剣技で桜が落とせたならば   作:阿部高知

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更新遅くてすいません。バゼットのキャラを掴むのに時間がかかってしまいました。

それと今回出て来た植物の魔術師の設定、例に漏れずガバガバです。ただ型月ではガイアとかいう地球の意思がいるので、自然=地球なら自然の末端である植物と意思疎通できるなら地球にもアクセスできるよね――――てな感じでオナシャス!


第4話

 ――――正直な所。バゼット・フラガ・マクレミッツは、明日香鏡治(あすかきょうじ)が好きではなかった。

 

 時計塔のロード・エルメロイ二世の私室にて彼と対面した時、鏡治から感じたのは軽薄さである。

 鏡治と同世代であるエルメロイ二世が許可したとは言え、位階が上の相手に対し敬語を使わない。一応は先輩である自分に逢うというのに(実際は彼は知らなかったが)、私服である和服を着る。淑女に対して女性らしくないと抜かすなどなど…………武士と侍の国出身とは思えない立ち振る舞いをする彼に、バゼット・フラガ・マクレミッツは見当違いな怒りを憶えた。

 武士と侍は死んだ。血脈は続いていようと、戦場で発揮されていた魂は朽ち果てたのだ――――彼が言った通り、今の日本人にそんな謙虚さは存在しない。彼以外の日本人と会話しても、あくまで社交的な態度と会話ばかりで描いていた武士像とは全く違うものだった。

 簡単に言えば、バゼットは夢を潰されたのだ。貴族達の排他的な空気に嫌気が差し、極東から来た新風に期待していたというのに。実際にやって来たのは現代に染まりきった()()()だった。それが当然だと言うのに、心が少女と殆ど大差ないバゼットは夢を見てしまう。だから()()()()なのだ。

 それ以来、同じ仕事(執行者)の仲間として様々な場所や時間を共にしたが、彼の軽薄さ――――否、飄々とした雰囲気は変わらなかった。命を賭けた死地であろうと笑い、極悪な魔術師を相手にしても怯えない。己の命を軽く見ていて、その癖自分以外の人間は護ろうとする。バゼットが真剣に出撃している傍ら、一人で煙草を味わっていたのは記憶に新しい(当然後でお仕置きしたが)。

 彼を見ていると、何事にも真剣に取り組んでいる自分が馬鹿らしくなってくる。気張って生きているのは息苦しく、時計塔の社会で暮らすのはしんどい。彼はそれと全く無縁であり、父親の権力を振るう事は少ない。執行者に任命されたのは立候補したのが大きく、父親明日香鏡夜の位階はあまり影響が無かったのだ。

 …………結局。バゼットが彼を嫌うのは、彼を見ていると自分が馬鹿らしくなるからだろう。悠々と生きている彼が羨ましいのかもしれない。

 今まで周囲を見て育ってきたバゼット。彼のように我が(まま)に生きれれば、どれだけ楽になるのだろうか――――。そんな事を考えてしまう自分が嫌で、八つ当たりで彼に当たってしまう。しかしそれをバゼット本人が気付くのは、数年後の事である。

 

 

 

 

 

 トラックの荷台が一際大きく揺れて、その振動で目が覚めた。

 微睡(まどろ)んでいた意識は一転し、動いた頭が荷台の壁に直撃する。幾ら屈強だろうと彼女――――バゼット・フラガ・マクレミッツは女性だ。近くで警戒を続ける彼に比べればか弱い自信がある。鈍痛が直接脳に響き、彷徨(さまよ)っていた意識を覚醒へと導いた。

 思わず跳ね起き周囲を見渡す。トラックの荷台の上、ダミーとして置かれている段ボールと相方が居た。ドタバタとしている筈なのに視線を向けず、何処か遠い目で空を仰いでいる。その姿勢がまるで自分に興味を抱いていないように感じて、何故だか腹が立った。だからと言って此方を見ていれば痴態を見た、と言って騒ぐというのに。

 空を見上げる彼がバゼットに気付いた素振りは無い。意識を向ける事無く、只々悠然と構える姿は彼らしい。その姿に呆気を取られて、大人しく腰を下ろした。

 交代しながら睡眠を取る事三時間。次は彼が眠る時間帯だが、既に魔術師が居るとされる地域に入っている。言わば敵地だ――――そこで眠る程、バゼットも彼も腑抜けていない。

 昨夜は一睡もせずに出撃の準備をしていたが、一週間程度なら不眠不休で生活出来る体力はあるつもりだ。それなのに睡魔に身を委ねてしまったのは精神の安定と――――ひとえに彼を信頼しているからだろう。

 

「…………おっ、ようやく起きたか。そろそろ潜伏先に着くぞ」

「――――判りました。それで、その…………私の寝顔、見ました?」

「それは勿論、がっつりと。普段は凛々しい癖に無防備になると可愛らしくなっちゃって。愛らしくて仕方がない」

「なっ…………! 何を言っているのですか、貴方は!? そ、そのような事を言って私をたぶらかして…………ッ!」

「バゼットは敏感だからなあ」

「その言い方では私が淫乱みたいじゃないですか」

「え、違うの?」

「違います!」

 

 トラックの運転手が人間ではなく人形で良かった、とバゼットは心の底から安堵した。他人だろうとこんな痴話喧嘩とも取れるような言い争いは見せたくない。特に自分が翻弄されている姿など、当事者である彼を除けば誰にも見せたくなかった。

 まあ人形を通じて時計塔に音声は伝わっているのだが、人形に詳しくないバゼットが気付く筈が無い。盗聴されていた事実をバゼットが知るのは、任務を終え時計塔に帰還した時である。

 

 無防備な寝顔を見られた事や可愛いと言われた事で、思わず赤面してしまう。時折…………否、毎日のように彼はこうしてバゼットをからかって、いやらしく笑うのだ。

 バゼットがあまり異性への耐性が無いと判明してから半年間、彼は戯言で彼女の心を弄んでいた。思ってもいないような言葉を綴り、思わせ振りな態度で煽る。時々見せる淫靡な表情と心臓を握る魔性の言葉は淫魔のそれ。魅了(チャーム)でも使っているのだろう、彼の言葉はバゼット(女性)を大いに疼かせた。仕事柄肉体の経験はあるものの、心の経験は皆無と言っていいバゼットにとって――――彼の言葉はまるで蜘蛛の巣のように、自身の心を絡めていく。

 幸いなのは、今の所肉体関係が無い事か。只でさえ精神を堕とされかけているというのに、肉体まで彼色に染め上げられたら…………それこそ抜け出せなくなってしまう。

 彼の容姿は優れている。飄々としているが瞳の奥にはれっきとした覚悟と決意があり、刀を構えれば一級の戦士と化す。普段の軽薄なイメージが何処か親しい印象を抱かせている。しかし――――実際の所、彼の在り方は不安定だ。

 戦場にて生きる戦鬼。斬り合いで自身を昂める狂人。命を賭けた刹那にしか価値を求められない哀れな男。これ等全て、彼を形容する言葉である。命を天秤に賭ける事でしか意味を求められない彼は、女性が抱く母性本能を酷く(くすぐ)るのだ。不安定な貴方を支えてあげたい――――そんな欲求を、少ながらずバゼットは抱いていた。

 

「……………………おほん。では突入前に、作戦の確認をしましょう」

目標(ターゲット)は封印指定。相手は植物と意思疎通を可能にする魔術師故、潜んでいると考えられる森林全域が敵だと想定される。…………偽神の書(ゴドーワード)とは違い、一方的な意思疎通では無くお互いが会話出来るのが厄介だな。植物が感知した情報を魔術師に送られるとなると、それこそ全てを把握されているに等しい」

「それが所以で封印指定に指定されていますからね。戦闘力は皆無ですが、手の内がバレているのは非常に面倒だ」

「――――――――仕方ない、焼くか」

「そんな事をしたら魔術師自体の命が怪しいですし、近隣住民に事態を知られてしまう。…………まあ、過去証拠を消す為に村一つ焼き払うのが執行者ですが」

「俺もバゼットもそんな後味の悪い事はしたくないからな、大人しく捕まえるとしよう」

「最悪、殺害しても良いので。魔術回路と魔術刻印さえ回収できれば、その技術は遺す事が出来ますから」

 

 今回彼女たちが派遣されたのは、封印指定を受けた魔術師が神秘を漏洩させる可能性が出て来たからだ。証拠の隠蔽の為に派遣される事もあるが(寧ろその方が多い)、今回は珍しく執行者として仕事が回ってきた。

 この地域に潜伏している魔術師は植物と対話が出来る秘術を究めた。植物とは自然の抽象的な存在――――つまり植物と対話が出来るという事は、それを通じて自然(世界)とも会話が出来るという事。世界とは即ち根源へと繋がる道であり、抑止力の源。更にその秘術を追求すればいずれは根源へ辿り着くだろう――――そう判断された魔術師は死刑宣告とも取れる封印指定を受けた。

 封印指定を受けた直後失踪した魔術師は辺境の地で求道を続けるが、その研究が暴走。彼の魔術の影響を受けた植物たちは人を襲い、獣を殺し、地を犯す害悪となった。無論そんな植物はこの世に存在せず、もしも人間社会に発見され追求されれば神秘の漏洩が心配される――――そう判断した時計塔が執行者を派遣した訳だ。

 一言で言うなら愚か者に尽きる。折角封印指定に選ばれる程の才能があり、追求できる機会を与えたというのに、それを漏洩が原因で捕らえられるとは。数年とは言わないが十数年あれば地球にすらアクセス出来る才能を、ホルマリン漬け(永久保存)で腐敗させられる。同じ魔術師なら同情してしまう。最も犯してはならない禁忌を犯した者にとっては、相応しい末路かもしれないが。

 

『――――ソロソロミッションケンナイヘハイリマス。ソナエテクダサイ』

「だ、そうで。いい加減いじけてないで準備しろ」

「むぅ…………。まあいいです。作戦終了後問い詰めますから」

「そりゃ勘弁して欲しいな――――ッ」

 

 

 

 ――――精神のスイッチを切り替えた瞬間。魔力を帯びた茨が伸びてきた。

 

 

 

「ッァ!!」

「くっ…………!」

 

 急いでトラックの荷台から飛び降り、体勢を整える。地面を転がってしまった所為でスーツが泥塗れだが関係無い。そんな些細な事を気にしていられる程――――茨の追撃は甘くなかった。

 鞭は唸り、刺は鋭く、茨は疾い。数十本、或いは数百本の茨がバゼットと彼に降り注ぐ。魔力を帯びているので威力は当然高く、植物故に軌道は不規則。そんな茨が視界いっぱいに迫り来る中で――――彼女らの対処は冷静だった。

 雄叫びと共に刀を抜刀、一太刀で茨を断ち切る。炎のルーンを瞬時に刻み、幾許かの茨を燃やして拳で叩き伏せる。不意を突かれた形であったが、所詮は意思の無い植物だ。敵意が無いのは厄介だが修羅場を潜った彼らにとって、いなす事は容易い。

 茨を切り伏せ、背中合わせの形で陣取る。お互いがお互いの死角をカバーする形であり、最も崩しにくい陣形。後方で炎上するトラックを尻目に、この場に留まるのは拙いと判断して二人同時に走り出した。

 

「まさか植物に襲われるとはな。B級ホラー映画か何かか?」

「冗談を言っている場合ではないでしょう。明らかに敵対の意思がある――――いや、この植物たちは()()()()()()。つまり暴走した植物とは、これ等の事ですか」

「そうなると、もしかしたら封印指定の魔術師は死んでいるかもな。植物と意思疎通を繰り返す内に、植物に自我が芽生え――――意思を持った植物共に襲われた。有り得ない話じゃないだろう」

「いえ、流石にそれは…………いや、ガイアが接触を拒んだと考えれば、有り得なくはない…………のか?」

 

 軽口を交わす間にも茨は迫ってくる。少しずつ前進しながら茨を処理して、魔術師の元へ。逃亡を図ろうとしたら周囲を包囲している執行者が捕らえるが、領域内にいるのなら自分達で捕らえなくてはならない。また、研究成果である以上茨も何本か回収しなくてはならないだろう。実に面倒だ。

 

「ああ――――本当に、燃やしてしまおうか。丁度抜刀の摩擦で発火する術を身に付けたばっかりなんだ、試してみるのも悪くない」

「いや、充分悪いですから。森林火災など引き起こしたら、もしも魔術師が死んでいた場合遺体まで損失してしまいます」

「別に俺にとって、そんな事はどうだっていいんだがなあ。剣で斬って、命を賭けて、刹那に生きればそれでいいのに」

「常々思っていたのですが、何故貴方は執行者になったんですか? 戦争屋にでもなればいいのに。寧ろなれ」

「酷い言い様だな。まあ、あれだよあれ――――執行者だったら、魔術師を相手に経験が積めるし」

「…………本当、なんで貴方が執行者になれたか甚だ疑問です」

 

 会話はここまで。これから先は敵の本陣らしく、襲ってくる植物の量は先程とは段違いだ。

 命を賭けた戦場を駆ける。片や剣士で片や拳士。背中と命を預けて、魔導を究めた者が居座る城へ攻め込んだ。

 

 

 

 ――――十五時間後。心臓を貫かれ植物に覆われていた魔術師の遺体を回収して、バゼットと明日香鏡治は帰路についた。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「……………………ようやく着きましたか。ビジネスクラスは些か肩が凝って仕方がない」

 

 だからと言ってファーストは合わないのだけれど。良くも悪くもガサツである私にとって、少し劣悪な環境の方が良い。凝りを解す為に息を吐いて、背伸びしてから前方を見据える。

 ロンドンから成田国際空港を経由して冬木空港にようやく到着した。時間に直すと約半日もの間、座席に座ったままになる。体力自体はそれこそ無尽蔵にあるが、同じ体勢のまま長時間居座るのは中々しんどい。おまけに慣れない空中だ――――人間地面に足が付いていないと何だか不安になってくるものである。別に高所恐怖症という訳では無い。寧ろ空を翔ぶのは好きな方だが…………大地に立つ方が良いだけだ。

 上空から確認した限り、冬木の街は近代化が進んでいる。高層ビルが数多く立ち上り貿易港からタンカー船が出航する。活気溢れる街――――それが冬木市の第一印象だった。最も、彼から渡された資料を信じるのならば聖杯戦争に参加する魔術師の大半は郊外に住んでいるらしく、栄えている中央は舞台となりにくいとか。戦場は主に郊外になりそうだ。

 

「しかし、地図通りならば殆どが市街地。魔術戦には向かない構造ですね」

 

 市街戦になった場合、一番有効になるのは小規模の部隊による制圧だ。ゲリラ戦も一応はこなせるのだけれど、明らかにその辺りは彼の領分だと思う。魔術師の癖に科学兵器を利用したゲリラ戦を得意とするのは可笑しいが、まあ彼なら仕方ない。そもそも私も彼も、学問である魔術を学んでいるのに武器や拳を握っている時点で文句は言えないのだけれど。

 チャリン、とポケットの聖遺物が鳴る。ケルト神話の大英雄クー・フーリンが着けていたとされるイヤリング。間違いなく最高の遺物であり、ルーン魔術を使う私にとっては縁を感じずにはいられない代物。神代の時代から伝わっている筈のそれは朽ちる事なく、形状を保ったまま現代へ至っている。原初のルーンが刻まれているのだから、それも当然と言えるだろう。

 同じ神話の聖遺物を持っている所為か、斬り抉る戦神の剣(フラガ・ラック)を嫌でも意識してしまう。キャリアケースとはまた違う、筒状のケースが震えた。共鳴――――したのだろうか? 宝具と宝具がぶつかり合う瞬間なんて見た事は無いが、どんな現象が起こるのか。私も魔術師である以上、気になって仕方がない。

 

「――――おや」

「…………ア、イヤ…………ガッ…………ザ」

 

 空港から出て街路を歩いていると、それは私に近付いて来た。

 それは雀。丸々しく可愛らしい体躯と茶色の羽根。掌に収まり切る程のサイズしか無い雀はとても愛らしくて、思わず笑みを浮かべてしまいそうになるが――――()()()()()()()()

 警戒心がとても高い事で知られている雀が、餌付けもしておらず威圧感を放っている私に近付く筈が無いのだ。…………言っていて悲しくなるが、どうも私には動物たちを恐れさせるオーラが出ているらしい。動物的本能が私の力を敏感に察知し忌避するのだとか。

 昔から動物に好かれにくいのは自覚していたが、まさかあそこまでストレートに伝える事は無いと思う。堂々と目を見て容赦無い言葉を浴びせるのが彼の悪癖の一つだったりする。私だって猫や犬と遊びたいのに…………ままならない事である。

 雀の(くちばし)にはメモが咥えてある。それを抜き取ると、雀の身体が震えて羽根を広げだした。バタバタと掌の上で暴れる事一分、狂乱していた様子から急転して静まり返る。まるで死んだようにぐったりとして動かなくなった。だが生きている――――伝わってくる鼓動はコレが生きている事の証拠だ。

 

「つまり、機能が入れ替わっている――――」

 

 恐らく動かなくなったのも、その為の起動準備。一つの身体に宿した二つのシステムの内、一つを落として一つを起こす。そうするから時間がかかるのだろう。本来多重システムを宿すのは機能ごとの容量が減ってしまう為非効率だとされるが(一つのシステムにつき一体の使い魔を作る方が効率が良いのだ)、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()納得出来る。

 頭に思い浮かんだ人物が彼なら、きっとこの雀の次なる行動は――――

 

ヒサシブリダナ(久し振りだな)、バゼット。ダメットニナッテイナイヨウデアンシンシタ(だめっとに成っていないようで安心した)

「やっぱり…………と言うより、開口一番それとか失礼過ぎでしょう」

シカタナイ(仕方ない)ツカイマニコトバヲ(使い魔に言葉を)オボエサセルナンテショギョウ(覚えさせるなんて所業)ハジメテスルモンデナ(初めてするもんでな)ツカイマガカッテニニンシキスルセイデ(使い魔が勝手に認識する所為で)ゴセイガツヨクナッテシマウラシイ(語勢が強くなってしまうらしい)

「…………つまり私の思考は読み取られている訳ですか」

マァ(まぁ)ソウナルナ(そうなるな)タンジュンカツツキアイノナガイ(単純且つ付き合いの長い)オマエノシコウヲヨミトルノハタヤスイ(お前の思考を読み取るのは容易い)

「ふふふ…………! よろしいでしょう、そんなに私を怒らせたいですか」

マテマテ(待て待て)ココデハカナイイノチヲチラセル(此処で儚い命を散らせる)コトモナイダロウ(ことも無いだろう)

 

 ノイズが掛かったように不明瞭な声だが――――間違いなく、この使い魔の主は鏡治だ。

 行動が見透かされているのは腹立たしいものの、この雀に録音されている音声は過去のもの。過去の彼に怒っても意味が無い。その分現在の彼を思う存分叱るとしよう。

 幾ら親しくても、淑女をからかっていいものでは無いのだから。

 

「冗談ですよ、冗談。…………それで、このメモは一体何ですか?」

アケテミレバワカルガ(開けてみれば判るが)コノマチノチズダ(この街の地図だ)チュウオウニカカレテイルホシジルシ(中央に書かれている星印)――――ソレガセイハイセンソウデノキョテン(それが聖杯戦争での拠点)トナルバショヲシメシテイル(となる場所を示している)

「此処ですか。確かエーデルフェルトが第三次聖杯戦争で使用した拠点と聴きましたが、その…………大丈夫なのですか?」

ソノテンハアンシンシテイイ(その点は安心していい)イッカゲツイジョウマエカラ(一ヶ月以上前から)セイソウシテイル(清掃している)

「ありがとうございます」

 

 それだけ言って、使い魔の雀は無言で飛び立った。進んでは視線を此方へ寄越す辺り、どうやら「付いてこい」と言っているらしい。ナビゲートを付けてくれた事を喜ぶべきか、地図だけでは目的地にも辿り着けない間抜けと判断されたと取るべきか…………。

 文句を言っていても仕方がない――――大人しく彼の案内に従うとしよう。下手な意地を張って彷徨ってしまえば目も当たられない。

 

 新都を越え橋を渡り、辿りついたのは深山町。閑静な住宅街が広がる中でも、更に静かで目立たない場所にそれはあった。

 一言で言うなら幽霊屋敷。外壁などに損傷こそは見られないが、百年以上経過した建物故に古さが目立つ。洋風の建築方法に加えて魔術が掛けられているから、幽鬼の類を連想させるのだろう。宝石魔術を扱い豪華絢爛な生活を好むエーデルフェルトらしく、この屋敷には優雅さを感じさせる何かがあった。

 そんな幽霊屋敷の中に()()、尋常ならざる気配がある。片方は感じ慣れていて、片方は初めて感じるものだが――――性質が人間のそれではない。一瞬でその正体は理解できた。

 

 英雄。生前の偉業によって死後も語り継がれる偉人。

 チャリン、とポケットの中のイヤリングが鳴った。

 

「……………………お邪魔します」

 

 古い洋館だというのに埃臭さは全く感じなかった。一ヶ月前から清掃していたという、彼の言葉は本当らしい。てっきり適当に掃き掃除をして終了、なんて言う雑い仕事を想像していたのだが…………予想以上に几帳面だったらしい。彼の新しい一面が覗けれた。

 彼らの気配があるのは一階ではなく二階だ。久し振りに対面する事に緊張しているのか、心なし心拍数が多い。身体も火照っている気がする。深呼吸でそれ等を整えて、ポケット越しにイヤリングを撫でて――――二階へ乗り込み、扉を開けた。

 

 入って見えたのは桜。日本で育てられ、彼に写真で一度だけ見せて貰った桜がそこにはあった。

 次に見えたのは群青。いつもと変わらない黒髪に落ち着いた印象の着物が、憎たらしい程似合っている。

 

 

 

「お久し振りです、鏡治」

「お久し振り、バゼット。――――いや、我が同盟相手マクレミッツと呼ぶ方が良かったかな?」

「いえ、バゼットで構いません。貴方に敬語を使われると吐き気がする」

「…………了解」

 

 

 

 二年振りに、私は鏡治と再開した。




バゼットさんチョロい(チョロい)

全くFateに関係無いんですけど、Diesのアニメ化資金が一億集まったと聞いてPSP版Diesをやりました。
結果、獣殿とコズミックニートに惚れてしまった。練炭? 知らない子ですね……。

なのに次回作で殺されるという…………おのれ波旬許さん!
いつかDiesのSSも書くかも?

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