのでそれ程動揺はしなかった。京は余り興味がない。
「えっと、呂布。」
「はい。」
呂布は頭を上げ大和を見る。
「同じクラスで同い年だ。敬語じゃ無くて良いぜ?」
「はは、僕は初対面の人に名乗る時は、敬語ですると決めていてね。これからは普通に話すよ、直江。」
「おう。」
「……えっと、その、直江。」
「ん?」
呂布が少し視線を彷徨わせながら、チラリと横にいる京を見て直江に小声で話し掛ける。
「…もう結婚しているのか?」
「ち、ちがーーー。」
「その通り!!」
「うわっ!」
大和が慌てて否定しようとしたが、それに被せて隣にいた京が大きな声を上げる。呂布は今まで大人しかった京が突然、大声を上げたものだから驚きの声を上げる。
「もう私と大和は婚約済み!式も近々挙げるつもりだからその時はーーーー。」
「違ーーーう!!」
大和は暴走仕掛けの京を止める為に大声を上げる。
「こいつの苗字は椎名!そして婚約も式も嘘だ!!」
「………直江?」
「な、何だ?」
「……恥ずかしがらなくても良いんだぞ?」
「すいませんね!夫は恥ずかしがり屋な者で!大和!この人良い人!!」
「呂布!!さっきは流れで否定出来なかったが嘘だ!!京とは友達!」
呂布はチラリと百代を見る。百代は苦笑いしながら口元が動く。嘘だと。
「そ、そうか。じゃあまだということかな?」
「大和!事実にする為に結婚して!」
「まだも何も無い!お友達で。」
呂布は苦笑する。濃いメンバーだなと。この中で普通そうな卓也が特有の個性を持っている様に見える。
「ほれ、お主ら!さっさと教室に戻らぬか!」
いつの間にか鉄心が近づいて来て、騒いでいるF組の面々に教室に帰る様に促す。
「それじゃあ、私は教室に戻るか。」
百代はそう言い、呂布を見る。
「また闘えるのを楽しみにしているぞ、奉先。」
百代は校舎の方へ飛んでいった。文字通りに。
「姉さんに目を付けられたな。可哀想に。」
「姉さん?」
「…あー、姉さんとは昔、舎弟の契りを結んだんだ。」
大和は遠くを見る。その姿はどこか、哀愁を漂わせていた。
「………苦労したんだな。」
「………ああ。」
呂布はそれ以上、掛ける言葉が浮かばなかった。
「お主らもさっさと教室に戻らんか!」
鉄心に注意され風間ファミリーと呂布は急いで教室へ駆けていった。
バルサ様、獲堕魔眼様、黄の節制様、とんとろ丼様、感想ありがとう御座いました。
とんとろ丼様、ご指摘ありがとう御座います。
編入編は予想以上に長くなりそうかも…