風音さんみたいに中の人ネタ出していければ嬉しいです。
仲村ゆりと逢坂仁徳
――無人駅の改札から出ると、閑散とした住宅地域が広がっていた。
「ようやっと着いたな……」
俺の手には土産の菓子折り、背には貴重品の入った小型のショルダーバッグをさげている。
(静かっつーか、田舎というか……)
周囲を見回しつつそんな感想を抱きながらも、目的地へと歩き出す。
――行き先は、仲村旅館。
俺の遠い親戚が経営している旅館であり、これから俺が厄介になる場所だ。
温泉街としても有名な町、
山陽湖温泉町と言えば仲村旅館。そんな言葉も出るほどに名の知れている旅館だけども、実は俺、その事を最近知った。
(もうちっとだけ、勉強しておくべきだったかねぇ)
数日前に郵送されてきた旅館への道のりが書かれたパンフレットと地図を見ながらも、俺は嘆息する。
――とはいえパンフにもバスを使えとかあるし、その辺のバス停を探せばいいんじゃないか、とも考えたんだが……。途中の道で見つけたバス停を見て辟易した。
「さっき出たばっかじゃねーか……。しかも次一時間半とか、田舎かよ……田舎だな」
だったら歩いて行った方が早いと、実質8キロの道のりを歩いているわけで。
とはいっても、この季節――梅雨まっただ中のウザったさ。東北とあって湿気などはまだましだが、山間部というのがネック。太陽、近すぎ。ヤバい。
すると、唐突にポケットに突っこんでいたスマホのバイブが震えた。
差出人の名前を見て、軽く息を吐いた。
「もしもし、ゆり姉か?」
『あー、やっと繋がった』
電話に出ると、どこぞのS音様を連想させるような声が耳元で響いた。背後からは風を切る様な音が聞こえて取れる。
――仲村ゆり。俺の一つ上の(遠い)親戚。
「ひょっとして車出してくれてん――」
『――え? なに? 聞こえない!』
「迎えに来てくださいコノヤロウ!」
半ギレ状態で言うと、ゆり姉の笑い声が聞こえた。相変わらず過ぎて胃が痛くなってきた。
腹を押さえながら彼女の言葉を待つと、『分かった、駅で待ってなさい』と言われ、一方的に切られてしまう。
「ったく……バス停くらい伝えさせろっつの」
来た道を戻る。
(まぁ、変なトコで待ってるよりマシか)
後ろ頭をがりがりと掻き毟りながら、俺は駅に到着。
入口の日蔭にあるベンチに腰掛け、しばらくぼーっとする。
イヤホンを耳に突っ込んで音楽を聴くのもありだったけども、これからうんざり聞く事になる風の音や草木が揺れて鳴る音に慣れておこうと思った。
(夏場はセミとかがうるさそうだな)
まぁ、俺の居た都会のクラクションよりかは全然ましなんだが、と苦笑いを浮かべていると、パッ! と聞きなれた車のクラクション音にはっと我を取り戻す。
紫色の髪は肩まで伸び、前髪はヘアピンなどで上手くまとめられ、薄緑の半袖ワンピースに水色の上着を着ている美女が、黒の軽自動車から出てきた。……ふむ。
「こうして見ると普通に女の子してるじゃねーッスか」
「なによその含みのある言い方は」
「いや、なんでもねーですよ」
俺は荷物を下ろし、目を伏せて後ろ頭を掻く。そして姿勢を正して一礼した。
「御厄介になります」
「ん、まぁそれはお父さん達の前で言いなさい。別に私一人であなたを迎えるわけじゃないんだから」
「まぁ、一応な」
俺は襟脚に右手を当てつつ、荷物を手に取る。
「乗りなさいよ。荷物はそれだけ? なら膝の上にでも乗せときなさい」
「うッス」
俺は助手席へ御邪魔すると、運転席へゆり姉が座り、車を走らせる。
「そういえば大学の話、どうなったのよ?」
「ああ、なんとか受け入れてくれる事になった。授業についていけるかは、これからの頑張り次第ではあるけどな」
「まぁ困ったら私に泣きつきなさい。いい家庭教師を紹介してあげるわ」
ニヤリと悪戯気な笑みを浮かべるゆり姉。ホント相変わらずだなこの人。ドSめ。
「はーぁ……」
俺は窓縁に肘を置き、外を眺める。
「でも驚いた。あまり気にしてないのね、おじさんの事」
「気にはしてるけどな。骨もあっちに置きっぱなしになっちまったし」
「落ち着いたら、御墓ごとこっちに持ってくるといいわ」
「その気ではいるけど、暫くは祖母ちゃん達が世話したいって言うもんだからな」
俺の親父は、今から一か月ほど前に死んだ。死因は過労で、倒れてすぐ入院、翌日にはぽっくり逝ってしまった。
意識はあったため、親父には自分が死んだ日に俺を大学へ行かせたので、死に目には会えなかった。だからこそ、あまり親父が亡くなったという現実が納得できていない。
母親は俺が小さい頃に交通事故で亡くなったので、引き取る親族は父方の祖父母か、母方の祖父母かと思われていたが、何の因果か、二男次女だった親父と御袋の家には伯父と伯母夫婦が両方居たために、拒否されてしまった。
普通逆だろうと考える人も多いだろうが、俺の家はそういうもんだ。血は繋がっていようとも第三者を確立した自分の住まいには置きたくないのも分かる。
そこで、どうしたもんかと思っていたところに、仲村一家がやってきたわけだ。
幸い血縁関係もあったため、俺の身元はゆり姉の親父さんが引き受けてくれた。
その後家賃を解約する等の手続き、あとは大学の転校届けを提出、転入先の大学の試験などがあったので、なんだかんだで一カ月がかかってしまったのである。
「……まぁ、気が済むまでそうさせてあげましょ」
ゆり姉は俺を気遣ってくれたのか、ため息ひとつついてからそう話しを締めくくった。
「ゆり姉、言っておくけど気遣いとかそんなに要らないからな。俺、変にフォローされると苛立つか話ぶった切るかのどっちかだから」
「はぁ、可愛げのない子ね。分かった、そうする」
我ながら図太い方だと思う。だが、これくらいしておかないと後々空気が悪くなるのは判り切っている事なので、釘は早めに打ち込んでおくに限る。
「で、ゆり姉今日は休みだったのか? 抗議だったら悪かった」
「大丈夫よ、合間を縫って迎えに来たんだから」
「そら助かる」
「まあ、今日くらいはゆっくりしなさい。何だったら午後から見に来てもいいわよ」
(そうだな……。親父さん達に一度挨拶して、それからになるだろうし。結局昼くらいにはなりそうか)
時計を見れば午前十時半ぐらい。「んじゃ、お願いしますかね」と言うと、ゆり姉は小さく頷いた。
「あとはそうね……。夜でいっか」
ゆり姉は少し考えたそぶりを見せたあと、旅館の駐車場へ入るべくハンドルを切った。
旅館へ入ると、和風を通している旅館とは思っていたが、思ったよりも現代風に感じた。
一歩足を踏み入れれば、一流ホテルの様なエントランスが広がり、俺はゆり姉に従業員専用のエレベーターで最上階の十階に通された。
「想像以上だな……。もっと古くて二階か三階建てのもんだと思ってた」
流石に度肝を抜かれた俺のコメントに、ゆり姉は胸の下で腕を組んで得意げに笑った。
「当然よ。一流と呼ばれている以上、それ相応の発展をして見せないと。名前に相応するための努力を、私達は惜しまないわ」
(とんでもねえお嬢さんだな……。言ってる事がひん曲がってない)
フーッと息を吐くと、エレベーターが音を立てて十階に止まる。
どうやらこの階は従業員――というより、仲村家専用のものみたいだな。入口から家具なんかがたくさんあるし、通路にはゆり姉やその親父さん、御袋さんが揃って写っている写真が立て掛けてある。
「へぇ、小さい頃はショートだったんだな」
「っ!? ちょっと、あまりじろじろ見ないでよっ」
こんなドSにも可愛い頃があったんだなぁ、と思いながら写真を眺めつつ通路を歩いていると、ゆり姉は顔を真っ赤にして振り返った。
「いやこれ、見てくださいって言ってるようなもんだろ……。それともなんだ。俺はずっとあんたの尻を見て歩かなきゃいけないのか?」
「それはそれで嫌ねほんと……っ!」
いや、俺だってそんなの嫌だわ。変態じゃあるまいし。
半眼で彼女へと訴えると、ゆり姉はふーと嘆息して額に手をやる。
「……わかった。できるだけ見ないで頂戴」
「それはどっちを? あんたの尻を? それとも写真を?」
「両方!!」
あぁ、怒らせてしまったっぽい。ゆり姉は声を荒げて、まるで漫画に出て来るキレたおっさんの様な歩き方でずかずかと奥へ進んでいく。
俺はため息をつきつつ、襟脚に手をやりながら彼女の後を追った。
もちろん、尻や写真は見ない様にしながら。
◇
その後、親父さんと御袋さんに今後の事を相談しつつ、この旅館でアルバイトをしながら大学へ通うという事になった。まあ、当たり前の話なんだが。
ゆり姉の言葉もあったが、早速今日から、という誠意を示したところ、大学への転入の話しもあるし翌週からで構わないという。
今日は火曜日だし、ほとんど日数がある。
どうしたものか、と手持無沙汰になった所で、俺はゆり姉と共に大学へ向かうのだった。
――で。
「どうしてこんなところに、こんなのがあるんだ……」
雰囲気もなにもあったもんじゃない。
目の前にあるのは、白いドーム状の大学。
山陽湖大学。地名の通り広い湖、山陽湖を敷地に取り入れた巨大な学校が、そこにあった。
湖の畔にあるのは普通ペンションとかそういうものを予想していたが、まさか学校とは思わなんだ。
「それじゃ、私は講義あるから、小一時間その辺を散歩してらっしゃい。声を掛けられても『転入生です』って言えば、大人には通じると思うわ」
「そこまで過保護にしてくれなくてもいいッスよ。あまり気に掛けず、勉強に集中してくれ」
「はいはい。それじゃあね」
「ああ」
ゆり姉は軽く手を振ってから、ドームの中――校舎へと入っていった。
そして俺も踵を返して、その辺をぶらつこうと踵を返す。
(でも、外だと結構目立ちそうだな……。休憩室にでも見にいってみるか)
別にゆり姉の後を追うわけじゃない。俺は校舎へと入り、目の前にあった校舎の見取り図をケータイの写真に収め、休憩室ではなく、休憩所と称された場所へと向かう。
そこには数十人もの男女がノートやゲーム、菓子類を広げ、思い思いに過ごしていた。
俺は都会の大学とそう変わらない喧騒に目を白黒させながら、中へと入る。
(本でも持ってくればよかったな。これはこれで、居辛い……)
ケータイをいじりつつなんとか平静を保つが、それも限界。
そりゃそうだよ。ボッチでこんなデカいテーブル占領してんだから。
俺だってその辺に腰掛けるところがあればそっちに座ってるわ。埋まってるじゃん、ほぼカップルで。
「はぁー……」
もう一度周囲を見回し、どこにも逃げ場がないことを確認してから、俺は席を立ちあがると――
――唐突に右肩を抑えられ、再度席へ座らされた。
「は?」
「オッス、オラ日向!」
「………」
いや誰だよ。
右肩を抑えた主である青い髪に木村さんっぽい声をした青年が左側から手を挙げて視界へ入ってくるのを、目を点にして迎えいれる。
「……おっかしいな、手ごたえがない。ひょっとしてお前、ドラゴンボール知らねーの?」
「いや元ネタは知ってるけど……誰だアンタ?」
「おう、だから俺の名前は日向だ」
「あ、あぁ……」
すると、俺の背中に衝撃が走った。
「でっ」
日向、と名乗った青年は軽い悲鳴を上げながら、蹴られたであろう尻を撫でる。
「いきなりそれはないだろ秀樹」
「お前こそいきなり蹴り入れる事はねーだろ結弦!?」
振り返ると、茶色の髪に神谷さんの様な声をした短髪の青年がいた。
「悪いな、こいつ意外と過激でさ」
「その言葉そっくりそのままお前に返すぜ!」
「俺の名前は音無結弦。で、こっちが親友の日向秀樹。ここの二年だ」
「はあ……どうも。先輩でしたか、失礼しました」
「気にすんなって。あ、菓子食うか? ポテチだけど」
「……いただきます」
日向先輩は俺の左隣りの席へ座ると、手に持った開封されたポテチを差し出してきた。
堅あげの塩とはいい趣味をしている。俺は早々に手を伸ばす。
ぱりぱりと食べると、日向先輩は心底嬉しそうにニカッと満面の笑みを浮かべた。
音無先輩は向かい側の席に腰掛けると、懐からケータイを取り出す。
「ゆりから連絡があってさ。黒髪でオオカミっぽい奴がいたら手厚く保護してやってくれ、とか言われたよ」
「ああ、ゆりね……。ゆりの御友人の方でしたか。すいません、迷惑をかけました」
「いやいや気にする事ないって。前々からお前の事聞いてたから、ちょっと話してみたいと思ってたんだ」
「そんで、俺達がお前さんを探す役目を買って出た、ってワケさ。そしたら見事に孤立してたもんで、こうして声をかけた次第だ」
日向先輩はなんだか面白い人っぽいな。ジェスチャーを振り乱しながら話してくれるもんだからうける。
「ゆりの講義もまだかかるし、場所を変えるか。あ、ポテチはしまっとけよ。風紀委員に見つかったらとっ捕まるぞ」
「マジすか……。いやてか今、日向先輩普通に手に持ってたじゃないッスか」
「俺は逃げ切れる自信があるからな」
むふーっと胸を張る日向先輩。これはまずいやつだ。フラグ立ておった。
「そういやあ、お前さん、名前は?」
「え? ……あぁ、そう言えば名乗ってませんでしたね。――
席を立った音無先輩の問いに、俺はそう答えるのだった。