春。
なのは達は4年生となり、新学期が始まった。
そんな新学期早々に彼女たちは度肝を抜かれていた。
それは三崎亮の変化である。
なのは達は、クラス分けを見て全員が同じクラスであるという奇跡に喜んでいた。
しかし、三崎亮の名前を確認した時のショックもまた大きかった。
三年生の時は亮だけが別クラスで、授業が終わる度になのは達の事を『俺の嫁達よ!』と言いながらクラスへ尋ねて来ては彼女達を困らせていた。
そんな毎日が授業中にもなるんじゃないかと思うと憂鬱となってしまうのは仕方ないことだろう。
そんな彼女達の中で一番憂鬱だったのは『八神はやて』だった。
亮と名前が近いのでどうしても席が近くなる。
席順を見れば案の定、はやての席の前は亮だった。
ショックを受けるはやてになのは達は慰める事しか出来ない。
いつまでも落ち込んでいる訳にはいかないので、はやては渋々自分の席へと座り、心の準備をする事にした。
そして、チャイムが鳴るギリギリの時間に亮が登校してくる。
それを見たクラスの全員が唖然としてしまう。
それは、はやても同じだった。
いつも自慢げにしていた銀髪が坊主にされていた。
亮は周りの視線など構わず、自分の席であるはやての前までやってくる。
そこまで行くと嫌でも二人の視線が交わった。
はやては身構えて亮の行動を警戒する。
「八神。おはよう」
「へっ?あ、おはよう・・・」
たった二言の挨拶で亮は自分の席へと座った。
前ならば、「俺の嫁はやて!今日も一段と美しいな!」とかそんな事を言いながら笑顔を振りまき、頭を撫でてくるのにだ。
あまりの変わりようにはやても普通に挨拶を返してしまう。
亮の明らかな変化になのは達を含めたクラス全員は担任がやってくるまで動揺していたのだった。
「ふう。やっと一日が終わったか・・・」
一人学校から帰る俺、三崎亮はそう呟いた。
分かっていたとはいえ、実際にあんな反応をされると心にくる。
俺はやはり学年で浮いた存在であり、嫌われていた。
当然だ。
なのは達以外の人間をモブと言ってバカにしていたからそうなっているのは当たり前なんだ。
「ここら辺なら大丈夫だな。楚良。頼む」
『はいはい。転送ー!』
楚良に転送してもらった場所はとある管理外世界。
俺はそこである人物と待ち合わせをしていた。
「少し遅くなってしまいすみませんでした。クロノ執務官」
「いや、問題ない。ほんの数分だし、遅れるかもしれないと事前に連絡をもらっていたからね」
待ち合わせの人物はクロノであった。
俺がクロノとこんな場所で一体何をするのかというとただ一つである。
「本日もご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。セットアップ!」
俺はバリアジャケットと武器を展開させる。
だが、いつもの白銀の軽装と双銃ではない。
一般の管理局員に支給される固定のバリアジャケットと杖だ。
「まずは魔力操作から始めるぞ。魔力弾を10個展開してそれを目標タイム20分維持。その後、ターゲットに向かって発射だ。外した個数によりペナルティを与える。いいな?」
「分かりました!」
「よし!始め!」
これは俺がクロノに土下座までして頼んだ付きっきりの訓練である。
「20分経過。今からターゲットが出現する。一つ残さず破壊しろ!」
「了解!発射!」
俺は魔力弾を操作してターゲットへと発射させる。
結果は10個中8個と全部破壊することは出来なかった。
「最後の最後で気が緩んでいた。もっと集中するんだ!」
「はい!」
「ペナルティだ!筋トレ各種類を200回。この惑星を飛行で20周だ!」
「分かりました!」
「始め!!」
クロノの合図と同時に俺はペナルティを開始した。
少し前の俺だったら色々文句を言っていただろう。
だけど、それじゃあダメだ。
俺はあの時の惨めな自分に戻りたくなんてない。
俺はクロノの訓練を無我夢中で取り組んだ。
「今日はここまでだ」
「はあ、はあ、はい!ありがとうございました!」
クロノの訓練が終わり、亮は頭を下げてお礼を言う。
そんな光景にクロノは今でも違和感を感じていた。
ほんの一か月前までは我儘なクソガキだったのにこの変わりようは異常とも思えるかもしれない。
そして、訓練のきっかけも亮がクロノにお願いしてきたからである。
最初は断ったクロノだったが、土下座までしてきた亮の姿に多少同情からであった。
どうせ、すぐに弱音を吐いて逃げ出すだろうとクロノは亮が嫌いそうな基礎の訓練をさせた。
意外なことに亮は嫌な顔一つせずに訓練をこなしていく。
途中から管理局員が訓練校時代に行うようなペナルティ有りのスパルタ訓練へと変えてみた。
とても苦しそうではあったが必死に喰らいついていくその姿にクロノは少しずつではあるが亮への印象を改めつつある。
そんなクロノは今日、思い切って亮に質問する事にした。
「亮。休みながらでいいから質問に答えてくれ。どうして急に訓練を行おうと思ったんだ?一ヶ月前の君でもそれなりの力があったのにも関わらずに」
「・・・俺は決めたんです。生まれ変わろうって、もう何かに縋りつく自分から卒業しようって決めたんです。だから、最初は生まれ持ったこの力に頼り切っている自分を鍛え直したいと思いました」
短い付き合いだが、クロノは亮が嘘を吐いているようには見えなかった。
それ程までに亮の目は真っ直ぐクロノの目へと向けられていたからだ。
「・・・どうして僕に訓練を頼んだんだ?なのはやフェイト達に頼む事も出来たはずだ」
「出来ないですよ。彼女達と俺の間には計り知れない距離がありますから。自業自得ですけどね。クロノなら公私混同せずに訓練を付けてくれると思ったからです」
亮の言葉にクロノは納得せざるおえない。
それ程に亮は正しい事を言っている。
自分が公私混同しない事は兎も角、なのは達との交友関係は嘘でも良いとは言えない状態を亮はしっかりと理解できていた。
「俺は彼女達に甘えていた・・・。いや、自分の欲望を押し付けてしまった。そんな自分にこれ以上関わる事は出来ない」
「君はそれでいいのかい?」
「良いも悪いもないんです。さっきも言いましたがこれは自業自得なんです。これからは真っ当な人生を送る為に努力しようと思います」
まるで更生した犯罪者かのように話す亮に流石のクロノも気の毒に感じ始める。
クロノは亮が坊主にした数週間前に勇人と模擬戦をして惨敗した事を知っていた。
その日から任務の無断欠勤が始まったのだから明白である。
最終警告を行った時の亮の様子は今にも死んでしまいそうな表情だった。
そんな状態で一週間、亮の心境の変化に一体何があったのかは本人しか分からない。
聞きたい気持ちもあるが、今はまだその時ではないと感じたクロノは聞くことはない。
今は亮の気持ちが続く限り付き合ってやろうとクロノは心に決めるのであった。