不出来かも知れませんがよろしくどうぞ。
「やっと来たか。」
呂布がリビングへ入るなり百代が言う。百代は窓際に腰を下ろしながら上半身を此方に向ける。
「お待たせして申し訳ない。」
「…何故謝る?時間通りだろ?」
「モモ先輩が腹を空かせて不機嫌なのかと思いまして。」
呂布は少し、百代をからかうように言う。
「奉先、お前は私を食いしん坊キャラのように見ていたんだな?」
百代は少しムッとする。
「いえ、そんな事はありませんよ。ただ……我慢は苦手の方だと思っておりますが。」
「………」
「ぶふっ!その通りゅぶ!!」
百代は反論出来ずムッとしたまま、噴き出した岳斗に裏拳を入れる。
大和と卓也も噴き出しそうになったが岳斗の二の舞にはなりたく無いとこみ上げてきたものを必死に呑み込んだ。
「すいません。生意気が過ぎました。」
呂布はやり過ぎたかなと謝るが百代はそっぽを向く。
「ふん。奉先、お姉さんをからかうとは許せんな。これは高くつくぞ。」
「どうか手加減のほどを…」
「無論却下だ。」
ニヤリと笑う百代を見て、からかい過ぎたかなと苦笑する。大和と卓也は百代相手に言える呂布に羨望の眼差しを送る。
「おーい!肉が焼けるぞー!」
翔一の呼ぶ声に皆、肉を求めて翔一に群がる。呂布は近くでオロオロしている女の子と目が合ったので目礼をし、翔一の元へ歩く。
「ま、黛由紀江と申します!」
「初めまして。私は性を呂、名を布、字を奉先と申します。以後よろしくお願い致します。」
「此方こそよろしくお願い致します!……えっと…」
先ほど目礼をしたが、改めて呂布は挨拶を交わす。
「ん?…ああ、僕の事は好きに呼んでくれて構わないよ。呂布でも奉先でもね。」
「では呂布先輩と。」
「先輩?と、いう事は君は…」
「はい。川神学園1年です。」
「なるほど。ところで黛さんは武道を何かしているのかい?」
「は、はい。剣を少し。何故お分かりに?」
「体の芯、かな。少なからず普通の者よりしっかりとしているようだからね。黛さんも僕を見て分かったんじゃないかな?」
「はい。それ以上に呂布先輩は学園では有名人ですから。」
「そうかな?」
「ええ。」
由紀江と呂布が話していると、突然声が聞こえる。
「兄ちゃんあんままゆっちの体をジロジロ見ちゃいけないぜ?そりゃ男なら見ちまうもんだけどよ。」
声は由紀江の掌にいる黒い馬から。というより由紀江からである。
「ん?君は?」
呂布は戸惑いながらも掌にいる黒い馬に話しかける。
「オラは松風ってんだ。よろしくな、りょー。」
「こら松風!初対面で馴れ馴れしいですよ!」
由紀江は自分の掌にいる松風という馬のキーホルダーを叱る。
(これは……与一の亜種か?)
家族である与一も旅から帰ってきたらよく分からないカタカナ文字を喋っていた。清楚や弁慶は気にしていないようだったが、義経は与一が何を言っているのかよく分からなくて困っていたのを思い出す。
幸い、呂布は与一と見たアニメに似た登場人物、所謂厨二キャラがいて与一はそれを真似しているのだなと弟分の子供っぽい所に可愛さを感じるだけだった。
……呂布は幼稚園児が戦隊モノの真似をするのと同じようなものだと認識している。
由紀江のこれはその亜種なのかなと結論づける。ならば否定するつもりはない。呂布は松風に向けて小さく拱手礼をとる。
「初めまして松風。私は性が呂、名は布、字を奉先と申します。これからよろしくお願い致します。」
「おおー!こんな挨拶されたの初めてだ!りょーとはマブダチになれそうだ!」
「松風にここまで丁寧に挨拶して頂いたのは初めてです!ありがとうございます!」
由紀江と松風は嬉しそうな声をあげる。
「はは。嬉しいのは分かったから肉を食べよう。早くしないと無くなってしまうよ。」
「はい!……あ、と、えと、呂布先輩!」
「ん?どうした?」
由紀江が口ごもりながら呂布を見る。睨んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「もし、よかったら…メ、メールアドレスを教えて頂けませんか!?」
「おー!まゆっち!初対面の人にメルアド交換を言うなんて!オラ感動して涙が…。」
由紀江の勢いに気圧されながら呂布は頭を掻く。
「すまない。僕は携帯を持っていないんだ。」
「そ、そうでしたか…。」
呂布はガックリと肩を落とす由紀江を見て悪い事をしたような罪悪感が込み上げる。
「でも、遠くない内に携帯は買う予定だったから、携帯を買ったら僕の方からお願いしに行くよ。」
「本当ですか!?楽しみにしております!」
「やったな!まゆっち!家族以外真っ白な電話帳に予約が出来ちまったな!」
松風の悲しい事実を聞き、早めに買うかと呂布は思った。
肉も食い終わり皆が和みムードへと突入する中、翔一がソファーから立ち上がる。
「それじゃあ!今回の本題へと移るか!」
「…本題?」
呂布は首を傾げた。特に何も聞かされていないので成り行きを見守る事にした。
「んじゃ、初めはクリスだな!」
「ん?私がどうかしたか?」
突然名前を呼ばれクリスは首を傾げる。翔一は気にせず続ける。
「クリス!風間ファミリーに初め入らないか?」
「風間、ファミリー?」
「そうだ!友達以上の存在!家族みたいなもんだ!」
「なるほど……」
クリスは少し考える素振りを見せる。そして結論が出たようだ。
「学園に転入してからお前達といるのは楽しかった。どうか、私もその輪の中に入れてくれ。」
「おーし!!歓迎するぜ!!」
翔一は嬉しそうにクリスと握手をする。呂布は心の中でホッと安堵する。クリスが学園に馴染めるか少し心配していた。フランクに言われたからではなく、友として。同じクラスの者が多い風間ファミリーに入る事ができたのは、これからの学園生活にとって大きなことかもしれない。
と、安堵している呂布の隣に座っていた由紀江が立ち上がり緊張した声で翔一に話しかける。
「あ、あの!!」
「ん?どうした?」
「あの、えっと……ふぅ。」
「いけー!まゆっち!女は度胸だ!」
由紀江は1度深呼吸をして落ち着く。松風が由紀江にエールを送る。
「わ、私も皆さんの仲間に入れて頂けないでしょうか!!私にできることなら何でもします!」
由紀江が深々と頭を下げる。
「んー。今のままじゃ仲間に入れらんねぇな。」
「あ……。」
翔一の言葉に由紀江は頭を上げ悲しそうな顔をする。
「仲間は皆対等だ!これからそんな腰を低くされても困る!だから『楽しそうだから仲間に入れて』って言えばいい!」
翔一の言葉に由紀江の表情は明るくなり、もう1度言い直す。
「楽しそうだから私も入れて!」
「ヤダ!」
「………」
「「あんたは鬼か!!」」
翔一の拒絶に由紀江は放心状態に陥り、大和と卓也からツッコミが入る。
「はは!冗談だ冗談!歓迎するぜ!」
「………はっ!これからよろしくお願いします!」
我に帰った由紀江は翔一と握手を交わす。由紀江の掌にいる松風が感動している。
「よし!んじゃ最後にもう1人!」
翔一が呂布と向き合う。呂布も流れからして来るだろうと予想はしていた。
「奉先!お前も風間ファミリーに入らないか!!」
「………」
呂布はソファーから立ち上がり翔一達を見る。皆、少なからず呂布が入る事には不満がなさそうに見える。呂布は拱手礼をとり頭を下げる。
「翔一。とてもありがたい。僕を家族に誘ってくれたことに心が熱くなる。……だが、すまない。僕は風間ファミリーに入る事はできない。」
シンとするリビング。皆、拒絶されることを考えてなかったのだろう。少し心苦しいが呂布の意志は変わらない。
「理由を聞いてもいいか?」
静寂を破り、百代が理由を尋ねる。
「ええ。理由は2つ。1つは僕にも家族がいること。」
「それは風間ファミリーみたいなものか?」
「似たところはあります。血の繋がりのない者という点は。僕は今、1人川神に居ますが川神に来る前は1つの家で共に暮らしていた。」
確かにファミリーのような居場所があるのなら無理に誘うのは良くない。大和達はそう思った。
「そしてもう1つは…僕の名。」
皆も気にはなっていたのだろう。大和は聞き逃すまいと呂布の言葉を聞こうとしているのがわかる。
「この名が僕の本名であること。その理由については皆にまだ話すことはできない。」
「まだってことはいつか話せる時が来るのか?」
「はい。恐らく来月には話せると思います。だから僕は、風間ファミリーには入れない。すまない。」
呂布はもう1度頭を下げる。翔一はガックリと肩を落としたがすぐに切り替える。
「わかった!だが俺たちは友だ!これに変わりは無い!」
「…ああ。今後ともよろしく。」
翔一の言葉に救われながら握手を交わす。
これからも友としての契り。
握手を終え、呂布は皆の顔を見回す。
「今言った通り来月には話せると思う。そして来月、面白いイベントの発表がある。」
「イベント?」
一子がコテンと首を傾げる。
「ああ。詳細は来月の発表で説明されるから言わないけど、ここにいる者の大半は純粋に楽しめるイベントだ。」
「それは私もか?」
百代が腕を組みながら言う。ここにいる者の大半は武道を嗜んでいる。その中で百代は群を抜いての圧倒的強者だろう。
(この中で闘えるのは僕か…黛さんかな。)
由紀江の実力を見たことは無いが、黛の名は聞いたことがある。
剣聖黛十一段。この日本で剣を扱う者なら誰もが知っており、剣を使わずとも高みを目指すならこの名は聞くことだろう。
呂布も知っている。ヒュームから壁越えの1人だと聞かされたことがある。そしてその娘も剣において非凡な才を持つと。
「ええ。モモ先輩も楽しめますよ。」
呂布が笑いながら答えると百代はニヤリと笑う。大和や卓也、風間ファミリーの男性陣は百代の笑みに顔を引き攣らせる。
「そ、それじゃあ俺は無理だな。」
「いや、そんなことは無い。」
「え?」
大和が百代を刺激しないようにゆっくりフェードアウトしようとしたが呂布により阻止される。
「このイベントは力だけが勝つとはなっていない。武道をしていない者でも勝つ事ができるさ。」
「どうやって?」
「頭、さ。」
呂布が自分の頭を指で小突く。大和は目を丸くすると直ぐに考え事に耽る。
(頭…。つまりこのイベントは勝敗の決め方が1つでは無いということか。)
呂布は大和がヤル気を見せたことに嬉しそうに笑う。
「はは。まあ正式発表は来月の頭の方だから楽しみにしててくれ。あとこの情報は御内密に。ファミリーに誘ってくれたお礼とでも受け取ってくれ。」
「はい!質問です!りょー!」
「ん?どうした?」
一子が挙手しながら呂布に質問する。
「イベントは楽しみだけど、何でりょーがそんなこと知ってるの?」
「……………」
一子の質問に皆、そういえばと思い呂布を見る。呂布は誰かがその事を聞いてくるかと思っていたが、まさか一子が聞いてくるとは予想外だった。
「…あ、ああ。その事も含めて今はまだ話せないんだ。すまないな一子。」
「わかったわ!りょーはいつか話してくれるって言ってたし、私待つわ!」
「ああ。ありがとう一子。」
一子が納得したようだが大和はそうでは無い。
呂布は先ほど百代も楽しめるイベントだと言っていた。恐らくこれは武道に関係するイベントと見て間違いない。次にこのイベントの規模はどれくらいか。このようなイベントを開催できる者は限られる。真っ先に浮かぶのは九鬼、それに学園だ。
百代でも楽しめるってのがポイントのようだ。
学園主催では百代が楽しめるほどのイベントが開催できるのか?
百代と今、学園内で闘える相手は学園長と呂布くらいだ。可能性は無い訳では無いが低い気がする。3人が闘う間、他の生徒は別で闘う。正直これはお粗末なイベントだといえる。
なら可能性が高いのは九鬼か。九鬼なら規模が桁違いに大きくする事ができる。日本、いや世界規模で参加者を集める。阿保みたいな規模だが九鬼ならやりかねない。
九鬼と仮定すると、そのイベントの内容を何故呂布が知っているのか。九鬼が公式発表していない情報を何故持っているのか。九鬼のセキュリティは国家を凌駕すると聞いた事がある。なら何故?
「大和。」
名を呼ばれ顔を上げる。呂布が微笑みながら大和を見ている。
「詮索はやめておけ。来月には全て公開される。今探りを入れ、もし何かに触れた場合ただではすまないよ。」
「……わかった。」
呂布に思考を読まれたのかと内心動揺するが表には出さず頷く。
「安心しろ。変な事は起きない。大和もイベントを楽しみにしとけ。」
「ああ。」
確かに今詮索してもしょうがないかと大和は思った。