夢幻航路   作:旭日提督

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宇宙戦艦ヤマト2201の情報が次第に出てきましたね。私としては、地球防衛軍艦艇のプラモデルのリメイクが一番気になるところです(笑)
方舟でナスカ級のプラモが発売されましたが、値段を見て絶句・・・PS2のホワイトスカウトを断念した経験があるので、少しは財布に優しい値段になってくれるよう祈っています。


しかし、〈ゆうなぎ〉がパトロール艦じゃないだと・・・


第二○話 新たな宇宙島(しま)ヘ

 

 〜小マゼラン近傍宙域〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、艦隊は小マゼラン・エルメッツァ行きのボイドゲートに向けて航行している。

 現在位置からボイドゲートまでは凡そ50光年ほどの距離があり、i3エクシード航法(約200光速)では到着まで3ヶ月ほどかかってしまう。本来なら、一気にワープで飛び越える予定だったのだが、生憎の連戦で疲弊した艦隊は、工作艦による修理を続けながら、通常空間を航行していた。

 

「サナダさん、修理の状況はどう?」

 

 艦長席に座る私は、艦隊の修理を取り仕切るサナダさんに尋ねる。この連戦でだいぶ資源を消費しているので、そろそろ工作艦の腹に蓄えた物質にも気を払わないと不味そうだ。

 

「そうだな―――本艦の装甲板の換装は粗方完了している。だが、シールド発生装置にはだいぶ負荷が掛かっていたようだからな、こっちは完全復旧には時間がかかりそうだ。あとは、ハイストリームブラスター砲口にも損傷が見られる。どうも設計時の想定よりも、砲の威力が大きかったようだ。こちらは後で、砲口内を補強するとしよう。」

 

 この〈開陽〉は、マリサ艦隊との戦闘では、前列の重巡洋艦ほどではないにしても、そこそこあの長距離砲の洗礼を受けたため、シールドや装甲にダメージが蓄積されていた。特にあの超遠距離射撃は一発あたりの威力が大きかったので、シールドにもだいぶ負荷が掛かっていたらしい。サナダさんの報告だと、装甲はなんとかなりそうだが、シールド発生装置の修理が未了な状態では、しばらく無理は出来そうにない。それにハイストリームブラスターは、サナダさんが言った通り、砲口の強度の想定値が甘かったらしく、損傷しているらしい。これはしばらくハイストリームブラスターは封印ね。

 

「それと艦隊の状況だが、重巡2隻の修理にはかなり時間が掛かりそうだ。これは一度、どこかの星のドックで本格的な修理を行った方が良いかもしれないな。あと、空母〈ラングレー〉の飛行甲板は、まだ復旧の目処が立っていない。こっちはドックまで御預けだ。」

 

 あの長距離砲を最前線で受け続けた重巡洋艦〈ピッツバーグ〉、〈ケーニヒスベルク〉の両艦の損傷は酷く、大破判定を受けている。今は工作艦に接舷させて応急修理を行わせているが、完全修理は難しそうだ。空母〈ラングレー〉は、艦体を長距離砲に撃ち抜かれた折に飛行甲板を破壊され、格納庫にも被害を受けている。こっちは修理ドロイドが頑張っているみたいだが、現状工作艦の手が一杯なので(〈プロメテウス〉は重巡洋艦の修理、〈サクラメント〉は艦載機とミサイル、補充部品の生産)、応急修理以外はドックまで持ち越しになりそうだ。〈ラングレー〉がこの惨状なので、補充分の艦載機はこの〈開陽〉か〈高天原〉に送っている。

 

「はぁ~これは大変ね―――科学班の人達には頭が下がるわ。後で給料に少しつけとくわね。」

 

「それは有難い。研究が捗るというものだ。」

 

 私の台詞を聞いたサナダさんは、どこか嬉しそうだ。

 ちなみにうちの艦隊では、人数不足のため科学技術系の部所は科学班に一纏めにされている。現在の人員は40名程と、総乗組員数に比べて多い。これは整備系もこっちに纏めているため、ダメージコントロール要員なども含んでいるためだ。人数が増えたら、研究系と整備系は分けるつもりでいる。

 

「艦長、レーダーに反応あり。」

 

「何があったの?」

 

 レーダー管制士のこころから報告が上がるが、敵でないことを祈るばかりだ。現状で戦闘はきつい。

 

「はい、本艦左舷前方4100MLの距離に、準惑星サイズの天体を確認しました。如何されますか?」

 

 こんな恒星もない銀河間空間で準惑星?なんか不自然ね。敵じゃないだけ良いんだけど

 

「――自由浮遊惑星か。」

 

 自由浮遊惑星とは、何らかの原因で恒星系を飛び出して、単体で宇宙空間に存在する惑星だったわね。へぇ、こんな場所にもあるんだ。

 

「艦長、一度その星に向かってみようか?管理局のチャートには表示されていないから宇宙港はないと思うが、何らかの資源を採掘出来るかもしれん。」

 

 確かにサナダさんの提案通り、寄港しても損は無さそうね。

 

「分かったわ。艦隊の進路をその準惑星に向けて。」

 

《了解です。》

 

 早苗が各艦に指示を伝達して、艦隊は向きを変える。

 しばらくその星へ向けて航行すると、目的の星が見えてくる。

 

「あの赤い星か?」

 

 霊沙が差した通り、目的の星は赤黒い見た目で、所々に白い氷のような部分が点々と存在している。

 

「そのようだな。直径は約2000km、大気組成は窒素とメタン―――典型的な星系外縁型の準惑星のようだな。恐らく、主星が寿命を終えた後も、こうして宇宙空間に存在し続けている星の一つだろう。」

 

 サナダさんは、早速各種機器を用いて目的の星を観測しているみたいだ。

 

《惑星周辺には、無数の微惑星や小惑星がある模様です。航行にはご注意下さい。》

 

「了解した。小惑星帯に入り次第、速度を落とすぞ。」

 

 早苗の警告を受けて、コーディの舵を握る手に力が入る。航行の方は任せたわ。

 

「表面のスキャンを開始します。」

 

 こころが、惑星表面のスキャンを始める。降りられそうな場所があったら、そこに停泊するためだ。

 

「微惑星帯突入に備えて、デフレクターの出力を上げて頂戴。」

 

「了解しました!」

 

 私はユウバリさんに頼んで、デフレクターの出力を上げさせる。デフレクターは質量物から艦を守るシールドで、ミサイルから小惑星まで防御できる。これの有り無しで、航海の安全性がぐっと変わるのだ。

 艦隊は、惑星周辺の微惑星を避けながら、目的の星に接近していく。

 

「艦長、降りられそうな位置を発見しました。」

 

 メインパネル上に惑星の全体図が表示されて、惑星の一部分にアイコンが現れる。

 

「そこに艦隊を下ろすわよ。」

 

 艦隊は微惑星帯を抜けて、ゆっくりと惑星に降りていく。

「重力アンカー始動。惑星表面に静止する。」

 

 惑星に降りた艦隊は、重力アンカーで大気中に艦を固定して停泊する。

 

「艦長、〈サクラメント〉は地上に直接下ろして、惑星の探索をさせるぞ。」

 

「分かったわ。」

 

 サナダさんが〈サクラメント〉に指示を飛ばすと、〈サクラメント〉は着陸用のランディング・ギアを下ろして、ゆっくりと惑星表面に着陸する。そういえば、この艦、元は強襲揚陸艦なんだっけ。

 〈サクラメント〉は着陸すると、ハッチを下ろして、各種探索機器を地上に下ろしていき、探査用のドローンも発艦させる。

 

「あとは、資源が見つかるのを待つだけね。」

 

 

 

 

 

 

 〜自由浮遊惑星上・〈開陽〉艦橋内〜

 

 

 

 

 

 あれからしばらくして、惑星上に停泊して修理を進めている間、私は自室で各部署から上げられてくる報告に目を通して、書類を整理する事務仕事を行っていた。金銭関係などは主計班(実質ルーミア)を通されてから、判を押す位のものなので楽なほうなのだが、それ以外の書類を捌くのは中々大変だったりする。こういった作業は前世ではほとんどのやる機会がなかったからね。あと1時間もすれば終わりそうなところまでは片付けたんだけど。

 内容は、勿論今回の戦闘に関してだ。報告に目を通してみると、やはり資源の備蓄がだいぶ減っている。前回の戦闘と合わせて、装甲板の原料やミサイルの部品などを大量に消耗しているため、これに使われる資源の減りが速い。艦載機隊も、なんとか〈開陽〉の定数が確保できるかといった所で、完全復旧の見込みは遠い。あの遺跡を出航したときは充分な資源を積み込んできた筈だが、流石にこの連戦と損害は想定外だ。サナダさんが送り出した探査機隊が幾許かの資源を見つけてきたのはせめてものの救いだろう。だが、惑星外の小惑星にあった分を含めても、それでも雀の涙といった程度の量でしかない。

 資源の方はそんな状況なのだが、マッド共(主にサナダさん)の方はこれ見よがしにと非現実的な強化案を送りつけて来やがった。胃が痛いことに、にとりや、何故か医務室のシオンさんからも"私案"と称して強化案が送られていた。にとりは分かるとしても、シオンさん、あんた医者じゃなかったの?(この場では忘れていたのだが、シオンさんはサナダさんがスカウトしてきた人材だ。つまり、そういう事だ。ちなみににとりが修理していた通路だが、防御機構と称してレーザーカッターや埋め込み式ガトリングガンなんて代物が装備されたらしい。誤作動したらどうすんのよ、この機械ヲタクめ。)

 まず、〈開陽〉は、一部装甲の強化などの常識的な案から、ハイストリームブラスターの増設、メインエンジンの双発化、果てには何をトチ狂ったか分からない変形機構や艦首ドリル、舷側ソーなんかが提案されている。あんたら、戦艦に格闘戦でもやらせたい訳?まぁ、装甲の増設位は、資源の目処がついたら検討する価値がありそうね。

 艦隊の強化案は、重巡洋艦のシールドと装甲を極限まで強化して防御特化艦にする案(却下)、重巡洋艦にハイストリームブラスターを搭載する案(これも却下。あれはレアメタル喰うのよ)、超遠距離射撃砲の開発と搭載(研究だけはさせてあげるわ)、2隻目の空母建造(検討の要ありね)などが提案されてきた。艦を増やすのは、お金を貯めないとできないから、これはしばらく後になりそうね。

 艦載機の方も、あの狙撃戦艦の驚異の命中精度を受けて、〈スーパーゴースト〉の機動力をあれに対抗できるまで強化する研究が行われているようだ。まぁ、やる価値はあるでしょう。後は、サナダさんが新しい可変戦闘機を勝手に作っていたわね。以前霊沙が使った機隊はYF-21とかいう機体だったが、今度はYF-19とかいう機体で、前進翼を採用した流線形のフォルムをした戦闘機だ。これも早速、バーガーとタリズマンが"機種転換訓練"と称して人型形態で艦の修理作業に従事させられていた。お陰で装甲の換装作業の効率が上がったので、この件は不問に処すとしよう。(だけど経費流用した分はちゃんと引いとくからね♪)

 

 そんな調子で書類を片付けていたら、早苗から報告が入った。

 

《艦長、サナダさんから通信です。各艦の修理が、通常航行には支障のないレベルで完了したとの事です。》

 

 どうやら、艦隊の修理は粗方終わったらしい。ただ、通常航行には支障はないと言っても、戦闘には耐えれるかは不安なため、戦闘行動は控えた方が良いだろう。

 

「分かったわ。なら、出航準備の号令を掛けてくれるかしら?」

 

《了解です。》

 

 早苗に端末を介して全乗組員に出航の号令を掛けて、私は艦橋に向かう。

 

 

 

 

 艦橋には、既にメインクルーが集合して、各々出航準備を始めていた。

 

「機関出力50%、インフラトン・インヴァイダー、正常に稼働中。」

「火器管制システム、異常なし。」

「艦内各部に異常見当たらず。」

 

 ユウバリさん、フォックス、サナダさんから報告が入る。同時に、艦長席のコンソールには僚艦から発進準備完了の報告が続々と届いている。

「機関出力が最大になり次第出航する。そのまま微惑星帯を離脱後、ワープでボイドゲートを目指すわよ。」

 この惑星を離脱した後は、一気にワープで小マゼラン方面へのボイドゲートを目指す。途中寄る場所もないし、早く設備が整ったドックで本格的な修理を行いたいからだ。一応損傷した艦の装甲板は張り替えているが、武装などの修理は不完全だし、〈ラングレー〉の飛行甲板も直していない。現状では、艦隊の戦闘力の6割程度を発揮するのが関の山だろう。こんな状態で戦闘行動には入りたくはない。

 

《〈サクラメント〉より、探査隊収用完了との事です。》

 

 惑星から資源を集めていた〈サクラメント〉は、各種探索機器を収用すると、ハッチを閉じて、エンジンに火を入れる。

「――――しかし、この程度の資源しかなかったとはな。私の予想は的外れだったが。」

 

「何、サナダさん。多少の資源でも採掘できたのは収穫よ。前みたいな遺跡がゴロゴロ見つかる訳なんてないでしょ。」

 

「いや、こういった辺境にはお宝が眠っていると相場が決まっているからな。いや、残念だ。」

 

 どうやらサナダさんは以前の遺跡のような"お宝"を期待していたようだが、残念ながらお宝たる由縁は中々見つからないからだ。そんなホイホイ見つかったら今頃苦労してないでしょう。

 

「機関出力、100%に達しました!」

 

「よし、重力アンカー解除、出航する!」

 

「了解、重力アンカー解除、下部スラスター出力全開。」

 

 出航の号令を掛け、〈開陽〉がゆっくりと動き出す。僚艦もそれに続いて、惑星の重力より離脱し、大気圏を突破する。艦隊はそのまま惑星を取り囲む微惑星帯を通り抜けて、宇宙空間を進む。

 

「間もなくワープに入るぞ。」

 

 惑星の重力圏を抜けたので、当初の予定通り、ボイドゲートへ向けてのワープ準備に入る。

 

「機関、エネルギーをハイパードライブに回します。あと2分ほどで、予定の出力に達します。」

 

 ユウバリさんが、インフラトン・インヴァイダーの出力をハイパードライブに回して、ワープの為のエネルギーを確保する。ハイパードライブが起動すると、インフラトン・インヴァイダーとはまた違った振動音が艦内に響き始めた。

 

「ハイパードライブ、出力最大!」

 

「よし。ワープに入る!」

 

「了解、ワープ!」

 

 〈開陽〉以下、10隻の艦隊は通常空間を抜けて、青白いハイパースペースに突入し、ワープに入った。

 

 あのまま私達はワープを終えると、目前に迫ったボイドゲートをくぐり、いよいよ小マゼラン銀河へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜小マゼラン・エルメッツァ宙域、惑星ボラーレ周辺〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲートをくぐった後、私達は小マゼラン・エルメッツァ宙域へと出た。ゲート周辺は小惑星しかない辺境宙域だったが、空間通商管理局のチャートに従って、ボラーレという近場にある惑星を目指す。

 この辺りは航路が設定されていない外宇宙方面の宙域らしく、何があるか分からないので、航行するときは空間スキャニングをかけながら航行したが、幸い無事に惑星の周辺まで進むことができた。

 目の前に鎮座する惑星ボラーレは、水星を大きくしたような見た目の惑星で、灰色の地表に、所々クレーターが見える。だが、流石にテラフォーミング(環境を改造して人が住めるようにする作業のこと)は完了しているので、惑星の大気は地球のそれとはあまり変わらず、地表にも所々緑色の部分が見られる。惑星の人口は135億5500万人と、前世での外の世界(地球)の総人口の約2倍の人口だ。辺境とは言っても、エルメッツァという大国の中央宙域に近いので、そこそこ発展しているのだろう。

 

「一度ボラーレに寄港するわよ。期間は3日ほどで大丈夫そうね。」

 

 一応データベースから惑星の情報を引っ張りだして、惑星の詳細を確認する。造船工厰や改装工厰といった設備はないが、艦の修理なら出来そうだ。一応空間通商管理局の規格内でなら無料で修理してくれるので、金銭面は問題ない。問題はうちらで使っている特注の部品やその原料だが、今はそれを買うほどのお金はないので、これはもう少し後になりそうだ。またしばらくの間、〈グラニート〉用VLSは空のままだろう。

 

「早苗、上陸希望者を募って、最低限の人員を残して上陸するわよ。シフト表の作成をお願い。」

 

《了解しました。》

 

 久々の地上なので、クルー達も羽を伸ばしたいだろう。娯楽品には地上でしか補充できないものもあることだし。

 私の予定は、毎度のごとくクルーの募集と、この星にはモジュールの設計社があるらしいので、それを見に行く予定だ。

 

 

 

 

 

 入港作業を終えると、私達は宇宙港に降り立った。私は管理局の方に修理の依頼をしておいてから地上に繰り出す。この辺りは辺境なので、1000mm級の戦艦や巡洋艦など10隻の艦艇を従えた私は他の人間から随分奇異に見られた。いくら中央に近いと言っても所詮は辺境だし、さしたる施設もない星だからね。

 地上に降りてまず行く場所は、0Gドッグ御用達の酒場だ。ここは私達にとっては新しい宇宙島なので、情報はしっかり仕入れておいた方がいいだろう。という訳で、私達は酒場に向かった。

 酒場は相変わらずの喧騒で、辺境でもそこそこ繁盛しているみたいだ。

 私はカウンター席に腰かけて、酒場のマスターに話しかける。基本的にマスターは半ば情報通のような存在ななので、この宙域の情報もいくらかは持っているだろう。

 

「ねぇマスターさん、何でもいいから、なんか役に立ちそうな情報とか無いかしら?」

 

「ふむ、情報ですか・・・」

 

「私、この宙域は初めてだから、何でもいいから教えてくれる?あと、ここのお勧め、一杯お願いできるかしら?」

 

 その台詞を聞いたマスターは、"畏まりました"と一礼すると、カクテルが入ったグラスを用意してくれた。私はそのカクテルを一口、喉に通す。

 

 ―――うん、中々良い味ね。―――

 

「この辺りは辺境ですから、特に変わったことはないですね。でも、中央の方には、スカーバレルという海賊団が跳梁していて、軍も中々手を焼いているみたいですよ?」

 

 ほう、海賊ねぇ―――ここを出たら、レーダーの警戒レベルを上げさせておいた方が良さそうね。

 

「ありがと。追加でもう一杯頼める?」

 

 グラスの中身を飲み干した私は、マスターに追加を頼む。最近あまりお酒を飲んでいなかったから、たまには羽を伸ばしたいのよ。あと、これは情報を手に入れるためのテクニックだったりする。私が笑みを浮かべてそれを頼むと、マスターの方も笑みを浮かべながら"有難うございます"と言って、追加のカクテルを用意してくれた。

 

「そのスカーバレルなんですが、なんでも別の宇宙島で兄弟幹部がやられたらしく、そこの戦力がこっちに合流しているみたいですよ。知り合いの話では、随分と殺気だった様子だとか。航海のときは、気をつけた方が宜しいかと。」

 

 成程、それはきな臭いわね。ここで艦隊を修理できたことは良かったわ。

 この後も、マスターとは他愛もない話でも続けながら、色々聞き出したりしていたが、これ以上はここのマスターも知らないらしく、私は4杯程度で切り上げて、モジュール設計社のほうを覗いてみた。

 ここのモジュール設計社では、貨物室、食堂、乗員船室、主計局のモジュールが手に入った。募集をかけた船員の方も、ここで80名ほど集まったので、改装工厰のある惑星に着いたら新しい食堂位は組み込んでおいた方が良さそうだ。今までは元から艦についていた食堂で充分だったが、今後は手狭になるだろうからだ。

 

 

 地上でやることを済ませた私は、艦に戻るために軌道エレベーターに乗って、宇宙港に戻る。

 移動の間は、端末からインターネットに接続して、この宙域周辺で使われている艦艇の艦影や細目を頭に叩き込んだ。これからこの宙域を航海するためには、こうした情報も知っておいた方がいいだろう。艦隊のほうでも、今頃早苗がデータベースにこの辺りの艦艇の情報を入力している頃だろう。

 なるほど、ガラーナ級駆逐艦にゼラーナ級・・・こいつらがマスターの話にあった海賊の主力艦らしい。艦種は駆逐艦なので、こちらの主砲でアウトレンジすれば問題は無さそうだが、徒党を組まれたり、懐に飛び込まれたら厄介そうね。―――ゼラーナ級には、このサイズでは珍しく艦載機の運用能力もあるのね。

 と、この宙域の艦艇について調べていると、いつの間にか宇宙港側の駅に到着していた。

 私はそのまま軌道エレベーターを降りて、まっすぐ港湾区画の、大型艦用ドックに向かう。

 ドックに着いた私は、一度自分の艦隊を見上げてみた。

 私達の艦隊は、大型艦用のドックをびっしりと占領して停泊していた。左から工作艦、空母、重巡洋艦の順で、一番右に〈開陽〉が停泊している。

 ふとドックの様子を見てみると、艦隊を停泊させた時には居なかった、見覚えのない艦が停泊しているのが見えた。それだけなら別に珍しくはないのだが、さっき頭に叩き込んだ艦艇のどれにも当てはまらなかったので気になったのだ。第一、この宙域では、大型艦用ドックに入るような艦は、このエルメッツァ唯一の戦艦グロスター級か、標準的な大型輸送艦ビヤット級ぐらいしかないようだし。

 その艦は、紡錐形の艦体をしていて、艦首は大昔の水上艦の衝角がついた艦首に似た形状だ。艦の中央には艦橋と思われる構造物があり、その前方の上甲板には2基の連装主砲が見える。艦橋の真下の艦底部には、エンジンと思われる2基の筒型のモジュールがあり、艦の真ん中には翼状の構造物がある。その少し後ろにはレーダーアンテナのような長い部品が接続されていた。艦尾にはメインノズルに、2本のスタビライザーが接続された形状をしたユニットが接続されている。

 その珍しい形の艦を眺めていたら、1人の男が話しかけてきた。

 

「この艦が珍しいですか、お嬢さん?」

 

 爽やかな、青年の声がした。

 私は我に返って、はっと声がした方向に振り向く。

 そこには、人当たりの良さそうな、銀髪の初老の男性が立っていた。

 

「あ、いえ、この辺りでは珍しい艦だなと思いまして―――」

 

「そうですか―――まぁ、私の艦は、この辺りのフネではないですからね。所で、隣の艦艇も随分珍しい形ですが――――」

 

「ああ、それは私の艦隊よ。」

 

 それを聞いた男は、"ほぅ―――その御年でこれだけの艦隊とは"と、関心したように呟いていた。忘れがちかも知れないけど、見た目は少女でも、実質年齢は少女って歳じゃないのよね、私。

 

「いや、貴女の艦隊も、中々珍しい形をしておりますな――――おっと、申し遅れました。私はシュベイン・アルセゲイナ。何でも屋でございます。以後お見知り置きを。」

 

「私は博麗霊夢よ。この艦隊の頭をやっているわ。」

 

 シュベインと名乗った男に対して、こちらも自己紹介を返す。こういうのは社交儀礼だからね。

 その後は、同じ0Gとしてシュベインさんと艦の運営などの他愛もない話を続けていた。なんでも、シュベインさんの方も、ここから離れた宇宙島の方から来たらしい。それなら、あの艦影も納得だ。そろそろ艦に戻ろうかな、と思っていた時、シュベインさんの方から質問された。

 

「ところで、この戦艦はどちらで手に入れたのですかな?」

 

 シュベインさんとしては何となく訊いたのだろうが、どう答えようかな、素直に"遺跡から発掘しました"で大丈夫かしら・・・

 

「いや、ちょっと遠い国にいた頃に手に入れたのよ。」

 

 私はそんな風に濁して答えたのだが、その答を聞いたシュベインさんの表情が、僅かに固くなったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 これはもしかしたら、当たりかもしれない。

 私―――シュベインは、このボラーレに来て、目の前の霊夢と名乗った若い0Gドッグと話していたのだが、彼女のものだという、私の艦の隣に停泊している艦艇のことが気になっていた。

 その無骨で頑丈そうな船体や、堂々とその存在を主張している3連装砲塔は、どことなくあの帝国の戦艦を思い出させ、空母に至っては、あの帝国のものをそのままひっくり返したような見た目だったからだ。

 私はもう少し探りを入れてみることにし、その"遠い国"とやらの国名を聞き出してみることにする。

 

「え、どこの国かって?う~ん―――この辺りの人は知らないかも知れないけど、ヤッハバッハとかいう国だったわね。」

 

 やはり、私の予想は当たっていたようだ。その後に彼女は"別にその国の艦って訳でもないけど"と続けていたが、あの艦艇を見る限り、ヤッハバッハの艦艇とは設計思想を同じくする艦だということは容易に想像できた。

 

「いや、向こうの国は私達0Gに大層厳しい国でね、こうしてやっとここまで逃げてこられたって訳。そういう事だから、私もこの辺りは初見なのよ。」

 

 霊夢と名乗った少女は続ける。彼女の話では、ヤッハバッハから逃れてきたらしく、体躯もヤッハバッハ人とは異なり、かなり低めだ。それに話している雰囲気からも嘘をついているようには思えず、ヤッハバッハの斥候という線は薄そうだ。

 "それは災難でしたね"と声を掛けると、"まぁ、色々あったからね―――"と返ってくる。

 その後も、しばらく会話を続けてみたが、どうやら彼女の方も話せる内容はその程度らしく、ヤッハバッハについて実りのある情報はないと判断した私は、適当に話を切り上げて、彼女と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《あのシュベインさんって人、少し様子がおかしくなかったですか?》

 

 私がシュベインさんと別れて、〈開陽〉の通路を歩いていると、端末から早苗が話しかけてくる。

 

「あら、気づいていたの。確かに、"この戦艦はどこで手に入れたのか~"のくだりから、ちょっと様子がおかしかったわね。」

 

《はい、あとは、ヤッハバッハの国名で少し動揺している様にも感じましたね。》

 

 早苗の言う通り、顔には出ていなかったが、雰囲気は少し変わっていたように感じた。なんと言うか、真剣さが増した感じかしら?

 

「そうね。あの人もヤッハバッハのことを知っていたんじゃないかしら?だったら、あの反応も納得できるわ。」

 

 シュベインさんの反応からすると、あの人も何らかの形でヤッハバッハのことを知っていると考えた方が良さそうだ。それがどうしたと言われたら、そこまでなんだけど。

 

「まぁ、うちに危害を加えてこない限りは気にすることも無いわ。早苗、物資の積み込み状況の方はどう?」

 

《はい、現状で――――》

 

 これ以上考えても埒が明かないと思い、私は意識を切り替えて、艦隊の状況に意識を向けた。

 

 

 

 

 それからは特に何も起こらず、私達は無事にボラーレを出航した。

 

 次の目的地は、この宙域の中心、エルメッツァ主星ツィーズロンドだ。

 




距離の単位については、無限航跡原作中のものを使用したいと思います。戦闘中の距離は、レーダーの索敵値と武装の射程を参考にしています。

今回でやっと小マゼラン到着です。次回からは、エルメッツァ編開始となります。今回では原作キャラのシュベインを登場させました。あの人もヤッハバッハとは関わりがあるので、この反応は自然かなと想像して書きました。シュベインの乗艦の形状は、天空のクラフトフリートのエクリプス級戦艦を想像して書いています。(このゲームどれくらいの人が知ってるかな・・・)分からない方は、LASTEXILEのウルバヌス級戦艦を近代化したようなものとご想像下さい。(ああ、こっちもマイナーだ・・・)


次回からは、いよいよ海賊狩りです。霊夢艦隊が、性能にものを言わせてならず者海賊団に天誅を加えていきます。お楽しみに。

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