Baby Steps ~変則バックの使い手~   作:抹茶小豆餅

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やっぱり、プロになりたい

 忘れるはずがない。部活に入った初日、ある程度の経験があった俺は、入部早々コートに入って練習することが許された。

 

 

 初心者が多かった中異例の措置。普通はラケットにボールを当てることに慣れるために面打ちから始めるものだからだ。

 

 

 この頃の俺はガキ――今でもガキだが――だった。この事で優越感を感じ、他の新入部員を見下していた。俺はこいつらよりも上手い、下手くそだと。

 

 

 だがその自信は、その日のうちに砕け散った。

 

 

 

「……お願いします」

 

 

 背は小さめ、帽子を深めに被った男子が対面に入った。見た感じ新入部員、俺以外にもコートに入ることができた一年がいた。――それが修だった。

 

 

 当時の俺はそれが面白くなかった。俺だけが特別だと思ってるガキだから当然だ。あいつとの差を見せつけてやる、そう思ってサーブを打った。

 

 

 この練習は入り口側の人が斜め向かい側――デュースサイド、アドサイドという――に向かってサーブを打ち、リターン側はサーブを打ってきた側に返し、ラリーをどちらかがポイントをとるまで続けると言うものだ。早い話斜め向かい同士で打ち合うというもの。

 

 

 話は戻るが硬式とはいえ多少の経験があった俺のサーブ、新入部員には打たれないと思っていたのだが――

 

 

「っふ!」

 

 

 当時の修は事も無げに返してきた。しかもバック側にコントロールされたボール、俺は驚きながらもバックハンドで返す。硬式仕様で。

 

 

「んぁ!」

 

 

 だが競技はソフトテニス、硬式ではない。両手バックハンドではまともに返らず中ロブ気味のボールが返った。

 

 

 修は狙いを定め、ラケットを振り抜いた。ボールは鋭くベースラインギリギリに突き刺さった。――俺は一歩も動けなかった。

 

 

「う、うまい……っ」

 

 

 圧倒的な実力の差を感じた。たかが一回のラリー、だがラケット捌き、ステップ、スマッシュまでの流れ等すべてにおいて別格だった。

 

 

「あいつ、一体……」

 

 

「お、寒河江やっときたのか!」

 

 

 その声は入り口から聞こえてきた。ジャージを着た坊主の男子、名前の刺繍糸が赤なので恐らく二年生――一年は青、三年は緑――だろう。

 

 

 呼ばれた修は軽く帽子のつばに手を当てて、どうもと挨拶してベースラインまで戻っていった。

 

 

 俺は先程の先輩のところに小走りに駆け寄った。

 

 

「あの、先輩……あいつ誰なんすか?」

 

 

「お? 誰かと思えば天才君じゃん。早くバックハンドをソフトテニスのに変えろよー?」

 

 

「う、うっす……――じゃなくて! あいつは……」

 

 

「天才君は否定しないんだ。まぁいいや、あいつは寒河江修っつってな、ジュニアだよ」

 

 

 ジュニア? と軽く首をかしげる。その間も修はボレーを軽く決めてベースラインに戻っていっていた。

 

 

「そ。小学校の頃からクラブに入ってソフトテニスをしてたんだ。そういう経験者のことをジュニアという。その中でも寒河江は特別うまかったぜ」

 

 

「……」

 

 

 自分はある意味、特別だと思っていた。独学とはいえテニスを中学にはいる前から初め、実際それはソフトテニスにも活きて初日からコートに入るレベルではあった。

 

 

 だけど本当に特別な人間は、今目の前で先輩相手に互角に打ち合っている寒河江のようなやつのことを指すんだ。特別なのは俺じゃなく寒河江、天才もあいつだ。

 

 

「――くっ、はははっ……はーはっはっはっは!!!!」

 

 

 そう思うと、笑いが込み上げてきた。先輩はもちろんコートに入ってた先輩、コート外の新入部員も何事かとこちらを見ているが関係ない。

 

 

 ――何が天才か。少しかじった程度で何を自惚れていたのか。俺の悪い癖じゃないか……。

 

 

 俺はプロになりたいんだろう? プロになるつもりならここでもトップになるくらいじゃないといけない。

 

 

 

「寒河江!!」

 

 

 気がつけば叫んでいた。修はチラッとこっちを見ている。

 

 

「俺とペアを組んでくれ! 俺と組んで、日本一を目指そうぜ!」

 

 

 そのための近道は、恐らく部活内で一番強い修と組んで技術を盗み、いつかこいつを倒すくらいになること。そこまで行って初めてあの娘と同じ舞台に立てる。

 

 

 

 

 

 ♪~♪

 

 

 

 

 あのあとペアを組むことになった。衝突もあったが、今の俺があるのは間違いなく修のお陰だ。

 

 

「村江、お前の夢がプロだというのもわかってる。だが俺は……お前と上を目指したかった。ソフトテニスで……今度は高校生の頂点に立ちたかったんだ……っ!」

 

 

「……修……」

 

 

 普段クールな修からは考えられない、修の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。それほどまでに本気だったんだろう。だが俺にだって、思うところがない訳じゃない。

 

 

「――俺だって、お前とどこまでもソフトテニスで上を目指すのもいいと思った。高校生の頂点……それも、ありだと……」

 

 

「なら……」

 

 

「だが! ……俺はやっぱり、プロになりたい。プロになって、家族を楽にしたいんだよ」

 

 

 もちろん家族のためだけに目指しているわけではないが、概ねの理由はそれだ。

 

 

 現在我が家は貧乏である。それこそ俺のテニス用具も買えないくらいギリッギリの生活。その理由が父さんの働いてた会社が倒産したからだ。洒落じゃないぞ。

 

 

 そんな出来事があったお陰で、俺のプロになりたい願望が一層高まった。家計を支えるならアルバイトでもした方がいいのかもしれない。でも……俺は自分勝手だから、夢を諦めたくなかった。

 

 

 だからこその選択肢。ならばプロになってお金を家に入れる。そうすれば夢も叶い家も潤う、一石二鳥だと。

 

 

 その事情は修も知っている。だが、やはりそう思っていても、本心を誤魔化しきれなかったんだろう。

 

 

 

 

 なおも、修はなにも言わない。まるで冷静に自分に言い聞かせるように、脳内で葛藤が繰り広げられているように。

 

 

「なぁ、修」

 

 

「……なんだ、村江」

 

 

 ならばこそ、俺から切り出すべきなんだ。

 

 

 

「――俺と、試合しないか?」




 とりあえず同時投稿です!
 ……執筆って……難しい(白目)
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