ヒュームとメイド2人、李とステイシーの後ろを歩きながら呂布は九鬼本社に入る。ロビーを抜けエレベーターに乗り、上の階を目指していると、
「お前、その名前は本名なんだよな?」
ステイシーが問いかけてくる。
「ええ、呂布奉先のクローンで間違いないですよ。」
呂布の答えにステイシーは疑いの目を向けてくる。
「本当か?三国志の呂布と言ったら鬼神、飛将と恐れられた奴だろ?言っちゃ悪いがお前からは、その恐ろしさは微塵も感じないぜ?」
…ふむ。ごもっとも。
自分も三国志の呂布の評価も、
”力こそ全て”
”力を振るいたい衝動を満たす為に殺す”
”気に入らないから殺す”
それ故に"鬼神”
これが呂布だと思っている。だが、
「伝説上の呂布と違うのは、やはり僕より強いヒュームさんがいたからだと思います。それに、クラウディオさんの教えも。話し合いで解決出来るなら、それは平和的で人として尊いものだと思います。でも、僕は、僕が信じた道、僕が大切に思う者達を守る為なら、三国志の呂布の様に、情けなど掛けず、相手を殺し、滅ぼすことも厭わない。」
呂布の真剣な表情をステイシーは見つめる。呂布もステイシーの目を見て、
「それで僕が、どれだけ恐れられようが、どれだけ罵倒されようが関係無い。信じた道、大切な者達を守れればいい。」
自然と笑みが零れる。自分の事を話すのは恥ずかしいという気持ちもあるけど、旅に出た理由、己の道が昔と何も変わっていないことに嬉しく思う。
「ですが、武を持つ者との試合や決闘は好きなので、闘うのは嫌いじゃないのがやっぱり呂布なのかな。」
呂布と似た様な所もやはりあるなと笑いがこみ上げてくる。
呂布は子供なのだ。力が強い、強過ぎるがために簡単に人を殺せる。乱世の時代だ。盗賊や敵将を殺す。盗賊を殺せば感謝され、敵を殺せば褒められる。力を制御する必要が無いから、感情の制御の仕方も分からない。恐怖により誰も逆らおうとしない。感情の赴くままに行動することが許された。これが、呂布という鬼神を生み出した。
「……ロック。確かにお前は、伝説上の呂布と同じとは思えないな。でも、お前が呂布だってことは何となくわかったぜ。」
ステイシーさんは顔を逸らし呟く。頬が赤いのは気のせいか?
「ふふ、ステイシー、顔が赤いですよ?」
「ファック!李!うるせぇ!」
気のせいでは無いようだ。なぜ?
「ふふ、でも、呂布さんの話はとても心に響きました。強い意志をお持ちだったのですね。」
李さんは微笑みながら僕を見る。慈愛に満ちた笑顔だ。恥ずかしさが今更ながらこみ上げてきた。
「あ、えと…ありがとうございます。」
「ふふ。」
「ふん。」
ヒュームさんには鼻で笑われたが、口角が上がっているのがわかる。
それを見た僕は顔を赤くして俯く。
「でも、英雄のクローン計画は九鬼のトップシークレットの1つ、どうして呂布さんは旅に出ることが許されたのですか?」
呂布が顔を上げ、李を見る。まだ顔は赤いままだが。
「それは…私の我儘です。あの島にいるころはずっと、外の世界はどんな所だろうと思い海を眺めていました。」
「クラウディオさんやヒュームさん、マープルさんに、如何しても外の世界を見てみたいと、行くことを許してくれないかとお願いしました。最初は一蹴されましたが、何度もお願いし、条件付きで許可をしてくれました。」
「そこまでして、外の世界を見てみたかったのですか?」
「はい。己の道を行く為に。自分の目でこの世を見てみたったのです。」
「そうですか。」
李は微笑む。呂布の信じる道へ突き進む覚悟はこれ程の物なのかと。
守る者の為に、此処までするのかと。その覚悟、その信念、まさに英雄と呼ばれるのに相応しい。
(高そうな壺や花瓶。流石九鬼といったところかな。)
エレベーターを降り、廊下を進む。廊下の両脇には壺や花瓶、壁には絵画が飾られている。恐らくは途轍もない値段の芸術品なのだろう。
壺や茶器などは芸術性を感じることは出来るが絵画は良く分からない。
「少し待て。」
廊下の1番奥の扉の前まで来るとヒュームさんが先に入る。
少し待つと、
「入ってこい。」
ヒュームさんの呼び掛けに応じて中に入る。広い部屋だ。長方形の形をした部屋、中央に長いテーブルがあり、椅子が20ほど備え付けてある。テーブルの奥、上座の席に1人の男が座っている。その両隣に老執事と貴婦人、クラウディオとマープルが立っている。
「お!お前が呂布だな!」
座っている男が問いかけてきた。軽い感じの声だが、しっかりとした覇気を感じる。
(なるほど、この覇気、王と呼ぶに相応しいか)
呂布は片膝をつき拱手礼をとる。
「その通りでございます。性は呂、名は布、字は奉先と申します。貴方様は九鬼帝様と推察いたします。お会い出来て、誠に光栄でございます。」
頭を深く下げる。
「おう。まあ、そう固くなるな。」
帝は苦笑いを浮かべている。
「話をいろいろ聞きたいんだが、これでも多忙で、今回は顔合わせだけだ。詳しい事はマープルかクラウディオ、ヒュームの誰かに聞いてくれ。」
「は!承知致しました。多忙な所、私めの為に時間を割いて頂き感謝致します。」
「いや、だから、まあいいや。んじゃまた会おう。」
そう言い残し帝は出て行った。帝が部屋を出て行ったので立ち上がるとマープルが近づいてくる。
「久しぶりだね。呂布。見ない間に逞しくなったじゃないか。」
マープルに拱手礼をとり、
「お久しぶりです。マープルさん。修行の旅より只今帰還致しました。」
マープルは微笑みながら、
「そういう堅苦しいというか律儀な所はかわらないね。」
「はい。僕は、僕ですから。」
呂布も笑いながら答える。
マープルの横に先ほど帝の横にいたクラウディオが歩いてくる。
「お久しぶりですね、呂布様。」
クラウディオは二コリと微笑み、頭を下げる。
呂布は慌てて拱手礼をとり、
「あ、頭をお上げ下さい!…クラウディオさん、お久しぶりです。呂布奉先、只今帰還致しました。」
呂布も頭を下げる。呂布の礼儀正しさや、マナー、学問は、クラウディオから学んだ。因みに武はヒュームから学んだ。
再開の挨拶も済み、
「それで、私はこれから何処に?」
「ふん。奉先、お前はこれから高校に通え。」
「え?」
呂布はヒュームを見る。
「冗談では、無いのですね?」
「ああ、もう決まったことだ。」
高校か…旅に出る条件の1つとして、高校卒業程度の学は学んだ。
だが自分の預かり知らない所で自分の事が決まっていく。己の道に反する事なら命を賭けて拒否する。
しかし、己の道を行く上で必要なことが、学校生活にあると思った。人と関わり、仲間を増やす。これは旅の中で感じた。己の大切な者を守る為に心から信頼出来る仲間が必要だ。それに比例して守る者が増えるのだが、自分も更に強くなればいい。
「分かりました。何時からですか?」
「これから川神学園の長に会いに行く。お前は4月から高校2年生として編入する。」
呂布は苦笑いしながら、
「それは編入試験に合格したらですよね?」
「ふん。お前が落ちるなどと思っていないさ。それと…」
ヒュームは口角を上げる。
「お前は川神学園に入らないといけないぞ?」
「なぜですか?」
呂布は首を傾げる。高校に入るのはメリットはある。が、入らなければならないとは思えない。
「お前が守る者達も川神学園に後から入ることになっているからな。」
………
呂布の身体から闘気が溢れ出る。川神市に入ってからは抑えていた気が呂布気持ちに呼応して溢れ出てくる。
ステイシーと李は息を飲み、クラウディオとマープルは感心するように息を漏らす。ヒュームは笑みを深めて、
「ヤル気になった様だな。」
「はい。やらなくてはならない。私の気持ちを上げるにはこれ以上無い餌です。」
呂布は笑みを浮かべる。
その瞳には自分の信念を貫く為の意志の炎が映っているように見えた。
少しご都合設定が入って来るかも知れませんがご了承ください。
閃光様、シリアナード・レイ様、クロバット一世様、感想ありがとうございました。