呂布は街をふらふらと歩き、何を食べるか考えている。
(そばも良いな。あ、ラーメン。うーん。)
ふと、店の並ぶ道で目に入った店に決めた。日本では良く見る店のチェーン店だ。
「いらっしゃいませー。」
店に入ると店員のやる気を余り感じない声が聞こえる。呂布はカウンターに座り、メニューを見る。食べる物は店を見た時から決まっていたが値段の確認をして、注文する。
「すいません、牛丼の特盛1つと味噌汁をお願いします。」
「へい、少々お待ち下さい。」
島に戻ってから2週間、清楚たちが作った食事を食べていた。料理の腕は3年前よりも格段に上がっていて、健康やバランスを考えられた食事だった。心からありがたく、美味しく頂いたのだが、ガッツリとした、味の濃い物を食べたくなる。旅をしていた時は大半が店屋物か獲物を捕まえ炙る、煮るといった大雑把で味付けを濃くした物を食べていた為、そういうのを欲してしまう。清楚たちに知られたら怒られるんだろうけど…
「へいお待ち!特盛1丁と味噌汁。」
うん。早いな。でもこの早さが良い。
如何でも良いことを考えながら備え付けられた割り箸を1つとり、手を合わせて、
「いただきます。」
心から言い、牛丼を食べ始めた。
「ありがとうございましたー。」
牛丼を食べ終え、店を出る。目的は達成したが、このまま帰るのは面白くないと思い、街を散策し始める。
(あ、そうだ。)
呂布はある場所を思い出し、そこへ向けて歩き出した。川神駅を通り過ぎ、商店街を歩く。今日も賑わっている。人の流れに身を任せながら進み、目的の店を見つけると、人の流れから外れ店に近寄る。
(あ、いた。)
呂布は見つけた人に近づいていく。その人は呂布に背を向け、店の外に並んでいる商品の整理をしていた。
「こんにちは。」
「はい。いらっしゃいま…せ。」
呂布の挨拶に、その人、店員は振り向き挨拶をするが、呂布の顔を見ると驚いたが、何とか最後まで言い切った。
「この間お世話になったのですが、覚えていますか?」
「あ、はい。九鬼本社までの道をお聞きになりましたよね?」
「そうです。」
呂布は覚えて貰えていた事に安堵し、
「この間はお世話になりました。無事九鬼本社に行くことが出来ました。」
呂布は頭を下げ礼を言う。
「いえ、そんな大層な事はしてませんから。」
店員は照れながら言う。
「それに無事に着けたようで良かったです。」
「はい、助かりました。」
呂布は顔を上げ、微笑みながら店員を見る。店員は呂布と目を合わす事が出来ずに視線を彷徨わせる。
(うわぁ、イケメン力が高い。)
(?頬が赤いような?)
前に会った時と同じようなやり取りをしていると、
「あれ?小笠原じゃん。如何したんだ?」
呂布は声の方へ目を向けると、バンダナをした青年が此方を見ていた。
「か、風間くん!?」
店員、小笠原千花はその青年を見て驚きの声を上げる。
「ど、如何して此処に?」
「ん?いやー、昨日まで九州まで行ってて、今帰ってきたんだよ。」
「九州?如何して?」
「どーしても博多ラーメンが食べたくなってな!食べるなら本場のもんを食わなくちゃ!」
「え、…そ、そうなんだ。凄いね。」
青年、風間翔一のフットワークの軽さに啞然とする。
「ところでよ、そっちの奴は誰だ?」
翔一は置いてきぼりを食らっていた呂布の方を指さし、千花に問い掛ける。
「…あ、んと、この間、道を聞かれて教えた御礼を言いに来てくれたんだ。」
「へえー。名前は?」
「えっと……そういえば聞いてなかった。」
翔一と千花は呂布の方を見る。
「まだ名乗っていませんでしたね。」
呂布は苦笑したが、直ぐに顔を引き締め、拱手礼をとる。
「性は呂、名は布、字は奉先と申します。」
「…へ?」
「なにぃ!?」
千花は予想外の名前に呆然とし、翔一は瞳を輝かせる。
「今、呂布って言ったのか!?」
「ええ、その通りです。」
「マジか!スゲーな!それにその手を前に組むヤツ!カッケーな!!」
翔一は面白そうに拱手礼の真似をする。
「えっと、その名前、本名?」
隣にいる千花が、疑いながら言う。
「はは。ええ。よく言われますが。字もあの呂布と同じです。」
「そ、そうですか。」
千花は信じられない気持ちが抑えきれない。
(もしかして、電波とか厨二病なの?でも名前以外はおかしい所はないしなー。)
「歳を聞いてもいいですか?」
「16です。今年から川神学園に編入することになります。」
「あ、同い年だったんですね。私も川神学園に通っています。落ち着いてるので年上なのかと思いました。」
「同い年でしたか。女性らしい大人な雰囲気がありますね。」
「え、あ、ありがとうございます。」
千花は頬を赤く染める。何でもない様に女性を褒めるのは、呂布の潜在的なスキルである。
「いえ。でも16歳の男は多少落ち着いていると思いますよ?」
「そうかな?あ、同い年なので敬語は止めません?」
「そうだね。」
千花と呂布が話していると、
「おー!俺と呂布も同い年なんだな!呂…奉先!俺の名は風間翔一ってんだ!この後なんか予定あるか?あ、俺も敬語じゃ無くていいぜ!」
「い、いや、特に無いよ。街を散策してから帰ろうかなと。」
突然字で呼ばれた事に驚いた。が嫌な気分では無い。
「よっしゃ!んじゃ俺がこの街を案内してやる!」
「いいの?風間…いや翔一はこの後予定とかは?」
「あるにはあるが、それはもうちょい後でもいいから!よーし!行くぞ!!ついて来い!」
翔一は背を向け、歩き出した。
「……まあ、何にでも例外はいるな。」
「あはは、そうだね。風間くんは常に動き回っているから」
呂布と千花は苦笑する。
「それじゃ…えっと、名前を聞いてなかったね。」
「あ、そうだね。私は小笠原千花。よろしくね。」
「よろしく。それじゃ小笠原さん、学園で会おう。」
「うん。またね。」
呂布は千花に別れを告げ、翔一を追い掛ける。千花は翔一と呂布の後ろ姿も見つめる。
(イケメンが2人並んで歩いてる。あそこだけ別次元みたい。)
翔一と話している呂布の横顔を見て、千花はまた頬を赤くした。
「奉先!此処が川神名物、変態橋だ!!」
「……最初に連れて行かれる所がそんな名前の場所とは。」
呂布と翔一は、翔一の案内の下、変態橋へと訪れた。大きな鉄筋コンクリートで出来た橋だ。
「何を隠そう此処は、変態が集まる橋だ!だから名前が変態橋なんだ!」
「だろうね。あそこにヤバそうなおっさんがいるもん。」
「だろ!よっしゃ!次行くぜ!!」
「お、おう。」
翔一のテンションの高さに気圧されながらも翔一の後へ着いて行く。その後、怒鳴る店主の本屋、川神学園、と周り、
「此処が川神市が武の街と言われる由縁、川神院だ!!」
「へえ。此処が名高い川神院か。立派な建物だな。」
「だろ!此処には川神院総代と、かの有名なモモせ…いや武神がいる!!」
「武神か。一度は会ってみたいものだな。」
「なーに。学園に入れば否応なしに見る事は出来るさ!」
「そっか。んじゃ期待して置くか。」
呂布と翔一が川神院を去ろうとすると、
「おーーい!キャップーー!!」
川神院から女性が出てくる。
「ん?おー!ワン子じゃねぇか!!」
「おっす!キャップ、こんな所でどうしたの?」
「今こいつに街を案内してやってんだ。」
翔一は親指で呂布を指差す。
「ん?見た事無いわね。私、川神一子!キャップと同い年で幼馴染です!」
一子が元気良く呂布に挨拶をする。呂布はその姿に微笑みながら拱手礼をとる。
「初めまして川神さん。私は性が呂、名は布、字は奉先と申します。」
「うわ!これはご丁寧に。…りょふほうせん??」
「な!!スゲーだろ!!」
一子は首を傾げ、翔一は自分の事の様に胸を張る。
「んー?どっかで聞いた事のある様な無い様な??」
「おいおいワン子!呂布と言ったら三国志に出て来る'鬼神'だろ!」
「へ?…あー!!思い出したわ!!」
一子が翔一の説明で思い出した。そして呂布を見て、
「それじゃ、呂布…君も武道をやっているの!?」
「ええ、多少は。」
「武器は?」
「得物は方天戟を。弓や槍、剣も多少は使えますが。」
「へーー!私は薙刀を使ってるわ!!」
一子と呂布が武道の話で盛り上がっていると、
「おーい、ワン子!そういや用事があるから呼び止めたんじゃ無いのか?」
「ん?そういうわけじゃないわ。偶々キャップを発見したから来たの。」
「なんだそうか。この後金曜集会には出るから、土産期待しておけ!」
「わーーい!!そういえばキャップ九州に行ってたんだっけ?」
「そうだ!博多ラーメン食ってきた!」
「翔一は誰にも言わず行ったのか?」
「そうなのよ!ま、いつもの事だけどね。」
「おうよ!俺の行く道は風が決める!」
呂布は翔一の自由気ままな生き方に呆れる。一子はまだ鍛錬があると言い、川神院に戻って行き、呂布と翔一はのんびり歩いて行く。
「そういえば翔一、キャップってどういう事だ?」
呂布は一子が翔一を呼ぶあだ名が気になった。
「それはなぁ。俺たちのグループ、風間ファミリーって名前で!俺がその隊長!だからキャップだ!」
「風間ファミリー…。イタリアにいたギャングみたいだな。」
「ん?奉先はイタリアに行った事あるのか?」
「ああ。3年前から世界を旅していて、ついこの間帰って来たんだ。」
「マジか!!」
翔一は呂布を目を輝かせて見る。
「旅か!いいなー!俺もいつか世界を旅したいと思ってたんだ!」
「はは。行き先は風が決める、か?」
「その通り!奉先はどこの国を回ったんだ!?」
「えっと、最初の国はーーーー。」
呂布は歩きながら、旅の話を翔一に聞かせる。翔一は呂布の自由な旅の仕方に共感し、そして羨ましいと思った。
途中で喫茶店に入り、珈琲で喉を潤しながら、話の途中で聞いてくる翔一の質問や、行った事のある国での共感話で盛り上がった。
喫茶店には、多くの女性客が2人を見ようと来店し、売り上げがその日かなり伸びたのは別の話。
「おっと、もうこんな時間だ。」
呂布は腕時計を見る。4時を過ぎていて、日もだいぶ傾き始めている。
「お!もうそんな時間か。まだ旅の話を聞きたいがこの後用事があるんだよなー!」
「さっき川神さんと言っていた金曜集会か?」
「おう!仲間内で集まって駄弁ったり飯食ったりするんだ!」
「はは、なるほど。んじゃ遅れるといけないから、今日は此処までだな。」
「だなー。くそーまだ旅の話の続きはあんだろ?」
「今ので半分ってとこかな。」
「マジかよ!濃い旅をしてんなー。」
翔一が残念そうに席を立つ。呂布も続いて席を立ち、勘定をする。学生らしくここは割り勘で。
「翔一。」
「んー?どうした?」
店を出て、呂布が翔一を呼ぶ。翔一は伸びをして座って固まった筋肉をほぐしている。
「学園に行けば翔一と会えるだろう。その時にでも旅の話の続きをしよう。」
「はは!そうだな!再会してからのお楽しみって事で!」
「ああ。」
呂布は翔一の笑顔を見て微笑む。子供の様に表情に感情が出るのは微笑ましいと思った。
「それじゃ、翔一。学園で。」
「おう!それじゃ!…おっと、それでは失礼する。」
手を上げて翔一が挨拶するが、思い出したように拱手礼をとる。そして人混みの中へ歩いて行った。
「面白い奴だ。」
その後ろ姿を見送り、呂布も踵を返し、帰路に着く。
「皆!聞いてくれ!」
ある廃ビルの一室、数個のランプのみの光しかない部屋の中で、複数の若者がいた。その1人、キャップこと風間翔一は声を上げた。
「どうしたんだキャップ?」
ソファーに座っている、中性的な顔の青年、直江大和はいきなりの事で驚き、翔一に問い掛ける。
「実は1人、仲間に加えたい奴がいる!」
翔一は高らかに言う。
「えっと、いきなりだな。」
大和は苦笑いする。まあ、翔一が突拍子が無いことは皆知ってはいるが。
「ふーん。そいつは誰なんだ?」
棚の上に胡座で座っている、長い黒髪、前髪がバツ印になっている女性、川神百代が問う。
「呂布奉先ってんだ!!」
「………」
皆、呆然とする。何を言ってんだ此奴は、と。
「おいおいキャップ。ラーメン食いに行くついでに頭でも打ったのか?」
タンクトップで今もダンベルを上げ鍛えている男、島津岳人は呆れながら言う。
「…あはは。ガクトは言い過ぎな気がするけど、今回は同意。キャップ大丈夫?」
華奢な青年、師岡卓也がキャップを心配そうに見る。
「俺はいつも通り!そしてさっき言ったことも本当だ!」
翔一は腕を組み、胸を張る。
「…キャップ、呂布と言うのは、三国志に出て来る呂布か?」
大和がキャップに問う。
「何言ってんだ大和?三国志に出て来る呂布が生きてると思うか?頭打ったか?」
「…キャップにだけは言われたくは無いな。んじゃあ、同性同名なのか?」
「そうだ!」
翔一は満足そうに頷く。が、皆そんな奴いるのかと疑う。1人を除いて。
「あ、今日会った呂布君?」
「ワン子は会ったことあるのか!?」
「うん。今日キャップと一緒に少し話したわ。」
大和は驚いたが、翔一だけではなく一子も会ったことがあるという事は、呂布と名乗る者は実在するんだろう。
「本当にいるんだよ!んで、俺はそいつを仲間に加えたい!」
翔一は皆を見回す。
「俺は、反対かな。会った事の無い奴だと判断出来ない。」
大和は言う。
「んー、私は良いわよ!武道もやってるって言ってたし、会った時の印象も良かった!」
一子は賛成の意を言う。
「私は保留だ。大和の言う通り会った事のない奴は判断出来ない。だがその名前は気になる。」
百代は腕を組み、口角を上げる。
「ワン子。」
「なに、ガクト?」
「そいつは男だよな?」
「そうよ。キャップと同じ様にイケメン?って言われている部類だと思うわ!」
「なるほど。俺は反対だ。」
岳人は独自の判断基準で反対の意を上げる。
「はは。ガクトらしい。僕も反対。知らない人を入れるのは論外かな。」
卓也は苦笑いしながら言う。
「私も反対。」
今までソファーで本を読んでいた女性、椎名京も反対の意を上げる。
「んー、じゃあ反対多数でこの話は却下かー。」
翔一は落ち込みながら多数決の意見に従った。
「キャップ。その呂布と言う人に会ったことがあるのはキャップとワン子だけなんだろ?それなのにいきなり仲間に入れたいと言うのは無理なんじゃ無いか?」
「俺もそうは思ったんだが、彼奴は面白い奴だと俺の勘が告げている!」
キャップらしい理由に大和は苦笑する。
「そもそも呂布と言う人はどういう人なんだ?」
「んー、俺も詳しくは知らないが、俺たちと同い年、4月から川神学園に編入してくると言っていた。」
「なるほど。それじゃ学園で、それなりに接してから改めて仲間に入れるか決めるってのはどうだ?」
「なるほど!流石軍師!よっしゃ!んじゃ皆が奉先と会って、暫くしたらもう一度決を採る!」
翔一は大和の提案に賛同し、その案をとる。翔一の喜び様に大和は微笑みながら、まだ見ぬ呂布と名乗る人物を想像する。
(呂布、か。本名なのか?正直本名じゃ無いと言った方が信憑性が高いな。)
ソファーに身を預け、手元にある文庫に目を落としながら、思考する。
(偽名にしては、嘘だと思われ易い。なら本名?)
「大和。」
「ん?」
正面のソファーに座る京の声に、思考の海から顔を上げる。
「学校が始まったら会うんだから、考え過ぎは良くないよ。だから結婚して?」
「…それもそうだな。考えても仕方ないか。だからお友達で。」
いつものやり取りに助かったと思いながら、正直にそれを言わない大和だった。
クロバット1世様、ディセルベスタ様、感想ありがとう御座います。
そして評価して頂いた皆様にも感謝いたします。
今回から編入編に入って行きます。
読みにくいかも知れませんがこれからもよろしくお願いします。
ご指摘により修正いたしました。これからも何かありましたらよろしくお願いします。