第二一話 エルメッツァの雄
〜エルメッツァ中央・惑星ボラーレ周辺宙域〜
艦隊の修理を終え、3日の停泊期間が経過した私達は、予定通りボラーレを出航し、エルメッツァ主星、ツィーズロンドを目指していた。
「周囲に異常は無いわね?」
酒場のマスターの話だと、この宙域にはスカーバレルとかいう海賊団が跳梁跋扈しているらしい。なので、レーダーの警戒レベルを引き上げさせ、残存の駆逐艦3隻は哨戒艦として前衛を務めさせている。
「はい、本艦と駆逐艦のレーダーには何も―――あ、駆逐艦〈ヘイロー〉より通信、どうやら、この先の航路上に、航海灯を切って停止している艦隊を補足した模様です。数は7隻、軽巡洋艦クラスが1隻に、駆逐艦が6隻の模様です。」
レーダー管制士のこころが早速異常を報告した。航海灯を切って航路上で停止しているなんて、明白な敵対行為だ。一体何処の馬鹿かしら。もしかして、もう海賊が出てきたとか?
「艦種は?」
《現在転送されたデータから、該当艦船を検索中――――――出ました、エルメッツァ地方軍、CL(軽巡洋艦)サウザーン/LOC級1、DDG(ミサイル駆逐艦)アリアストア/LOC級2、DD(駆逐艦)テフィアン/LOC級4です。》
「エルメッツァの地方軍か・・・何かの任務部隊か?」
コーディの言う通り、軍隊が隠密行動をしているとなると、何かの任務中と考えるのが自然だろう。近づかない方が良さそうだ。
「ふむ、地方軍にしては、妙なところを彷徨いていますね・・・」
そう発言したのは、ガイゼル髭が特徴的な、ボラーレで雇った退役軍人のショーフクさんだ。彼は操舵が得意らしいので、操舵手の職をコーディと変わってもらって、コーディには副長職を命じている。
「普通なら、こんな辺境には出張っては来ないのですが―――」
どうも、ショーフクさんが言うには、この辺りに軍が展開することは珍しいみたいだ。まぁ、余計な手出しは無用でしょう。
「分かったわ。その艦隊から離れるように舵を――――」
《〈ヘイロー〉より再び通信、"我攻撃ヲ受ク!"》
私がショーフクさんに進路変更を頼もうとしたら、早苗が割り込んできた。どうやら、前衛の駆逐艦がエルメッツァ艦隊から攻撃を受けたらしい。
「どういう事?こっちのIFFは、ちゃんと0Gドッグのものが表示されているのよね?」
このエルメッツァは、基本的に民間航海者の存在を認めている筈。ふつうは正規軍がいきなり0Gに攻撃してくる事はない筈なんだけど―――――
「此方のIFFは正常のようです。」
ミユさんが手早く確認するが、こっちのIFFはきちんと表示されているらしい。もしかして、新たな海賊と間違えられているとか?
「前の艦隊と通信を取ることはできそう?」
「―――はい、繋いでみます。」
ノエルさんが、相手の艦隊との通信を試みる間にも、相手は此方の哨戒駆逐艦に対して攻撃を続けており、レーザーを2発程度被弾しているらしい。此方からの攻撃は、相手の誤解だと色々不味いので、手出しさせないように命じてある。
《敵艦隊、〈ヘイロー〉に対して第2射敢行、直撃弾1発。APFシールド出力2%低下します。シールドジェネレータは正常に稼働中。》
早苗が被害報告を読み上げる。しかし、相手の攻撃はそこまで強くないようだ。砲撃の威力は、うちの艦隊で一番シールド出力の弱いヘイロー級駆逐艦相手でも、シールドの出力を多少削るのが関の山といった程度のようだ。
《敵艦隊DDGのミサイル発射を確認。〈ヘイロー〉、〈春風〉、〈雪風〉は電波妨害を開始せよ。各種ECM装置起動、ソフトキルを試みます。》
どうやら相手はミサイルも放ってきたらしい。此方の駆逐艦はジャミングを開始して、ミサイルの誘導装置を混乱させる。
《敵ミサイル、16発中9発残存。〈ヘイロー〉は独自判断で火器管制システムを解除。艦砲射撃、近接防御システムによる撃墜に移行します。》
敵ミサイルに照準されている〈ヘイロー〉は、尚も向かってくるミサイルに対して、主砲による撃墜に移行する。〈ヘイロー〉の上甲板にある連装速射レーザーが素早く回転して、ミサイルを一発、また一発と正確に迎撃していく。残ったミサイルは、CIWSによる迎撃を受けて、全弾が撃墜された。
《敵ミサイルの撃墜確認。》
「まだ撃たせたら駄目よ。」
相手の真意が分からない今は、徒に攻撃するのは不味い。相手が唯の0Gや海賊ならすぐにぶちのめしても良いんだけど、相手は正規軍だ。ここまで逃げてきたのに、指名手配なんてまっぴら御免よ。
「相手艦隊との通信、繋がりました!」
やっとノエルさんが、相手の艦隊と連絡を取ってくれたみたいだ。
通信回線が繋がると、天井のメインパネルに、相手の指揮官らしき、中年の男の姿が表示される。
《―――そこの艦、0Gドッグだな?》
男は、威圧するような雰囲気で訊いてきた。
「そうだけど、あんたらは何なのよ。別に私達、海賊でもなんでもないんだけど。」
少なくとも、この国では罪に問われるようなことはしていない。というか、ここにはまだ来たばかりだし。なんか、理由も分からないのに襲ってきたこいつが腹立つわ。その歪んだ顔面をぶちのめしてやりましょうか?
「むっ―――貴様、ラッツィオのテラーではないか!」
その男の姿を見て、ショーフクさんが声を上げた。どうやら、このテラーとかいう男とは知り合いらしい。
「貴様、海賊とつるんでいたそうじゃないか、あ"?職務を忘れてスカーバレルなんぞに媚を売るなど、エルメッツァ軍人の恥だ!貴様の汚名は退役した私の耳にも届いているぞ!」
ショーフクさんは、テラーを睨んで憤る。なんでも、目の前のこいつはスカーバレルとつるんでいたらしい。汚職って奴ね。
《ええい、貴様はそんな性格だから左遷されたのだ、ショーフク。かつては一駆逐艦隊の司令が、今では0Gに身を落とすとはな、これは愉快!》
向こうもなんだか言い返してくるし―――――う~ん、この状況、どうしようかしら?
「ぬかせ!これは私が選んだ道だ!貴様にどうこう言われる筋合いはないぞ!」
《何をッ――――大体、貴様ら0Gのお陰で私は職を追われ、軍から逃げる羽目になったのだ、たとえあの小僧でなくても、怨念返しをしなければ収まらん!》
「大体何なのよあんたは。あんたが軍に追われてるってのは汚職していたあんたの自業自得じゃない。悪いけど、こっちはあんたのお遊びに付き合うほど暇じゃないのよ。降りかかる火の粉は払わせて貰うわ。」
いい加減頭にきたので言い返してやる。目の前の艦隊が、軍反乱分子ならぶちのめしても大丈夫そうだ。向こうから撃ってきてるんだし。正当防衛って奴よ。
《何だ、その小娘は。》
「失礼ね、私は博麗霊夢、この艦隊の長よ。」
《ハッ、艦隊だと、レーダーにはたかが3隻の駆逐艦しかしいないではないか、小娘!》
なんかテラーとかいう奴には舐められてるみたい。失礼しちゃうわ。小娘とか、ふざけてるのかしら?今すぐあんたの股間に夢想封印撃ち込んでやってもいいのよ?ああ、そういえば哨戒の駆逐艦を先行させていたから、本隊はレーダーに捉えていないのね。
「あんまり私達を舐めない事ね、汚職軍人さん?」
《ええい、うるさい!黙れ、しゃべるな、ゆくぞ!》
ガチャリと通信が切れる。なんだか小物っぽい奴だったわね。
「通信、切られました。」
「もういいわ、総員、戦闘配備よ。」
テラー艦隊との交戦に備えて、戦闘配備を命じる。新乗組員の訓練にはなるでしょう。
「あ・・・・・」
《どうされました?艦長。》
私、素晴らしいアイデアを思い付いたかも。
汚職軍人をぶちのめす→タイーホ→軍に引き渡す→報酬ガッポリ、うん、我ながら良いアイデアだわ。
《あの――――ものすごく邪悪な笑みをしていますよ?》
早苗の言う通り、今の私は、他の人から見たらさぞ邪悪な笑みを浮かべていることだろう。だが、あのテラーとかいう奴には私達のマネーになってもらう。これは既定事項よ。私を怒らせた代償はきっちり払ってもらうわ。
「早苗、前衛の駆逐艦には、敵の旗艦は破壊しないように命令してくれる?」
《はい、了解です。》
こっちの砲撃で、テラーが死んだら元も子もないからね。多少手加減はしてやるわ。
「コーディ、艦内の機動歩兵改は何体いるかしら?」
「ああ――――確か、120体はいた筈だな。」
機動歩兵改とは、この間のヴァランタインの襲撃を踏まえて、科学班が自動装甲服を改良した、新たな自動歩兵だ。主に、防御面と機動力が改善されている。主武装は両手のガトリングメーザーブラスターと、肩の迫撃砲で、戦闘力は通常の歩兵1個小隊分に匹敵するらしい(サナダ談)。これを敵旗艦に送り込み制圧させて、テラーを引っ捕らえる算段だ。
「保安隊に、機動歩兵50体を率いて敵旗艦の制圧を行うよう、伝えてくれる?」
「了解です。」
ノエルさんが保安隊に連絡し、エコー達は切り込みの準備を始めているだろう。
「本艦は敵旗艦を強襲する!最大戦速で突撃!」
「了解、最大戦速。」
〈開陽〉は敵旗艦に肉薄するため通常航行に切り替えて0,25光速まで加速し、テラーの乗艦を目指す。
《前衛の駆逐艦、全兵装使用自由。攻撃を許可します。》
早苗が駆逐艦に攻撃指示を出したことで、〈ヘイロー〉は水を得た魚のように行動を始め、まずは〈サンバーン〉対艦ミサイルVLS16セルを開放し、敵艦隊の前衛を務めるテフィアン級4隻にそれぞれ4発ずつ発射する。発射されたミサイルのうちの5発はジャミングや迎撃で撃墜されたが、残り11発は定められた目標に着弾し、敵駆逐艦4隻のうち4発全てを受けた2隻は忽ち火達磨になり、インフラトンの炎に包まれて轟沈した。残りの2隻も、廃艦は免れないほどの損傷を受け、戦線を離脱していく。
敵は戦力の半分を一気に撃破されて動揺しているらしく、〈ヘイロー〉に向かうレーザーの火線が当初よりもすかすかだ。さらに、後退しようとした敵艦隊は、自分達の後方に回り込んだ駆逐艦〈春風〉、〈雪風〉の姿を捉えて、陣形を維持できないほど混乱しているようだ。
《〈春風〉、〈雪風〉の両艦、敵DDGに攻撃開始。》
〈春風〉、〈雪風〉の2隻は、敵アリアストア級駆逐艦に攻撃を開始し、混乱で思うように動けないアリアストア級はレーザー射撃を被弾し続け、あっという間に撃沈した。あんたら、腐っても正規軍じゃなかったの、随分とお粗末な練度ね。
さて、取り巻きを全て撃沈されたテラーの巡洋艦はどうする訳でもなく、ただ闇雲に此方の駆逐艦めがけてレーザーを撃ってくるばかり。とりあえず回避機動を命じておけば、あの的外れなレーザーは躱してくれるだろう。
「敵艦を射程に捉えたぜ。」
「撃たなくていいわ、フォックス。このまま突撃よ。」
敵も〈開陽〉の姿を捉えたらしく、レーザーの目標が〈ヘイロー〉から此方に変えられたみたいだが、数発被弾しても、APFシールドの出力が一桁減るくらいで、多少艦が揺れる程度だ。こんなの、グランヘイムやヤッハバッハの砲撃に比べたら水鉄砲もいいところよ。
「これより敵艦との強行接舷に入る。速度を落とすぞ。」
〈開陽〉は巡洋艦との衝突を避けるために速度を落とし、トラクタービームで敵艦を捉える。あとはショーフクさんが巧みな操艦で、此方のエアロックの位置に敵艦のそれを合わせて、強行接舷が完了する。この人、初めて扱う艦なのに、中々やるじゃない。
「保安隊が敵艦内に突入したようです。」
ノエルさんがエコーから報告を受けとると、メインパネルには現在の保安隊の様子が写し出される。
保安隊の面々は、装甲服を着込んだエコーとファイブスが前線に立って、メーザーブラスターで敵の船員を次々と気絶させていく。その後に大量に続く機動歩兵改の群れは、そんな倒された船員を拘束したり、ロックが掛けられている扉に向かって迫撃砲を放ってこじ開けたりとしている。そうしているうちに、どうやら艦橋まで達したようで、テラーは特に抵抗する訳でもなく、大人しくお縄についた。
《クリムゾンリーダーよりHQ、状況完了だ。》
「こちらHQ了解。直ちに帰艦せよ。」
《あ、待て君達、そう手荒にしないでくれたまえ。》
乱暴に捕まれて連行されているテラーがなんか言ってるみたいだけど、まぁ無視して良いでしょう。
「こちら艦長。そのバカは適当に独房にでも放り込んでおきなさい。」
《了解した。》
「あと、艦隊の陣形も戻しておいて。」
《はい。各艦に指示を伝達しておきます。》
取り敢えずエコーにテラーを独房に入れるように指示しておいて、私は艦隊の陣形を整えさせて新たな敵襲に備えた。
敵を制圧したエコー達は、テラーを連行しながら〈開陽〉に戻る。捕虜にした敵艦のクルーはこっちの独房にわざわざ移し変えるのが面倒なので、あっちの艦で機動歩兵に監視させておくように指示しよう。あのメタルマウンテンゴリラの群と一緒なのは御愁傷様だが、まぁ自業自得だし、気にすることも無いでしょう。
〜エルメッツァ〜中央・惑星オズロンド周辺宙域〜
あの後も航行を続けた私達だが、やはり火のない所に煙は立たないらしく、ボラーレ~オズロンド間の宙域では噂の海賊と出会すことはなかった。あの辺りは本当に閑散区画、って感じだったからね。途中で他の船ともすれ違わなかったし。
オズロンドでは消耗品補充のために一度寄航し、さらにモジュール設計社から新たなモジュールを購入して、ツィーズロンドへ向けて出航した私達だが、ついに連中が姿を現した。
【イメージBGM:東方風神録より「厄神様の通り道~Dark Road」】
《前衛の駆逐艦より、不審船発見との報告です。》
「此方のレーダーでも捉えました。駆逐艦2、水雷艇4!」
早苗とこころから、新たな不審船発見の報告が入る。また軍隊じゃないでしょうね。
《艦種照合――――――出ました、DDガラーナ/A級1、ゼラーナ/A級1、PG(水雷艇)フランコ/A級3です!》
その艦種は・・・スカーバレルか―――!
早苗が読み上げた不審船の艦種は、この辺りの海賊が使う艦船の改良型の艦種だ。十中八九、スカーバレルと見て間違いないだろう。敵艦の外見的特徴としては、通常のスカーバレル艦と比べて、赤いカラーリングが入っている事だろう。ちなみにこの時は一緒にしていたのだが、早苗がフランコ/A級と報告した艦の中には、ジャンゴ/A級という別の艦も混ざっていたようだ。まぁ、肉眼的な特徴は一緒だし、どのみち沈めてしまえば変わらないだろう。
《敵艦隊のIFF照合―――スカーバレルで間違いないようです!》
「よし――――なら遠慮は無用ね。全艦戦闘配備!」
艦内に戦闘配備を告げるサイレンがけたたましく響く。
敵もこちらを"獲物"と認識したらしく、5隻全てが加速を始めたようだ。
「一気にアウトレンジで決めるわよ、主砲1番から3番、敵ガラーナ級に照準!駆逐艦は水雷艇を、巡洋艦はゼラーナ級を狙いなさい!」
「了解だ、主砲1番から3番、敵ガラーナ級に照準、射撃緒元入力!」
《敵PG、右舷側よりα、β、γのコードネームで呼称、〈雪風〉はα、〈ヘイロー〉はβ、〈春風〉はγを担当せよ。〈ピッツバーグ〉、〈ケーニヒスベルク〉はDDゼラーナ級に全砲火を集中!》
早苗が的確に各艦に目標を割り振って指示を伝達する。前衛の駆逐艦は、それぞれ定められた目標に向かってレーザー主砲を発射する。
高性能コンピューターによって照準されたレーザーは吸い込まれるように水雷艇に命中し、1隻を撃沈、2隻を中破まで追い込んだ。
「よし、射撃緒元入力完了!主砲1番から3番、目標、敵ガラーナ級、発射!」
敵の前衛が消滅したことにより、後衛の駆逐艦に照準しやすくなり、〈開陽〉と重巡洋艦が主砲を発射する。
水雷艇とは違って練度が高めだったのか、最初の1発程度は躱してみせたが、次々と射程外から飛来するレーザーを躱しきることはできず、重巡2隻の斉射を受けたゼラーナ級は爆沈、ガラーナ級は何とか原型は残っているが、至るところで火を吹いている。
「敵全艦のインフラトン反応拡散、撃沈です!」
戦闘は終了したようだ。なら、貰えるものは貰っておくとしますか。
「全艦、撃ち方止め!保安隊は船外活動の用意、敵の残骸を回収するわよ。」
こうした敵のジャンク品は高く売れる。海賊共には、うちのマネーに成って貰うとでもしましょう。
その後、ジャンクは工作艦の腹の中へ、形が残っているものは〈高天原〉と〈ラングレー〉に曳航させ、生存者はメタルマウンテンゴリラの監視の下、独房へと放り込んだ。重症の者はシオンさんに治療させたけど、後で代金請求しておこうかしら?あと、相手が海賊でも、一応死者には簡易的な葬儀を済ませておいたわ。後で祟られても面倒だし。
その後も向かってくるスカーバレルを3回ほど返り討ちにしながら、私達はツィーズロンドに到着した。うちの工作艦はジャンク品でお腹いっぱいだわ。幾らかはサナダさんに回して研究資料にさせておこう。
【イメージBGM:無限航路より「軍隊のテーマ」】
~エルメッツァ中央・主星ツィーズロンド~
ツィーズロンドに入港した私達は、海賊船のジャンクを売り払うと、地上の軍司令部へと向かった。宇宙ステーションに駐留している軍にテラーを引き渡したところ、そちらで報酬を用意してくれるらしい。
ちなみに、海賊船のジャンクだが、研究資料を除いて、全部合わせて2000Gほどで売れた。うん、美味しかったわ。
クルーには休息を入れておいて、私はコーディ、サナダさんに霊沙を率いて、軍司令部を目指す。
途中、軌道エレベーターから見えたツィーズロンドの街並みは、至る所に100m超の高層ビルが林立していて、まさに都会といった感じだった。
「軍司令部は――――ここね。」
早苗が端末にダウンロードしてくれた地図を見ながら進むと、件の建物が見えてきた。端末に表示されている写真と同じみたいだし、多分あれがそうなんでしょう。
「おおっ、高いなぁ。」
霊沙は軍司令部の建物を見上げて呟いている。まぁ、今までは中々こんな高層建築を見る機会はなかったからね。私も、内心ではこの都会っぷりには結構驚いているところだ。
「ここがエルメッツァ軍司令部で間違いないですか?」
「ああ、そうだが。」
私が建物の入り口に立って、守衛に話し掛ける。
「ステーションの方から伺っているとは思いますが、0Gドッグの博麗霊夢という者です。」
「ああ、君が?どれ、紹介状は?」
守衛が紹介状を求めてきたので、宇宙ステーションの方で渡された紹介状を見せると、守衛は中へ通してくれた。
そこからは受付で色々と手続きを済ませると、士官宿舎のオムス中佐という人の下まで案内された。
失礼します、と案内された部屋に入ると、一人の若い男が出迎えてくれた。どうやら、この人がオムス中佐らしい。
「私はエルメッツァ連邦中央政府軍、第4方面軍第122艦隊所属のオムス・ウェル中佐だ。君が、霊夢さんで間違いないね。」
「ええ。」
このオムスという人だが、一見誠実な青年に見えるのだが、その瞳の奥には、何かぎらぎらしたものを感じる。これは腹に野心とかありそうね。
私はその雰囲気を感じ取って、少し警戒しながら、促されて席についた。
「いや、しかし君も若いのに中々やるみたいだな。此方の脱走者を捕まえてくれた事には感謝しよう。」
「まぁ、優秀な艦と仲間が居ますからね。それと、今回は単にあちらが襲ってきたので、それに応戦しただけです。」
そんな感じで社交辞令を交わすと、いよいよオムスさんが本題に入った。
「それで、我々軍の方から報酬を用意してある。受け取りたまえ。」
オムスさんが差し出した手には、1枚のマネーカードと、データプレートがあった。
「これはテラーに掛けられていた懸賞金の1500Gだ。そしてこっちが、我々中央軍が採用しているサウザーン級巡洋艦の設計図だ。テラーの件に関しては私も思うところがあったのでな、これは、私からの個人的な報酬だと思ってくれ。」
「有難うございます。」
報酬の巡洋艦だが、ここに来てからのうちとそれ以外の艦船の性能差を考えると、そのままでは使えないだろう。後でサナダさんにでも渡しておこうかしら。
私が報酬を受けとると、オムスさんは再び口を開いた。
「ところで、君達ははこの宙域の状況をどう思うかね?」
「状況?」
なんだか話が変わったみたいだ。あ、これ、何か面倒なこと頼まれるんじゃ―――
「中央宙域でありながら海賊共が跳梁跋扈し、やりたい放題やっている現状だ。」
ああ、そのこと?そんなの、あんたら軍隊が怠慢だからじゃないの?
「そりゃ、あんたら軍がだらしないからじゃないのか?仮にも中央宙域なんだろ?」
「まったく、その通りだな。もっとそっちが仕事すれば良いだけじゃないのか?」
「ちょっと、コーディ、霊沙?」
コーディと霊沙が強く出たため、慌てて2人を嗜める。気持ちは分からなくは無いけど、今は初対面だし、いきなり軍の心象を悪くするのも得策では無いわ。
「・・・確かに、そう言われると返す言葉がないな。だが、連邦は現在不安定な状態であり、中々軍も力を割けないのが現状だ。ついこの間も、この宙域のアルデスタとルッキオの間で紛争が起こったばかりだしな。」
まぁ、中央のお膝元で紛争やられる位じゃあ、さぞ不安定なんでしょうね。大方あんたらの政府の怠慢なんでしょうけど。
「そこで、だ。」
オムスさんがリモコンでなにか操作をすると、後ろのモニターに宙域図が投影され、その一部分が拡大される。
「これはスカーバレル幹部、アルゴン・ナラバタスカの本拠地、人工惑星ファズ・マティだ。」
画面に投影されたのは、直径200kmほどの、球形をした黒い人工物の画像だ。これがファズ・マティとかいう奴らしい。というか、なんでこんなんになるまで放っておいたのよ。これじゃあまるで成長しきったスズメバチの巣みたいなものじゃない。ここまで来たら、怠慢も相当ね。
「今ここには我々の依頼を受けた0Gドッグが海賊討伐に向かっているのだが、彼と協力して、海賊討伐に力を貸してくれないだろうか?」
――――出会ったばかりの0Gに協力要請、か。これぞ猫の手も借りたいって奴なのかしらね。それほど追い詰められた状況らしい。
「そうね―――――――報酬は?」
労働には対価を。これは最低条件よ。悪いけど、タダで使われてやる気は無いわ。私達には、別に海賊を放っておいてもそこまでデメリットは無いんだし。
「―――――4000G出そう。」
4000Gか。中々の大金ね。かかる危険に比べたら、まぁ妥当なところかしら。
「分かったわ、受けるとしましょう。」
私が返事をすると、オムスさんは、"有難う"と言って握手した。これで商談成立ね。ああ、早苗には録音させているから、後で惚けても無駄だからね。
「それで、その0Gはなんていう奴なのかしら?」
「ああ、君と同じくらいの若い0Gで、ユーリという名前だ。彼なら今頃は惑星ネロからゴッゾの辺りにいるだろうから、まず彼を尋ねてくれたまえ。」
あ、言い忘れてたけど、私実質年齢はそこまで若くないわよ?まぁ、でも、(外見的には)私と同じくらいか・・・一体どんな奴なのかしら。
軍司令部で"商談"を受けた私達は、ツィーズロンドで休息や補給を済ませ、艦隊を出航させた。
小マゼランで、霊夢艦隊の記念すべき最初のカモになったのは、原作では第3章のラストバトルを飾る(笑)テラー艦隊でした。原作の5隻だと味気ないので、テフィアン級を2隻追加しています。
スカーバレルのほうも、あっさり喰われました(笑)
今話から参戦のショーフクは、見た目の元ネタは大日本帝国海軍中将の木村昌福で、名前は彼の渾名からきています。彼には今後、〈開陽〉の操舵手を担っていただきます。
機動歩兵改のほうは、PSゲーム「新・戦闘国家 GLOBAL FORCE」に登場した隠しユニットが元ネタです。このゲーム、どれくらいの人が知っているかな?戦略ゲームとしては、中々面白いと思うのですが。
次回あたりで、いよいよ原作主人公と対面になります。
本作の何処に興味がありますか
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戦闘
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メカ
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キャラ
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百合