夢幻航路   作:旭日提督

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お船のゲームの鬼畜イベントが過ぎ去り、いざ執筆というところで愛用のスマホがお釈迦になってしまい、投稿が遅れてしまいました。
今後はテスト前まではペースを戻していきたいと思います。


第一四話

〜イベリオ星系・デットゲート周辺宙域〜

 

 

  ここイイベリオ星系に浮かんでいたデットゲートは、作動したエピタフの作用により、ボイドゲートとしての機能を取り戻していた。しかし、通常のボイドゲートとは異なり、艦船がワープの為に突入する中央のワープホールは青色ではなく、紫色に輝いている。

  そのボイドゲートの付近で、密集陣形を取りつつ、警戒しながら航行する艦隊の姿があった。

  艦隊は中央に旗艦の大型戦艦――ダウグルフ級戦艦の姿があり、その左右には長く突き出た特徴的なカタパルトを持つ巡洋艦――ダルダベル級巡洋艦が各1隻配置されている。それらの艦を取り囲むように、ブランジ級突撃駆逐艦が輪形陣の外縁で警戒態勢を敷いている。

 

「報告に嘘偽りは無かったようだな。副長、司令部と本国への報告は済ませたかね?」

ダウグルフ級の艦橋内で、奥側の最も高い席に座る男――この艦隊の司令官を務める男は、自身の副官に尋ねた。

「はい、現在報告電文の作成中です。」

艦隊司令の質問に、副長は即座に返答した。

「ボイドゲート関連の異変は、本国から優先的に報告するよう仰せつかっている。くれぐれも遅れの無いように努めよ。」

「はっ!」

艦隊司令は副長の返答を聞くと、艦橋内を一瞥し、その視線を窓の外に見えるボイドゲートへと移した。

(しかし、これは大発見だな。デットゲートの復活は今まで確認された事がない。ボイドゲート関連の研究にご執心な本国に私の功績が評価されれば、さらに上の階級も夢ではないな。)

艦隊司令は、内心で自身の昇進のことを気にしつつ、部下から妙な報告がないか神経を尖らせた。

 デットゲート復活の報告をこの艦隊に送信したイベリオ星系当局からは、最近不審な船団が宇宙港に入港していたという報告があったことを艦隊司令は懸念していた。彼はその不審船団を海賊か何かと思っていたのだが、その海賊が自身の名誉に関わる(と思っている)ボイドゲート調査任務の妨害をしてこないか気にしているのだ。

「司令、センサー類による解析は粗方終了致しました。」

「うむ。結果はどうだ?」

「はっ、当艦の機器での観測結果では、対象のボイド ゲートの推定質量は通常のボイドゲートと相違ありませんが、エネルギーの波長に僅かですがゆらぎが見られます。恐らく、通常のボイドゲートに比べて、機能が不安定なのかもしれません。これ以上のことを調べるとなると、専門の調査船が必要と思われます。」

部下は淡々と調査結果を読み上げた。

「うむ、良くやった。では―――」

「司令、本艦隊の前方、凡そ1,2光年先の宙域に微弱なインフラトン反応を確認しました。如何されますか?」

オペレーターが、レーダーに不審な反応を捉えたことを報告する。

「そうか。この〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉のレーダーは最新型の優れたものだ。単なるノイズという事はないだろう。例の不審船団か?」

彼等が搭乗しているこのダウグルフ級戦艦〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉は、哨戒艦隊の旗艦としての運用を想定し、通常の恒星間レーダーやセンサーよりも精度の高いものを搭載している。その精度は1光年離れた小規模な船団クラスの反応なら何とか捉えられる程度だ。今回捉えた反応はその捕捉できるギリギリの小ささだったため、艦隊司令は報告にあった不審船団だと考えた。

「反応からすると、恐らくそうかと。」

「よし、丁度よくわが艦隊はボイドゲートの観測を終了した。ならば、その不審船団を捕捉、必要あらば撃滅するのが本来の我等の任務だ。全艦に陣形を維持しつつ、反応があった宙域へ向かうように指示せよ!」

「はっ!」

 艦隊司令の号令を受けて、通信兵が艦隊の他の艦に命令を伝達する。

(ふふふ・・・丁度よいところに鼠がうろついているようだ。悪いが、我の昇進のための糧となってもらおうか。)

 艦隊司令は、内心で不審船団を拿捕(又は撃滅)し、さらに手柄を増やそうと目論んでいた。

 発進準備を整えたヤッハバッハ艦隊は、一路問題の宙域へと舵を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜イベリオ星系郊外・遺跡宇宙港・戦艦〈開陽〉艦橋〜

 

 

  霊夢達は、いよいよこの宇宙遺跡を後にすべく、艦隊の発進準備を進めていた。

「艦長、〈サクラメント〉、〈プロメテウス〉の各種資源、資材の積み込みは完了した。」

「〈ケーニヒスベルク〉、〈ラングレー〉は現在主機の最終点検中、あと2分ほどで完了との事です。他艦は既にインフラトン・インヴァイダーを始動、いつでも出港可能です。」

 サナダ、ミユがそれぞれ艦長の霊夢に報告を上げる。

「この艦の各種点検はもう終わっている。後は主機の出力上昇を待つだけだ。」

 コーディは、〈開陽〉艦内の状況を報告する。

「よし、出港予定時刻には間に合いそうね。このまま準備を続けて頂戴。」

「了解しました。」

 ブリッジクルー達は、艦隊の準備状況の確認を続ける。

 

 

 《艦長、少しよろしいですか?》

「なに、早苗?」

 私は艦隊の出港準備状況を確認しながら、早苗の話に耳を傾けた。

 《あの、デットゲート方面から、微弱な青方偏移反応を観測したのですが、如何されますか?》

 青方偏移って、確かものが近づいてくる反応だったかしら。

「うちの長距離センサー類の精度はそんなに高くない筈だから、微弱、ってことはそれなりの質量の物体、って事よね。衛星クラスのデブリかしら。そんな大きなデブリ、無かったと思うけど・・・他の反応は無いの?」

 《はい、恒星間レーダーには何も・・・》

「ん、ちょっと待った。さっきの反応、恒星間レーダーじゃないの?」

 確か、恒星間レーダーの精度は大型小惑星や小型の衛星クラスでやっと捉えられる程度だった筈だけど、それで反応が無いなら、もっと小さいものって事よね。

 《はい―――艦内の未登録の高性能観測設備からデータが送られてきているようです。》

 未登録・・・あのマッドか。

 私はサナダさんを一瞥して、抗議の意味で睨み付けたが、サナダさんはそれを気にせず黙々とモニターの内容と睨めっこしている。

「まぁ、艦隊の目が増えたんだから不問に処しましょう。恒星間レーダーに反応無しってことは、その反応の正体はそれなりに小さな物体、って理解で良いのかしら?」

 《はい、そう理解して戴いて構いません。》

「まぁ、何かあったらそのときよ。今は出港準備を進めましょう。」

 謎の反応のことは気になるが、今は目下の出港準備を進めようと、私は気持ちを切り替えた。何かあったら、そのときに判断すれば良い。

 

 

「艦長、全艦発進準備完了!いつでも行けます!」

 オペレーターのミユが、艦隊の全ての艦の発進準備が完了したことを確認して、艦長の霊夢に報告する。

「よし、ならさっさと出るわよ。全艦発進!」

「了解!ゲート解放、機関微速前進!」

 霊夢の命令を受けて、舵を握るコーディはゆっくりと艦を動かす。

「3分後に恒星間航行に移行。インフラトン・インヴァイダー、出力全開、メインノズル点火!」

 〈開陽〉のメインノズルが点火され、遺跡を出た〈開陽〉は徐々に加速していく。

「後続艦に異常なし。」

 ミユは隷下の無人艦に異常がないか、監視を続ける。

 

 

 

その後しばらく、霊夢達の艦隊は何事もなく航行を続けたが、出港から凡そ8時間が経過した所で、〈開陽〉の光学センサーが不審な影を捉えた。

 《艦長、光学センサーが、デットゲート方面に不審な影を捉えました。》

「モニターに出して、拡大してくれるかしら?」

 《了解です。》

 早苗は、光学センサーが捉えた映像を艦橋天井のメインパネルに投影し、拡大する。

(確か、未登録のセンサーに反応があったって話していたけど、それの反応かしら?)

 霊夢は、数時間前に早苗から未登録のセンサーが捉えた青方偏移の話を思いだし、警戒を強める。

「早苗、何も映っていないようだが・・・」

 メインパネルを見上げたフォックスは、そこに何も見えないことを不審に思って尋ねた。

「画面中央を拡大してみろ。」

 《えっと、こうですか?》

 早苗は、サナダに指示された通り、画面中央の領域を拡大する。

「まだ何も見えないが。」

「早苗、もっとだ。」

 《はい。》

 早苗は、さらに画面を拡大し、表示する。

「おいサナダ、あれって・・・」

 霊沙は、画面中央に僅かに映る複数の緑色の粒を見て呟いた。

「ああ、ヤッハバッハ艦隊で間違いないな。」

「ちょっと、こんな所にヤッハバッハ艦隊が来ているっていうの!」

 サナダの言葉を聞いて、霊夢が立ち上がった。

「早苗、その艦隊との距離は?」

 《はい。凡そ5光時、といった所です。》

「だとすれば、これは5時間前の画像か。」

 ここで距離の話をするが、宇宙空間は惑星上と比べてあまりにも広大なため、距離の単位としてはkm等ではなく、光が届く時間を基準にされている。早苗が報告した5光時というのは、その光が届くのに5時間かかる距離を表している。つまり、光学センサーに捉えられた画像は5時間前のもの、という事だ。

「艦長、敵は既にこちらに気付いている可能性がある。戦闘は避けられないかもしれない。」

「分かったわ。全艦に戦闘配備を命令して。」

(どうも悪い予感が当たっちゃったみたいね。艦隊が強化されているのが幸いか。)

 霊夢は、早苗から報告を受けた時から抱いていた予感が当たったことを悔やみつつも、目の前の脅威を打破するために戦闘準備を命じる。

「敵艦隊との距離が10光分以内になるとi3エクシード航法は使えない。敵艦隊の速度が標準的だとすると、会敵まであと1時間といった所だな。」

「それまでに作戦を考えないとね。敵艦隊の規模は分かるかしら?」

 霊夢は、作戦を立てるために、敵艦隊の詳細な情報を求めた。

 《推測ですが、ダウグルフ級が1隻にダルダベル級2、3隻、ブランジ級が6~8隻程度かと。》

 早苗は、現在あるデータから敵艦隊の規模を推測して報告する。

「正面戦力はこっちがやや有利って所ね。ところでサナダさん、あの復活したデットゲートって、ちゃんと機能しているのかしら?」

「ああ、その筈だが・・・ってまさか、"あれ"に飛び込む気か!」

 サナダは霊夢の質問を聞いて驚いた顔をするが、それを意に介さず、霊夢はにやりと笑った。

「ええ。ここでまともに遣り合ったらワープの為のエネルギーが無くなるわ。そんな状態で通報されて増援でも呼ばれたらますます苦しくなるだけよ。それに、あのデットゲートは別に恒星の中に出る訳でもないでしょ。幸いうちは物資の備蓄は3年さ迷っても戦闘さえしなければ充分過ぎるほどあるわ。出た先が銀河間でもどこかの惑星に辿り着くまでは持つでしょう。敵もどこに繋がっているか分からないボイドゲートに飛び込む度胸があるとは思えないし、なら一撃離脱でゲートに飛び込むべきよ。」

 ボイドゲートは、必ずどこか別のボイドゲートと繋がっている。霊夢はそれと、自艦隊の備蓄物資の状況を考慮して、恒星間空間や銀河間空間に出たとしても数えるほどしか乗組員がいない自艦隊の状況なら充分乗り切ることができると踏んで、博打に打って出ることにした。

(まぁ、何処に出るか分からないゲートに飛び込むのはちょっと怖いけど、なんか航海者って感じするじゃない。)

 霊夢は内心で未知の航路に思いを馳せながら、作戦の決行を命令する。

「異論が無いならこれでいくわよ。どう?」

 霊夢は艦橋のクルーに訊ねる。

「ハッ、面白そうなこと言うじゃん。乗った。」

 霊沙は八重歯を剥き出しにして、にやりと嗤う。

「度胸あるな、うちの艦長は。いいぜ、面白そうだ。」

「私は異存ありません。」

「私も、艦長について行く覚悟です。」

 フォックス、ノエル、ミユも同意し、コーディは無言で頷いた。

「仕方ない。私も従おう。」

 他のクルーの意思を受けて、サナダも承認する。

「よし、決まりね。全艦戦闘配備!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜ヤッハバッハ警備艦隊・戦艦〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉艦橋〜

 

 

「司令、敵艦隊増速。複縦陣で突撃して来ます。」

 オペレーターが報告する。艦隊司令は、その報告を聞いて頷いた。

(やはり例の不審船団だったか。にしては、予想よりも規模が大きいな。戦艦、空母各1に巡洋艦7、駆逐艦6か・・・こちらより小型なのがせめてもの救いか。)

 艦隊司令は、自身の予想よりも敵の規模が大きいことに内心戸惑っていた。あの規模の艦隊と交戦すれば、自身の艦隊も無傷では済まないからだ。しかし、彼は自身の物差しで相手艦隊の実力を図っていた。長距離航海を前提としたヤッハバッハ艦艇とは違い、霊夢の艦隊はその殆どが無人艦のため居住設備を排除してその分を戦闘力に振り向けているので、より大型の艦艇とも互角に渡り合えるのだ。

 そんなことも知らずに、彼は自身の経歴に傷がつくことを気にしながら、次の指示を出す。

「全艦、艦載機を出せ。先手を打つぞ。」

 艦隊司令は、艦隊戦のセオリーに従って、まずは艦載機での戦いを挑まんとする。

「了解。各艦、艦載機発進じゅ・・・」

「し、司令、大型ミサイルが!」

 副官が他艦へ指示を出そうとしたところ、レーダー手が突然悲鳴を上げて報告する。

「何事か!」

「ミサイルです!虚空から突然!」

 レーダー手は動転した様子で艦隊司令の質問に答えた。

(ステルスミサイルか・・・連中いつの間に。)

 ヤッハバッハ艦隊の前方に突然表れたこのミサイルこそ、霊夢艦隊の旗艦〈開陽〉が誇る超長距離対艦弾道弾〈グラニート〉であった。このミサイルは二重弾頭以外にも、徹底したステルス機能を持つミサイルとして設計されている。そのため、敵には着弾直前まで悟られずに接近することが可能だ。但し、当然空間通商管理局の補給品リスト外で、おまけにかなり高くつく代物のため、今回は巡洋艦の分は温存されている。

「各艦対空砲火!撃ち落とせ!」

 艦隊司令の号令を受けて、輪形陣外側のブランジ級とダルダベル級はしきりに対空砲火を撃ち放つ。突如現れたミサイル4発のうち2発はダルダベル級の単装主砲の対空射撃で撃ち落とされたが、残った2発のうち1発は先頭を行くブランジ級に直撃し、二重弾頭が起爆して艦中央から真っ二つに折られて轟沈した。もう1発は艦隊右側はダルダベル級の右舷側に命中し、カタパルトとそれに直通する艦載機格納庫を破壊して航空機用ミサイル等の可燃物に引火、大火災を発生させ大破させた。

「ブランジ級D2826号轟沈!、ダルダベル級ツォーレン大破!」

「ツォーレンより通信、"ワレ被害甚大ナリ、戦線ヨリ離脱ス"!」

 オペレーターから次々と被害報告が寄せられる。

「むうう、此れ程とは・・・砲術長、敵はまだ射程に入らんのか!」

 艦隊司令は自らの艦隊を先手を打たれて大損害を与えられた怒りから、座乗艦〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉の大口径4連装主砲で敵を殲滅させんと目論む。

「無茶です、まだ敵艦隊とは30光分以上距離が離れています!」

「むうう、ならばさっさと艦載機を発進させろ!」

 オペレーターの抗議である程度冷静になった艦隊司令は、改めて艦載機の発進を命令した。

(奴等め、我の経歴に泥を塗りおって・・・許さんぞ!)

 

 

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉艦橋〜

 

 

「〈グラニート〉着弾。ブランジ級1隻の撃沈確認。インフラトン反応拡散中です。」

「敵艦隊より小型のエネルギー反応多数射出されました。艦載機と思われます。」

 オペレーターのミユとノエルが、淡々と戦況を報告する。

「〈ラングレー〉に通信、直掩機を出させなさい。」

「了解です。」

 私は敵の艦載機を迎撃するために、空母〈ラングレー〉に直掩機の発進を命じる。直後、格納庫からパイロット2名の抗議が上がってきたが、気にしない。今はまともに遣り合うつもりは無いのだ。初陣は次の機会まで待ってもらおう。

 〈ラングレー〉は、自慢の多層式甲板を生かして、次々と無人戦闘機AIF-9V〈スーパーゴースト〉を発進させる。〈スーパーゴースト〉はサナダが空母艦載機として市販されている無人偵察機を徹底的に弄り回して製作した機体だ。菱形の機体に、機体右上、左上、下方向に伸びる3枚の翼を持ち、機体上部には大火力レーザーガンを搭載したややアンバランスな姿の戦闘機だ。各機体には〈開陽〉の統括AIである早苗の本体を徹底的に小型化、コストダウンした専用AIを搭載され、高い自律判断能力を持つ。

「〈ラングレー〉より直掩機20機発艦。5分後に会敵します。」

 〈ラングレー〉から発進した〈スーパーゴースト〉の編隊は、直角に近い軌道修正を切り返しながら、ヤッハバッハ艦隊から発進した艦載機隊に迫る。

 

 

 〈スーパーゴースト〉の編隊を相手にする事になったヤッハバッハ艦載機隊は、会敵から僅か数分で総崩れとなっていた。

 《オメガ12交戦―――イジェークト!》

 《背後に付かれた!降りきれない!》

 《オメガがやられたぞ!》

 《たっ、助けてくれーっ!》

 練度が低いヤッハバッハ艦載機隊は、スーパーゴーストの直角的な変態機動に翻弄され、次々と機体にレーザーの雨を浴びせられる。ある機体は背後からエンジンや武装ユニットを粉微塵に破壊され、またある機体はすれ違い様に機体を穴だらけにされた。コックピットは狙いから避けられているので、脱出できた搭乗員も多いが、彼等は戦闘終了まで冷たい宇宙空間で、ドックファイトの真っ只中に放置される事となった。

 ヤッハバッハ艦載機隊の奮戦も空しく、攻撃隊は防空網を突破することはおろか、スーパーゴーストを一機たりとも撃墜できず、ただ逃げ回るだけとなった。

 

 

 

 

「敵艦載機隊殲滅。我が艦載機隊が帰艦します。」

 役目を終えたスーパーゴーストの編隊は、〈ラングレー〉の着艦甲板へ降りていく。

「よし、これより砲撃戦に移行する。全艦、右三点逐次回頭!」

 旗艦〈開陽〉からの命令を受け取った霊夢艦隊各艦は、複縦陣の先頭艦から順次面舵を取る。縦陣の右列が駆逐艦、空母、工作艦、左列が巡洋艦、戦艦なので、敵艦隊に対して強固な装甲を持つ重巡洋艦と戦艦が、空母や工作艦を守る形となる。

「敵艦発砲!」

 艦隊の回頭中、敵のダウグルフ級戦艦が射撃を開始するが、まだ有効射程ではないのか、そのレーザー光は左列先頭の〈クレイモア〉の前を空しく突き抜けた。

「確か、ダウグルフ級の射程はこっちより長いんだっけ。」

 この〈開陽〉の主砲は口径160cmだが、ダウグルフ級の主砲は203cmだった筈だ。

「ああ、最大射程は連中のほうが長いが、手数ではこちらが上だ。一気に有効射程まで飛び込めばこちらに勝機はある。」

 サナダさんが冷静に解説する。

「フォックス、主砲の調子はどう?」

「ああ、少し狙いにくいが、問題ない。」

 現在、私達の艦隊は0,2光速で航行中で、敵艦隊は0,08光速。合成速度は0,28光速だ。0,3光速を越えると照準システムがついて行けなくなるので、ギリギリの戦闘速度だ。

 敵のダウグルフ級が何度目かの射撃を終えた頃、此方も有効射程に突入した。

「有効射程に入りました!」

「全艦砲撃開始!」

 〈開陽〉の前甲板に備え付けられた160cm65口径3連装主砲3基が左側に回頭し、敵艦隊を指向する。

「了解!主砲発射!」

 号令を受けて、フォックスがトリガーを引く。

 〈開陽〉の各砲塔から放たれたレーザーの束は、収束して3本の太いレーザーとなって敵艦隊を目指して進んでいく。

 レーザーは前衛のブランジ級を直撃し、2隻を一撃で轟沈させる。

「敵2隻のインフラトン反応拡散!撃沈です!」

 ミユが敵の撃沈を報告する。

「敵艦隊よりクラスターミサイル!」

 敵艦隊は、ヤッハバッハ自慢のクラスターミサイルを多数発射し、数の暴力でこの艦隊を殲滅せんとする。

「迎撃、対空戦闘!」

 《了解、対空戦闘モードに移行!〈コスモスパロー〉1番から36番まで順次発射、3-αから8-βまでの目標を狙え!》

 〈開陽〉のVLSから多数の対空ミサイルが飛び出し、ヤッハバッハのクラスターミサイル群に向かう。他の巡洋艦や駆逐艦群も、クラスターミサイルを阻止せんと対空ミサイルを撃ち続ける。対空ミサイルは着弾直前で無数の子弾頭に分裂し、濃密な迎撃網を構成する。

「着弾まであと3、2、1、今!。迎撃確認。目標の70%を撃破!」

 《続いてパルスレーザー群、CIWS、射撃開始!》

 対空ミサイルを突き抜けたクラスターミサイルを迎撃するため、各艦のパルスレーザー、CIWSが射撃を開始し、弾幕を形成する。

「目標97%撃破!しかし本艦に2発着弾コース!」

「総員衝撃に備えて!」

 私は着弾に備えるよう命じる。その数秒後、艦を軽い振動が襲った。

「被害報告!」

「左舷第11、32区画に被弾、何れも戦闘行動に支障ありません。」

 《巡洋艦〈ピッツバーグ〉、第一主砲バーベット部に被弾、現在応急消火作業中です。駆逐艦〈春風〉も1発被弾しましたが戦闘行動に支障ありません。》

 ノエルと早苗がそれぞれ被害報告を読み上げる。

「よし、主砲第二射撃ち方始め!敵艦隊中央を狙いなさい!」

 ブランジ級が欠けたことにより空いた穴の向こう側に位置する敵主力を狙うべく、第二射を命令する。

「了解、主砲発射!」

 フォックスがトリガーを引き、主砲から蒼いレーザー光が放たれる。射程に入った重巡洋艦からも、順次レーザーが撃ち出される。

「わが主砲、狭差!」

 《〈ケーニヒスベルク〉より、敵ダルダベル級に一発の命中確認。》

「射撃諸元修正、第三射用意!」

「敵艦発砲!」

 敵のダウグルフ級が此方の一斉射撃を受けて、全主砲をもって撃ち返してくる。

「回避機動!」

「間に合わない、シールド出力最大!」

 コーディは回避が間に合わないと悟り、シールドの出力を上げる。

「着弾に備えて!」

 私が衝撃に備えるように命中した直後、先程よりも大きな衝撃が艦を襲った。

「シールド出力10%低下、本艦の一部装甲板に高熱が発生。」

 どうやら敵の砲撃は装甲までで食い止められたようで、艦内に被害は無かった。

 《〈トライデント〉下部艦橋に被弾、通信能力低下します!》

 左列2番艦の〈トライデント〉は下部艦橋を敵のレーザーが霞め、電子戦装備に被害を負った。

「射撃諸元入力完了、主砲、発射!」

 此方も負けんと主砲を撃ち返す。主砲弾は敵のダウグルフ級を直撃し、同艦の主砲塔を撃ち抜いた。重巡洋艦の主砲もダルダベル級の左舷側に多数命中し、シールドを飽和させて深刻な損傷を引き起こす。

「敵戦艦で火災発生、わが方の戦果と思われます。」

「敵巡洋艦大破!速度大幅に低下中!」

「よし、全艦最大戦速!速やかに当宙域を離脱する!」

 三度の通過射撃で敵に大損害を与え、目標を達成したと見た私は艦隊に全速での離脱を指示した。

「了解。最大戦速!進路デットゲート!」

 艦隊は、燃えるヤッハバッハ艦隊を後に、全力でデットゲートを目指す。

 

 

 

 

 〜戦艦〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉艦橋〜

 

 

「第3から第16区画まで火災発生!」

「主砲、消火急げ、早くしろ!」

「弾薬庫の隔壁閉鎖!誘爆を防ぐんだ!」

 戦艦〈開陽〉の斉射により主砲を撃ち抜かれた〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉艦内では、乗組員が必死に消火作業を続ける。

「敵艦隊、デットゲートに向かいます!」

「何だと!」

 オペレーターから報告を受けた艦隊司令は、すかさず霊夢艦隊を写し出すモニターを食い入るように見つめる。

「急いで追撃しろ!今すぐだ!」

「しかし司令、本艦隊は被害甚大です!護衛のブランジ級3隻が轟沈し、ダルダベル級は何れも大損害を受けています!当艦も深刻な火災が発生し、現在全力で応急消火作業中です!このような状態では、追撃など望めません!」

 副官の悲痛な訴えに、艦隊司令はその顔を憤怒の表情に歪ませながら、ドンッ、と自身の席のモニターを叩いた。

「むうぅぅぅっ!何故だ!誇り高きヤッハバッハが、ゴロツキ風情に!」

(おのれぇぇぇっ、許さんぞ、我の顔に泥を塗りおって!)

 半ばヒステリーを起こす艦隊司令をよそに、ブリッジクルー達は応急作業に神経を尖らせる。

 艦隊司令は、ボイドゲートの中に消えていく霊夢艦隊を、血走った眼差しで睨み続けた。

 




ヴォヤージュ1969と1970を重ねて聴いていると、艦隊戦のシーンが捗ります。今回は初の本格的な艦隊戦のため、自分なりにはかなり気合いを入れたつもりです。本来は8000字程度かと思っていましたが、1万字近くまでになってしまいました。いっそのこと1万まで頑張った方が良かったかな?


ちなみに距離の単位ですが、原作のML(惑星間の距離に表示されるアレ)の基準がいまいち分からないので適当に光を単位にして書いています。なのでその辺りは後日変わるかもしれません。



本話初登場のAIF-9V〈スーパーゴースト〉は、ほぼそのままマクロスFに登場したゴーストV9です。ただし、ベースの機体はルカのゴーストに砲を取りつけた形を想定しているので、カナードの向きが劇中のV9とは違っていたりします。〈ラングレー〉にはこれが60機搭載されています。自分で書いていてあれですが、序盤からゴーストV9が60機とかチートすぎる(笑)

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