~〈高天原〉艦内神社~
この〈高天原〉艦内の自然ドームに建設された艦内神社、高天原神社は、艦長である霊夢の私室としての側面も有している。生前は神社暮らしだったので、ここが一番落ち着くとの談だ。そんな高天原神社では、その神社と艦の主である霊夢が缶詰めになっていた。
「う~ん、ねぇ早苗、このモジュール、どこに配置すればいいと思う?」
今、艦長である私は、サナダから渡された端末を使って新しく建造される艦のモジュール配置を考えているところだ。配置を考えるために神社に籠ってから、かれこれ数時間は経過していると思う。随伴艦の設計はサナダさんが適当に終わらせたみたいだけど、旗艦の内装ぐらい考えておけ、と私に丸投げされた仕事だ。サナダ曰く、世間の0Gドッグは自艦のモジュール配置くらい考えるのは当然だという。それが当たり前なら仕方ないか、と割りきって私はモジュール配置図の作成に勤しんでいる。
しかし、何分初めての事なので私にはよく分からないことも多い。適当にパズルのようにモジュールを組めばいい、という訳ではなく、戦闘用モジュールなら艦橋やCICと一纏めの区画に配置したり、居住用のモジュール、訓練用のモジュールなどもなるべく一つの区画に納まるように考えて配置しなければならないらしい。その方が色々と便利なのだそうだ。そしてモジュール配置に行き詰まったときは、こうして早苗に助言を求めたりしている。
《えーっと、このモジュールですか?出力増幅機なら、主砲用のエネルギーバイパスに接続する形で配置した方が、主砲の威力が上がるので、その方がいいと思いますが。》
「こうかしら?」
私は早苗の助言を受けて、操作していたモジュールの図を前甲板主砲群の下に配置した。
《はい、そこですね。》
どうやら私が配置した場所は正しかったようだ。
「じゃあ次のモジュールだけど・・・」
出力増幅機のモジュールを配置し終え、次のモジュールの配置に取り掛かる。
《これは、自然ドームのモジュールですね。》
次に配置するのは、早苗が確認した通り、自然ドームのモジュールだ。この〈高天原〉にも搭載されているが、このモジュールは新しい艦の大きさに合わせて改良したタイプだ。〈高天原〉のそれと比べて底面積は4倍、高さは1,5倍となっていて、体積は6倍だ。拡張された部分には、主に艦内食堂での利用が想定されている野菜や果物などの栽培施設を設置したり、竹藪などの新しい植生が再現されている。幻想郷らしい建築物も少し増やしている。主に鈴奈庵などだ。鈴奈庵を模した建物では、主に戦史関係の資料を関越できる。私達が持っていない戦史資料室モジュールの代用だ。
「自然ドームは、今と同じような場所でも良いわね。」
私は、自然ドームのモジュールをこの〈高天原〉と同じような区画、艦体中央の艦尾寄りの位置に配置した。艦橋とCICの下にあった空き区画だ。
《そうですね、その場所でも、特に問題ないと思います。?
早苗も特に異議は挟まず、配置場所はすんなりと決まった。
その後も早苗と一緒にモジュール配置を考えたが、既に重要区画の配置は終わっていたため、残りのモジュールは空きスペースに放り込んで、後は場所を調整するだけだったので、1時間程度で終わらせることができた。後で遺跡の造船区画にいるサナダさんのところに持っていくと、「遅いぞ。」と言われた。この程度のことなら10分あればできると豪語していたっけ。私は初めてなのよ、その辺りも考えなさいよ、このマッドめ、と私は心の中でサナダさんに悪口を言ってみたりもした。
「ところで艦長、新造艦のデータは把握しているか?」
サナダさんに新旗艦のモジュール配置図を渡し、艦に戻ろうとしていた私はサナダさんが呼び止められた。
「一応は送られてきたデータには目を通してみたけど、よく分からなかったわ。」
私は素直にサナダさんの質問に答えた。
この世界に来てから、この世界での常識や艦船に関する知識などが頭に流れ込んでききたようで、今は慣れてきたのか違和感なくそれらの情報を引き出せるのだが、如何せん幻想郷とは勝手が違うので、よく分からない部分も多い。サナダさんから送られてきた艦船のデータに関しても、基本スペックや武器の情報などは分かっても、実感としてそれがどれ位強いのかといったイメージは沸いてこなかった。
「そうか、なら説明しておいた方がいいかな。今回我々が建造しているのは、主に4つのタイプの艦だ。一つは遺跡の外で見た漂流戦艦の略同型艦だが、これはまだ建造段階に入っていないから飛ばすぞ。」
私の答えを聞いたサナダさんが説明を始める。サナダさんの科学蘊蓄は時には鬱陶しく感じるのだが、こういう時は口で説明してもらった方が有り難かったりする。単にデータを送られてくるよりは分かりやすい。
「他の3タイプだが、まずはこいつから説明しよう。」
サナダさんは自分の携帯端末から、一つの艦船設計図をホログラムにして私に見せた。
「こいつはヘイロー級自動駆逐艦だ。全部で6隻が建造される。この艦は主に護衛艦としての運用が想定されていたらしいが、我々の艦隊で運用するに当たって、無人化の上で不要な居住区を削り。私が独自開発した長距離艦対艦ミサイル〈ザンバーン〉用のVLSを前甲板に設置している。さらに主砲はプラズマ砲に換装し、対艦火力を高めた。これでこのクラスの艦は大型艦の護衛だけでなく、対艦攻撃にも使える汎用駆逐艦としての能力も持ち合わせている。さらに、上下の艦橋には様々なレーダーを始めとする観測機器を搭載し、哨戒任務にも対応させている。」
「要するに便利屋って訳ね。」
私の喩えに、サナダさんは無言で頷いた。
「艦隊では、駆逐艦としてのオーソドックスな運用を想定して設計したからな。」
少し脱線するが、ここで駆逐艦の話をしておく。駆逐艦の主な運用方法は、艦隊の中枢となる大型艦艇や補給艦、輸送艦などの護衛に、敵艦に肉薄してのミサイルや小口径レーザーによる攻撃、敵を警戒するピケット(哨戒)艦としての運用など、多岐に渡る。サナダが言った汎用駆逐艦とは、そのどれかに特化している訳ではなく、それらの任務全てを想定して造られている駆逐艦のことを指す。こういう知識もヘルプGの受け売りだったりするけど。
「では、次の艦を説明するぞ。こいつはクレイモア級自動重巡洋艦だ。ヘイロー級同様、無人化改装を施している。この艦に想定される任務は、艦隊の主力艦としての砲雷撃戦任務に、敵艦載機、ミサイルからの防空任務だ。艦隊戦を想定した重巡洋艦として設計している。主要敵はダルダベル級重巡洋艦だな。この艦級の主要装備であるミサイルに対抗するため、装甲は戦艦に匹敵するものを装備、対空火力が高いのもミサイルに対抗するためだ。肝心の艦隊戦を想定した装備だが、主砲は60口径80cm3連装砲を3基装備、超長距離艦対艦ミサイル〈グラニート〉用VLS20セルを備える。主砲はダウグルフ級戦艦のものを参考に開発し、実弾とレーザー双方の射撃に対応している。対艦ミサイル〈グラニート〉はある星系の端から、恒星を挟んだ向こう側の端に存在する敵艦を攻撃可能だ。射程距離は約2,5光年だな。自立制御用のレーダーも搭載している。弾頭は二段式で、ヤッハバッハ大型艦の強固な装甲を突破するために、第一弾頭が着弾した後、装填された炸薬で敵艦の装甲を融解、爆破させ、続いて第二弾頭を送り込み、敵艦に致命的なダメージを与える。肝心の威力だが、廃艦所要弾数はダルダベル級なら2発、ダウグルフ級なら5発ってところか。運良く弾薬庫などに命中すれば一撃での轟沈も狙える。」
サナダさんは嬉々として重巡洋艦の説明を続ける。聞いている限りでは、殴り合い上等の決戦艦のような印象だ。ミサイルについてはよく分からないが、なにやら凶悪そうなミサイルということは理解できた。
「要するに小さな戦艦って訳ね。」
「その通りだ。このクラスはヤッハバッハ艦隊の妨害を排除する目的で設計したからな。因みに建造数は4隻だ。さらに━━」
サナダさんは端末を操作して、表示されている重巡洋艦の設計図の横にもう一つ、別の艦を表示した。外見は先程の重巡洋艦に似ているが、武装が撤去され、その代わりに前甲板には大型のクレーンのようなものが備え付けられている。
「こいつはプロメテウス級工作艦。クレイモア級重巡の設計を流用して作った工作艦だ。主に今回建造される艦に使用されている専用パーツの交換部品、補充用の艦載機を生産する。」
サナダさんが表示したのは工作艦だ。今艦隊にいる〈サクラメント〉のような艦だ。
「確かにウチとしては、こういう艦も必要よね。」
ヤッハバッハから逃げている私達は、宇宙港から満足な補給を受けられない可能性もある。ヤッハバッハの影響力が強い惑星だと、宇宙港に降りたら捕まってしまう可能性があるからだ。なので、こうした長距離航海用の補助艦艇は、私達の艦隊にとって必要不可欠な存在なのだ。
「では、最後の艦だな、こいつは改ブラビレイ級多層式航空母艦。いつぞやに説明した奴だな。こいつはブラビレイ級を完全に無人化することで不要な機能を削除し小型、低コスト化しつつ、空母としての能力を維持した艦だ。今回は1隻建造する。」
サナダさん端末を操作して、先程まで掲示していた重巡洋艦の設計図に変わって、新型空母の設計図を表示した。
その艦は全体的にブラビレイ級に似た多層式の飛行甲板を持つ空母だが、ブラビレイ級とは異なり最下層の甲板が一番長く、エンジンブロックの位置も艦尾下部から上部に移動している。
「ああ、確かそんな話聞いたわね。空母がいてくれるのは、艦隊としては有り難いわ。」
空母の役割は主に二つある。艦隊の防空と敵艦隊の攻撃だ。空母の艦載機は戦艦と違い遠方の敵を攻撃できるので、敵艦隊の射程外から一方的に攻撃したり、敵の艦載機隊から艦隊を守る戦闘機も複数搭載することができる。ヤッハバッハは巡洋艦以上なら艦載機は当たり前のように持っているので、艦隊に空母があれば防空には役立ってくれる。さらに、空母から複数の偵察機を出すことで、敵との遭遇を避けることもできる。それらの役割は艦載機を搭載した戦艦や巡洋艦でもある程度代用できるが、専用艦艇がいた方が色々便利なのだ。
「更にだな、この空母は艦載機の整備、補給サイクルも全自動化されている。帰艦した艦載機はこのように着艦用の第4甲板に着艦し、状態の良い機体は上層の甲板で補給を受け、エレベータで発艦用の第1、第2甲板に運ばれた後、速やかに再出撃が出来る。このように、本級は"疲労がない"という無人機の特性を生かして、従来の空母よりも迅速な航宙機の展開能力を有している。さらに、専用の新型艦載機の設計も進めているところだ。」
サナダさんはホログラムの設計図を指しながら、説明に合わせて指で示す場所を変えていく。
「よく分からないけど、なんだか凄そうね。」
「そうだ。従来の空母よりも低コストで、遥かに優れた航空制圧能力を有するのがこの艦の強さだ。分かって頂けただろうか。」
「ええ、何となくは。」
と言われても私には詳しく分からないので、曖昧な返事で御茶を濁すことにした。
因みに随伴艦の艦名だが、今回は付けたい人が勝手に付けている。
ヘイロー級駆逐艦はそれぞれ〈ヘイロー〉、〈バトラー〉、〈リヴァモア〉、〈ウダロイ〉、〈春風〉、〈雪風〉
クレイモア級重巡は〈クレイモア〉、〈トライデント〉、〈ピッツバーグ〉、〈ケーニヒスベルク〉
プロメテウス級工作艦〈プロメテウス〉
改ブラビレイ級空母〈ラングレー〉
艦名はこのようになっている。
「さて、艦隊の話はこの程度にしよう。話は変わるが、艦長は"エピタフ"を御存知かね?」
―― "エピタフ"? ――
聞き慣れない単語に、私は首を傾げた。
「なんなのよ、それ。聞いたこともないわ。」
私の記憶には該当するものが無いので、サナダさてに"エピタフ"とやらの詳細を問い質した。
「そうか、知らなかったか。まぁいい。エピタフというのはな、実は私もよく分からん。」
「はぁ?」
サナダさんの答えに、私は呆れて溜息をついた。
「なんなのよ分からないって。あんたが知らないことなんて、私でも知ってる訳ないじゃない。」
「いや、そうじゃない。エピタフというのは一応このようなものなのだが―――」
サナダさんは端末を操作して空母の設計図のホログラムを消すと、今度は10cm四方の立方体のホログラムを表示した。その姿は、古代のアーティファクトといった趣を醸し出しているように感じた。
「これがエピタフと呼ばれているものだ。時々"エピタフ遺跡"と呼ばれる独特の構造を持つ遺跡から発見されるもので、その機能など、詳しいことは未だに一切不明な代物だ、私が分からないと言ったのはそういう意味だ。」
「へぇ、そんなものがあるのね。」
私はサナダさんの話に興味を惹かれて聞き入った。
確かにエピタフなるものは神秘的な雰囲気を感じる。私が元巫女だからかしら。
「売ったら幾らになるのかしら。」
私は純粋に、エピタフなるものの価値が気になった。こういったものは、大体その手の愛好家に売り付ければ高値で売れたりする。それはこの世界でも変わらないだろう。
「はぁ・・・艦長はロマンがないな。このエピタフは、その役割は全く分かっていないが、言い伝えによれば、"手にする者は莫大な財を得る"だの"宇宙を統べる力の根源"だのと言われている。」
「財!!?」
サナダさんの言葉に、私は思わず飛び上がった。
財、財!
「ねぇ、その財ってなに?どんなの!?」
私はサナダさんの手を握ってブンブン振り回す。
「ま、待て艦長、それはただの言い伝えだ・・・第一、それすらも真実かどうか分からないことだぞ。」
「・・・ちぇっ。」
私はサナダさんの手を振りほどいた。興味が半分失せたわ。
「ゴホン・・・とにかくだな、エピタフというのはそういう代物なんだ。それで、話の続きだが――」
サナダさんが話を再開すると、私も冷静になって話を聞く。
「――あったんだよ。」
サナダさんが呟く。
「あったって、何が?」
「――あったんだよ、エピタフ遺跡が。この遺跡の中に。」
瞬間、空気が凍った。
刹那の沈黙が過ぎ、私はサナダさんの言葉の意味を理解して・・・
「財!!!」
そう叫んだ。
「ハァ・・・まだそれか。いいか艦長、話を戻すぞ。エピタフ遺跡は、この遺跡の汚染された居住区のさらに向こう側の区画にある。探索用に放ったドロイドがその存在を確認した。しかし、エピタフ遺跡周辺も居住区同様汚染空気が充満している。そこで、探索の為の許可を艦長に頂きた「許可するわ!」」
私はサナダさんの話が終わらないうちに、探索の許可を与えた。勿論私も乗り込む。
「しかし艦長、何故そんな性急に・・・」
「だって財よ、財!実物がないならともかく、実物が近くにあるなら言い伝えとやらの審議を確かめるしかないわ!」
――財と聞けば黙ってはいられないわ。出撃だ、ガーデルマン。ところで、ガーデルマンって誰?――
「とにかく、探索は既定の方針よ!すぐに準備するわよ!」
私はサナダさんに指示すると、準備のために急ぎ足で艦に戻る。
"エピタフ遺跡はあるとは言ったが、エピタフそのものがあるとは言ってないんだがな・・・"とサナダさんが言っているのが辛うじて聞こえたが、聞こえないことにしよう。
――待ってなさいエピタフとやら。今すぐ私の財にしてやるわ――
第一二話投稿です。
霊夢艦隊増強分の艦艇ですが、ヘイロー級駆逐艦はYAMATO2520の3話に出てきた地球連邦の戦闘艦がモデルです。クレイモア級は大YAMATOとかいうOVAに出てきた戦艦を記憶を頼りに書いて適当にアレンジしたものです。艦首に波動砲らしき艤装がありますが、2199のスマホゲームの主力戦艦同様に塞がれています。対艦ミサイルの名前はロシアのものから取っていますが、〈グラニート〉の弾頭の元ネタはヤマト完結編のハイパー放射ミサイルです。
改ブラビレイは2199のガイペロン級そのままです。艦載機は多分マクロスのゴーストになりますが、CFA-44とかコスモファルコンとかドルシーラの開発が視野に入っています。モルガンも出したいですね。
艦名についてですが、結構適当です。古今東西の軍艦から引っ張ってきたり、ヤマトのゲームから流用しています。
エピタフ遺跡ですが、多分霊夢ならあんな反応になりそうですね(笑)
次回では遺跡探索と、新旗艦の艦名を公表したいと思います。
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