申し訳ないです。
6/24 主人公の最後の一文を修正。
この古い館には似つかわしくない、デジタル時計のアラームが部屋に響いた。
流し目で時計を確認すると、画面の電子表記はA.M2:00になっている――――あの衝突から既に三十分程経過したようだ。時間が経つのを早く感じているのは戦闘の猛りが治まっていないか、現在進行形で土下座をしているからだろう。
土下座という姿勢には比較的慣れている。土下座の姿勢とは要するに正座である――――うちの家系は魔術師の癖して無駄に愛国心があり、幼少期は食事の際、常に正座だったのを憶えている。足の痺れも慣れの御蔭でほとんど無く、たとえ一晩中この姿勢でも耐え切る事が出来る。
だが。耐え切れるからと言って、この姿勢を長時間続けたいとは微塵も思わない。
何故なら、土下座とは正座と違い謝罪を表している。つまりこの姿勢を取っている限り、自責の念が溢れて仕方がない。
「マスター」
「はい」
軽く現実逃避していることも、鬼の新撰組隊長にはお見通しのようだ。
こんな状況になっている原因――――それは俺が行ってしまった軽率な行動にある。
同盟相手のサーヴァントへの攻撃。他のマスターからすれば無謀であり無茶な行為だが、それを可能に出来る程度の実力は有している…………そんな事実は沖田との鍛錬で判っていた筈なのに、つい自分の戦闘欲求に身を任せてランサーに斬りかかってしまった。
勝てる算段すら無く、勝てたとしても倒した相手は同盟相手のサーヴァント。正に最悪の愚行と言うしかない。
一応喧嘩両成敗としてバゼットと和解は済んでいる(そもそもバゼットは怒っていなかったのだが)ものの、この調子ではスムーズに話し合いは出来ないだろうという判断の下、一旦別室で頭を冷やすことになった。
そして部屋に入った瞬間、土下座を強要され今に至る。今まで「可愛い」だったり「癒し」だったり、柔らかいイメージを持っていた沖田の眼が絶対零度だったのは驚いた。まあよくよく考えれば刀を握っている時はあんな眼をしていたのだが。
「大体ですね、マスターは命知らず過ぎます。冷静になって考えてみれば、私が召喚された日に刀を交えましたが――――英霊との鍛錬など、身体が壊れていても不思議ではありません。
あの時は私もマスターも手加減をしていませんでした。一撃でも当たれば損傷は免れなかったでしょう。木刀ですら我々にとっては十分凶器になりえるのですよ?」
「それぐらい判っているけど…………」
「いいえ、判っていません。いいですか、まずマスターは――――」
この話題を繰り返すのは一体何度目だろうか。いい加減聞き飽きてしまった。
沖田の説教は主に二つ。まずは友軍へは攻撃するな――――これは当たり前だろう。まあその程度のことも守れないのが俺なんだが、ここまでしつこくされたら決別する時以外斬りかかるような真似はしないだろう。最悪バゼットと契約でも交わせばいいかもしれない。羊皮紙ならば持ち込んだ記憶がある。
そして次が重要なようで、
…………どこかで聞き覚えがあると思えば、最近橙子にも電話越しに伝えられた言葉だった。俺の周囲の人間はどうも俺という人間は自爆特攻好きの博打野郎とでも思っているのだろうか? 一度そこら辺は真面目に話し合わねばならない。
正直に言えば、そんな刹那的に生きているつもりはない。今まで死地で生き残る為に刀を振るい、敵を殺し、屍を踏んで此処に居る。だが、そもそも死地に飛び込んだ理由はなんだったか。
強くなりたかったから? それもあるが、結果論に過ぎない。
斬りたかったから? それならば魔術を使って一般人を斬殺しているだろう。
死にたかったから? だったらさっさと自害している。
沖田のありがたい説教も耳から通り抜けていく程、思考はどんどん深くなっていく。余分な音は次々と遮断されていき、集中力が高まり始める。
この思考は言わば自分の起源を探る事。起源が魔術的にどんな意味合いを持っているのか――――それを知っている以上、これはあまりすべき事ではない。
起源覚醒と呼ばれる現象は何度か耳にしたことがある。己の起源…………自分の方向性を自覚した結果、それを体現する狂人となるらしい。
暴食が起源ならば食い散らかし、自傷が起源ならば自分を傷つけ始める。
起源覚醒の術式を保有している魔術師ならば人為的に発生させる事が出来るが、ごく稀に自力で起源を自覚した事例も存在する。俺も武人の端くれである以上、集中力は常軌を逸していると言って構わない。そこに魔術師特有の盲目的なまでの視野の狭さが付け加えられると、最早手が付けられない状態だ。
「――――ということです。マスター、解りましたか?」
「ん、ああ、おう。勿論了解した」
「…………はぁ、まあいいでしょう。私も大人げない部分がありましたからね」
「まあ今回の件は俺が明らかに悪いからな。…………そうだ、何か一つ要望は無いか? よっぽどの事以外なら叶えるぞ」
思い返してみると、俺は女性に対して謝罪するときには常に金で誤魔化している気がする。橙子は守銭奴なので問題ないとしても、バゼットには超巨大ビックパフェ(一度食べてみたかったらしい。結局はファーストフードに落ち着いたが)やオーダーメイドのスーツなどなど…………金が有り余っているので出来る芸当だが、これでは只の成金じゃないか。
俺の葛藤も知らないまま、沖田は神妙な顔のまま考えている。そこまで悩むような話だろうか――――まあ、誰しもこんな話題にぶつかえば悩むものか。
「そ、その…………えっと、マスター? 本当に叶えてくれるんですよね?」
「余程の注文じゃなかったら、な。流石に鞍替えとか自害とかは受け付けないぞ」
「別にそんな事頼みませんから。……………うーん…………ぁ……でも――――」
「――――?」
「決まりました。えと…………」
照れているのか、顔を僅かに赤く染めている沖田。幾ら清掃や整備をしているとはいえ、流石に電気は引けなかった故にこの部屋には灯りは無い――――その筈なのに、彼女の顔ははっきりと見えた。
月光……ではない。恐らく自然と目が引き付けられてしまう程、彼女が魅力的だったのだろう。
「ランサーのマスター…………バゼットでしたっけ。彼女と、その、出来るだけ会話しないようにして欲しい――――です」
「会話しないようにって…………同盟相手なんだから作戦会議ぐらいするぞ?」
「別にランサーのマスターとしての彼女は構わなくて…………ああ、自分でも何を言っているのか判らなくなってきました…………。
兎に角、私が認めた時以外話さないで下さいっ。判りましたか!?」
「お、おう」
剣幕に押されてつい返事してしまったが、冷静に考えて拙い気が。これではまともにバゼットと意思疎通出来なくなってしまう。…………まぁ沖田もそこまで鬼ではないだろう。
――――と。
ゴンゴン、と部屋の扉がノックされる鈍い音が響いた。
『バゼットです。そろそろ二時を回りました――――いい加減、ブリーフィングを行いましょう』
「ああ、了解した。すぐ行く」
沖田に目配せをし、加州清光を腰に差して部屋を出る。武装している事を失礼だと思うような精神は俺にもバゼットにも無い。どうせお互い全身凶器――――拳だけで人間を殺せる存在だ。刀を持とうが銃を持とうが、あまり関係無い。
「さて、資料はどこにあったかな…………」
懐に入れてあったメモを探しながら廊下を進む。
まずはどの陣営から壊滅させようか――――頭の片隅では、その事がグルグルと渦巻いていた。
◇ ◇ ◇
「まずは自己紹介から。俺の名前は
「アサシンです。ステータスは貧弱ですが、技術で補います。因みに隠密行動はあまり向いていません…………前衛です。よろしくお願いします」
「次は我々ですね。バゼット・フラガ・マクレミッツです。ルーン魔術を得意としています。所属は彼が言った通り魔術教会で、主に拳で戦います。当然ながら前衛です」
「…………あー、ランサーだ。偵察から戦闘、殿まで熟してやるが…………得意なのは前衛で戦うことだ。
なんつーか、見事に近距離戦闘のヤツばかり揃ったな」
ランサーが思わずそう呟いてしまう程、鏡治とバゼットのアサシン・ランサー陣営は偏った戦力だった。
なんせマスターを含めた四人全員が刀や槍といった近距離武器、そして拳で戦うのだ――――英霊であるアサシンとランサーは兎に角、本来ならば後衛でサーヴァントの補助をする筈のマスターまでもが前線に出るのが可笑しい事に彼らは気付いていない。
アサシン…………沖田総司とランサーは聖杯の知識によって聖杯戦争がどのようなものか理解しているが、沖田はそもそも後衛に下がる事を提案するつもりはさらさら無く、ランサーは自身の槍を止めたバゼットと立ち向かってきた鏡治を評価している。わざわざ強大な戦力を潰すつもりは無かった。
「最悪俺は後衛に回れる。ゲリラ戦ならばお手の物だ――――もっとも、前回の聖杯戦争にてテロ紛いの行為を行ったマスターが何人か居る所為で、今回の聖杯戦争で通用するとは断言できないが」
「魔術師殺し…………
「無いとは言い切れない…………が、可能性は低い。もしもあの魔術師殺しが参戦しているのなら、俺が仕掛けた陳腐な代物なんぞ看破されているだろう」
彼らが話し合っている議題――――それは聖杯戦争におけるこれからの方針だ。
時計塔に居る
明日香鏡次。サーヴァントはアサシン。
バゼット・フラガ・マクレミッツ。サーヴァントはランサー。
遠坂凛。サーヴァントは不明。
アトラム・ガリアスタ。サーヴァントは不明、しかし触媒には竜の牙を扱う模様。
これ等が現段階で把握できているマスターとサーヴァントの情報である。これ以外にもアインツベルンのマスターが現地入りしている事(マスター、サーヴァント共に確認できていないが拠点の結界が働いている事から判断)や、間桐家が触媒の準備を進めていることなどなど――――。細かい事で言えばその辺りまで調査できていた。
しかし逆に言えば残り一人のマスターを探し出せていないのだ。おまけに調べた内容も穴が多く、補完する事柄も多々ある。
そして鏡治とバゼットが最も恐れている七人目のマスターは、前回の聖杯戦争にも参加した魔術師――――衛宮切嗣だ。
彼の汚名や悪名は十年(彼が活動していた時期で言えば二十年にもなる)経った現在でも語り継がれており、「一人の魔術師を迎撃する為に旅客機を撃墜させた」や「彼の銃撃で倒れた魔術師は二度と魔術を扱えない」などの噂が流れている人物。その手腕は悪辣にして的確であり、策略や謀略を得意としていない鏡治やバゼットからすれば最も当たりたくない魔術師なのだ。
とはいえ、彼も既に三十を超えている。魔術は強化されているだろうが、肉体年齢は此方が優っている筈だ。それならば一太刀浴びせれば勝てる…………鏡治はそう考えている。
「まぁ待てよお二人さん。このまま架空の相手を前提に話を進めても埒が明かねえ――――次に行こうぜ」
「…………そうですね、ランサーの言う通りです。まずは把握できている範囲の事から片付けていきましょう」
サーヴァント達の助言もあり、議題の一つであったマスターについての話は終了した。
勿論これだけではない――――話し合う内容は多々ある。
「では次の議題だが…………」
鏡治は顔色を伺うようにバゼット、沖田、ランサーへ視線を移していく。それに訝しげな視線を送る者は居なかった。全員が一瞬で、彼が重大な事を提案すると理解したからである。
「――――陣営を一つ、早い段階で潰しておきたい」
考えるように目を閉じたのがバゼット。
好戦的な提案に思わず口角を上げたのはランサー。
沖田は予め聞いていたのか、特に反応は無く黙って鏡治の顔を見ている。
「…………理由を聞かせていただいても?」
「不意を突く――――と言えば聞こえは良いだろう。しかし単純に準備期間を設けさせると厄介なサーヴァントが居るから、それを潰すだけだ。一つの陣営なんて言ったが、実際は決まっている」
「
「ご名答」
キャスター。聖杯戦争にて召喚されるサーヴァントのクラスの一つ。
クラス固有のスキルは『陣地作成』と『道具作成』。魔術師のクラスと言われるキャスターは、自らの牙城にして拠点である工房を作り出せる。それを補助するのが『陣地作成』であり、そこで生産された魔力を用いて道具を作るのが『道具作成』なのだ。魔術師という特性上、後方支援に向いているクラスと判断して良いだろう。
陣地を作り出すというスキルは、時間を掛ければ掛ける程厄介となる。工房とは魔術師の腹の内部にして心臓である――――当然ながら、外敵への行動は排除以外存在しない。聖杯戦争終盤になればキャスターを落とすのに数名のサーヴァントを駆り出す必要すらある。それをアサシン陣営は危惧しているのだ。
「悪くない意見だとは思います。しかし現状、どのマスターがキャスターを召喚しているのか判明していません。偵察などを含めると、それなりの時間を要しますね」
「一応目星は付いている。
恐らく御三家はキャスターを召喚しないだろう」
「何故断言できる?」
「キャスターは魔術師が多い。魔術師とは内向きで自分勝手、そして利益を尊重する生物だ…………もしも万が一、彼らと仲違いをした時。待っているのは主人と従者の潰し合いだ。そのリスクを良く知っている御三家は間違いなく召喚しない。
後は…………単純に魔術師って自信家だから、もう一人の魔術師は必要無いと考えてしまいがちなんだ」
主観混じりの説得力の薄い根拠――――彼は軽々しく口にしているが、実際はこの陣営の未来を左右する出来事だと言って可笑しくないのだ。
聖杯戦争はまだ始まっていない。自分たち以外のマスターやサーヴァントは目撃しておらず、また監督役である教会の神父からも通知は無い。言ってしまえば今は準備期間なのだ…………この段階で暗殺者と槍兵が同盟を結んでいる事が露見すれば、対策を練られてしまう可能性が高くなってしまう。
逆に言えば、自分の陣営に目を向けているこの隙がチャンスなのかもしれない。以前からこの土地に拠点を構えている御三家以外は、バゼットのように今頃になって工房を作っている最中だろう。ならば魔術師の眼になる使い魔は少なく、警戒レベルも低い。
…………デジタル時計の時刻は三時に差し掛かっている。
長針が十二を回ろうとした時――――ようやくバゼットが、重々しく決意を秘めた声色で告げた。
「やりましょう」
「…………その言葉を待っていた」
サーヴァント達の顔を伺っても、否定するような様子は見られない。
全員賛成である事を知って安心したのか、鏡治はソファに深く沈み込んだ。よく見れば頬には汗が伝っており、彼がこの話題を通すのをどれだけ心配にしていたかが見て取れた。
「あれだけ大言吐いておいて悪いが、もしかしたらキャスターじゃないかもしれない。それだけは了承してくれ」
「構わん。それよりも、どのマスターを襲撃するか教えてくれ」
「それは私も気になります。…………その様子だと、何処を討つか決めているのですね」
「ええ」
彼が落としておきたいのはキャスターのサーヴァント。キャスターを召喚する危険性をよく知っているであろうアインツベルン・
そうなると、狙っているマスターはたった独り――――!
「アトラム・ガリアスタ。中東からやって来た七光りを、竜のサーヴァントと協力関係を得られる前に討つ」
聖杯戦争。残りマスター七人、残りサーヴァント七騎。
序盤の沖田に違和感。やはりラブコメは書き慣れてないと駄目ですね…………というよりも、愛を育んだ期間を描写してないから違和感があるのか(納得)。
因みに沖田との絆(愛情)レベルは既に2.5ぐらいです。
「一週間程度しか経ってないのに☆2以上は可笑しいだろ! いい加減にしろ!」と言う兄貴諸君、SRUは一ヶ月も経たない内にSEX!へ持ち込んだんやで……。
人斬りである事を認証ないし許容しているので☆1個、共に戦場に立てる程腕前があることと戦える覚悟があるので☆1.5個です。
後は実際に戦って☆0.5個、沖田の本心を知って☆1個、真の相棒(意味深)になって☆1個埋まります。R-18不可避。