教室から所変わって校庭。
校庭の中央には呂布と一子、鉄心。離れた所にF組の面々が決闘開始を今か今かと見守っている。
「なあ、大和。」
その中の1人、直江大和は、隣にいる島津岳人に声を掛けられる。
「どうしたガクト?」
「彼奴だよな。キャップやワン子が言っていた呂布奉先ってのは。」
岳人は呂布を指差す。
「そうだろうな。ワン子は知っている様だったし、同じ名前が他にいるとは思えない。」
「だよな。」
大和も呂布を見る。確かにあれはイケメンだな。キャップにも劣らない。だが、そんなことより、ワン子の方が心配だ。呂布というとどうしても三国志の呂布を想像してしまう。
「ワン子大丈夫かなぁ。」
同じ思いを言葉にした師岡卓也が心配そうな顔をする。
「分からないけど、あの人、強いよ。」
大和の隣でずっと一子達を見ていた椎名京が呟く。
「では、始める前に両者、得物は使うか?」
鉄心は呂布と一子の間に立ち、問いかける。
「私は薙刀よ!」
一子は薙刀を手にする。
「呂布は?」
「出来れば戟が良いのですが。」
「うむ。そう言うだろうと思ってこちらで用意した。」
すると、校舎からルーが何かを持ち走ってくる。
「学園長。これを。」
ルーが学園長に手渡した物を見て、呂布は目を見開く。
「お主にはこれかの。」
長い槍の刃に月牙と呼ばれる三日月状の刃が左右対称に付いている。
ーー方天戟ーー
レプリカではあるが、その形状は正に方天戟。
鉄心が受け取る様に手の中にある方天戟を差し出してくる。呂布は誘われる様に方天戟を掴む。
「ーーーッ!!?」
方天戟を掴んだ瞬間、呂布から凄まじい量の闘気が溢れ出る。鉄心は溢れ出る気に晒され驚愕する。
(なんて気の量じゃ!?今までこれ程の気を抑えておったのか!?)
呂布は鉄心から少し離れ、受け取った方天戟を軽く回しながら感触を確かめる。方天戟を左右に縦横無尽に振り回す。
(…うん。レプリカだからか重さが足りない。)
そして最後に左から右へ振り払い、一子を見る。一子は呂布から溢れ出る闘気に息を呑み、身を引き締める。
(凄い威圧。気を引き締めていないと呑み込まれそうだわ。)
一子は呂布が強者と理解し、薙刀を握り締める。
「では両者、準備は良いな。」
鉄心が2人に問い掛ける。
「はい。」
「はい!」
鉄心は一拍おき、
「では、………始め!!」
開始の合図と共に、一子が突っ込む。
「はあぁ!!」
一子は薙刀を振りかぶり、呂布の左上から振り下ろす。呂布の肩に当たると思われた瞬間、物がぶつかる音が鳴り響く。
(少し大振り過ぎるな。)
「…え!?」
一子は驚愕する。本気に近い力で振り下ろしたが、呂布はそれを片手で持つ方天戟で受けている。
(そこで止まっては駄目だ。)
一子が一瞬動きが止まった所で、呂布が一子に殺気をぶつける。一子はハッと停止していた思考を動かし、後方へ跳び退がる。殺気を浴び汗が噴き出る。そして自分が殺気を浴びただけで息が上がっている事に気がついた。
「………」
呂布は追撃を行わず、その場に留まり一子の出方を伺う。いや、一子に攻撃の権利を譲っている。
それに気づいた一子は、足に力を入れ一気に距離を詰める。
「川神流!山崩し!!」
頭上で薙刀を旋回させ、鋭く振り下ろし、脛を狙う。
「くっ!!」
だが、読まれた様に方天戟に阻まれる。そして、一子の脇腹を狙い呂布の蹴りが飛ぶ。一子は薙刀を素早く滑らし蹴りを防ぐが、蹴りの威力に負け吹き飛ぶ。着地する瞬間、何とか受け身を取り膝を付く。薙刀を握る手が痺れる。
(蹴りを防いだだけで。)
一子は立ち上がり呂布を見ると、ゆっくりと、方天戟を片手に近づいてくる。
(さあ、耐えられるか。)
呂布は先程より濃い殺気を一子へ放つ。一子は呂布の殺気を受けて息が上がる。恐怖で足が震える。
(うぐっ!怖がってはダメ!)
「くっ…はぁ…はあぁぁ!!」
一子は今あらん限りの気合で奮い立ち、呂布へ向かい走る。そして薙刀を振り上げ、振り下ろす。
「はぁ…はぁ…。」
またも方天戟で防がれる。だが、方天戟とぶつかる音は弱く、一子はその場に座り込む。近づくに連れ、殺気の圧力に耐えられず薙刀を呂布へ力なく振り下ろすのが精一杯だった。
(技の速さ、キレは申し分ないが直線的過ぎるな。だが…)
「見事。」
呂布は一子が見せた最後の気迫を賞賛する。あの殺気は常人では耐えられない。それに立ち向かってくる勇気。最後まで萎えなかった闘志。呂布はそれら全てに賞賛する。そして、一子に手を差し出す。
「勝者、呂布奉先!!」
鉄心の声が校庭に響く。
「ワン子…。」
大和は座り込んでいる一子を見る。ここまで圧倒的差があるとは。素人ながらそれは分かった。呂布は最後以外、開始直後の場を動いていない。一子の技を片手で持つ方天戟で防がれる。
「…彼奴、強いな。」
岳人が呟く。
「うん。ワン子じゃあ相手にならない程に。私も無理。」
京が呂布を見ながら言う。
一子は呂布の手を借り、立ち上がり呂布と談笑している。圧倒的な差を見せつけられても、一子は笑いながら呂布と話している。
「へーえ。彼奴が呂布か?」
「!?」
いきなり此処に居ないはずの声を聞き、驚きながら後ろを向く。
「ね、姉さん。」
「そうだよ。」
京が答える。
「そうか。」
百代が呂布を見る。
「彼奴、強いな。」
百代が浮かべた獰猛な笑みに、大和は内心溜息を吐く。
「呂布君は強いのね!」
一子が嬉しそうに言う。
「川神さんも、最後の殺気は降参させようと濃くしたけど、それに立ち向かって来た。素晴らしい気迫をお持ちだ。」
「えへへ。ありがと!あ、あと私の事はワン子で良いわ!皆そう呼んでるし!」
「分かった。ならワン子と呼ばせて貰うよ。俺の事も好きに呼んでくれ。」
「んー、じゃあ、りょーと呼ぶわ!!またりょーと闘いたい!」
「うん。俺で良ければ喜んで。」
呂布は一子に怖がられるかなと思っていたが、何にもなかったかの様に話し掛けてくるので安堵した。
「うむ。見事だったぞい。2人とも。」
鉄心が2人を賞賛する。
「ありがとう御座います。」
「一子の気迫、呂布のプレッシャー。素晴らしいかったネ。」
「あ、ルー先生。お久しぶりです。」
「ああ、久しぶり。」
呂布とルーが挨拶をしていると、
「おい!呂布!」
呂布は後ろから自分を呼ぶ声がして、振り返る。其処にはF組の中に紛れていた女性が立っていた。
「え、と。」
呂布は知らない女性に戸惑ったが、初対面だと思い出して拱手礼をとる。
「初めまして。性は呂名は布、字は奉先と申します。貴女は…?」
「え、ああ。私は川神百代だ。」
百代は呂布の礼に一瞬面食らった。
「貴女がかの有名な武神ですか。」
呂布は目を見開き、目の前の女性を見る。美人だ。黒髪もそれを引き立たせている。だが、
(何て闘気だ。溢れ出ている。)
見た目の良し悪しより、百代から溢れ出る闘気の量に感嘆した。
(でも、ただ溢れ出ている。それも荒ぶる獣の様に。)
呂布はヒュームが言っていたことを思い出した。
(戦闘狂…か。)
「こらモモ!!」
「何だジジイ。」
「何故お主が此処におるのだ!もう授業は始まっておるだろうが!」
「こんな面白そうな奴が居るのにジッと授業なんか受けてられるか。」
百代は鉄心をあしらいながら、呂布に近づいて行き、
「呂布、私と殺らないか?」
百代は口角を上げる。
「………」
呂布は目を閉じ、考える。
(さて、此処で何処までやって良いものか…)
「おい?聞いてるか?」
「モモ!!」
「良いじゃないかジジイ。ジジイもこいつの奥底にある物を見たいだろう?」
「確かに見たいが、お主が闘い事とは別門題ーーー」
「学園長。」
鉄心の言葉を遮り、呂布が呼びかける。
「如何した?」
「お受けしましょうかと。」
「おお!!」
「……はあ。」
呂布の言葉に、百代は喜び、鉄心は溜息を吐く。
「良いのじゃな?」
「はい。でも、始める前に確認したい事が。」
「何じゃ?」
呂布は百代を見据える。百代の笑っていた顔が引き締まる。
「これは武芸者としての決闘ですか?それとも…」
呂布から闘気が溢れ出る。いや、荒れ狂う風の様に呂布を中心に吹き荒れる。
「命を賭けた、殺し合いですか?」
周りにいたルーと一子は息を呑み、鉄心は顔が険しくなる。
「そうだと、言ったら?」
百代が本気の顔をし、聞く。
「…でしたら辞退します。」
「なに?」
百代は呂布の言葉に面食らったような顔をする。鉄心も先程の険しさは無くなり呂布を見る。
「今ある得物がレプリカのこれしか無いもので。命を賭ける闘いにこれでは失礼に当たります。」
呂布が右手に持つ方天戟の尻で、地面を叩く。
「呂布よ。此処は学校じゃ。命のやり取りなど認める訳無かろう。」
「はは。そうでしたね。申し訳御座いません。」
呂布は鉄心に謝罪する。鉄心は呂布という者を掴み損ねている。
(今持っておるのが本物の方天戟なら…)
「では、決闘という事でよろしくお願いします。」
「ああ。」
鉄心は考え事をしていると、呂布と百代の決闘がやる事になっている事に気がついた。
「はあ、良かろう。審判はわしが務めるぞい?」
「はい。お願いします。」
呂布と百代は少し距離を置き向き直る。
「両者、準備は良いな!」
「はい。」
「おう!」
鉄心は一拍置き、
「では…始め!!」
「はあぁ!!」
「ふっ!!」
開始直後に百代は接近し、右正拳突きを繰り出すも、呂布の方天戟で防ぐ。呂布は素早く正拳を流し、百代の左脇に月牙を入れる。だが、百代の左腕に防がれる。呂布は防がれ反発してきた勢いに乗せ、方天戟の尻を百代の右脚に叩き込む。
「はっ!!」
百代は気を右脚に集中し、防御を高める。衝撃に声が出るがそれ程ダメージは無い。百代は2歩幅ほど後ろへ退がり、また呂布へ高速で接近。
「川神流!無双正拳突き!!」
無数の正拳が呂布を襲う。だが、呂布の方天戟、足捌き、そしてあろう事か正拳と正拳の合間を突き、方天戟で百代に攻撃する。
(技が雑だな。それに大振りが多い。わざとか?)
呂布は百代の攻撃を冷静に分析する。百代は正拳突きのスピードを上げていく。それに呂布は方天戟を振り回す速さ、足捌きの速さを上げて対応していく。
「はは!やるな!!」
「いえ。貴女も。」
そして呂布の方天戟が正拳を繰り出す一瞬の間に入れられる。百代は正拳突きを止め、方天戟を腕で防ぐ。正拳突きが止んだや否や、呂布の方天戟を繰り出すスピードが上がる。左右縦横無尽に方天戟が百代を襲う。技などでは無い。ただ、凄まじい速さで方天戟を振るっているだけ。百代もそれに対応する。拳で弾き飛ばし、足を使い防ぐ。
「何をしてるかよくわからねぇ」
「ああ。」
百代と呂布の闘いを見ている岳人と大和が漏らす。F組の面々は、呂布が百代と互角に闘っているように見える。いや、百代の攻撃を受けて未だに立って百代と闘っているからそう思っているに過ぎない。
「京、見える?」
「何とか見える。」
卓也の質問に京は、闘いから目を離さず肯定する。
「モモ先輩の無双正拳突きを防いで、正拳と正拳の合間を方天戟で攻撃した。」
「マジでか!」
岳人が驚愕する。あの百代の攻撃を防ぐなんて常人では不可能。
しかも反撃も行うとは…。
「うん。そして今、モモ先輩が攻撃出来ずに防戦一方になりつつある。」
「………」
大和に卓也、岳人が言葉を失う。百代が防戦一方になりつつある。信じられない。
「ぐっ!!」
鈍い打撃音と百代の声に3人は闘いに目を向ける。無数に荒れ狂う方天戟の攻撃、その1発が百代の脇に食い込む。
(しまった!!)
百代は一瞬脇に気を取られてしまった。一瞬の気の逸らしが命取りになる。百代は瞬時に来るであろう攻撃に備えようとするが、
「……」
呂布が一歩距離を取る。百代は最大の隙間を見逃した呂布を見る。何故、攻撃を仕掛けなかったのか。
「これは僕の負けですね。」
「なに?」
百代が怪訝そうな顔で呂布を見る。呂布は持っている方天戟で地面を叩く。すると、甲高い音を立てて砕け散る。
「闘いの中で得物を失えば、それは死。」
呂布はそう言い、頭を下げる。
「参りました。」
「………」
百代は呆然と呂布を見る。
「勝者!川神百代!!」
鉄心の声が2人の間で響いた。
プロテインチーズ様、感想ありがとう御座います。
戦闘シーンは難しい。前にも言ったなこれ。