四葉の龍騎士 -横浜騒乱編ー   作:ヌルゲーマー

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時間がかかってしまいました。
次話もかかるかも…。


第2話

「でっかい電球!」

 

「常温プラズマ発生装置だ」

 

ザンの見たままの意見を、達也が切って捨てた。校庭ではコンペ用魔法実験装置の動作テストを鈴音や五十里などがやっており、護衛としてザンも見回りをしていた。

 

「達也、冷たいなぁ。姫様も最近冷たいし、俺何かしたっけ?」

 

「生徒会選挙が原因だろう」

 

生徒会会長選挙が行われ、あずさが晴れて生徒会長となったのだが、無効票として達也や深雪の名前があった。名前があっただけならまだしも、『スノークイーン』『氷の女王』が深雪票としてカウントされていたのだ。これはザンの仕業に違いないと、深雪は決めつけていた。

 

「あれは、まったくの濡れ衣って言ったじゃんかよ。それに、俺は生徒会長を『あ~ちゃん先輩』って投票したぜ?」

 

「深雪が信じてしまっているんだ、日頃の行いのせいだな。俺にはどうしようもない」

 

達也が肩を竦めて首を振っていた。ザンも諦めて回りを見渡した。エリカたちも来ており、紗耶香と話していた。話し終わると紗耶香は何かを凝視している。するとおもむろに紗耶香は走り出した。誰かを追っているようだ。エリカと隣にいた桐原も紗耶香を追って走る。エリカたちが追いつくとき、紗耶香が追っていた女子生徒と対面していた。

 

「追いついた。あなた、一年生ね?」

 

「わ、私は、一年G組、平河千秋。何の用ですか、先輩?」

 

紗耶香は千秋の手元を指差した。

 

「それは、無線式のパスワードブレイカー。非合法のハッキングツールよ。テロリストなどが好んで使うものなの。私にはわかるのよ。スパイの手先になった事があるから…!」

 

「!」

 

千秋の肩がビクンとはねる。

 

「だから忠告するわ。どのような連中か知らないけれど、今すぐ手を切りなさい!」

 

「…せ、先輩には、関係ない事です」

 

千秋の返答に、紗耶香は目を見開いた。紗耶香自身、全身が震えていることを自覚している。

 

「放っておけるわけ、無いでしょう!あいつらはあなたを利用して、使い捨てるだけよ!」

 

「…分かっています。私は何かが欲しくてあいつらと手を組んだわけじゃ無いんですから!」

 

千秋は小さい何かを投げつけると、閃光が走る。光が視界を遮ると、右手を突き出し紗耶香に向ける。手首を上げると、手首の裾から小さな矢が飛び出し紗耶香を襲う。咄嗟にエリカは木の枝でその矢を弾いた。矢は転がると煙が噴出し紗耶香たちを覆う。一番矢の近くにいた桐原がむせこんでいた。

 

「がはっごほっ…」

 

―催涙ガス!-

 

用意周到さと手持ちにCADが無いことから、エリカは二の足を踏んでいたが、エリカたちが走って追っていたことを気にしていたレオが走ってきた。

 

「おおらああ!」

 

そのままの速度で千秋にタックルを仕掛ける。二人とも倒れこんだ。

 

「や、やりすぎたかな?」

 

「ほうほう、一年E組西城レオンハルト君、女子生徒を押し倒すっと。風紀委員として捕まえた方が良いかな?」

 

「え、ちっ、違うって!エリカたちも見てたよな?な?」

 

いつの間にか来ていたザンが楽しそうにメモをとるふりをしていた。

 

 

-○●○-

 

 

五十里と花音が保健室に入ると、保険医の安宿が左腕を後ろから極め、取り押さえているところだった。なお、安宿曰く「戦闘能力皆無」らしいが、怪我人を逃した事は無いらしい。千秋をベッドに座らせると、花音が口を開いた。

 

「一昨日も、無茶したわね。何故データを盗み出そうとしたの?」

 

「…私の目的はプログラムを書き換えて、プレゼン用の魔法装置を使えなくする事です」

 

「プレゼンを失敗させたかったの?」

 

五十里の事もあるため、花音の目線がきつくなる。しかし千秋はそれに負けじと反論した。

 

「違います!あの男はリカバリーさせてしまうかもしれない。でも、少しぐらい慌てさせる事が出来るかもしれないって思ったんです!」

 

「嫌がらせの為だというの?事と次第によっては、退学になるのかもしれないのよ!?」

 

「構いません!あの男に一泡吹かせられるのだったら…」

 

そう言って、千秋は嗚咽し始めてしまった。五十里が小春の前に座る。

 

「平河千秋さん、君は平河小春先輩の妹だね。お姉さんがそうなったのは、司波くんのせいだと思っている?」

 

「だってそうじゃないですか。あいつは分かっていたのに、小早川先輩のCADの事は言わなかった。妹に危害が及ばなければ放置するんだって、『あの人』も言っていました!桐生くんがいなければ、小早川先輩は魔法師生命どころか、命すら危なかったんですよ!」

 

「…もしあの事について司波くんに責任があるとすれば、気付かなかった僕たち技術スタッフ全員の責任だよ」

 

そう言う五十里に、千秋は焦点の合わない瞳を向ける。

 

「笑わせないでください。姉さんにも分からなかったんですよ?五十里先輩が気付くわけ、無いじゃないですか!桐生くんだから助けてくれたんです。それなのに、あいつは…」

 

千秋は最後まで言葉を続けられなかった。安宿により、気絶させられたからである。

 

「あ、安宿先生?」

 

「はいはい、ここまで。身柄は魔法大学付属病院で預かっておくわ」

 

「は、はい。…それにしても、何故ここまで思い込んでしまったんだろう?平河先輩は確かに電子金蚕に気付かない事はショックだったろうけれど、今は技術向上の為に小早川先輩と留学しているのだろう?ここまで悲観的に思い込むことは無いはずなのに…」

 

「そうだね。何か、負のイメージを植えつけられていると言うか、増幅されているといった感じがするね」

 

「啓、それって…」

 

パンパンと手を叩き、安宿はため息をつく。

 

「はいはい、二人はコンペの準備に戻りなさい」

 

五十里と花音は頷いて外に出るしかなかった。

 

 

-○●○-

 

 

「早速ですが、周先生。例の少女がしくじった様ですな」

 

周と呼ばれた男が顔を上げる。男にしては珍しく長髪だ。

 

「陳閣下のご懸念は理解しているつもりです。ですが、彼女にはこちらの素性を何一つ伝えておりませんので、情報漏えいの危険性は無いと思われます」

 

「ほう、それでよく協力者に仕立て上げましたな」

 

周は肩を竦めた。

 

「あの年頃は純粋で情熱的ですから、自分と価値を示すために多くを聞くより、多くを語るものです。お陰で、色々な事を教えてもらいました」

 

「…周先生がそう仰るのでしたら、大丈夫なのでしょう。ただ、くれぐれも『万が一』が無いように願いますぞ」

 

そう言って陳は酒をあおる。

 

「心得ております。近日中に様子を見て参りましょう」

 

その言葉に陳は笑みを浮かべたが、陳の隣にいる男は周を睨んでいた。

 

 

-○●○-

 

 

達也たちはめずらしく昼食を食堂でとっていた。遅れてきたほのかが見渡すと、二名いないことに気が付いた。

 

「エリカと西城くんは、まだ履修中なんですか?」

 

「あの二人、今日は多分やすみだよ」

 

達也のせりふが意外だったのか、ほのかはフォークを落としそうになった。

 

「え…?二人一緒にですか?」

 

「ああ、二人そろってだ」

 

達也は悪い笑みを浮かべている。ザンは我関せずで、弁当を食べ続けている。

 

「も、もちろんただの偶然かも知れませんが…」

 

「偶然じゃない可能性もある!」

 

雫が目をきらりと光らせていた。幹比古は相変わらずオロオロしていた。

 

「い、いや、二人にはそんな素振りが無かったと思うけど」

 

「でも、二人で一緒に休んだというのであれば、一体何をしているのかしら?」

 

深雪の発言に、美月と幹比古が顔を赤くする。

 

―エリカがレオに剣術を教えているってところだろうな―

 

爪楊枝で歯に挟まったかすを取りながら、ザンは小さく呟いていた。

なお、この後レオや幹比古の身にラッキースケベが舞い降りたのだが、別のお話。

 

 

-○●○-

 

 

達也が深雪を伴い、FLTに聖遺物を届けると、FLTではハッキングを受けていた。沈静化させることに牛山たちは成功したが、何が目的で仕掛けてきたのかは分からなかった。

達也は家に帰ると、小春から電話を受けた。妹の謝罪をしていたが、小春自身にも何故千秋がそこまで思いつめているのかは分からなかった。小春は千秋の通信ログを一方的に達也に送りつけて電話を切ってしまった。

 

「やれやれ、姉妹間でも、ハッキングは犯罪ですよ?先輩」

 

そう言いながらも、達也は千秋の後ろにいる悪意が気になっていた。

 

 

-○●○-

 

 

「FLTのカウンターアタックです」

 

「予定通り、回線を遮断しろ。これで司波達也はFLTのラボのセキュリティに疑問を持っただろう。聖遺物を不確かなセキュリティに預けようとは思わないはずだ」

 

「論理的に考えるのであれば、そうでしょう」

 

「そういえば、今日小娘の様子を見に行くらしい。その前に消せ」

 

「是」

 

 

-○●○-

 

 

関本がロボット研究部に侵入を果たそうとした頃、千秋は病室で一人の男と会っていた。

 

「どうやってここに?」

 

「とっておきを使いました」

 

「とっておきって、魔法?」

 

「魔法なんか使わなくても、人は幾らでも奇跡を起こせるものですよ」

 

「何、キザな事を言っているんです?桐生くん。そこに座ってください」

 

椅子にザンは腰掛けると、ベッドに腰掛ける千秋と対面した。

 

「話をしておこうと思ってね」

 

そう言うザンを、千秋は何故かジト目で睨んでいた。

 

「な、何?」

 

「桐生くん、何故姉さんを振ったのですか?」

 

「はあ?」

 

突然の言い様に、ザンの顎が落ちた。

 

「ミラージバットが終わったときに、姉さんは興奮気味にあなたの事を色々褒めていたんですよ。それが閉会式を終わってダンスパーティの後に急に落ち込んでいました。そう、きっとあなたが姉さんを振ったに違いないんです!」

 

「いやいや、ちょっと待って!俺は平河先輩と付き合ってもいないし、特に告白された事も無いんだ。俺と平河先輩は、そんな関係じゃない」

 

慌てて両手を振るザンを、納得がいかない千秋が見つめる。

 

「でも、それなら、どうして姉さんは急に留学なんて言い出すんですか!?」

 

「それこそ、九校戦で自分を見つめ直したんだろうよ。自分に足りないところを補完する為に、彼女は努力しているんだ。例え妹であろうと口出しすべきじゃないと思うよ」

 

千秋はうな垂れてしまった。ザンはため息をついた。

 

「貴女に、何があったんだ?達也を恨むようなことは無いはずだ。九校戦では何もトラブルは無かったし、平河先輩は自らを高めるために留学している」

 

「何も、無い…。何も…?わ、私は…」

 

非常ベルが鳴り響いた。ザンは千秋に部屋にいるように言うと外に飛び出す。扉を小盾で保護すると、廊下に目をやる。そこには一人の男が立っていた。

 

「呂剛虎」

 

ザンの後ろから声が聞こえてきた。千葉修次と渡辺摩利だ。どうやら千秋の様子を見に病院に来ていたようだ。

 

「ザンくん、下がってくれ。あいつは大亜連合の白兵戦魔法師、世界で十指に入るとされる対人近接戦闘のエキスパートだ」

 

「ふうん、あれが」

 

修次の言葉を聞き、ザンは前傾姿勢をとる。呂は鋼気功を展開する。鋼気功とは、大亜連合が誇る近接戦闘魔法であり、気功術を基に皮膚の上に鋼より硬い鎧を展開するものだ。

二人は弾かれたように走り出した。互いの間合いに入ると、呂が拳をザンの顔面に炸裂させた。

 

「ザンくん!」

 

「!?」

 

しかし、ザンは何事も無かったように遠心力を乗せた拳を呂の右わき腹に食らわした。

 

「ぐあっ!」

 

そのまま呂は吹き抜けのシャンデリアまで吹き飛ばされ、落下していった。修次や摩利が下を見た頃には、呂はいくつかの血痕を残していたが姿を消していた。

 

「仕留め損ねたか」

 

「CADも無いのに、無茶するんじゃない」

 

呆れる摩利だったが、それは考え違いだ。ザンはペンダント型CADは持っている。しかし、千秋の病室を魔法で保護しているため、他の魔法を使わなかったのだ。

警察が来たので、ザンは魔法を解いていた。事情聴取を受けた後再度千秋の部屋へ赴いたが、千秋は達也を恨む契機となった事実を忘れていた。敵が一人で無い事は、可能性として低くない。考えれば分かるはずだった。ザンは自分の愚かさを思い知らされていた。

 

 

-○●○-

 

 

翌日、達也とザンは先日のデータ盗難未遂の犯人、関本勲の面会に来ていた。風紀委員の委任状が必要であるが、真由美と摩利が取得しておりそれに同行する形となった。摩利が関本の部屋に入り、隣の部屋へ真由美たちが入って様子を見る算段だった。

 

「ちょっと、俺は見回ってくるわ」

 

そう言ってザンは一人廊下に残った。

 

―さてさて、この微かに香る殺気はなんだろうね?まずこっちに行ってみるかな?―

 

階段を降り正面玄関が見えたところで、トラックが突っ込んできた。車体を横に滑らして止まると、ハイパワーライフルで武装した兵士たちが六名出てくる。警報も建物全体に鳴り響いた。

 

「やれやれ、やっぱりはずれか。そうだろうなぁ、アイツがこんな殺気を匂わす訳無いか」

 

金色の湯気のようなものを纏わせ、ザンは兵士たちへ突っ込んだ。

 

 

-○●○-

 

 

「もし呂剛虎ってヤツに会ったら、右わき腹を狙え」

 

「まだ、ダメージを残しているか?」

 

「俺の一撃だからな。数日では完治できないだろう。浸透系が使えれば、一撃で沈められたんだろうけどなぁ」

 

「じゃあ、呂剛虎に使ったのは…」

 

「ああ、『穿』だ」

 

達也は、関本と面会が決まったときにザンに聞いていたことを思い出していた。摩利や真由美と交戦する呂の動きは、どこか鈍さを見せていた。

 

「七草先輩、渡辺先輩。右わき腹を中心に攻めてください」

 

そう言いながら、達也は『術式解体』を呂へ放つ。身体を覆っていた鋼気功が吹き飛ばされた。

 

「!?」

 

摩利が炭素粉末を呂の周りで燃やし、低酸素状態を作り出す。呂の動きが更に鈍くなったところに、三本の刀から織り成す圧切りが呂を切り刻んだ。達也はその魔法が源氏の秘剣であろうことを予測していた。

 

「うへぇ、残酷」

 

「ザン!」

 

ようやく到着したザンだったが、事は終わっていた。呂も拘束され連れて行かれた。

 

「突入部隊をふたつ相手にしていたら、終わっちゃってたよ」

 

「お前、分かってて他に回っていただろう」

 

「あ、ばれた?」

 

達也はため息をついた。ザンはもとより達也たちに呂は任せるつもりだったのだ。その代わりにそれ以外を受け持っていたのだ。

 

「ま、ダメージを受けたままのヤツなら、達也の敵じゃあ無いからな。それに念のために『守護龍』はお三方に付けておいたしね。それが現れていないって事は、楽勝だったって事でしょ」

 

「ザンくん、何だい?その『守護龍』って」

 

「渡辺先輩、さっきのトドメの魔法って何ですか?」

 

摩利とザンの間で沈黙が続く。にっこり笑みを浮かべるザンの顔を睨んでいた摩利は、諦めたかのようにため息をついた。

 

「分かった、魔法を詮索するのはルール違反だからな。聞かなかったことにするよ」

 

「どうも」

 

肩を竦める摩利を、面白そうに真由美は見ていた。どうやら摩利ではザンをコントロールできなさそうだ。ただ、自分にもそれはできそうもないと真由美は思っていた。

 

 

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